生命保険の申込書で、いちばん考えずに埋めてしまう欄が受取人です。ところが死亡保険金は、誰が受け取るかで税金の種類そのものが変わり、非課税枠が使えるかどうかも変わります。まず3者の組み合わせで課税が分かれる仕組みを押さえ、そのうえで受取人の指定によって何が動くのかを見ていきます。
※本記事は一般的な仕組みを解説するものです。登場する事例・金額はすべて架空のモデルです。個別の税務・法務相談ではありません。
→ 相続対策の全体像は 相続対策の全体像 にまとめています。
この記事でわかること
- 被保険者・保険料を負担した人・受取人の組み合わせで、相続税・所得税・贈与税に分かれること
- 判定に使うのは契約者の名義ではなく、実際に保険料を負担した人であること
- 非課税枠「500万円×法定相続人の数」が使えるのは、相続人が受け取ったときだけであること
- 相続を放棄した人は枠を使えないが、枠の総額を計算する人数には数えること
- 受取人の指定で、納税資金・遺留分・二次相続がそれぞれどう動くか
- 受取人を見直すきっかけと、確認する順番
1. 3者の組み合わせで、かかる税金の種類が決まる
生命保険には3人の登場人物がいます。保険をかけられる人(被保険者)、保険料を負担する人、保険金を受け取る人です。この3者の組み合わせで、税金の種類が変わります。
| 被保険者 | 保険料を負担した人 | 受取人 | かかる税金 |
|---|---|---|---|
| 父 | 父 | 子 | 相続税 |
| 父 | 子 | 子 | 所得税(一時所得) |
| 父 | 母 | 子 | 贈与税 |
死亡保険金の課税関係(国税庁タックスアンサーNo.1750をもとに作成)
相続税になる形
被保険者と保険料を負担した人が同じときです。相続税法3条1項1号は、被相続人の死亡により保険金を取得した場合、そのうち被相続人が負担した保険料に対応する部分を、相続または遺贈により取得したものとみなすと定めています。受取人が相続人であれば相続により取得したものとみなされ、相続人以外であれば遺贈により取得したものとみなされます。次章の非課税枠が使えるのは、この形だけです。
所得税になる形
保険料を負担した人と受取人が同じときです。一時金で受け取れば一時所得になります。一時所得の金額は、受け取った保険金の総額から払い込んだ保険料を差し引き、さらに特別控除額50万円を差し引いた金額です(所得税法34条)。課税の対象は、その金額をさらに2分の1にした金額です。差し引く前の金額が50万円より少なければ、一時所得は生じません。
贈与税になる形
被保険者・保険料を負担した人・受取人がすべて別のときです。相続税法5条は、保険料の全部または一部が保険金受取人以外の者によって負担されたときは、その負担した人から贈与により取得したものとみなすと定めています。3つのうち税負担がもっとも重くなりやすい形で、意図して選ぶ場面はほとんどありません。
2. 非課税枠が使えるのは、相続人が受け取ったときだけ
相続税がかかる形になった保険金には、非課税枠があります。
非課税限度額 = 500万円 × 法定相続人の数
相続人が3人なら1,500万円までが課税価格に算入されません(相続税法12条1項6号)。仕組みそのものは 生命保険は相続対策の一手 で解説しています。
ここで受取人の話に戻ります。条文が非課税としているのは相続人が取得した保険金だけです。相続人以外の人が取得した死亡保険金に、非課税の適用はありません。次の人が受取人になっていると、枠は使えません。
- 相続を放棄した人(放棄すると相続人ではなくなる)
- 孫(親である子が存命で、代襲相続人になっていない場合)
- 内縁の配偶者、子の配偶者、きょうだいの子など、相続人にあたらない人
さらに、受取人によっては相続税額の2割加算がかかります。加算の対象は、被相続人の一親等の血族(代襲相続人となった孫を含みます)と配偶者以外の人です(相続税法18条)。きょうだい、おい・めい、そして代襲相続人になっていない孫が受け取ると、その人の相続税額に2割が上乗せされます。養子は一親等の法定血族なので、原則として2割加算の対象になりません。ただし被相続人の直系卑属が養子になっている場合は一親等の血族に含めないと定められており(相続税法18条2項)、代襲相続人になっているときを除いて、孫養子は2割加算の対象です。
