「家賃収入に消費税はかかるのか」。答えは、貸しているものが住宅かどうかで変わります。住宅の家賃は消費税が非課税です。住宅だけを貸している大家には、消費税もインボイスも基本的に関係ありません。ただし、店舗・事務所の家賃や設備のある駐車場、そして建物の売却は課税の対象で、金額によっては納税義務が生じます。どこからが「関係してくる」のか、境目を順に確認します。
※本記事は一般的な仕組みを解説するものです。登場する事例・金額はすべて架空のモデルです。個別の税務・法務相談ではありません。
→ 賃貸経営の全体像は 賃貸経営の全体像 にまとめています。
この記事でわかること
- 住宅の家賃が非課税になる根拠と条件(契約で住宅用と明らかなこと)
- 課税になる収入の代表例。店舗・事務所の家賃、設備のある駐車場、太陽光売電、建物の売却
- 駐車場の課税・非課税を分ける「設備」と「契約」の線引き
- 納税義務の判定基準。前々年の課税売上高1,000万円の数え方
- インボイス制度との関係。住宅専門なら薄く、テナント大家は登録判断が要ります
- 建物を売却すると、翌々年に納税義務がやってくる仕組み
1. 大家の収入を色分けする──非課税の収入と課税の収入
消費税は、事業者がモノやサービスを売ったり貸したりする取引に広くかかる税金です。ただし、性質や政策上の理由から「非課税」と法律に列挙された取引にはかかりません。住宅の貸付けはその1つです(消費税法6条・別表第二)。
非課税になるのは、契約において人の居住の用に供することが明らかにされている貸付けです。貸付期間が1か月未満の場合は課税されます。判定は契約書で決まるため、実際には人が住んでいても、契約書に「事務所」と書いてあれば課税の扱いになります。逆もまた同じです。会社が従業員の社宅として借りる法人契約でも、居住用であれば非課税です。
住宅の礼金・更新料・共益費は、家賃と同じ区分で扱われます。返還される敷金・保証金は、そもそも対価ではないため消費税の対象になりません。また、1階が店舗・2階が住宅という併設の建物を一括で貸す場合は、住宅として貸した部分だけが非課税になります(消費税法基本通達6-13-5)。
| 収入の例 | かからない(非課税など) | かかる(課税) |
|---|---|---|
| 住宅の家賃・共益費・礼金・更新料(契約で住宅用と明らか) | ○ | × |
| 返還される敷金・保証金 | ○ | × |
| 土地の売却代金・更地のままの貸付け | ○ | × |
| 店舗・事務所・倉庫の家賃と礼金・更新料 | × | ○ |
| 設備のある駐車場の使用料 | × | ○ |
| 太陽光発電の売電収入 | × | ○ |
| 自動販売機の設置手数料・アンテナ基地局の設置料 | × | ○ |
| 建物の売却代金 | × | ○ |
大家の収入と消費税の区分(主な例)
なお、消費税が非課税でも、所得税の計算では家賃はすべて収入です。混同しやすいので分けて考えてください。→ 大家の所得税は、家賃から経費を引いた不動産所得にかかる
2. 駐車場の線引き──「設備」と「契約」で決まる
駐車場は、大家がいちばん間違えやすいです。土地の貸付けは非課税ですが、駐車場は多くの場合、土地ではなく「施設」の貸付けとして課税されます。
- 更地を更地のまま貸す:土地の貸付けとして非課税(1か月未満の貸付けを除く)
- 舗装・区画線・フェンス・車止めなどを設けて駐車場として貸す──施設の貸付けとして課税。月極駐車場やコインパーキングは通常こちら
- 住宅に付随する駐車場:入居者について1戸につき1台分以上の駐車スペースを確保し、車の保有の有無にかかわらず割り当てて、家賃と別に駐車場代を取っていない場合は、住宅の貸付けに含まれて非課税(消費税法基本通達6-13-3)
同じアパートの敷地内の駐車場でも、家賃と別建てで駐車場代を集めていたり、入居者以外にも月極で貸していたりすれば、課税の側に入ります。
