「相続対策に生命保険がいい、とよく聞くけれど、現金で持っておくのと何が違うの?」——相談でよく出る質問です。
結論から言うと、生命保険には現金にはない非課税枠があります。
死亡保険金の非課税枠 = 500万円 × 法定相続人の数
同じ金額でも、現金で残せば全額が相続税の対象。ところが保険金にしておくと、この枠のぶんだけ課税の対象から外れます(根拠:LS-07 生命保険の非課税/相続税法12条1項5号)。これが「保険で圧縮する」と言われるしくみです。
※本記事の人物・金額はすべて架空のモデル事例です。一般的な仕組みを解説するもので、特定の保険商品をすすめるものでも、個別の税務相談でもありません。
→ 相続対策の全体像は 相続対策の進め方(12工程)。この記事は工程5「保険・不動産・法人で圧縮する」です。贈与だけでは足りない規模のときに、評価や課税価格を下げる手のひとつです。
この記事でわかること
- 死亡保険金は 「500万円×法定相続人の数」まで非課税
- 現金のまま持つのと比べて、なぜ課税価格が下がるのか(圧縮の正体)
- 非課税枠の 人数の数え方と、相続放棄した人が受け取ったときの落とし穴
- 保険金は 受取人固有の財産——分割協議を経ず、渡したい人へ直接・すぐ渡せる
- 契約形態(誰が払い・誰にかけ・誰が受け取る)で税金が相続税・所得税・贈与税に変わる
1. 生命保険の非課税枠「500万円×法定相続人」とは
被相続人が亡くなって支払われる死亡保険金は、受取人の手元に入るお金ですが、相続税では「みなし相続財産」として課税の対象に含めます。ただし、そのうち一定額までは非課税とされています(根拠:LS-07/相続税法12条1項5号)。
| 法定相続人の数 | 死亡保険金の非課税枠 |
|---|---|
| 1人 | 500万円 |
| 2人 | 1,000万円 |
| 3人 | 1,500万円 |
| 4人 | 2,000万円 |
| 5人 | 2,500万円 |
人数が1人増えるごとに、非課税で受け取れる枠が500万円ずつ広がります。
受け取った保険金がこの枠に収まれば、その保険金は課税価格に入りません。枠を超えた分だけが、課税価格に足し戻される、という構造です。
2. 現金のまま持つのと、何が違う?(圧縮の正体)
同じ金額でも、現金なら全額が課税対象、保険金なら非課税枠のぶんが外れる——ここが決定的な差です。
【モデル事例】 田中さん(仮)は、相続人が妻と子ども2人の合計3人。手元の現金のうち1,500万円を、そのまま残すか、死亡保険金として残すかで考えます。
– 現金1,500万円のまま:全額が課税価格に算入 → 圧縮ゼロ
– 同じ1,500万円を保険金に:非課税枠は500万円×3人=1,500万円。ちょうど収まり、課税価格への算入は0円差し引き1,500万円ぶん、課税価格が小さくなりました。仮にこの部分に20%の税率がかかる層なら、税額でおよそ数百万円の違いになり得ます(実際の効果は財産全体と税率で変わります)。
「現金は動かしていないのに、置き場所を変えただけで課税対象が減る」——これが保険による圧縮です。だからこそ、すでに枠を使い切っていないかをまず確認する価値があります。
この非課税枠は、最終的に「基礎控除を超えるか」の判定にも効いてきます。→ うちは相続税がかかる?基礎控除で最初に確かめる(工程9)
なお、圧縮の手は保険だけではありません。更地にアパートを建てて土地・建物の評価を下げる方法も同じ工程5の話です。→ 貸家建付地・貸家評価で評価が下がる仕組み(工程5)
3. 「人数の数え方」と、放棄した人の落とし穴
非課税枠の「法定相続人の数」は、基礎控除と同じルールで数えます(根拠:LS-07/相続税法12条・15条2項)。
| 論点 | 非課税枠の人数への影響 |
|---|---|
| 相続放棄した人 | 放棄しても、人数には数える(放棄はなかったものとして計算) |
| 養子 | 実子がいれば 1人まで、実子がいなければ 2人までしか数えられない |
| 代襲相続の孫 | 代襲して相続人になった孫は、その分数える |
ここで、見落とされがちな落とし穴があります。
相続を放棄した人が受け取った保険金には、非課税枠が使えません。
少し細かいので分けて整理します。
- 枠の総額(500万円×人数)を計算するとき:放棄した人も人数に数える
- 枠を実際にあてはめるとき:非課税の適用を受けられるのは「相続人」が受け取った保険金だけ。放棄した人は相続人ではなくなるため、その人が受け取った保険金は枠を使えず、全額が課税対象(受取人固有の財産なので保険金自体は受け取れます)
【つづき】 田中さんの子の1人が相続を放棄しても、非課税枠の総額は「500万円×3人=1,500万円」のまま計算します。ただし、その放棄した子が受取人だった保険金には非課税枠を使えず、受け取った額がそのまま課税価格に入ります。
