「自宅の土地は、相続のとき8割も評価が下がると聞いた。うちも使えるんでしょうか?」——相続税がかかりそうだと分かった方から、次によく出る質問です。
結論から言うと、この特例(小規模宅地等の特例)は、条件さえ合えば自宅の土地の評価を最大80%下げられる、相続税で最も効く特例のひとつです。 ただし「誰が相続するか」「申告をするか」で使えたり使えなかったりが分かれ、落とすと数百万円単位で税額が変わります。
※本記事の人物・金額はすべて架空のモデル事例です。一般的な仕組みを解説するもので、個別の税務相談ではありません。
→ 相続対策の全体像は 相続対策の進め方(12工程)。この記事は工程11「申告・納税する」です。分割が決まったら、申告の前にこの特例を使えるか必ず確かめます。
この記事でわかること
- 小規模宅地等の特例で、土地の評価が最大80%下がる仕組みと順番
- 用途別の限度面積と減額率(居住用330㎡80%/事業用400㎡80%/貸付用200㎡50%)
- 自宅を8割減できるのは誰が相続したときか(配偶者・同居親族・家なき子)
- 賃貸の土地で気をつける「3年しばり」
- 使って税額0円でも、申告しないと特例が受けられないという最大の落とし穴
1. まず評価、そのあとに「この特例で下げる」
大事なのは順番です。小規模宅地等の特例は、土地の評価額をゼロから計算する特例ではありません。
- まず、路線価や倍率で土地の評価額を出す(工程8)
- そのうえで、要件を満たす土地にこの特例をかけて、評価額をさらに下げる(工程11)
つまり、この特例は評価の「後工程」です。先に土地の評価額を出しておかないと、いくら下がるのかも計算できません。土地の評価そのものの出し方は、別記事にまとめています。→ 実家の土地は相続税でいくら?路線価と倍率のはなし(工程8)
【モデル事例】 田中さん(仮)の自宅の土地は、路線価から評価すると5,000万円、面積は330㎡だったとします。特定居住用宅地等の要件を満たせば、この5,000万円を80%減額——つまり 1,000万円 として申告できます。差は4,000万円。相続税率が仮に20%なら、それだけで税額が約800万円変わる計算です(根拠:LS-15 小規模宅地等の特例/租税特別措置法69条の4)。
2. 用途別の「限度面積」と「減額率」
この特例は、土地の使い方によって、下げられる面積の上限(限度面積)と減額率が決まっています。主なものは次の3種類です。
| 宅地の種類 | ざっくり言うと | 限度面積 | 減額率 |
|---|---|---|---|
| 特定居住用宅地等 | 自宅(住んでいた土地) | 330㎡ | 80% |
| 特定事業用宅地等 | 商売・事業に使っていた土地 | 400㎡ | 80% |
| 貸付事業用宅地等 | 賃貸アパート・貸駐車場などの土地 | 200㎡ | 50% |
(根拠:LS-15/租税特別措置法69条の4)
ポイントは2つです。
- 限度面積は「上限」です。 330㎡を1㎡でも超えたら全部ダメ、ではありません。330㎡までの部分が80%減、超えた部分は通常評価になります。
- 賃貸の土地(貸付用)は減額率が50%にとどまります。自宅や事業用の80%に比べると効きは半分です。「賃貸のほうが得」ではなく、用途で率が違うという理解が大切です。
なお、上の3つのほかに、同族会社に貸していた土地などが対象になる特定同族会社事業用宅地等(400㎡・80%)という種類もあります。該当しそうなら個別に確認してください。
3. 自宅(特定居住用)は「誰が相続するか」で決まる
自宅の土地で80%減を狙うとき、いちばんの分かれ目が「誰が取得するか」です。同じ土地でも、相続する人によって使えたり使えなかったりします。主な取得者の要件を整理します。
| 取得する人 | 主な要件 | 使える? |
|---|---|---|
| 配偶者 | 追加の条件なし | 無条件で可 |
| 同居していた親族 | 申告期限までその家に住み続け、かつ土地を保有し続ける | 要件を満たせば可 |
| 別居の親族(いわゆる「家なき子」) | 持ち家がないなどの一定要件を満たす | 要件を満たせば可 |
(根拠:LS-15/租税特別措置法69条の4)
配偶者はいちばん強い
配偶者が自宅の土地を取得する場合、住み続けなくても、売っても、無条件で80%減が使えます。いちばんハードルが低い取得者です。
同居親族は「住み続けて・持ち続ける」
同居していた子などが取得する場合は、相続税の申告期限(相続開始から10ヶ月)まで、その家に住み続け、かつ土地を持ち続けることが条件です。申告期限前に引っ越したり売ったりすると、要件から外れます。
家なき子は「持ち家がない別居の親族」
配偶者も同居親族もいないとき、持ち家のない別居の子などが取得すれば使えることがあります。いわゆる「家なき子特例」です。ただし、相続開始前3年以内に自分や配偶者などが所有する家に住んでいないことなど、要件が細かく、過去の改正で節税目的の形式的な持ち家外しは封じられています。自分が家なき子に当たるかは、必ず個別に確認してください。
4. 賃貸の土地(貸付事業用)の「3年しばり」