3. 納税義務があるかは「前々年の課税売上高1,000万円」で決まる
課税になる収入があっても、すぐに納税ではありません。消費税には小規模な事業者の納税義務を免除する仕組みがあり、基準期間(個人は前々年、法人は原則として前々事業年度)の課税売上高が1,000万円以下なら、原則として納税義務がありません(免税事業者)。
納税義務の判定には、第1章の色分けが効いてきます。住宅の家賃は非課税なので、この1,000万円の判定に入りません。店舗の家賃や駐車場収入など、課税になる収入だけを数えます。
【モデル事例】高橋さん(仮)は、住宅用アパートの家賃が年1,600万円、1階の店舗部分の家賃が年480万円あります。収入の合計は2,000万円を超えますが、消費税の判定対象は店舗の480万円だけ。基準期間の課税売上高が1,000万円以下なので、納税義務はありません。
この判定は、毎年繰り返します。今年なら一昨年、来年なら昨年が基準期間になる、という具合です。店舗のテナントが増えた、駐車場を整備した、といった変化があった年は、その2年後の判定が変わる可能性があります。
例外もあります。前年の上半期(特定期間)の課税売上高などが1,000万円を超える場合や、後述するインボイス登録をしている場合は、基準期間が1,000万円以下でも納税義務が生じます。課税売上が1,000万円の境目に近い人は、税理士に確認してください。
4. インボイス制度──住宅専門の大家には関係が薄い
2023年10月に始まったインボイス制度は、大家によって影響がまったく違います。
仕組みはこうです。借主が事業者の場合、支払った家賃に含まれる消費税を自分の納税額から差し引く(仕入税額控除)には、原則として貸主が発行する「インボイス(適格請求書)」が必要です。税務署に登録した事業者だけが、インボイスを発行できます。
住宅専門の大家──登録は不要
住宅の家賃は非課税で、そもそも消費税が乗っていません。借主(入居者個人)が控除を受ける場面もありません。したがって、住宅だけを貸している大家にはインボイスを求められる場面がなく、登録も不要です。
テナント・事業用駐車場の大家──登録するかを判断する
店舗・事務所や事業用の駐車場を貸している大家は、借主(事業者)から登録を求められることがあります。貸主が未登録だと、借主は支払った消費税の控除が減るからです(当面は一部を控除できる経過措置がありますが、段階的に縮小されます)。登録するかどうかは、借主との関係と、登録した場合に自分が納める消費税額を並べて判断します。
登録して納税する場合には、負担を軽くする仕組みがあります。
- 2割特例:免税事業者だった人がインボイス登録をして課税事業者になった場合、納付税額を売上にかかる消費税額の2割にできる経過措置。確認日時点では、令和8年9月30日を含む課税期間までとされています。改正で後継の措置が設けられることもあるため、使う前に最新の情報を確認してください
- 簡易課税:基準期間の課税売上高5,000万円以下の事業者が、事前の届出で選べる計算方法。不動産業は第6種事業で、売上にかかる消費税額の40%を仕入分とみなして差し引きます。納める額は、おおむね売上にかかる消費税額の6割です
【モデル事例】店舗家賃が年600万円(税抜)の大家が登録した場合、売上にかかる消費税は60万円。2割特例が使えれば納付はその2割の12万円、簡易課税なら6割の36万円です。どちらが使えるか、本来の計算(本則課税)の方が有利になる年はないか、で結論が変わります。
どの計算方法が有利かは収入の構成で変わります。登録を検討する段階で、税理士に試算を頼んでください。
5. 建物を売った年の落とし穴──納税義務は「翌々年」に来る
最後に、金額がいちばん大きくなりやすい話です。賃貸用の建物を売却すると、建物の売却代金は課税売上になります。土地は非課税なので、売買代金のうち建物部分だけが対象です。
