不動産の法人化を調べ始めると、最初に「法人税」が出てきます。法人税は、会社の事業年度ごとの利益(所得)に、ほぼ一定の税率を掛けて計算する税金です。所得が増えるほど税率が上がる個人の所得税とは、仕組みの根本が違います。この記事では、法人税という税金の仕組みそのものを、個人の所得税と比べながら解説します。
※本記事は一般的な仕組みを解説するものです。登場する事例・金額はすべて架空のモデルです。個別の税務・法務相談ではありません。
→ 法人化の全体像は 不動産の法人化の全体像 にまとめています。
この記事でわかること
- 法人税の計算の骨格(各事業年度の所得×税率)と、個人の所得税との構造の違い
- 税率。普通法人23.2%と、中小法人の年800万円以下の部分の軽減税率
- 地方税まで含めた実質の負担割合の目安(おおむね3割強)
- 損金の考え方。役員報酬・社宅・生命保険など、個人にはない経費の仕組み
- 赤字の扱い。10年の繰越控除と、赤字でも納める均等割
- 申告期限(事業年度終了の日の翌日から2か月以内)
1. 法人税の基本──「事業年度の所得×税率」で計算する
法人税は、会社(法人)の所得にかかる国の税金です。個人にとっての所得税に当たるものと考えてください。計算の骨格は単純で、事業年度ごとに、収益(益金)から費用(損金)を差し引いた「所得」に税率を掛けます。
個人の所得税との最大の違いは、税率の形です。個人の所得税は、課税所得が増えるほど税率が上がる超過累進で、5%から45%までの7段階。これに住民税の10%が加わります。たとえば課税所得のうち900万円を超えた部分には、所得税33%+住民税10%で合計43%がかかります。稼ぐほど「増えた部分」の税率が重くなる仕組みです。
一方、法人税の税率はほぼ一定(比例税率)です。所得が2倍になれば、税額もおおむね2倍になるだけで、税率そのものは上がりません。
もう1つ、大家にとって大事な構造の違いがあります。所得の区分です。個人は、家賃の利益を不動産所得、物件を売った利益を譲渡所得と分けて計算し、売却益には別枠の税率がかかります(分離課税。→ 不動産を売った税金は、給与と別に計算し、5年で税率が2倍変わる)。法人にはこの区分がなく、家賃も売却損益も、まとめて1つの所得として計算します。このため法人では、賃貸の赤字と売却の黒字を相殺できます。逆に、長く持った物件の売却益に低い税率が使える個人の優遇は、法人にはありません。売却まで見据えると、この違いが損得に大きく効いてきます。
| 項目 | 個人(所得税) | 法人(法人税) |
|---|---|---|
| 課税の単位 | 暦年(1月〜12月) | 事業年度(決算月は設立時に選べる) |
| 税率の形 | 超過累進。5〜45%の7段階+住民税10% | ほぼ一定。23.2%(年800万円以下の部分に軽減あり) |
| 赤字の繰越(青色申告) | 3年 | 10年 |
| 赤字の年の負担 | 所得税はかからない | 住民税の均等割(年7万円程度)は必ずかかる |
| 申告期限 | 翌年3月15日 | 事業年度終了の日の翌日から2か月以内 |
個人の所得税と法人税の主な違い
「所得が大きいほど法人が有利」という話は、この構造の違いから出てきます。ただし、法人化すべきかどうかは税率だけでは決まりません。判断の進め方は 法人化とは、会社を作ることではなく、家賃の受け皿を移すこと から始まる連載にまとめています。この記事は、その前提になる仕組みの理解に絞ります。
2. 税率はいくらか──23.2%と、年800万円以下の部分の15%
普通法人の法人税率は23.2%です。そして、資本金1億円以下の中小法人には優遇があり、年800万円以下の所得の部分は15%で計算します(本来は19%のところを、租税特別措置で15%に軽減)。大家が作る資産管理会社は、ほとんどがこの中小法人に当たります。
【モデル事例】所得1,000万円の中小法人の法人税は、800万円×15%=120万円、残り200万円×23.2%=46万4,000円、合計166万4,000円です。
法人税のほかに、次のような税金がセットでかかります。
- 地方法人税──法人税額に連動する国税。法人税の申告と一緒に納めます
- 法人住民税──法人税額に連動する部分(法人税割)と、会社の存在自体にかかる部分(均等割。第4章で説明)があります
- 法人事業税は、所得に連動する都道府県の税金です
すべて合わせた実質の負担割合(実効税率)は、所得の水準や自治体によって変わりますが、おおむね3割強が目安です。個人の最高税率(所得税+住民税で約55%)と比べると低く見えますが、有利かどうかは自分の課税所得の水準次第です。→ 法人化が得になるのは、所得がいくらからか
3. 損金──「自分への給料」が経費になる仕組み
法人の経費は「損金」と呼びます。修繕費や管理料は、個人と同じく経費になりますが、法人には個人にない仕組みがあります。
役員報酬──定期同額給与
個人事業には「自分に給料を払う」という概念がありません。事業の利益は、そのまま全額が自分の所得です。法人では、会社から自分に役員報酬を払い、それが会社の損金になります。受け取る側では給与所得として課税されますが、給与には「給与所得控除」という概算の経費枠があるため、同じ金額でも課税のされ方が変わります。