| 受取人 | 非課税枠 | 2割加算 |
|---|---|---|
| 配偶者 | ○ | × |
| 子 | ○ | × |
| 代襲相続人になっている孫 | ○ | × |
| 代襲相続人になっていない孫 | × | ○ |
| 養子縁組した孫(孫養子) | ○ | ○ |
| 相続人になったきょうだい | ○ | ○ |
| 相続人にあたらない人(内縁の配偶者など) | × | ○ |
受取人による非課税枠と2割加算の扱い(国税庁タックスアンサーNo.4114・No.4157をもとに作成。○は適用あり、×は適用なし)
孫を受取人にしたいという相談はよくあります。ただし代襲相続人になっていない孫は、非課税枠が使えず、税額に2割が上乗せされるという2つの不利が重なります。渡したいなら、生前贈与など別の手段と比べたうえで決めてください。孫を養子にすれば相続人になるので、非課税枠は使えるようになります。それでも2割加算はかかったままなので、不利が1つ消えるだけだと考えてください。
3. 法定相続人の数え方と、枠の分け方
枠の大きさを決める「法定相続人の数」は、感覚で数えると間違えます。相続税法15条2項の決まりを確認します。
- 相続を放棄した人も数える。放棄がなかったものとした場合の相続人の数で計算します
- 養子は人数に制限がある。実子がいるときは1人まで、実子がいないときは2人までしか数えられません
- 実子として扱われる養子がいる。特別養子縁組による養子、配偶者の実子で養子になった人、代襲して相続人となった直系卑属などは、制限の対象外です(同条3項)
あわせて、養子の数を人数に含めることで相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合は、税務署長がその養子を数に含めないで計算できるとされています(相続税法63条)。
放棄した人の扱いは、注意して読んでください。人数には数えますが、その人が受け取った保険金に枠は当てはめられません。放棄した子を受取人にしたままの契約では、この2つが同時に起きます。
誰が相続人になるかの数え方そのものは 相続人は誰で、何人いるか にまとめています。
4. 保険金は受取人固有の財産──だから納税資金と代償金に向く
保険金には、税金とは別にもう1つ大事な性質があります。受取人固有の財産であることです。
最高裁判所は昭和40年2月2日の判決(昭和36年(オ)第1028号、民集19巻1号1頁)で、養老保険契約の受取人が「被保険者死亡の場合はその相続人」と指定されたときは、特段の事情のないかぎり、その保険金請求権は保険契約の効力発生と同時に相続人となるべき者の固有財産となり、被保険者の遺産より離脱していると判断しました。
実務での意味を確認します。保険金は遺産分割の話し合いの対象になりません。そして受取人が単独で保険会社に請求でき、他の相続人の印鑑を待たずに済みます。この性質から、保険金は次の用途に向きます。
- 納税資金。相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月です(相続税法27条1項)。納付もその期限までにしなければなりません(同法33条)。財産の大半が不動産という家ほど現金が足りません。分割協議がまとまらなくても保険金は届くので、納税の備えになります。→ 相続税が払えるか確認
- 代償金の原資。賃貸物件を1人が引き継ぎ、他の相続人には金銭を渡す代償分割の資金にできます。分けられない財産を分けるための現金です。→ 不動産は切って分けられない。分け方は4つある
受取人の変更と、放置した契約
受取人は固定ではありません。保険法には次の定めがあります。
- 保険契約者は、保険事故が発生するまでは受取人を変更できます。変更は保険会社に対する意思表示によります(保険法43条)。ただし死亡保険契約では、被保険者の同意がなければ効力を生じません(同法45条)
- 遺言でも変更できます。ただし遺言の効力が生じたあと、保険契約者の相続人がその旨を保険会社に通知しなければ保険会社に対抗できません(保険法44条)