同じ理由で、相続人でない孫などを受取人にした保険金も非課税枠の対象外です(さらに孫は相続税の2割加算の対象にもなり得ます)。誰を受取人にするかで、枠が生きるか死ぬかが変わります。ここは設計の勘所なので、別記事で詳しく扱います。→ 生命保険の受取人設計
4. 保険金は「受取人のお金」——3つの役割
生命保険がただの節税策と違うのは、受取人固有の財産である点です。遺産分割協議の対象にならず、指定した受取人へ直接・すぐ支払われます(不動産や預金のように、分割協議や名義変更を待つ必要がありません)。
この性質から、保険金は相続対策で3つの役割を果たします。
- 納税資金をつくる:相続税は原則10ヶ月以内に現金で一括納付。不動産が多く現金が乏しい家庭ほど、受取人にすぐ現金が入る保険は納税の備えになります。
- 代償金の原資にする:不動産を1人が相続し、他のきょうだいへ現金で埋め合わせる「代償分割」。その現金を保険でつくれます。→ 代償金を払えないときの手(工程10)
- 「渡したい人へ確実に」渡す:受取人を指定すれば、協議の結論に左右されず、その人へ届きます。特定の子や配偶者に確実に残したいときの手段になります。
税額を圧縮しつつ、分けにくい財産を「分けられる現金」に変える——この二役が、保険が相続対策で使われる理由です。
配偶者が受け取る場合は、別途「配偶者の税額軽減」も重なります。ただし配偶者に寄せすぎると二次相続で跳ね返る点に注意が必要です。→ 配偶者の税額軽減の使い方(工程11)
5. 契約形態で税金が変わる(相続税になるのはこの形)
最後に、必ず押さえるべき注意点です。生命保険は、「誰が保険料を払い・誰にかけ・誰が受け取るか」の組み合わせで、かかる税金そのものが変わります。ここを間違えると、非課税枠のある相続税ではなく、別の税金になってしまいます。
| 被保険者(かけられる人) | 保険料を払った人 | 受取人 | かかる税金 |
|---|---|---|---|
| 父 | 父 | 相続人(妻・子) | 相続税(500万円×人数の非課税枠が使える) |
| 父 | 子 | 子 | 所得税(一時所得) |
| 父 | 母 | 子 | 贈与税 |
非課税枠が使える「相続税」になるのは、被保険者=保険料を払った本人(=被相続人)で、受取人が相続人という形です。ここでいう「契約者」は、名義よりも実際に保険料を負担した人で判断される点に注意してください。
- 所得税(一時所得)になる形:受け取った保険金から払込保険料と50万円を引き、その半分だけが課税対象になります。
- 贈与税になる形:払った人・かけられた人・受け取る人がすべて別。税率が高くつきやすく、通常は避けたい形です。
つまり、同じ保険金でも契約の組み方しだいで税金が大きく変わります。加入時の名義がそのままになっていないか、一度は確認しておきたいところです。具体的な受取人の決め方は、次の記事で扱います。→ 生命保険の受取人設計
まとめ
- 死亡保険金は 「500万円×法定相続人の数」まで非課税(相続税法12条1項5号)
- 現金で残すと全額が課税対象。同じ額を保険にすると非課税枠のぶん課税価格が下がる(圧縮)
- 人数の数え方は基礎控除と同じ(放棄した人も数える/養子は人数制限)。ただし放棄した人が受け取った保険金は非課税枠を使えない
- 保険金は受取人固有の財産。分割協議を経ず直接渡せ、納税資金・代償金の原資・渡したい人へ確実にの3役
- 契約形態で相続税・所得税・贈与税に変わる。非課税枠が使えるのは「被保険者=保険料負担者、受取人=相続人」の形
次に読む:生命保険の受取人設計/基礎控除で最初に確かめる(工程9)/貸家建付地で評価が下がる仕組み(工程5)/代償金の原資に保険(工程10)
出典
- 相続税法(昭和25年法律第73号)12条1項5号(生命保険金等の非課税)、15条2項(法定相続人の数)、19条の2(配偶者の税額軽減)
- 所得税法(一時所得の計算)/相続税法基本通達(契約形態による課税関係の区分)
- 国税庁「相続税の課税対象になる死亡保険金」「生命保険金を受け取ったとき」(確認日:2026年7月24日)
※非課税枠・課税関係は本記事執筆時点(2026年7月)の制度です。非課税枠が使えるのは受取人が「相続人」の場合で、相続放棄した人や相続人でない人が受け取った保険金には適用されません。具体的な保険の設計・受取人の決定は、契約内容と家族構成で変わります。本記事は特定の保険商品をすすめるものではありません。税務の判断は当事務所で、契約・見直しは保険の専門家と連携のうえご検討ください。個別の税額は税理士にご確認ください。
