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相続対策

相続対策の全体像

相続の準備は、誰に何を残すかを考えることから。

自宅や賃貸物件を持つ家庭に向けて、相続対策の全体像をまとめました。最初に押さえるのは、分け方 → 税金を払うお金 → 節税の順番です。

まずは、考える順番と今日できることがわかれば十分です。制度の細かな条件は、必要になったところから確認できます。

家の模型と罫線だけの帳面、印鑑と朱肉箱が机に並んでいる鉛筆の線画

押すと、その章に移動します読む目安 約12分・基本から順に

はじめての方へ ── このページに出てくる言葉(11語)
法定相続人
法律で決まる相続人。法律上の配偶者と、子・親などの直系尊属・兄弟姉妹のうち優先順位が最も高い人が該当します。子が先に亡くなっている場合などには、孫などが代わって相続することがあります。
基礎控除
相続税がかからない枠。3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数。遺産がこの額を超えなければ、原則として申告も要りません。
家族信託・任意後見
判断力の低下に備える仕組み。家族信託は契約で決めた財産の管理などを託し、任意後見は将来、財産管理や生活に関する手続きなどを任せる人と内容を決めます。役割は異なります。
遺産分割協議
相続人の全員で分け方を決める話し合い。1人でも欠けるとまとまりません。
遺言書
自分の死後、財産を誰にどう残すかなどを指定する書面。有効な遺言で分け方が指定された財産は、原則としてその内容に沿って引き継げます。
遺留分
配偶者・子・直系尊属など、一定の相続人に保障される最低限の取り分。侵害された人は、お金で支払いを求められます。兄弟姉妹や甥・姪にはありません。
小規模宅地等の特例
自宅などの土地の評価を最大8割下げる制度。使うには申告が必要です。
配偶者の税額軽減
配偶者が受け取る分は、1億6,000万円か法定相続分のどちらか多いほうまで相続税がかからない制度。
延納・物納
相続税を現金で一度に払えないときに、分割で納める(延納)/土地などの現物で納める(物納)方法。どちらも税務署の許可が要ります。
準確定申告
亡くなった人の、その年ぶんの所得税の申告。相続の開始を知った日の翌日から4か月以内です。
相続放棄・限定承認
相続放棄は財産も借金も引き継がない手続き。限定承認は受け継いだ財産の範囲で借金などを負担する手続きです。原則、自分が相続人になったことを知ってから3か月以内に家庭裁判所で行います。

0相続対策とは何か全体の順番

3段の階段のいちばん下の段に家の模型が置かれている線画

相続対策というと、まず節税の話になります。ですが、順番が逆です。

相続で考えておきたいのは、誰に何を残すか、税金を払うお金が足りるか、税金の負担をどう抑えるかです。まず、家族の暮らしと財産の分け方から考えます。

たとえば、財産のほとんどが自宅で、総額は相続税のかからない範囲に収まる家庭。それでも、子ども3人でどう分けるかが問題になることがあります。売って分けると、住んでいる人が引っ越さなければならないからです。

対策はこの順に

その前にまず数える。相続人は何人か、財産はいくらか

3財産を分けられるようにする誰が何を取るか。家は切り分けられない
4相続税を払えるようにする10か月以内に、現金で納める
5相続税を減らす贈与・評価の引き下げ・法人化。条件と費用を確かめる

親が判断できるうちに、希望を聞いて準備しましょう

節税を先に進めると、分け方や納税資金の問題が大きくなることがあります。たとえば、節税を目的に現金を不動産へ換えても、その不動産を家族が分けやすいとは限りません。必要なときにすぐ売れるかも、別に考える必要があります。

要点
  • 相続対策は「財産の分け方 → 納税資金 → 節税」の順
  • 税金がかからなくても、財産の分け方の準備は大切です
  • 相続税の節税だけを考えると、家族で揉めたり、財産が分けられないトラブルが増えがちです

1相続人を知る現状の把握

やること

誰が相続人になるかと財産の金額を確認し、相続税の申告を検討する目安(基礎控除)と比べます

開いた和綴じの綴りと印鑑、うっすらとした家系図の線画

対策の前に、次を調べます。

  • 誰が相続人か──戸籍をたどって確定します。前妻との間の子や養子が出てくることがあります
  • 何がいくらあるか──預貯金・不動産・株式・保険と、借入金などを書き出します。税金の計算に含める範囲も確認します
  • 基礎控除を超えるか。下の式で判定します