すると第3章の判定が動きます。建物部分が1,000万円を超えると、売却した年が基準期間となる翌々年に、課税事業者になります。ふだんは住宅家賃だけで免税だった大家が、売却をきっかけに納税義務者になる。これが売却の落とし穴です。
建物を売却したときの消費税の時間差
- 1売却の年建物部分(例:1,500万円)が課税売上になります。この年自体は免税のままのことが多いです
- 2翌年何も起きない。売却代金を使い切らないよう注意
- 3翌々年売却の年が基準期間になり、課税事業者に。店舗家賃・駐車場収入など、その年の課税売上に納税義務が生じる
- 4備え売却の年のうちに翌々年の納税を見込み、計算方法の選択も含めて税理士に相談します
翌々年に課税売上が何もなければ納税は生じません。しかし、店舗家賃や設備のある駐車場の収入が少しでもあれば、その分に納税義務がかかります。別の建物をその年に売却すれば、その建物部分も課税売上です。
計算方法の準備にも時間の制約があります。2割特例は、基準期間の課税売上高が1,000万円を超える年には使えません。つまり売却の翌々年には、多くの場合使えないと考えておくべきです。簡易課税を使うには、原則としてその課税期間が始まる前に届出が必要です。「翌々年になってから考える」では選択肢が減っているので、売却の年のうちに税理士へ相談してください。
実務では、売買契約書で土地と建物の金額の区分を明確にしておくことが出発点になります。区分が曖昧だと、消費税の計算も、売却益にかかる所得税の計算も揺れます。なお、売却益への課税(譲渡所得税)は消費税とは別の税金です。→ 不動産を売った税金は、給与と別に計算し、5年で税率が2倍変わる
ちなみに、自宅の売却は事業として行うものではないため、消費税の対象外です。賃貸用など事業用の建物が対象です。
まとめ
- 住宅の家賃は非課税(契約で住宅用と明らかなもの。1か月未満の貸付けを除く)。住宅専門の大家には、消費税もインボイスも基本的に関係ありません
- 課税になるのは、店舗・事務所の家賃、設備のある駐車場、太陽光売電、建物の売却代金など
- 駐車場は、更地のままなら非課税、舗装・区画などの設備があれば課税。住宅と一体(1戸につき1台分以上・家賃込み)なら非課税
- 納税義務は前々年の課税売上高1,000万円で判定します。住宅の家賃はこの1,000万円に入りません
- インボイス登録を検討するのはテナント大家だけ。登録すると売上規模によらず課税事業者になります。2割特例・簡易課税という負担軽減の仕組みがあります
- 建物を売って建物部分が1,000万円を超えると、翌々年に課税事業者になります。売却の年のうちに翌々年まで見ておきます
次に読む:大家の所得税は、家賃から経費を引いた不動産所得にかかる/不動産を売った税金は、給与と別に計算し、5年で税率が2倍変わる/売却の手取りは、売値から取得費、費用、税金、残債を引いた残り/法人税の基本/賃貸経営の全体像
出典
- 消費税法6条・別表第二(非課税となる資産の譲渡等)、9条(小規模事業者に係る納税義務の免除)
- 消費税法基本通達6-13-3(駐車場付き住宅の貸付け)・6-13-5(店舗等併設住宅の取扱い)
- 国税庁タックスアンサーNo.6201「非課税となる取引」・No.6213「駐車場の使用料など」・No.6501「納税義務の免除」・No.6505「簡易課税制度」・No.6498「適格請求書等保存方式(インボイス制度)」
- 国税庁ウェブサイト・e-Gov法令検索(確認日:2026年8月7日)
※課税・非課税の区分と納税義務の判定は、契約の形と収入の構成によって個別に変わります。本記事は一般的な仕組みの解説です。経過措置の期限や割合は改正で動くことがあります。インボイス登録や物件の売却を検討する際は、契約書と収入の内訳を手元に置いたうえで、税理士にご相談ください。
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