「うちに相続税って、かかるんでしょうか?」——相続の相談で、いちばん最初に聞かれる質問です。
結論から言うと、この問いは、たった一本の式で最初のあたりがつきます。
基礎控除 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
財産の合計がこの金額以下なら、相続税は原則かかりません。超えた分にだけ、相続税がかかります(根拠:LS-13 基礎控除/相続税法15条)。
※本記事の人物・金額はすべて架空のモデル事例です。一般的な仕組みを解説するもので、個別の税務相談ではありません。
→ 相続対策の全体像は 相続対策の進め方(12工程)。この記事は工程9「相続税がかかるか判定する」です。まず「かかるかどうか」を確かめ、かかりそうなら概算まで進みます。
この記事でわかること
- 相続税がかかるかは 基礎控除を超えるか で決まる
- 基礎控除の計算に使う 「法定相続人の数」の正しい数え方
- 財産の合計(課税価格)に 何を足して、何を引くか
- 超えたとき、税額をざっくり出す手順(速算表つき)
- かからなくても申告が必要になる代表的なケース
1. まず、基礎控除を超えるかどうか
相続税は、亡くなった人(被相続人)の財産すべてにかかるわけではありません。「基礎控除」という非課税の枠があり、財産の合計がこの枠に収まれば、相続税はかかりません。
| 法定相続人の数 | 基礎控除の額 |
|---|---|
| 1人 | 3,600万円 |
| 2人 | 4,200万円 |
| 3人 | 4,800万円 |
| 4人 | 5,400万円 |
| 5人 | 6,000万円 |
人数が1人増えるごとに600万円ずつ枠が広がります。
たとえば——
【モデル事例】 田中さん(仮)は、東京郊外に自宅と賃貸アパート1棟を持っていました。相続人は妻と子ども2人の合計3人。基礎控除は 3,000万円+600万円×3人=4,800万円。財産の合計がこの4,800万円を超えるかどうかが、最初の分かれ目になります。
「うちは現金はそんなにない」という人でも、自宅や賃貸物件などの不動産を持っていると、あっさり超えることがあります。不動産は現金と違って金額が見えにくいので、ここで「かからないと思っていたのにかかった」が起きます。
土地の評価額の出し方は難所なので、別記事にまとめています。→ 実家の土地は相続税でいくら?路線価と倍率のはなし(工程8)
2. つまずきやすい「法定相続人の数」
基礎控除は人数で決まるので、「法定相続人が何人か」を間違えると、判定そのものがずれます。ここは細かいルールがあります。
誰が法定相続人になるか
- 配偶者は必ず相続人になります。
- そのうえで、次の順位の人が相続人になります。
- 第1順位:子(亡くなっていれば孫が代わりに=代襲相続)
- 第2順位:子がいなければ 父母(直系尊属)
- 第3順位:子も父母もいなければ 兄弟姉妹
基礎控除の人数で、とくに注意する3点
| 論点 | 基礎控除の人数への影響 |
|---|---|
| 相続放棄した人 | 放棄しても、人数には数える(放棄はなかったものとして計算)(相続税法15条2項) |
| 養子 | 実子がいれば 1人まで、実子がいなければ 2人までしか数えられない(同項) |
| 代襲相続の孫 | 代襲して相続人になった孫は、その分数える |
「孫を養子にして人数を増やせば節税になる」という話を聞くことがありますが、基礎控除に数えられる養子の人数には上限があり、行き過ぎた養子縁組は否認されることもあります。節税だけを狙った形式的な縁組にはリスクが伴います(根拠:LS-04 総則6項)。
法定相続人の数え方だけを詳しく整理した記事も用意しています。→ 法定相続人の数え方(養子・代襲・放棄)
3. 「財産の合計」に足すもの・引くもの
基礎控除と比べる「財産の合計」は、通帳の残高や不動産の評価額を足すだけではありません。相続税では、これを 課税価格 と呼びます。ざっくり、次の足し算・引き算です(根拠:LS-03 相続財産の範囲)。
| 内容 | |
|---|---|
| + 本来の財産 | 現金・預貯金・不動産・有価証券・自社株など |
| + みなし相続財産 | 生命保険金・死亡退職金(それぞれ非課税枠を超えた分) |
| + 生前贈与の一部 | 亡くなる前一定期間の贈与を持ち戻す |
| − 非課税財産 | 墓地・仏壇、保険金や退職金の非課税枠など |
| − 債務・葬式費用 | 借入金・未払い金・葬儀費用 |
ここで効いてくるのが、次の2つです。
- 生命保険には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があります。現金で残すより、保険で残したほうが課税対象が小さくなる理由です。→ 生命保険の非課税枠500万円という一手(工程5)
- 生前贈与の持ち戻し期間は、2024年(令和6年)の贈与から段階的に「3年→7年」へ延びています。「亡くなる直前に贈与しても足し戻される」範囲が広がったので、駆け込み贈与は効きにくくなりました。→ 生前贈与加算が7年になった(令和6年〜)(工程4)
