相続の相談を税理士に持っていく前に、自分の土地がおおよそいくらで数えられるのかを知っておきたい。そう考える方は多いはずです。路線価図と地積さえわかれば、掛け算で桁は出ます。ただし、そこで出た数字は申告に使える金額ではありません。公的な資料だけで概算を出す順番と、どこで手を止めるべきかを説明します。
※本記事は一般的な仕組みを解説するものです。登場する事例・金額はすべて架空のモデルです。個別の税務・法務相談ではありません。
→ 相続対策の全体像は 相続対策の全体像 にまとめています。
この記事でわかること
- 国税庁の財産評価基準書で、自分の土地の路線価図にたどり着くまでの画面の順番
- 路線価図に書かれた数字・アルファベット・記号の読み方
- 計算の順番は、正面路線価を決める、奥行価格補正率を掛ける、地積を掛ける、の3手であること
- 倍率地域なら「固定資産税評価額×倍率」の1行で終わること
- 不整形地・複数路線・貸家建付地など、自分で計算しない方がよい場面
- この数字でできること、できないこと
1. 用意するものと、方式が2つに分かれる理由
相続税の土地の評価は、亡くなった日の時価によるのが原則です(相続税法22条)。とはいえ、すべての土地を不動産鑑定に出すのは現実的ではありません。そこで国税庁は財産評価基本通達という共通のものさしを定めていて、実務はこれに沿って計算します。
宅地の評価方法は2つです。市街地的形態を形成する地域にある宅地は路線価方式、それ以外の宅地は倍率方式です(財産評価基本通達11)。どちらを使うかは土地の所在地ごとに決まっていて、自分で選ぶものではありません。方式そのものの説明は 実家の土地は相続税でいくら?路線価方式と倍率方式の基本 にまとめています。
手を動かす前に、次の2つを用意してください。どちらか片方でも桁は出せます。
- 登記事項証明書──法務局で誰でも取得できます。土地の登記事項に所在・地番・地目・地積が含まれます(不動産登記法34条1項)
- 固定資産税の課税明細書──毎年の納税通知書に添えて市区町村から届きます。土地の所在・地番・地目・地積と、その年度の固定資産税に係る価格が書かれています(地方税法364条3項1号)
倍率方式では固定資産税評価額を使うので、倍率地域の土地なら課税明細書が必須です。手元にない場合は、市区町村の窓口で確認できます。
2. 路線価図を開くまでの画面の順番
使うのは国税庁の「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」です。無料で、登録も要りません。平成30年分から令和8年分までが掲載されていて、令和8年分は2026年7月1日に公開されました。
最初に決めるのは年分です。財産評価基準は、その年の1月1日から12月31日までの間に相続・遺贈・贈与で取得した財産に使います。相続なら亡くなった日を含む年、贈与ならもらった日を含む年を選びます。将来の見当をつけたいだけなら、最新の年分で構いません。
路線価図にたどり着くまで
- 1年分を選ぶ相続なら亡くなった日を含む年。過去の年分も選べる
- 2都道府県を選ぶ日本地図または一覧から選ぶ
- 3財産評価基準書目次で「路線価図」を選ぶ同じ画面に「評価倍率表(一般の土地等用)」も並んでいる
- 4市区町村を選ぶあいうえお順に並んでいる
- 5町丁名の索引から自分の土地の町丁名を選ぶ路線価図が開く。「倍率地域」と表示されたら5章へ
国税庁の財産評価基準書で路線価図を開く手順
索引で1つの町丁名が複数の路線価図番号に分かれていることがあります。町の面積が広いと図が分割されるためです。開いた図には町丁名と街区番号が表示されているので、それを手がかりに探します。街区番号は丸囲みの数字です。「A町2丁目」という表示と丸囲みの12が並んでいれば、そこは「A町2丁目12番」を指します。
索引や図に「倍率地域」と書かれていた場合は、路線価が定められていない地域です。5章に進んでください。
