「10室あれば税金で有利になる」と聞いたことのある大家は多いはずです。貸間・アパートならおおむね10室以上、戸建てなどの独立家屋ならおおむね5棟以上。この線を超えると所得税の扱いが「事業的規模」に変わり、青色申告特別控除65万円をはじめ4つの場面で差が出ます。判定の仕組みと、変わる中身を整理します。
※本記事は一般的な仕組みを解説するものです。登場する事例・金額はすべて架空のモデルです。個別の税務・法務相談ではありません。
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この記事でわかること
- 5棟10室基準の正確な中身(所得税基本通達26-9の形式基準)
- 事業的規模になると変わる4つのこと(65万円控除・専従者給与・資産損失・貸倒損失)
- 駐車場や空室など、カウントで迷いやすいところ
- 個人事業税は都道府県が別の基準で判定すること
- 事業的規模でなくても青色申告は使えること
1. 5棟10室基準とは──形式基準の中身
不動産の貸付けが「事業」として行われているかどうかは、原則として、社会通念上事業と称するに至る程度の規模かどうかで実質的に判断されます。ただし建物の貸付けについては、次のどちらかに当てはまれば、原則として事業的規模として扱われます(所得税基本通達26-9)。
- 貸間・アパート等──貸すことのできる独立した室数がおおむね10室以上
- 戸建てなどの独立家屋──おおむね5棟以上
これが「5棟10室基準」です。どちらか片方を満たせば足ります。「おおむね」と付いているとおり機械的な線引きではなく、通達も、収入や管理の状況からこれらに準ずる事情があれば事業として扱う余地を認めています。
種類の違う物件を持っている場合は、実務では一般に、戸建て1棟をアパート2室分、駐車場5台分をアパート1室分に換算して合算します。この換算は通達に明文があるわけではなく、あくまで実務上の目安です。
2. 事業的規模になると変わる4つのこと
事業的規模かどうかで、所得税の計算は次の4か所が変わります。
| 項目 | 事業的規模 | それ以外の規模 |
|---|---|---|
| 青色申告特別控除 | 最大65万円 | 最大10万円 |
| 青色事業専従者給与 | 使える | 使えない |
| 取壊し・除却の資産損失 | 全額を必要経費にできる | その年の不動産所得の金額が限度 |
| 家賃の貸倒損失 | 回収不能になった年の必要経費 | 収入計上した年に遡って計算し直す |
国税庁タックスアンサーNo.1373をもとに作成
(1) 青色申告特別控除が最大65万円になる
青色申告特別控除を55万円(一定の要件で65万円)受けられるのは、事業として営む不動産所得がある場合です。複式簿記で記帳し、貸借対照表と損益計算書を確定申告書に添付して期限内に申告すると55万円。さらにe-Taxで申告するか、優良な電子帳簿保存の要件を満たすと65万円になります。事業的規模でなければ、控除は最大10万円です。
【モデル事例】課税所得500万円(所得税率20%の階層)の大家の場合、65万円控除なら所得税・住民税あわせて年およそ19.5万円、10万円控除なら年およそ3万円の税負担が減ります。差は年16.5万円程度。実際の効果は適用される税率によって変わります。
(2) 家族への給与を経費にできる(青色事業専従者給与)
生計を同じくする配偶者や親族が貸付けの仕事に専ら従事している場合、事前に届出をしたうえで、労務の対価として相当な金額の給与を必要経費にできます。届出書は、経費にしたい年の3月15日までに提出します。この制度も、不動産所得では貸付けが事業として行われている場合に限られ、事業的規模でなければ、白色申告の事業専従者控除(配偶者86万円・その他50万円)も含めて適用がありません。
(3) 建物の取壊し・除却の損失を全額経費にできる
古くなった貸家を取り壊したときなどの資産損失は、事業的規模なら全額をその年の必要経費にできます(所得税法51条1項)。不動産所得が赤字になれば、給与など他の所得との損益通算にもつながります。事業的規模でない場合は、その年の不動産所得の金額が限度で(同条4項)、損失で赤字を作ることはできません。建替えを控えた物件を持っているなら、影響の大きい項目です。
(4) 家賃の貸倒損失の処理が簡単になる
滞納家賃が回収不能になった場合、事業的規模なら、回収不能が確定した年の必要経費に計上します(所得税法51条2項)。事業的規模でない場合は、その家賃を収入に計上した年に遡って、収入がなかったものとして所得を計算し直します(所得税法64条1項)。過年分の申告をやり直す手続が必要になるぶん、手間がかかります。
3. カウントの実務で迷いやすいところ
