ここからは、相続が起きた後の話です。やることは多いですが、動く順番は期限で決まっています。急ぐものから並べると、7日(死亡届)・3か月(相続放棄)・4か月(準確定申告)・10か月(相続税の申告と納税)・3年(相続登記)です。
いちばん注意したいのは、期限そのものより「全体が見える前に財産に手をつけない」ことです。理由は本文で説明します。
※本記事の人物・金額はすべて架空のモデル事例です。一般的な仕組みを解説するもので、個別の税務・法務相談ではありません。
→ 全体の流れは 相続対策の全体像。この記事は章7「実際に相続が起きたら」の解説です。
この記事でわかること
- 直後の1〜2週間でやること
- 遺言書の探し方と検認
- 3か月・4か月・10か月、それぞれの期限で何をするか
- 凍結口座の仮払い
- 分け方がまとまらないときの申告
- 2024年から義務になった相続登記
1. 直後の1〜2週間
- 死亡届──7日以内に市区町村へ(戸籍法86条)。葬儀社が代行することが多い手続きです
- 年金・健康保険・介護保険──受給停止と資格喪失の届出
- 公共料金・サブスクリプション──名義変更か解約
このころ銀行が死亡を把握すると、口座は凍結されます。凍結中でも、相続人1人で一定額まで引き出せる仮払い制度があります(民法909条の2。1金融機関150万円まで)。葬儀費用はここでまかなえることが多いです。→ 凍結中に引き出せる「仮払い」の上限と手順
2. 遺言書を探す。勝手に開けない
分け方の前提になるので、早い段階で遺言書の有無を確かめます。
- 公正証書遺言──最寄りの公証役場で検索できます(遺言検索システム)
- 自筆証書遺言──法務局の保管制度を使っていれば法務局へ照会。自宅で見つけた場合は、開封せずに家庭裁判所の検認を受けます(民法1004条)
遺言書があれば、原則としてその内容で進みます。なければ、相続人全員の話し合い(遺産分割協議)で分け方を決めます。
3. 3か月──相続放棄の期限
借金のほうが多い場合などは、家庭裁判所に申し立てて相続を放棄できます。期限は、相続を知った日から3か月です(民法915条)。
ここで冒頭の注意が効いてきます。財産を売ったり使ったりすると、相続を受け入れた(単純承認)とみなされ、放棄できなくなります(民法921条)。形見分けの範囲を超えて財産に手をつけるのは、全体像が見えてからにします。→ 相続放棄の期限は3ヶ月──「知った日」から数える熟慮期間と、うっかり単純承認
4. 4か月──準確定申告
亡くなった人のその年の所得税は、相続人が代わりに申告します(準確定申告。所得税法124条・125条)。期限は相続を知った日の翌日から4か月です。賃貸物件があった場合は家賃収入の申告があり、青色申告を引き継ぐ届出にも期限があります。→ 準確定申告は4ヶ月──大家が亡くなった年の所得税と、青色申告を引き継ぐ期限
5. 10か月──相続税の申告と納税
相続税の申告と納税の期限は10か月です(相続税法27条・33条)。それまでに、財産の評価、分け方の確定、申告書の作成、納税資金の用意まで終わらせます。
分け方の話し合いがまとまらなくても、期限は延びません。その場合は、法定相続分で分けたと仮定していったん申告・納税します(未分割申告)。このとき「申告期限後3年以内の分割見込書」を出しておくと、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を、分割が決まった後から使い直せます。
6. 3年──相続登記は義務
相続した不動産の名義変更(相続登記)は、2024年4月から義務になりました。取得を知った日から3年以内に申請しないと、10万円以下の過料の対象です(不動産登記法76条の2・164条)。→ 相続登記は3年以内が義務に──過料10万円と、間に合わないときの相続人申告登記
相続した不動産を売るところまで進むなら、不動産売却の全体像に続きます。売却で相続税の一部を取得費にできる特例(租税特別措置法39条)には、申告期限から3年という期限があります。
まとめ
- 順番は期限で決まる。7日・3か月・4か月・10か月・3年
- 全体が見えるまで、財産の換金・処分に手をつけない(放棄できなくなる)
- 遺言書は早めに探す。自筆の遺言は開封せず検認へ
- 話し合いがまとまらなくても、10か月でいったん申告する
- 相続登記は3年以内。放置は過料の対象
→ あわせて読む:相続が起きたら、まず何を?──7日・3か月・4か月・10か月の期限カレンダー(期限の一覧表)
出典
- 戸籍法86条(死亡届)
- 民法909条の2(預貯金の仮払い)、915条(相続放棄の熟慮期間)、921条(法定単純承認)、1004条(検認)
- 所得税法124条・125条(準確定申告)
- 相続税法27条・33条(申告・納付の期限)
- 租税特別措置法69条の4(小規模宅地等の特例)、39条(取得費加算)
- 不動産登記法76条の2・164条(相続登記の申請義務・過料)
※確認日:2026年8月4日。相続放棄・検認・遺産分割の争いは弁護士・司法書士の領域です。期限が近い場合は、まず期限のある手続きから専門家へご相談ください。
「相続対策」の入口は2つあります