3. 路線価図の数字・アルファベット・記号を読む
路線価図は、地域の地図が載っている地図部分と、その上の説明部分でできています。説明部分には、地区と借地権割合の適合範囲を示す記号の一覧、A〜Gの記号に対応する借地権割合、方位の矢印、この図に接している他の路線価図番号、地域の名称と所轄税務署名が並びます。左右の端にある2行の数字は、上が年、下が今開いている路線価図番号です。
地図部分で読むのは、次の4つです。
| 表示 | 読み方 |
|---|---|
| 道路の上に書かれた数字(例:215) | その道路に面する標準的な宅地の1平方メートル当たりの路線価。単位は千円なので、215なら215,000円 |
| 数字の右のアルファベット(例:D) | その路線の借地権割合。A〜Gの7段階 |
| 数字を囲む枠の形と、黒塗り・斜線などの記号 | 枠の形が地区区分を、黒塗りや斜線がその地区区分と借地権割合の当てはまる範囲を示す。凡例は説明部分の一覧にある |
| 丸囲みの数字 | 街区番号。町丁名と組み合わせて「◯丁目◯番」を示す |
路線価図の表示と読み方(国税庁「路線価図の説明」をもとに作成)
アルファベットと借地権割合の対応は全国共通です。
| 記号 | 借地権割合 |
|---|---|
| A | 90% |
| B | 80% |
| C | 70% |
| D | 60% |
| E | 50% |
| F | 40% |
| G | 30% |
記号と借地権割合の対応(国税庁「路線価図の説明」)
道路の上に「215D」と書かれていれば、1平方メートル当たりの路線価が215,000円、借地権割合が60%という意味です。
地区区分は7つ
地区区分は、国税局長がビル街地区、高度商業地区、繁華街地区、普通商業・併用住宅地区、普通住宅地区、中小工場地区、大工場地区の7つを定めるものとされています(財産評価基本通達14-2)。この記号を控えておくことが、あとで効いてきます。次章で使う奥行価格補正率をはじめ、補正率の表はどれも地区区分ごとに数値が分かれているからです。自分の土地が普通住宅地区なのか普通商業・併用住宅地区なのかで、掛ける率が変わります。
4. 計算の順番は3手
路線価方式の計算は、財産評価基本通達15に書かれています。一方だけが路線に接する宅地の価額は、路線価にその宅地の奥行距離に応じた奥行価格補正率を掛けて求めた価額に、その宅地の地積を掛けて計算した価額によって評価する、という定めです。順番にすると3手です。
路線価方式の計算の順番
- 1正面路線価を決める接している道路が1本なら、その路線価がそのまま正面路線価
- 2奥行価格補正率を掛ける1平方メートル当たりの価額が出る。率は付表1「奥行価格補正率表」
- 3地積を掛ける補正前の自用地の価額が出る
通達15の定めを手順に置き直したもの
奥行距離は、道路に接している辺から敷地の奥までの距離です。測量図や公図があれば、そこから読み取ります。奥行価格補正率は、地区区分と奥行距離の組み合わせで決まります。奥行が標準より短くても長くても、率は1.00より小さくなります。つまり、路線価に地積をそのまま掛けた金額は、ふつう上限に近い数字です。
【モデル事例】架空の宅地で試します。路線価図を開くと、前の道路に「180C」と書かれていました。課税明細書で地積を見ると220平方メートルです。奥行価格補正率を入れる前の金額は、180,000円 × 220平方メートル = 3,960万円。ここから奥行価格補正率を掛けた分だけ下がります。3,000万円台の土地だ、という桁の見当がつけば、この段階では十分です。
道路が2本以上あるときの「正面」
接している道路が2本以上あると、手順1が判断になります。通達16は、正面路線を原則として、通達15の定めにより計算した1平方メートル当たりの価額が高い方の路線と定めています。ここを読み違える人が多いところです。