相続人は「家族全員」ではありません

法律上の配偶者と、次のうち優先順位が最も高い人が相続人になります。

  1. 第1順位子ども
  2. 第2順位親などの直系尊属
  3. 第3順位兄弟姉妹

子どもがいる場合、親や兄弟姉妹は通常、相続人に入りません。子どもが先に亡くなっている場合の孫など、代わって相続する人や養子がいるときは個別に確認します。

不動産の金額にも注意。相続税を計算するための金額を「相続税評価額」といい、売れそうな価格とは異なります。最初は財産の一覧を作り、判断の境目になりそうなら評価額を確認しましょう。

基礎控除額の出し方

3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数

税金の計算上の正味の財産額が、この額を──

超える申告が必要か確認する税額は特例などによって変わります
超えない原則、申告は不要

注意 特例(配偶者の税額軽減・小規模宅地等)で税額が0円になる家庭も、申告はします。申告して初めて、特例が使えるからです。

例:父の相続を、母と子ども2人で考える

基礎控除
3,000万円 + 600万円 × 3人
= 4,800万円
財産の例
自宅 3,000万円 + 預金 1,000万円
= 4,000万円

自宅は相続税評価額とし、ほかの財産・借金・加算する贈与などはないものとします。小規模宅地等の特例を使う前の金額です。

この例では、相続税はかからず申告も原則不要です。
それでも、母が住み続ける家を誰が引き継ぐか、子どもたちに何を残すかは、別に考えます。

税金がかからない見込みなら、まず分け方の準備に力を入れましょう。遺言や保険が役立つかどうかは、家族の希望と財産に応じて考えます。

もっと詳しく(3本)

2認知症のリスクを考える対策できる期間

やること

親の希望を聞き、必要な判断ができるうちに、遺言や財産管理の準備を進めます

砂が半分落ちた砂時計の線画

生前の準備は、亡くなる日までできるとは限りません。認知症などで、契約や遺言に必要な判断力が失われる前に進めておくことが大切です。

必要な判断力を失うと、本人による贈与や不動産の売買、遺言などが難しくなります。成年後見は本人の生活や財産を守るための制度で、家族の節税のために自由に贈与できる仕組みではありません。

判断できるうち

  • 遺言を書く・書き直す
  • 生前贈与をする
  • 不動産を売る・買う
  • 家族信託・任意後見を組む
  • 法人をつくる・借入をする
認知症などで判断できなくなると

×

本人が自由に進められなくなります

本人の生活や介護のために必要な管理・売却と、家族のための節税対策は分けて考えます。

判断力の低下は、突然起こることもあります。

だから、対策は親が元気なうちに始めます。備えの契約(家族信託・任意後見)も、元気なうちにしか結べません。

もっと詳しく(1本)

3財産の分け方を考える分割対策

やること

誰に何を残すかを考え、遺言にまとめることを検討します。現金が足りない場合は保険なども選択肢です

対策の1つ目は、誰が何を引き継ぐかです。とくに自宅は、預金のように金額で切り分けられません。住み続ける人の希望も踏まえ、次の方法を比べます。

そのまま配る現物分割

家の模型・通帳・手提げ金庫が別々の台に載っている線画

やり方土地は長男、預金は次男、と物ごとに配る

弱点金額がそろわず、不公平になりやすい

1人が取り、現金で払う代償分割

家の模型を押さえる両手と、向かいに置かれた封筒2つの線画

やり方家を取る人が、他の相続人に現金を渡す

弱点家を取る人に、渡す現金が要る

売って分ける換価分割

下げ札の付いた家の模型と、3つに分けた硬貨の山の線画

やり方売って現金にしてから分ける

弱点売った利益に税金がかかる。買い手が見つかるまで進まない

全員の名義にする共有

1軒の家の模型から3本の紐が3本の印鑑につながる線画

やり方売らずに、全員の共有名義にする

弱点売るには全員の同意が要る。次の相続で持ち主がさらに増える

共有にするときは、将来の売却まで考えます。不動産全体を売るには原則として共有者全員の同意が必要です。次の相続で所有者が増えると、話し合いが難しくなることがあります。
家の模型と、その手前に並ぶ3枚の取り皿の線画

分け方の希望が決まったら、遺言書にまとめることを検討します。有効な遺言で分け方が指定された財産は、原則としてその内容に沿って引き継げます。書き方や形式が重要なので、作成時に確認しましょう。

