相続税の申告期限が10ヶ月であることは、比較的知られています。その手前に、もっと早く来る期限があることは、あまり知られていません。
亡くなった人のその年の所得税を、相続人が代わりに申告する。これが準確定申告で、期限は4ヶ月です。不動産所得のある大家が亡くなった場合、ほぼ確実に該当します。
相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内(所得税法125条)
——1月1日から死亡の日までの所得を計算して申告し、納めます。
※本記事の人物・金額はすべて架空のモデル事例です。一般的な仕組みを解説するもので、個別の税務・法務相談ではありません。
→ 全体像は 相続対策の全体像、工程順の一覧は 相続対策の工程マップ。この記事は工程7「相続発生直後に動く」です。
この記事でわかること
- 誰が、どこに、いつまでに出すのか
- 前年分が未提出のときに起きること
- 控除がいつまでの支払い分で切られるか
- 大家がいちばん落としやすい青色申告の引き継ぎ期限
- 準確定申告で納めた税・還付された税の相続税での扱い
誰が、どこに、いつまでに
| 項目 | 中身 |
|---|---|
| 期限 | 相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内 |
| 出す人 | 相続人・包括受遺者の全員 |
| 出し方 | 全員が連署して1通。「付表」に各人の氏名・住所・相続分を書く |
| 提出先 | 被相続人の死亡当時の納税地の税務署 |
| 対象 | その年の1月1日から死亡の日まで |
| 納付 | 各相続人が相続分に応じて負担する |
相続人がばらばらに提出することもできますが、その場合は他の相続人に申告した内容を知らせる必要があります。ふつうは1通にまとめます。
4ヶ月は「知った日の翌日」から。相続放棄の3ヶ月と同じく、死亡日そのものではありません。ただし実務では、多くの場合が死亡日と同じ日になります。
前年分が終わっていないとき
1月から3月15日までの間に亡くなると、前年分の確定申告がまだ済んでいないことがあります。この場合、前年分も準確定申告として、同じ4ヶ月以内に提出します。
2月10日に死亡。前年分の申告がまだ。
→ 前年分と本年分(1月1日〜2月10日)の2回分を、6月10日までに提出します。
大家は原則、対象になる
次のどれかに当てはまれば申告が必要です。大家はまず1つ目で該当します。
- 事業所得・不動産所得があった
- 給与を2ヶ所以上から受けていた
- 給与収入が2,000万円を超えていた
- 公的年金等の収入が400万円を超えていた
- 不動産や株式を売却して譲渡所得があった
逆に、年金だけで生活していて金額も小さい場合は不要なことがあります。ただし医療費控除などで還付を受けられるなら、出したほうが得です。
収入と経費をどこで切るか
死亡の日までに収入すべきことが確定したものを計上します。実際に入金されていなくても、その日までに支払期日が来ている家賃は収入です。
死亡後に支払期日が来る家賃は、被相続人の所得ではなく、相続人の不動産所得になります。どこで線を引いたかを、あとで説明できるようにしておきます。
控除は「死亡の日まで」で切る
ここが通常の確定申告と違うところです。所得控除の多くは、死亡の日までに支払ったものだけが対象になります。
| 控除 | 準確定申告での扱い |
|---|---|
| 医療費控除 | 死亡の日までに支払った医療費。死亡後に支払った入院費は対象外 |
| 社会保険料控除・生命保険料控除・地震保険料控除 | 死亡の日までに支払った分 |
| 配偶者控除・扶養控除 | 死亡の日の現況で判定する |
| 基礎控除 | 月割りせず、満額 |
| 青色申告特別控除 | 要件を満たしていれば使える |
死亡後に相続人が支払った入院費は、準確定申告の医療費控除には入りません。そのかわり、相続税の計算では債務控除の対象になります。どちらで引くかではなく、支払った時期でどちらに入るかが決まります。
減価償却をどこで区切るか
建物の減価償却費は、被相続人についてはその年の1月1日から死亡の日までを月割りで計上します。相続人は、相続した日から自分の不動産所得で償却を続けます。
このとき、相続人が引き継ぐのは被相続人の取得価額・未償却残高・経過年数です。相続税評価額で買い直したことにはなりません。償却方法は、相続人が自分で選んだ方法によります。
いちばん落としやすいのは、青色申告の引き継ぎ
ここが大家の相続で最も金額に響く場所です。
被相続人が青色申告をしていても、相続人には引き継がれません。相続人が自分で「所得税の青色申告承認申請書」を出す必要があります。出さなければ白色申告です。65万円(または55万円)の青色申告特別控除も、専従者給与も使えません。
そして、この申請には相続特有の期限があります。
| 被相続人が亡くなった日 | 青色申告承認申請書の期限 |
|---|---|
| その年の1月1日〜8月31日 | 死亡の日から4ヶ月以内 |
| その年の9月1日〜10月31日 | その年の12月31日 |
| その年の11月1日〜12月31日 | 翌年の2月15日 |
※被相続人が白色申告だった場合や、相続人がすでに事業を営んでいた場合は、原則どおりの期限(業務開始から2ヶ月以内、またはその年の3月15日まで)になります。
あわせて出す届出
- 個人事業の開業・廃業等届出書——被相続人の廃業と、相続人の開業
- 青色事業専従者給与に関する届出書——家族に給与を出すなら
- 減価償却資産の償却方法の届出書——法定以外の方法を選ぶなら
- 給与支払事務所等の開設届出書——従業員や専従者に給与を払うなら
消費税も4ヶ月
被相続人が消費税の課税事業者だった場合、消費税の準確定申告も4ヶ月以内です。店舗や事務所を貸していた大家、直前に建物を売っていた大家は該当することがあります。
また、相続人が事業を引き継ぐ場合の納税義務の判定は、被相続人の基準期間の課税売上高を見て行います。自分の売上が小さくても、引き継いだ年から課税事業者になることがあります。
納めた税・戻った税は、相続税でどうなるか
| 相続税での扱い | |
|---|---|
| 準確定申告で納めた所得税・住民税 | 被相続人の債務として債務控除の対象 |
| 準確定申告で還付された所得税 | 被相続人の相続財産として課税対象 |
| 還付金に付く還付加算金 | 相続財産ではなく、受け取った相続人の雑所得 |
還付金は相続財産に入るので、遺産分割の対象にもなります。金額が小さくても、漏らすと相続税の申告をやり直すことになります。
まとめ
- 準確定申告の期限は知った日の翌日から4ヶ月。相続税の10ヶ月より先に来る
- 相続人全員が連署して、付表を添えて出す
- 1〜3月の死亡は、前年分も4ヶ月以内
- 医療費・保険料の控除は死亡の日までに支払った分だけ
- 青色申告は引き継がれない。死亡日から4ヶ月以内などの期限で申請する
- 納めた税は債務控除、還付金は相続財産
期限の全体像は 相続が起きたら、まず何を?期限カレンダー。名義の書き換えは 相続登記は3年以内が義務に へ続きます。
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