比べるのは、路線価そのものではありません。それぞれの路線価に、その路線から見た奥行距離に応じた奥行価格補正率を掛けたあとの金額です。路線価が高い方の道路でも、その向きから見た奥行が極端だと補正率が下がり、もう一方が正面になることがあります。
正面が決まったあとは、角地なら側方路線影響加算(通達16)、表と裏の両方に道路があれば二方路線影響加算(通達17)で、加算率のぶん評価が上がります。加算率はそれぞれ付表2「側方路線影響加算率表」、付表3「二方路線影響加算率表」に定められています。
5. 倍率地域は1行で終わる
路線価が定められていない地域は倍率方式です(財産評価基本通達21・21-2)。
評価額 = 固定資産税評価額 × 倍率
倍率は、財産評価基準書の「評価倍率表(一般の土地等用)」に載っています。路線価図と同じ画面から開けます。表の欄はこう読みます。
| 欄 | 読み方 |
|---|---|
| 町(丁目)又は大字名 | 市区町村ごとにあいうえお順に並んでいる |
| 適用地域名 | 「全域」ならその町の全部が同じ扱い。「一部」「路線価地域」とあれば路線価地域と倍率地域が混在しているので、路線価図でどちらかを確かめる |
| 借地権割合 | 倍率地域におけるその地域の借地権割合 |
| 宅地 | 固定資産税評価額に掛ける倍率。「路線」と書いてあれば、そこは路線価地域 |
| 田・畑・山林・原野など | 分類の略称(純・中・周比準・比準または市比準)と倍率。「比準」とあれば付近の宅地の価額に比準して評価する地域 |
評価倍率表(一般の土地等用)の欄の読み方(国税庁「評価倍率表(一般の土地等用)の説明」をもとに作成)
【モデル事例】架空の郊外の宅地です。課税明細書に書かれたその年度の価格が1,200万円、評価倍率表の宅地の倍率が1.1でした。1,200万円 × 1.1 = 1,320万円。これが相続税評価額のおおよその見当になります。
倍率地域でいちばん多い読み違いは、固定資産税評価額をそのまま相続税評価額だと思い込むことです。倍率を掛けるのを忘れないでください。
6. ここから先は自分でやらない
ここまでの手順が使えるのは、四角い土地が1本の道路に接していて、自分で使っている、という単純な形のときです。次のどれかに当てはまるなら、そこで手を止めて資料をそろえるほうが早く進みます。
| 当てはまるもの | なぜ自分でやらない方がよいか |
|---|---|
| 形が四角でない。間口が狭い。奥行が極端に深い | 不整形地補正・間口狭小補正・奥行長大補正の当てはめには、想定整形地の取り方や距離の測り方の判断が入る(通達20・20-4) |
| 2本以上の道路に接している | 正面路線の判定に奥行価格補正後の比較が要り、そのうえで加算率を足す(通達16・17) |
| 路線価のない道路にしか接していない | 税務署に申し出て特定路線価を設定してもらう手続きがある(通達14-3) |
| 面積が大きい(目安は三大都市圏で500平方メートル以上) | 地積規模の大きな宅地に当たるかどうかで結果が大きく動く。用途地域・容積率・地区区分による除外もある(通達20-2) |
| 土地を人に貸している。敷地にアパートが建っている | 貸宅地・貸家建付地として、借地権割合や借家権割合を使う別の計算になる(通達25・26) |
| 自宅や賃貸物件の敷地である | 評価額が出たあとに、小規模宅地等の特例で一定面積まで減額できる場合がある |
自分の計算を止める目安
どういう条件で評価が下がるのかという見取り図は 相続税評価が下がる土地の特徴 に、賃貸物件の敷地の扱いは 大家の相続税 に、評価が出たあとの特例は 自宅の土地が最大8割減 にまとめています。
出た数字でできること、できないこと
できることは1つです。相続税がかかりそうかどうかの見当をつけることです。相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」(相続税法15条1項)なので、土地の概算と預金などを足して、この額を超えそうかを見ます。→ うちは相続税がかかる?