家を引き継ぐ人が、ほかの相続人に渡す現金を用意する方法の1つが生命保険です。死亡保険金は原則として受取人の財産となり、遺産を分ける話し合いとは別に請求できます。誰を受取人にするかも大切です。

遺言があっても、遺留分は消えません。配偶者・子・直系尊属など、一定の相続人には「遺留分」という最低限の取り分があります。兄弟姉妹や甥・姪にはありません。現金で請求されるので、その支払いまで考えておきます。
もっと詳しく(2本)

4相続税が払えるか確認納税資金対策

やること

10か月以内に現金で払えるかを数え、足りない分を生命保険などで先に用意します

電卓と口の開いた封筒、通帳が重なっている線画

対策の2つ目は、税金を払うお金の準備です。相続税の申告と納税は、原則として相続の開始を知った日の翌日から10か月以内。金銭で一括して納めます。

不動産オーナーが困るのはここです。財産の大半が土地と建物で、納税額に見合う現金がありません。しかも土地はすぐには売れません。

払うお金の出どころ──この順で確かめる

  1. 1手元の現金・預貯金まず、これで足りるかを数える
  2. 2生命保険金亡くなった人が保険料を負担し、相続人が受け取る死亡保険金には非課税枠があります
  3. 3財産を売って現金にする10か月の期限に間に合うか。売った利益にまた税金がかかる
  4. ここから下は、税務署に認めてもらう最後の手段
  5. 4税務署に分割払いを認めてもらう(延納)担保や利子税などの条件がある
  6. 5不動産などの現物で納める(物納)条件が厳しく、何で納めるかの順番も決まっている

生命保険が2番目なのは、非課税の枠に加えて、受取人が1人で請求でき、分け方が決まる前でも現金にできるからです。

もっと詳しく(2本)

5相続税に対策する節税対策

やること

分け方と納税資金の目処が立ってから、生前贈与と生命保険を基本に、評価の引き下げ・法人化を検討します

片方の皿に家、もう片方に硬貨がのった天秤の線画

分け方と納税資金の見通しが立ったら、節税を考えます。ここでは「方法はいくつかあり、それぞれ条件がある」とわかれば十分です。すべてを使う必要はありません。

生前贈与基本

年配の手から若い手へ巾着袋を渡している線画

生きているうちに渡して、減らします

例受け取る人の年合計110万円までの贈与(暦年課税の基礎控除)

注意贈与した財産が、相続税の計算に戻ることがある。早めに計画する

生命保険基本

罫線だけの証書の上に通帳が載っている線画

死亡保険金には、相続税の非課税枠があります

例預金を一時払いの終身保険に換える

注意保険料の負担者・受取人で税金が変わる。年齢や健康状態なども確認する

評価を下げる+α

土地の区画図の上の家の模型と巻尺の線画

税金計算のもとの金額を下げます

例要件を満たす自宅の土地などの評価を最大8割減(小規模宅地等の特例)

注意土地の使い方や引き継ぐ人に条件がある。小規模宅地等の特例は申告が必要

法人化+α

3階建てのビルの模型と角印の線画

個人に家賃収入が積み上がる仕組みを見直します

例賃貸事業を資産管理会社で行う形を検討する

注意会社の株も相続財産になる。移転費用や維持費を含めて判断する

必要になったら確認する:贈与・保険・不動産の条件
贈与は「年110万円なら相続税もかからない」とは限りません
相続などで財産を受け取った人への暦年課税の贈与は、一定期間分が相続税の計算に加わります。2026年末までの相続は原則3年、以後は段階的に延び、2031年以後は原則7年です。対象や控除に条件があります。
死亡保険金の非課税枠
亡くなった人が保険料を負担し、相続人が受け取る場合は、相続人全体で「500万円 × 法定相続人の数」が限度です。相続人以外が受け取る保険金には、この非課税枠はありません。
不動産を買えば必ず節税になるわけではありません
評価方法や特例には条件があり、取得時期や制度改正によって扱いが変わることがあります。購入費用、売りやすさ、家族への分けやすさまで含めて確認します。

不動産や法人化の対策は、必要な家庭だけ検討します。税額だけでなく、家族の生活費や管理の負担も合わせて比べましょう。

税金だけで方法を選ばないことが大切です。節税効果があっても、財産を分けにくくしたり、手元の現金を減らしすぎたりすると、家族の負担が増えることがあります。

不動産に絞った節税(土地の評価・特例・贈与)は大家の相続税に、法人化の進め方は不動産法人化の全体像に続きます。

もっと詳しく(8本)