判定の際、迷いやすいポイントを挙げます。
- 駐車場──一般に、5台分でアパート1室相当と換算します
- 空室──賃貸する意思をもって募集を続けている部屋は、室数に含めて判定するのが一般的です。長期間募集していない部屋まで数えると、実態を問われたときに説明がつきません
- 形式基準に届かない場合──通達は、賃貸料収入や管理の状況から形式基準に準ずる事情があれば事業として扱う余地を認めています。逆に、室数を満たしていても実態が伴わないと判定が覆る可能性もあります
【モデル事例】アパート6室と月極駐車場20台分を持つ大家の場合、駐車場は20台 ÷ 5 = 4室相当。合計10室相当となり、事業的規模と判定される可能性が高い状態です。ただし換算は実務上の目安なので、境目に近いときは申告前に税理士に確認してください。
4. 個人事業税は別の基準で判定される
都道府県税である個人事業税も、事業的規模の話とセットで押さえます。不動産貸付業と認定されると、所得税・住民税とは別に個人事業税がかかります。認定基準は都道府県が独自に定めており、所得税の5棟10室基準と完全には一致しないことに注意が必要です。
東京都の例では、住宅の貸付けは「戸建てなら10棟以上、戸建て以外なら10室以上」などの基準で不動産貸付業を認定します。戸建ての基準が所得税(5棟)と違うことが分かります。税率は5%で、年290万円の事業主控除があります。
5. 事業的規模でなくても、青色申告はできる
最後に誤解の多い点を1つ。青色申告そのものは、事業的規模でなくても選べます。最大10万円の青色申告特別控除や、純損失を翌年以後3年間繰り越せる特典は、規模に関係なく使えます。事業的規模で上乗せされるのは、65万円(55万円)控除と専従者給与、損失の扱いという、この記事で見てきた部分です。
不動産所得の計算全体の流れ(何が収入で何が経費か、税率、損益通算)は 大家の所得税は、家賃から経費を引いた不動産所得にかかる にまとめています。また、規模が大きくなってきたら、個人のまま事業的規模を目指すか法人化するかという選択も出てきます。法人化が得になるのは、所得がいくらからか/大家の法人税 を参考にしてください。配偶者の扶養など社会保険への影響は 大家の社会保険 で解説しています。
まとめ
- 5棟10室基準は所得税基本通達26-9の形式基準。貸間・アパートはおおむね10室以上、独立家屋はおおむね5棟以上のどちらかを満たせば、原則として事業的規模
- 事業的規模で変わるのは次のとおり。青色申告特別控除65万円(それ以外は最大10万円)・青色事業専従者給与・取壊し等の資産損失の全額経費算入・貸倒損失の当年経費算入
- 65万円控除には、複式簿記・貸借対照表等の添付・期限内申告に加え、e-Tax申告または優良な電子帳簿保存が必要
- 戸建て1棟=2室、駐車場5台=1室の換算は実務上の目安。空室は募集を続けていれば含めて判定するのが一般的
- 個人事業税は都道府県が独自の基準で判定します。東京都は住宅の戸建て10棟以上など、5棟10室と一致しません。青色申告特別控除も適用されません
- 事業的規模でなくても青色申告はでき、10万円控除と純損失の3年繰越しは使えます
- まずは自分の物件を、戸建て1棟=2室、駐車場5台=1室の目安で数えてみます。10室相当の境目に近いなら、申告前に税理士に確認します
次に読む:大家の所得税は、家賃から経費を引いた不動産所得にかかる/構築物・附属設備・修繕費の分け方/大家の社会保険/法人化が得になるのは、所得がいくらからか/大家の法人税
出典
- 所得税基本通達26-9(建物の貸付けが事業として行われているかどうかの判定)
- 国税庁タックスアンサーNo.1373「事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分」・No.2072「青色申告特別控除」・No.2075「青色事業専従者給与と事業専従者控除」
- 所得税法51条(資産損失の必要経費算入)・64条(資産の譲渡代金が回収不能となつた場合等の所得計算の特例)、租税特別措置法25条の2(青色申告特別控除)
- 東京都主税局「個人事業税」(法定業種と税率・不動産貸付業と駐車場業の認定基準)
- 国税庁・e-Gov法令検索・東京都主税局ウェブサイト(確認日:2026年8月7日)
※事業的規模の判定は形式基準だけでなく実態も踏まえて行われ、個別の事情で結論が変わることがあります。個人事業税の基準・運用は都道府県ごとに異なります。ご自身の物件の判定や申告方法は、資料を揃えたうえで税理士にご相談ください。
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