- 受取人が保険事故の発生前に死亡したときは、その相続人の全員が受取人になります(保険法46条)
5. 受取人を変えると、遺留分と二次相続も動く
受取人の指定は、税金だけの話ではありません。分け方と、2回目の相続にも効いてきます。
遺留分との関係
きょうだい以外の相続人には遺留分があります。割合は、直系尊属だけが相続人の場合は3分の1、それ以外の場合は2分の1です(民法1042条)。計算のもとになる財産は、相続開始時に持っていた財産に贈与した財産を加え、債務の全額を引いた額です(民法1043条)。侵害された人は金銭の支払を請求できます(民法1046条)。
保険金は受取人固有の財産で相続財産ではないため、この計算の基礎には入らないと整理されています。最高裁判所も平成14年11月5日の判決(平成11年(受)第1136号、民集56巻8号2069頁)で、自己を被保険者とする生命保険契約の契約者が死亡保険金の受取人を変更する行為は、当時の民法1031条に規定する遺贈または贈与に当たらず、これに準ずるものということもできないと判断しました。そのため、渡したい相手に確実に残す手段として使われます。
ただし、これを「保険にすれば必ず外せる」と読むと危険です。遺産分割の場面では、別の物差しがあります。最高裁判所平成16年10月29日の決定(平成16年(許)第11号、民集58巻7号1979頁)は次のように判断しました。
死亡保険金請求権は民法903条1項に規定する遺贈または贈与に係る財産には当たらない。ただし、保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率、保険金受取人である相続人および他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して、受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、特別受益に準じて持戻しの対象となる。
平たく言えば、原則は持ち戻さない。ただし著しく不公平なら持ち戻すということです。線は、金額の絶対額では引かれません。遺産全体に対する比率、被相続人との関係、各相続人の生活の実態までを含めた総合判断です。いくらまでなら安全、という数字は示されていません。
二次相続との関係
受取人を配偶者にするか子にするかで、2回目の相続の姿も変わります。
配偶者には相続税額の軽減があり、1億6,000万円か配偶者の法定相続分相当額のいずれか多い金額までは相続税がかかりません(相続税法19条の2)。ですから配偶者を受取人にすると、1回目の相続では税負担が出にくくなります。
その代わり、受け取った現金は配偶者の財産として残ります。配偶者が亡くなったときの2回目の相続では、この現金も課税の対象です。しかも2回目は、配偶者の税額軽減が使えず、法定相続人が1人減るぶん基礎控除も保険金の非課税枠も小さくなります。子を受取人にしておけば、その保険金は2回目の相続を通りません。
6. 受取人を決める・見直すときの確認手順
ここまでの話を、決めるときの順番に並べ直します。
受取人を決める・見直す手順
- 1契約の3者を書き出す被保険者・実際に保険料を負担している人・現在の受取人。名義ではなく引き落とし口座で確かめる
- 2相続税になる形か確かめる被保険者と保険料の負担者が同じかどうか。違えば所得税か贈与税になる
- 3受取人が相続人か確かめる相続人以外だと非課税枠が使えず、2割加算がかかることもある
- 4非課税枠の残りを数える500万円×法定相続人の数。加入している契約をすべて合計して、枠を超えていないかを見る
- 5使い道と必要額を突き合わせる納税資金と代償金でいくら要るか。足りない額を見る
- 6相続人の間の差と、2回目の相続を見る遺産全体に対する比率で偏りを確かめる。配偶者に寄せると二次相続に残る
受取人を決めるときの確認順序
見直すきっかけは決まっています。結婚、離婚、子や孫の誕生、受取人の死亡、養子縁組、相続人の顔ぶれが変わる出来事。このいずれかがあったら、加入中の契約をすべて並べて3者を確認してください。1回決めれば終わり、という項目ではありません。