できないのは申告です。この数字を申告書に書くことはできませんし、遺産分割の話し合いで「うちの土地はこの値段だ」と示す根拠にもなりません。
もう1つ、路線価そのものの性格も知っておいてください。国税庁は、路線価等について1月1日を評価時点として、1年間の地価変動などを考慮し、地価公示価格等を基にした価格の80%程度を目途に定めていると説明しています。相続税を計算するための価格であって、売れる値段そのものではありません。
まとめ
- 相続税の土地の評価は時価が原則だが、実務は財産評価基本通達の共通のものさしで計算する(相続税法22条)。宅地は路線価方式か倍率方式で、どちらかは土地の所在地で決まっていて選べない(同通達11)
- 路線価図は国税庁の財産評価基準書で無料で見られる。年分、都道府県、路線価図、市区町村、町丁名索引の順にたどる
- 道路の上の数字は千円単位の1平方メートル当たりの路線価、右のアルファベットはAの90%からGの30%までの借地権割合。枠の形と黒塗り・斜線は地区区分と適合範囲を示す
- 計算は、正面路線価を決める、奥行価格補正率を掛ける、地積を掛ける、の3手(財産評価基本通達15)。道路が2本以上なら、正面は奥行価格補正後の価額が高い方(通達16)
- 倍率地域は「固定資産税評価額×倍率」の1行。固定資産税評価額そのままではない(通達21・21-2)
- 形がいびつ、道路が2本以上、貸している、面積が大きい。どれかに当てはまったら、そこから先は税理士に渡す
次に読む:路線価方式と倍率方式の基本/相続税評価が下がる土地の特徴/うちは相続税がかかる?/自宅の土地が最大8割減/大家の相続税
出典
- 相続税法22条(評価の原則)・15条1項(遺産に係る基礎控除。3,000万円と600万円に相続人の数を乗じた金額との合計額)
- 財産評価基本通達8(地積は課税時期における実際の面積による)・11(評価の方式。路線価方式と倍率方式の区分)・13(路線価方式)・14(路線価)・14-2(地区。7つの地区区分)・14-3(特定路線価)・15(奥行価格補正)・16(側方路線影響加算。正面路線の判定)・17(二方路線影響加算)・20(不整形地の評価)・20-2(地積規模の大きな宅地の評価)・20-4(間口が狭小な宅地等の評価)・21(倍率方式)・21-2(倍率方式による評価)・25(貸宅地の評価)・26(貸家建付地の評価)
- 財産評価基本通達 付表1「奥行価格補正率表」・付表2「側方路線影響加算率表」・付表3「二方路線影響加算率表」
- 国税庁「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」のうち「路線価図の説明」(路線価は千円単位、A〜Gの借地権割合、街区番号、地区区分の記号)・「評価倍率表(一般の土地等用)の説明」(各欄の読み方と計算例)
- 国税庁「令和8年分の路線価等について」(令和8年7月。令和8年分は7月1日に公開、平成30年分から掲載、地価公示価格等を基にした価格の80%程度を目途)
- 不動産登記法34条1項(土地の表示に関する登記の登記事項として所在・地番・地目・地積)
- 地方税法364条3項1号(課税明細書に記載する土地の所在・地番・地目・地積・当該年度の固定資産税に係る価格)
- 国税庁・e-Gov法令検索ウェブサイト(確認日:2026年8月7日)
※この手順で出るのは補正前の概算です。土地の評価は形・道路づけ・利用状況・特例で結果が大きく変わり、下げ切れないと納めすぎ、下げすぎると否認につながります。財産評価基本通達は改正されることがあり、本記事で触れた定めも動く可能性があります。実際の申告額の算定は、登記事項証明書と課税明細書を揃えたうえで税理士にご相談ください。
「相続対策」の入口は2つあります
筆者(宍倉)が、オンライン90分の無料モニターを募集中です。事前のヒアリングをもとに資料をこちらで用意し、当日は一緒に眺めながら話します。
参加費は無料です。枠が埋まり次第、受付を終了します。
