- 011. 節税は3方向
- 022. 財産を減らす──生前贈与
- 033. 評価額を下げる
- 044. 非課税枠を使う
- 055. やりすぎの線
- 06まとめ
- 07出典
分け方(章3)と納税資金(章4)の目処が立ったら、3つ目の対策が節税です。相続税の節税は、方法がどれだけ多く見えても「財産を減らす」「評価額を下げる」「非課税枠を使う」の3方向に整理できます。
そして、どの方向にも「やりすぎると認められない」という線があります。この記事では、3方向の中身と、その線まで整理します。
※本記事の人物・金額はすべて架空のモデル事例です。一般的な仕組みを解説するもので、個別の税務・法務相談ではありません。
→ 全体の流れは 相続対策の全体像。この記事は章5「相続税に対策する」の解説です。
この記事でわかること
- 節税は3方向に整理できる
- 生前贈与のいまのルール(7年加算・精算課税110万円)
- 評価額を下げる仕組みと小規模宅地等の特例
- 非課税枠の使い方
- 最高裁で否認されたやりすぎの線
1. 節税は3方向
| 方向 | 中身 | 代表的な方法 |
|---|---|---|
| 財産を減らす | 課税される財産そのものを生前に渡す | 生前贈与 |
| 評価額を下げる | 税金計算のもとになる金額(評価額)を下げる | 小規模宅地等の特例、賃貸物件の評価、法人化 |
| 非課税枠を使う | 課税されない枠に財産を移す | 生命保険の非課税枠 |
相続税は、財産の評価額の合計が基礎控除を超えた分にかかります。だから節税は、この足し算のどこかを小さくする話に必ず行き着きます。
2. 財産を減らす──生前贈与
年110万円までの贈与には贈与税がかかりません(暦年課税の基礎控除)。時間をかけて渡すほど効く、いちばん確実な方法です。ただし、いまのルールで2つ押さえます。
- 亡くなる前7年以内の贈与は、相続財産に足し戻されます(生前贈与加算。相続税法19条)。2024年以降の贈与から、加算期間が3年から7年へ段階的に延びています。駆け込みは効きません。→ 生前贈与加算が3年→7年に。駆け込み贈与はもう効かないのか
- もう1つの方式である相続時精算課税にも、2024年から年110万円の基礎控除ができました(相続税法21条の11の2)。この110万円は足し戻しの対象外です。どちらの方式を選ぶかは、渡す額と年数の設計次第です
注意したいのが「あげたつもり」の贈与です。子ども名義の口座に親が入金していただけでは、贈与と認められず相続財産に戻されます(名義預金)。→ 毎年110万円の贈与が、全額なかったことにされる家──名義預金にしない5つの作法
3. 評価額を下げる
相続税の計算では、財産は時価そのものではなく、決められた方法で評価します。ここに差が生まれます。
- 土地は路線価などで評価され、おおむね時価の8割程度になります
- 貸しているアパート・土地は、借りている人の権利の分だけさらに評価が下がります(貸家・貸家建付地)
- 小規模宅地等の特例を使うと、自宅の土地は330㎡まで8割減、賃貸の土地は200㎡まで5割減になります(租税特別措置法69条の4)。→ 自宅の土地が最大8割減──小規模宅地等の特例を落とさない
2つ注意があります。第1に、特例は申告して初めて使えます。特例で税額が0円になる場合でも、申告は必要です。第2に、賃貸不動産を買って評価を下げる対策は、2027年から適用のルールが変わります。→ 賃貸不動産の「5年ルール」──2027年から、買って相続税評価を下げる対策が変わる
4. 非課税枠を使う
生命保険の死亡保険金には、500万円×法定相続人の数の非課税枠があります(相続税法12条)。現金1,500万円を口座に置いたまま相続すると全額が課税対象ですが、保険金で受け取る形にすれば(法定相続人3人なら)全額が枠内です。納税資金対策(章4)を兼ねられるのも利点です。→ 生命保険は相続対策の一手
5. やりすぎの線
節税には、税務署と裁判所が引いてきた線があります。
- 節税だけが目的の不動産購入──90歳を過ぎた被相続人が借入でマンションを買い、評価額で申告した事案で、最高裁は通常の評価方法によらない課税(財産評価基本通達6項、いわゆる総則6項)を認めました(最高裁令和4年4月19日判決)
- 形だけの養子縁組──基礎控除の人数に数えられる養子は実子がいれば1人まで。相続税を不当に減らす養子は人数から除外されます(相続税法15条2項・63条)
- 形だけの贈与──名義だけ移した預金は、実質で判定されて戻されます
共通するのは、「節税の効果しかない行為」は否認されやすいということです。賃貸経営として成り立つ物件を持つ、実際に使ってもらう贈与をする。実態のある対策だけが残ります。
まとめ
- 節税は「財産を減らす・評価額を下げる・非課税枠を使う」の3方向
- 生前贈与は7年加算の時代。時間をかけた設計で効かせる
- 小規模宅地等の特例は大きいが、申告が条件
- 保険の非課税枠は納税資金対策と兼用できる
- 節税の効果しかない行為は、否認される。順番も分け方・納税資金が先
→ 次に読む:2回目の相続も考える──配偶者に残す額で合計税額が変わる(章6)
出典
- 相続税法12条(生命保険金の非課税)、15条2項(法定相続人の数)、19条(生前贈与加算)、21条の11の2(相続時精算課税の基礎控除)、63条(養子の数の否認)
- 租税特別措置法69条の4(小規模宅地等の特例)、70条の2の4(暦年課税の基礎控除110万円)
- 財産評価基本通達(路線価方式・貸家建付地・同6項)
- 最高裁令和4年4月19日判決(通達評価によらない課税を適法とした事例)
※確認日:2026年8月4日。個別の物件・家族構成での効果と否認リスクの判断は、実行前に税理士へご相談ください。
「相続対策」の入口は2つあります