ただし条件があります。役員報酬は原則として毎月同額(定期同額給与)で支給し、金額の変更は事業年度開始から3か月以内に行います。期中に自由に増減させた部分は損金になりません。「今年は儲かったから12月に増やす」はできない、と覚えてください。家族を役員にして報酬を分ける設計もできますが、働きの実態が前提です。
役員社宅
法人が住宅を借りて(または所有して)役員に貸し、役員が「賃貸料相当額」という一定の計算による家賃以上を負担すれば、法人が払う家賃と受取額の差額分を実質的に経費にできます。
生命保険・退職金
法人契約の生命保険は、契約内容に応じて保険料の全部または一部が損金になる類型があります。また、将来退任するときには役員退職金を損金にできます。受け取る側でも、退職金には退職所得控除と2分の1課税という優遇があり、税負担が軽くなっています。
これらの設計は法人化の主要な果実ですが、金額や手続を誤ると税務署は損金と認めません。具体的な設計は 会社の節税は、税額ではなく手取りで決める にまとめています。
4. 赤字の扱い──10年繰り越せる。ただし赤字でも均等割
青色申告をしている法人は、赤字(欠損金)を翌年以後10年間繰り越して、将来の黒字と相殺できます。個人の青色申告は3年なので、大きな差です。大規模修繕で1年だけ大きな赤字が出ても、法人なら10年かけて黒字とぶつけられます。繰越を使うには、赤字が出た年に青色申告をし、その後も続けて申告していることが条件です。赤字の年こそ、申告を省略しないでください。
【モデル事例】外壁と屋上の大規模修繕で、ある年に800万円の赤字が出たとします。翌年から所得が年200万円なら、個人(繰越3年)では600万円分しか相殺できません。法人なら、4年かけて800万円を全額相殺できます。
一方で、法人には「赤字でも出ていくお金」があります。法人住民税の均等割は、会社が存在するだけでかかる税金で、赤字でも最低で年7万円程度(資本金の規模や自治体によって異なります)を納めます。決算・申告の手間も個人より重く、税理士報酬などの固定費もかかります。「所得が小さいうちは法人化しない方がよい」と言われる理由の1つです。→ 法人化して後悔する人の共通点
また、法人が役員報酬を払うと社会保険への加入が原則必要になります。これは税金と別枠の大きな負担です。→ 大家と社会保険
5. 申告と納税──事業年度終了から2か月以内
法人税の確定申告と納税の期限は、事業年度終了の日の翌日から2か月以内です(法人税法74条)。3月決算なら5月末が期限です。地方税の申告もおおむね同じ時期です。
個人の「翌年3月15日」と違い、法人の決算月は会社ごとに違います。設立するときに自分で決められるので、繁忙期を避けるといった調整ができます。また、前の年度の税額が一定額を超えると、年度の途中で中間申告・納付が必要になることもあります。
法人の申告書は個人の確定申告よりも複雑で、実務では、通例、税理士に依頼します。その報酬は法人を維持する固定費として、法人化の損得勘定に織り込んでおきます。設立手続と設立後の届出は 株式会社か合同会社かは、費用と運営と承継で決める にまとめています。
まとめ
- 法人税は「各事業年度の所得×税率」で計算します。個人の超過累進と違い、税率はほぼ一定(比例税率)
- 税率は普通法人23.2%。中小法人は年800万円以下の部分が15%(期限の区切られた租税特別措置)。地方税まで含めた実質負担はおおむね3割強が目安
- 損金には役員報酬(定期同額給与)・役員社宅・生命保険など、個人にない仕組みがあります。ただし実態と適正な金額が前提
- 赤字は青色申告で10年繰り越せる(個人は3年)。一方、赤字でも住民税の均等割が年7万円程度かかります
- 申告期限は事業年度終了の日の翌日から2か月以内。決算月は設立時に選べる
- 法人化すべきかどうかは税率だけでは決まりません。分岐点・方式・設計は法人化の連載で確認します
次に読む:法人化とは、会社を作ることではなく、家賃の受け皿を移すこと/法人化が得になるのは、所得がいくらからか/法人化のやり方は3つ。家賃をどこまで会社に移すかで選ぶ/会社の節税は、税額ではなく手取りで決める/大家と社会保険
出典
- 法人税法34条(役員給与の損金不算入)・57条(欠損金の繰越し)・66条(各事業年度の所得に対する法人税の税率)・74条(確定申告)
- 租税特別措置法42条の3の2(中小企業者等の法人税率の特例)
- 地方税法(法人住民税の均等割)
- 国税庁タックスアンサーNo.5759「法人税の税率」・No.5762「青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除」・No.5211「役員に対する給与」・No.2600「役員に社宅などを貸したとき」・No.2260「所得税の税率」・No.2070「青色申告制度」
- 国税庁ウェブサイト・e-Gov法令検索(確認日:2026年8月7日)
※税率・均等割の額は、資本金の規模・自治体・税制改正によって変わります。本記事は仕組みの入門であり、法人化の是非や役員報酬などの金額設計は、個別の状況で結論が変わります。実行の前に税理士にご相談ください。
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