売却では、いくらで売れるかよりも、手元にいくら残るかを知りたいはずです。ところが、売買契約の直前まで手取りを計算しないまま話が進むことがあります。
手取りは、売った金額から譲渡費用と税金を引き、ローンが残っていれば残債の返済も引いた残りです。税金は売った金額ではなく、税務上のもうけにかかります。架空のモデル事例で、電卓を叩く順に最後まで計算します。
- 01
- 02
- 03
- 04
- 05
1. 手取りは、6つの順に引いて出す
計算は順番どおりに進めます。この順で数字を埋めていけば、途中で迷いません。
先に、引く金額をそろえる
先に売買契約書と、毎年の確定申告書を見ます
この3つがそろわないと、税額は出せません。とくに取得費は、購入時の書類が見つかるかどうかで金額が変わります(5章)。
そのあと、税額と手取りを出す
ここから手元に残る金額が決まります
下のモデル事例を、この順で最後まで計算します。
【モデル事例】高橋さんは12年前、賃貸用の中古アパートを4,000万円(土地2,000万円・建物2,000万円)で買いました。毎年の確定申告で建物の減価償却費を計上しており、その累計は1,400万円です。今年、このアパートを3,800万円で売り、仲介手数料など譲渡費用が140万円かかりました。ローンは完済済みです。人物と金額は架空です。
2. 取得費は、減価償却の分だけ目減りしている
4,000万円で買ったから取得費は4,000万円、とはなりません。土地と建物で扱いが分かれます。
土地の取得費は買った値段のまま残る

買った値段が、そのまま残ります
やり方土地は減価償却をしません。モデル事例では2,000万円のままです。
建物の取得費は減価償却の分だけ減る

買った値段から、減価償却費の累計を引きます
やり方2,000万円 − 1,400万円 = 600万円。土地と合わせた取得費は2,600万円です。
理由12年間、減価償却費を経費にして所得税を減らしてきた分が、売るときに取得費の目減りとして出てきます。
譲渡費用を集める

売るために直接かかった費用だけを集めます
やり方モデル事例では140万円です。中心は売却時の仲介手数料132万円で、3,800万円×3.3%+6.6万円の上限で計算した額です。
注意固定資産税や、売るためではない修繕費は入りません。入るものを引き忘れると、その分だけ税金を多く払います。
3. 売り時は、売った年の1月1日で決まる
税率は2択です。所有期間で税率が分かれます。数える日は決まっています。
所有期間で、税率がこう変わる(租税特別措置法31条・32条)
売った年の1月1日の時点で数えます。売り出しから引き渡しまで数か月かかるので、長期になる年の1月1日を先に出しておきます。
同じもうけ1,060万円でも、税額はここまで違う
短期譲渡(5年以下)
譲渡所得1,060万円
× 39.63%約420万円
税額約420万円
長期譲渡(5年超)
譲渡所得1,060万円
× 20.315%約215万円
税額約215万円
差は約205万円です。高橋さんは所有12年なので長期譲渡になります。いま短期に当たるなら、何年の1月1日から長期になるかを先に計算します。ただし、待つ間の空室や相場の変化もあるので、税金だけで決めません。
4. 手元には、約3,445万円が残る
長期譲渡になる高橋さんの手取りを、最後まで出します。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 売却代金 | 3,800万円 |
| 譲渡費用(仲介手数料・印紙代など) | −140万円 |
| 税額(所得税・住民税の概算) | −約215万円 |
| 手取り | 約3,445万円 |
5. 書類がないと、税額は約490万円増える
ここまでの計算は、購入時の売買契約書があり、取得費2,600万円を示せる前提でした。書類がないと、同じ物件を同じ値段で売っても税額が変わります。
契約書が見つかった

実際に買った値段で計算できます
やり方取得費は2,600万円です。譲渡所得1,060万円で、長期譲渡の税額は約215万円です。
見つからない

売却代金の5%を取得費とみなして計算します
やり方3,800万円の5%は190万円です。3,800万円 −(190万円 + 140万円)で、譲渡所得は3,470万円になります。
注意長期譲渡でも税額は約705万円になります。実額で計算した約215万円との差は、約490万円です。
契約書がなくても、示せることがある

通帳の振込記録やローンの書類から、買った値段をたどります
やり方購入時の振込記録、金銭消費貸借契約書、当時の売買の資料を集めます。
解決あきらめて5%で申告する前に、税理士に相談してください(「買った値段がわからないと、取得費は売値の5%になる」)。
まとめ
- 手取りは、譲渡収入、取得費、譲渡費用、譲渡所得、税額、手取りの順に出します
- 賃貸に使った建物の取得費は、減価償却費の累計だけ目減りしています
- 買値より安く売っても、モデル事例では1,060万円のもうけが出ます
- 同じもうけでも、税額は長期が約215万円、短期が約420万円になります
- 取得費を示せず5%で計算すると、モデル事例では税額が約490万円増えます
まず、今日できること
- 買ったときの売買契約書を出し、土地と建物の金額を書き写す
- 確定申告書の減価償却の明細から、その建物の償却費の累計を書き出す
- 売った年の1月1日で所有5年を超えるのは何年からか、カレンダーで確かめる
次に読む:売却を頼む相手は、媒介契約の3種類を知ってから決める/不動産を売った税金は、給与と別に計算し、5年で税率が2倍変わる
出典
- 所得税法33条(譲渡所得)、38条(譲渡所得の金額の計算上控除する取得費)
- 租税特別措置法31条・32条(長期・短期譲渡所得の課税の特例)、31条の4(概算取得費)
- 東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法13条(復興特別所得税)
- 国税庁タックスアンサー No.3208(長期譲渡所得の税額の計算)、No.3211(短期譲渡所得の税額の計算)、No.3252(取得費となるもの)、No.3255(譲渡費用となるもの)、No.3258(取得費が分からないとき)
※確認日:2026年9月3日。本記事の計算は、端数処理や個別の特例を省いた架空のモデルによる概算です。実際の税額は、物件の買い方、減価償却の計算、特例が使えるかどうかで変わります。本記事は一般的な仕組みを説明するもので、個別の税務相談ではありません。売買契約の前に、税理士に試算をご依頼ください。
この記事は 相続対策 工程12「二次相続・活用と売却」 でも紹介しています。
8工程の全体像を見る「不動産売却」の入口は2つあります
筆者(宍倉)が、オンライン90分の無料モニターを募集中です。事前のヒアリングをもとに資料をこちらで用意し、当日は一緒に眺めながら話します。
参加費は無料です。枠が埋まり次第、受付を終了します。