この足し引きをした後の課税価格が、基礎控除を超えるかどうか。それが判定です。
4. 超えていたら、税額をざっくり出す
課税価格が基礎控除を超えていたら、次は「いくらくらいか」です。相続税の計算は少し独特で、いったん法定相続分で分けたと仮定して総額を出し、それを実際の取り分で割り振るという順番になります(根拠:LS-13 相続税の総額計算/相続税法16〜17条)。
手順
- 課税価格 − 基礎控除 = 課税遺産総額
- 課税遺産総額を、法定相続分で分けたと仮定して各人に振る
- 各人の金額に速算表をあてて税額を出し、合計する(=相続税の総額)
- 総額を、実際に取得した割合で割り振る
- 各人の事情(配偶者の税額軽減など)を加減する
相続税の速算表(相続税法16条)
| 法定相続分に応じた取得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1,000万円以下 | 10% | - |
| 3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
| 5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
| 1億円以下 | 30% | 700万円 |
| 2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
| 3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
| 6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
| 6億円超 | 55% | 7,200万円 |
【モデル事例のつづき】 田中さん(仮)の課税価格が8,000万円だったとします。基礎控除4,800万円を引くと、課税遺産総額は3,200万円。これを法定相続分(妻1/2・子1/4ずつ)で仮に分けると、妻1,600万円→「15%−50万円」で190万円、子は各800万円→「10%」で80万円ずつ。合計 350万円 が相続税の総額の目安です。ここから、実際の分け方や配偶者の税額軽減を反映して、各人の負担が決まります。
配偶者には「1億6,000万円か法定相続分まで非課税」という大きな軽減があります。ただし、ここで配偶者に寄せすぎると、次に配偶者が亡くなったとき(二次相続)に跳ね返るという落とし穴があります。→ 配偶者の税額軽減の使い方(工程11)/一次・二次の合計で考える(工程12)
また、自宅の土地は小規模宅地等の特例で評価が最大8割下がることがあり、これを使えるかどうかで税額が大きく変わります。→ 小規模宅地等の特例(工程11)
5. 「かからない」でも油断できない — 申告が必要なケース
最後に、間違えやすい点を1つ。
「基礎控除以下だから申告しなくていい」は、いつも正しいとは限りません。次のような場合は、税額がゼロでも申告が必要です。
- 小規模宅地等の特例を使って評価を下げた結果、基礎控除以下になった
- 配偶者の税額軽減を使って税額がゼロになった
これらの特例は、「申告することが適用の条件」になっているためです。「特例を使えば0円だから申告不要」と考えて申告しないと、特例そのものが受けられなくなることがあります。
判定の結果、微妙なライン(基礎控除の前後)にいる人ほど、専門家に一度あたりを確認してもらうのが安全です。
まとめ
- 相続税がかかるかは、課税価格が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えるかで最初に判定できる
- 基礎控除の計算では、法定相続人の数を正しく数える(放棄した人も数える・養子は人数制限)
- 課税価格は、本来の財産に生命保険・退職金・生前贈与を足し、債務・葬式費用などを引いた金額
- 生命保険の非課税枠と生前贈与加算7年が判定に効く
- 超えたら、法定相続分で仮に分けて総額を出し、実際の取り分で割り振る(速算表)
- 特例で0円にした場合は、申告が必要なことがある
次に読む:実家の土地は相続税でいくら?(工程8)/法定相続人の数え方/小規模宅地等の特例(工程11)/相続税対策・完全ガイド(総論)
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出典
- 相続税法(昭和25年法律第73号)15条(遺産に係る基礎控除・法定相続人の数)、16条(相続税の総額)、12条(生命保険金等の非課税)、19条の2(配偶者の税額軽減)
- 租税特別措置法69条の4(小規模宅地等についての課税価格の計算の特例)
- 令和5年度税制改正(生前贈与加算の7年への延長・令和6年1月1日以後の贈与から適用)
- 国税庁「相続税の計算」「相続税の申告のしかた」(確認日:2026年7月24日)
※基礎控除・速算表・非課税枠は本記事執筆時点(2026年7月)の制度です。生前贈与加算の7年化は令和6年1月以後の贈与から段階的に適用されます。特例の適用可否や具体的な税額は、財産の内容と分け方で変わります。判定が微妙な場合や特例を使う場合は、税理士にご確認ください。
