「兄弟で仲良く、半分こずつ」——相続財産が現金だけなら、それで済みます。ですが、財産の大半が自宅や賃貸物件などの不動産だと、話は一気に難しくなります。土地や建物は、パンを割るようにきれいに半分にはできないからです。
結論から言うと、不動産の分け方は4つしかありません。現物分割・代償分割・換価分割・共有分割です。そして、どれを選ぶかで、かかる税金も、後々の家族関係も変わります。
※本記事の人物・金額はすべて架空のモデル事例です。一般的な仕組みを解説するもので、個別の税務・法務相談ではありません。
→ 相続対策の全体像は 相続対策の進め方(12工程)。この記事は工程10「遺産を分割する」です。前の工程で「相続税がかかるか」を確かめたら、次は「誰が何を取るか」を決めます。→ 相続税がかかるか判定する(工程9)
この記事でわかること
- 不動産を分ける方法は 現物・代償・換価・共有の4つ だけ
- それぞれに どんな税金がかかり、どんな副作用があるか
- 代償分割で渡すお金がないときにどう手当てするか
- なぜ 「とりあえず共有」が次の相続でモメる種になるのか
- 分割は 法定相続分が基準だが、全員が合意すれば自由に決められる
- 10ヶ月の申告期限までに分割が決まらないと、特例が使えなくなること
1. 分け方は4つしかない
まず全体像です。不動産を含む遺産を分ける方法は、突き詰めると次の4つになります(根拠:LS-14 遺産分割の4方式)。
| 分け方 | どう分けるか | ひとことで言うと |
|---|---|---|
| ① 現物分割 | 財産を「そのまま」誰かが取得する(自宅は長男、預金は次男、など) | いちばん素直。ただし公平にしにくい |
| ② 代償分割 | 1人が不動産を取得し、他の相続人にお金(代償金)を払う | 物件を割らずに済むが、現金が要る |
| ③ 換価分割 | 売却して現金に換え、その現金を分ける | いちばん公平。ただし売却益に税金 |
| ④ 共有分割 | 1つの不動産を複数人の共有名義にする | 一見平等。だが次の紛争の種になりやすい |
「どれが正解」というものはありません。財産の中身(現金がどれだけあるか)と、相続人が何を望むかで決まります。以下、1つずつ、税金と副作用を見ていきます。
2. 現物分割 — 素直だが「公平」にしにくい
現物分割は、財産を売ったりせず、そのままの形で「これは誰、あれは誰」と割り当てる方法です。自宅は同居していた長男、預金は次男、賃貸アパートは長女——という分け方がこれにあたります。
手続きがシンプルで、余計な税金(後述の譲渡所得税など)もかからないのが利点です。相続税以外の新たな課税は、基本的に生じません。
一方で、財産の価値がぴったり揃うことはまずないのが弱点です。「自宅は4,000万円、預金は1,000万円」というように偏っていると、取り分に差が出て不公平になります。
1つの土地を2人で分けるために分筆(土地を線で区切って登記を分ける)することもできますが、間口が狭くなって評価や使い勝手が落ちる、そもそも接道の関係で分けられない、という制約もあります。「きれいに割れない」ことこそ、不動産分割の出発点なのです。
3. 代償分割 — 物件は割らず、お金で調整する
代償分割は、1人が不動産をまるごと取得し、その代わりに他の相続人へお金(代償金)を払う方法です。「賃貸アパートは経営を継ぐ長男が取る。その代わり、長男が次男・長女に現金を渡して釣り合いを取る」——これが代償分割です。
事業用の不動産や、同居している自宅をバラバラにせず1人に集約できるのが最大の利点です。物件を売らずに残せます。
税金のポイント
代償金のやりとりは、原則として贈与にはなりません。分割の中の調整なので、代償金を払った人はその分を差し引き、受け取った人はその分を足して、それぞれの相続税を計算します(根拠:LS-14)。適正な範囲であれば、代償金に贈与税がかかることはありません。
ただし注意点が1つ。代償金の代わりに「別の不動産や株式」を渡すと、その資産を時価で売ったものとみなされ、渡した側に譲渡所得税がかかることがあります。現金で払うのが基本と考えてください。
最大の課題は「その現金をどう用意するか」
代償分割の弱点は明快で、取得する人に、まとまった現金が必要なことです。物件は手に入っても、他の相続人に渡すお金がなければ成立しません。
用意の仕方は主に3つあります。
- 生命保険金を原資にする — 物件を継ぐ人を受取人にした保険をあらかじめ用意しておくと、その保険金を代償金に充てられます。生前対策の定番です。→ 生命保険の非課税枠500万円という一手(工程5)