賃貸アパートや貸駐車場の土地は貸付事業用宅地等(200㎡・50%)の対象になり得ますが、ここに大きな注意点があります。
相続開始前3年以内に貸し始めた土地は、原則として対象外です(根拠:LS-15/租税特別措置法69条の4)。
これは「相続が近づいてから急いで賃貸に出して評価を下げる」という駆け込み対策を封じるためのルールです。亡くなる直前にアパートを建てた・貸し出した、というケースは効きません。
ただし例外があります。もともと事業的規模で不動産賃貸業を営んでいた人が、その一環として3年以内に取得・貸付した土地は対象になり得ます。「昔から複数棟の大家をやっている」ような場合です。ここは判定が難しいので、線引きは税理士に確認してください。
なお、賃貸で建物を建てて土地の評価が下がる仕組み(貸家建付地)とこの特例は別のものですが、重ねて効くことがあります。ただし行き過ぎた借入・建築は否認されるリスク(総則6項・最高裁令和4年4月19日判決)があり、「評価が下がるから」だけで判断するのは危険です。→ 貸家建付地で評価が下がる仕組みと否認の線(工程5)
5. 土地が複数あるとき——「併用」の考え方
自宅も事業用の土地も、賃貸の土地もある——という方は、どの土地に特例をあてるかを選ぶことになります。ここで「限度面積の調整(併用)」という考え方が出てきます。ざっくり言うと、こうです。
- 自宅(特定居住用330㎡)と事業用(特定事業用400㎡)は、基本的にフルに重ねられます。 合わせて最大730㎡まで80%減が使えます。
- ところが、貸付事業用(200㎡・50%)を混ぜると、限度面積が按分計算で縮みます。 貸付用を使う分だけ、居住用・事業用に回せる面積が減る仕組みです。
限度面積が有限なので、評価額が高く・減額率の大きい土地から優先してあてるのが基本の考え方になります。複数の土地に候補があるときは、どの組み合わせがいちばん税額が下がるかを試算して決めるべき論点です。
6. 最大の落とし穴——「0円でも申告が必要」
最後が、いちばん間違えやすく、いちばん怖い点です。
この特例は「相続税の申告をすること」が適用の条件です。 特例を使って評価を下げた結果、税額が0円になっても、申告書を出さなければ特例は受けられません(根拠:LS-15/租税特別措置法69条の4)。
「特例を使えば基礎控除以下になって0円だから、申告しなくていい」——これは誤りです。申告しなければ特例が適用されず、結果として本来かからなかったはずの相続税がかかってしまうことすらあります。
- 特例を使って税額0円でも → 申告は必要
- 配偶者の税額軽減(1.6億円まで無税)で0円でも → 同じく申告は必要
配偶者の税額軽減もこの特例と同じく「申告して初めて使える」タイプです。→ 配偶者の税額軽減の使い方(同じ工程11)
また、申告期限(10ヶ月)までに遺産分割が決まらないと、その土地についてこの特例は原則使えません。ただし「申告期限後3年以内の分割見込書」を添えて期限内に申告しておけば、後から分割が決まったときに救済される道があります。分割が難航しそうなら、この手当てを忘れないでください。→ 未分割で申告するときの注意(工程10)
まとめ
- 小規模宅地等の特例は、土地の評価額を出した後に、要件を満たす土地の評価を最大80%下げる特例(工程8で評価 → 工程11で減額)
- 用途別に居住用330㎡80%/事業用400㎡80%/貸付用200㎡50%。限度面積は「上限」で、超えた部分は通常評価
- 自宅は誰が相続するかが分かれ目。配偶者は無条件、同居親族は住み続け・持ち続け、家なき子は持ち家がない等の要件
- 賃貸の土地は相続開始前3年以内に貸し始めたものは原則対象外(事業的規模の例外あり)
- 土地が複数あるときは併用の限度面積を意識し、税額が最も下がる組み合わせを試算する
- 最大の落とし穴は「0円でも申告が必要」。使って税額ゼロでも、申告しないと特例そのものが受けられない
次に読む:実家の土地は相続税でいくら?(工程8)/相続税がかかるか判定する(工程9)/配偶者の税額軽減の使い方(工程11)/納税資金が足りないとき(延納・物納・売却)
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出典
- 租税特別措置法69条の4(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)
- 相続税法19条の2(配偶者に対する相続税額の軽減)
- 財産評価基本通達6(総則6項)、最高裁令和4年4月19日判決(評価の否認)
- 国税庁「小規模宅地等の特例」「相続税の申告のしかた」(確認日:2026年7月24日)
※限度面積・減額率・取得者要件は本記事執筆時点(2026年7月)の制度です。家なき子の細かい要件、二世帯住宅や老人ホーム入所中の自宅、貸付用を含む併用の按分計算などは個別事情で結論が変わります。特例の適用可否・具体的な減額幅は財産の内容と分け方で変わりますので、実際の適用は税理士にご確認ください。組成や手続き(登記・分割協議など)は提携の専門家と連携して進めます。