62回目の相続も考える二次相続対策

やること

残された配偶者の生活を確保したうえで、夫婦2回分の相続税を比べます

大小2軒の日本家屋が寄り添って並んでいる線画

配偶者には、相続税を大きく軽減する制度があります。実際に取得した財産が1億6,000万円と法定相続分のどちらか多い金額までなら、原則として配偶者の相続税はかかりません。この制度を使うには申告が必要です。

ただし、残された配偶者の相続も考える必要があります。たとえば父・母・子ども2人の家庭では、父の相続の相続人は3人。後に母が亡くなると、通常は子ども2人になり、基礎控除は4,800万円から4,200万円に下がります。母自身が持っていた財産も合わせて考えます。

2回の相続を、合計で考える

1回目親の一方が亡くなる

配偶者の非課税の枠(1億6,000万円)が使えるので、税は軽くなりやすい

2回目残った親が亡くなる

子ども2人が相続する例では、配偶者の軽減は使えず、基礎控除も小さくなる

1回目の税金だけで決めず、夫婦2回分の合計で比べます。配偶者の生活費や住まいを確保することも大切です。

配偶者に多く残すことが、必ず不利になるわけではありません。配偶者自身の財産や、これからの生活費も含めて、複数の分け方を比べます。

もっと詳しく(1本)

7実際に相続が起きたら期限のある手続き

やること

3か月(相続放棄)・4か月(準確定申告)・10か月(申告と納税)の順に動きます

ここからは相続が起きた後の話です。期限順に動きます。

  • 7日以内死亡届
  • 3か月相続放棄・限定承認自分が相続人になったことを知ってから、原則3か月
  • 4か月準確定申告亡くなった人の所得税。申告が必要な場合に行う
  • 10か月相続税の申告と納税現金一括が原則

相続した不動産の名義変更(相続登記)は2024年4月から義務です。相続によって不動産を取得したことを知った日から、原則3年以内に申請します。

死亡届は死亡を知った日から原則7日以内。準確定申告と相続税の申告・納税は、相続の開始を知った日の翌日から、それぞれ原則4か月・10か月以内です。

めくりかけの日めくりカレンダーと数珠の線画

借金があるかもしれない場合は、相続放棄の3か月の期限を意識して、早めに財産を調べます。判断が間に合わないときは、期限内に家庭裁判所へ期間の延長を申し立てる方法があります。財産を売る・使うなどの行為が放棄に影響することがあるため、迷う場合は処分する前に相談しましょう。

10か月は申告だけでなく、納付の期限でもあります(相続税法27条・33条)。分け方の話し合いがまとまらなくても、期限は延びません。

ここから先は生前対策ではなく、手続きの話になります。進め方は相続手続きの全体像に、期限の順にまとめました。相続した不動産を売るところまで進むなら、不動産売却の全体像に続きます。

もっと詳しく(5本)

まずは、この3つを覚えておけば大丈夫

  1. 税金がかからなくても、分け方は考える。
  2. 親が判断できるうちに、希望を聞いて準備する。
  3. 分け方と支払うお金を確かめてから、節税を考える。

まず、今日できること

  1. 相続人が何人かを数える。戸籍は市区町村の窓口でも、郵送でも取れます
  2. 財産をざっくり書き出して、3,000万円+600万円×人数と比べる。超えるかどうかで、その先が変わります
  3. 誰がどの財産を引き継ぎたいか、希望を書き出す。家に住み続ける人の希望や、将来の生活費も一緒に確認します

ここまでが入口です。1つでも決まれば、残りは1 相続人を知るから順に進められます。

この記事の前提

自宅や賃貸物件など、不動産を持つ家庭を想定しています。登場する事例はすべて架空のモデルケースです。個別の適用条件や最新の制度は、各解説や公的機関の案内で確認してください。

制度を確認したい方へ:公的機関の案内
宍倉奎次郎
税理士・宅地建物取引士・大家
宍倉 奎次郎

税理士・宅地建物取引士。自身も賃貸物件を持つ大家の立場から、法人化・相続・不動産管理まわりの税務を、制度と判例にもとづいて解説しています。記事内の事例はすべて架空のモデルケースです。制度・税率・判例は年度で変わります。個別具体的な判断は、不動産税務に強い税理士へご確認ください。

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