- 物件の一部や別の財産を売る — 一部を換価してお金を作る(次章の換価分割との組み合わせ)。
- 相続税の延納とあわせて資金繰りを組む — 納税と代償金の両方を、時間をかけて手当てする。
「代償分割にしたいが、渡すお金がない」というのは非常に多い悩みです。手当ての具体策は別記事にまとめています。→ 代償金を払えないときの手(保険・売却・延納)
4. 換価分割 — 売って現金で分ける。ただし売却益に税金
換価分割は、不動産を売却して現金に換え、その現金を相続人で分ける方法です。1円単位できれいに割れるので、いちばん公平な分け方といえます。「誰も住まない実家を売って、代金を兄弟で等分する」ようなケースです。
公平で分かりやすい半面、税金の注意点はいちばん多い方法です。
売却益には譲渡所得税・住民税がかかる
相続した不動産を売って利益(譲渡所得)が出ると、相続税とは別に、譲渡所得税と住民税がかかります。これは「相続でもらったこと」への税金ではなく、「売って利益が出たこと」への税金です。相続税を払ったうえに、売却益にもう一段の課税がある——ここを見落とすと手取りが狂います。
税率は、亡くなった人がその不動産を所有していた期間で分かれます(相続した人の所有期間は、亡くなった人の期間を引き継ぎます)。長期・短期で税率が大きく変わるため、売る前に確認が要ります。→ 不動産の譲渡所得・完全ガイド
なお、相続した不動産の売却には税負担を軽くする特例(取得費加算の特例や、一定の要件を満たす空き家の3,000万円特別控除など)が用意されています。使えるかどうかで手取りが変わるので、換価する前に必ず検討してください(適用要件・期限は個別確認。詳細は上記ガイド参照)。
現金化に時間がかかる
もう1つの弱点は、買い手がつかないと分割が終わらないことです。売り急いで安値で手放すと、結局みんなの取り分が減ります。相続税の申告期限(10ヶ月)との兼ね合いも出てきます。
5. 共有分割 — 一見平等、実は「次の紛争の種」
最後が共有分割です。1つの不動産を、たとえば「兄1/2・弟1/2」という共有名義にして持ち合う方法です。
登記上はきれいに平等で、その場は丸く収まります。だからこそ、いちばん安易に選ばれ、いちばん後悔が多い分け方です。私の立場から、はっきりお伝えします。「とりあえず共有」は、できるだけ避けてください。
理由は、共有にすると将来の意思決定がすべて固まってしまうからです。
- 売りたくても、1人でも反対すれば売れない。 共有物全体の売却には、原則として共有者全員の合意が要ります。
- 大規模修繕・建て替えでも意見が割れる。 お金の出し方や方針で対立すると、物件が塩漬けになります。
- 賃貸に出しても、家賃や管理方針でモメる。 誰が管理し、収益をどう分けるかで火種になります。
- そして、次の相続でさらに枝分かれする。 兄が亡くなれば、その持分が兄の配偶者・子へ。世代を重ねるごとに共有者が増え、いずれ「会ったこともない親戚何人もの同意がないと何も決められない土地」になります。
つまり共有分割は、問題を解決したのではなく、次の世代へ先送りしただけになりがちです。「平等だから」と選んだ共有が、10年後・20年後の争族の火種になる——これは実務で本当によく見る展開です。
【モデル事例】 相続人は兄弟2人。実家(土地建物)を「とりあえず半分ずつの共有」にして、その場は合意しました。数年後、兄は「古くなったので売りたい」、弟は「思い出の家だから残したい」と対立。売るにも貸すにも全員の合意が要るため話は進まず、物件は空き家のまま固定資産税だけがかかり続けました。——最初に代償分割か換価分割で決着させていれば、避けられたケースです。
どうしても共有にせざるを得ない場面もありますが、その場合でも出口(将来どう解消するか)を先に決めておくことが欠かせません。
6. 4つの分け方を一覧で比較する
ここまでを1枚の表にまとめます。
| ① 現物分割 | ② 代償分割 | ③ 換価分割 | ④ 共有分割 | |
|---|---|---|---|---|
| 分け方 | そのまま取得 | 1人が取得+代償金 | 売って現金で分ける | 共有名義で持ち合う |
| 公平性 | 揃えにくい | 調整しやすい | いちばん公平 | 見かけは平等 |
| 相続税以外の税金 | 原則なし | 原則なし(※現金で払う場合) | 譲渡所得税・住民税 | 原則なし |
| 必要なもの | 財産の組み合わせ | 取得者の現金 | 買い手・売却の時間 | (その場は不要) |
| 主な副作用 | 不公平・分筆で価値減 | 代償金の資金繰り | 売却益への課税・売り急ぎ | 将来の意思決定が固まる/次の相続で紛争 |