まとめ
- 死亡保険金は、被保険者・保険料を負担した人・受取人の組み合わせで相続税・所得税・贈与税に分かれます。判定は契約者の名義ではなく、実際に保険料を負担した人で行います(相続税法3条1項1号・5条、所得税法34条)
- 非課税枠「500万円×法定相続人の数」が使えるのは、相続税になる形で、かつ相続人が受け取ったときだけ(相続税法12条1項6号)。相続を放棄した人は枠を使えないが、枠の総額を計算する人数には数える。養子は実子がいれば1人、いなければ2人まで(同法15条2項)
- 代襲相続人になっていない孫や相続人にあたらない人が受け取ると、非課税枠が使えないうえに相続税額の2割加算がかかります(相続税法18条)
- 養子縁組した孫は相続人なので非課税枠は使えるが、代襲相続人でない限り2割加算はかかります(相続税法18条2項)
- 保険金は受取人固有の財産で遺産分割の対象外(最高裁昭和40年2月2日判決)。だから納税資金と代償金の原資に向きます
- 相続人の間の不公平が著しいときは、特別受益に準じて持戻しの対象になりうる(最高裁平成16年10月29日決定)。安全な金額の目安は示されていません
- 配偶者を受取人にすると1回目は税負担が出にくいが、その現金は2回目の相続に残ります。子を受取人にすれば2回目を通りません
出典
- 相続税法3条1項1号(生命保険金を相続又は遺贈により取得したものとみなす場合)・5条(保険金受取人以外の者が保険料を負担した場合に贈与により取得したものとみなす場合)・12条1項6号(相続人が取得した保険金の非課税。500万円に15条2項の相続人の数を乗じた金額)・15条1項2項3項(遺産に係る基礎控除。相続人の数と養子の数の制限、実子とみなす者)・18条1項2項(相続税額の加算。一親等の血族と配偶者以外は2割加算。直系卑属が養子となっている場合は一親等の血族に含めない。代襲相続人となっている場合を除く)・19条の2(配偶者に対する相続税額の軽減。1億6,000万円と法定相続分相当額)・27条1項(申告期限は10か月)・33条(納付)・63条(相続人の数に算入される養子の数の否認)
- 所得税法34条(一時所得。特別控除額50万円)
- 民法903条(特別受益者の相続分)・1042条(遺留分の帰属及びその割合。直系尊属のみの場合は3分の1、それ以外は2分の1)・1043条(遺留分を算定するための財産の価額)・1046条(遺留分侵害額の請求)
- 保険法43条(保険金受取人の変更)・44条(遺言による保険金受取人の変更)・45条(保険金受取人の変更についての被保険者の同意)・46条(保険金受取人の死亡)
- 相続税法基本通達18-3(養子、養親の場合)
- 最高裁判所昭和40年2月2日第三小法廷判決(昭和36年(オ)第1028号、民集19巻1号1頁。保険金請求権は保険契約の効力発生と同時に相続人となるべき者の固有財産となり、被保険者の遺産より離脱している)
- 最高裁判所平成14年11月5日第一小法廷判決(平成11年(受)第1136号、民集56巻8号2069頁。死亡保険金の受取人を変更する行為は当時の民法1031条の遺贈又は贈与に当たらない)
- 最高裁判所平成16年10月29日第二小法廷決定(平成16年(許)第11号、民集58巻7号1979頁。特段の事情があるときは民法903条の類推適用により特別受益に準じて持戻しの対象となる)
- 国税庁タックスアンサー No.1750「死亡保険金を受け取ったとき」・No.4114「相続税の課税対象になる死亡保険金」・No.4157「相続税額の2割加算」・No.4170「相続人の中に養子がいるとき」
- 国税庁・裁判所・e-Gov法令検索ウェブサイト(確認日:2026年8月7日)
※本記事は特定の保険商品や保険会社をすすめるものではありません。受取人の指定は、契約の内容・家族構成・財産の中身によって答えが変わります。課税関係の判断は税理士に、分け方や遺留分に関わる判断は弁護士に、契約の内容や変更の手続きは保険会社にご確認のうえ、個別の判断は専門家にご相談ください。
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