| 向くケース | 財産の種類が多い | 事業用・自宅を1人に集約 | 誰も使わない・現金で分けたい | 原則おすすめしない |
実務では、この4つを組み合わせることも多くあります。たとえば「自宅は同居の長男が現物で取得し、賃貸物件は売って(換価して)現金で分ける」といった具合です。財産の中身に合わせて、一番モメない形を設計していきます。
7. 分け方は自由。でも「基準」と「期限」がある
最後に、分割そのもののルールを2つだけ押さえておきます。
基準は法定相続分。ただし全員が合意すれば自由
遺産分割は、民法が定める法定相続分(配偶者と子なら配偶者1/2・子で1/2を分ける、など)が一応の基準です。ただし、これはあくまで目安。相続人全員が合意すれば、法定相続分とは違う分け方をしても構いません(民法906条・907条)。「同居して介護した長女に自宅を」「事業を継ぐ長男に賃貸物件を」——全員が納得すれば、それが正解です。
その合意をまとめる話し合いが遺産分割協議で、まとまった内容は遺産分割協議書にします。進め方には順番のコツがあります。→ 遺産分割協議の進め方と決め方の順番
なお、一部の相続人に大きく偏らせると、他の相続人が遺留分(最低限の取り分)を主張してくることがあります。特に不動産を1人に寄せる場合は要注意です。→ 遺留分の基礎(2019年改正で金銭請求に)
10ヶ月までに決まらないと、特例が使えない
分割は急がなくてもよさそうに見えますが、税務上は期限があります。相続税の申告期限は「亡くなってから10ヶ月」。この期限までに誰が何を取るかが決まっていない(未分割)と、次の2つの大きな特例が、いったん使えません。
- 小規模宅地等の特例(自宅や賃貸の土地の評価が最大8割下がる)
- 配偶者の税額軽減(配偶者は1億6,000万円まで無税になりうる)
どちらも税額を大きく左右する特例です。分割が決まらないと、これらを使わずにいったん高い税額で申告・納税することになります。
救済策として、申告時に「申告期限後3年以内の分割見込書」を出しておけば、後で分割が決まった段階で特例を適用してやり直せます。ただし手続きと期限管理が必要です。未分割で申告するデメリットと救済の使い方は別記事にまとめています。→ 未分割申告のデメリットと3年以内の分割見込書
「揉めそう」なら、税務は私たち・法務は弁護士へ
念のための線引きです。どう分けると税金が有利か、特例が使えるかの判断は、私たち税理士の領域です。一方で、話し合いがこじれて調停・審判に進むような「争い」そのものは、弁護士の領域です。分割協議書の作成や登記も、司法書士・弁護士と連携して進めます。「税務の判断は当事務所で、争いや手続きは提携の専門家へ」——この役割分担で、安全に前に進めます。
まとめ
- 不動産の分け方は 現物・代償・換価・共有の4つ。どれを選ぶかで税金も家族関係も変わる
- 現物分割は素直だが公平にしにくい。代償分割は物件を割らずに済むが、取得者に現金が要る
- 換価分割はいちばん公平だが、売却益に譲渡所得税・住民税がかかる(取得費加算・空き家特例の検討を)
- 共有分割は一見平等でも、将来の売却・修繕・次の相続で意思決定が固まる「次の紛争の種」。安易な共有は避ける
- 分け方は法定相続分が基準だが、全員合意なら自由(民法906条・907条)
- 10ヶ月の申告期限までに分割が決まらないと、小規模宅地・配偶者軽減が使えない(3年以内の分割見込書で救済)
出典
- 民法906条(遺産分割の基準)、907条(遺産の分割の協議)、900条(法定相続分)、1042条〜(遺留分)
- 相続税法19条の2(配偶者の税額軽減)
- 租税特別措置法69条の4(小規模宅地等についての課税価格の計算の特例)、35条(空き家に係る譲渡所得の特別控除)、39条(相続財産に係る譲渡所得の課税の特例=取得費加算)
- 相続税の申告期限(相続税法27条・相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月)
- 「申告期限後3年以内の分割見込書」(未分割財産に対する特例適用の手続き)
- 国税庁ウェブサイト(確認日:2026年7月24日)
※各特例の適用要件・限度面積・減額率・期限は財産の内容や分け方で変わります。換価分割での譲渡所得税の税率(長期・短期の区分)や取得費加算・空き家3,000万円特別控除の適用可否は、個別の事情により判断が分かれるため、譲渡の前に税理士へご確認ください。代償金を金銭以外(不動産・株式など)で交付した場合の譲渡所得課税の取扱いも、事案により異なります。分割の可否をめぐる争いは弁護士・司法書士の領域であり、本記事は一般的な仕組みの解説です。
