「財産の一覧はできた。でも、実家の土地って相続税ではいくらで数えるの?」——相続税がかかるかを判定する前に、必ずぶつかる壁がここです。預金は残高そのまま、上場株式も時価がわかる。ところが土地だけは、売った値段でも、買った値段でも、固定資産税の額でもない「相続税用の評価額」を自分で計算する必要があります。
結論から言うと、宅地の評価は次の2つの方式のどちらかで出します。
路線価方式(市街地)= 路線価 × 地積 × 各種補正率
倍率方式(路線価のない地域)= 固定資産税評価額 × 倍率
どちらを使うかは、その土地の場所で決まっています(自分で選ぶものではありません)(根拠:LS-12 路線価・倍率方式/財産評価基本通達)。
※本記事の人物・金額・地番はすべて架空のモデル事例です。一般的な仕組みを解説するもので、個別の税務相談ではありません。実在の土地の評価額を示すものではありません。
→ 相続対策の全体像は 相続対策の進め方(12工程)。この記事は工程8「財産を洗い出して評価する」です。ここで評価額を出し、次の工程9で「相続税がかかるか」を判定します。
この記事でわかること
- 相続税の土地評価は、売値でも買値でもなく 「財産評価基本通達」の決まったものさしで出す
- 路線価方式(市街地)の計算と、路線価図の見方(数字=千円、アルファベット=借地権割合)
- 倍率方式(路線価のない地域)の計算
- 貸している土地・貸家を建てた土地は評価が下がる(貸家建付地・貸宅地)
- 形が悪い土地・広すぎる土地も下がる(不整形地補正・地積規模の大きな宅地)
- 土地評価は税理士でも差が出る難所。過大評価は「払いすぎ」に直結する
1. 相続税の土地評価は「時価」だが、実際は通達で決まる
相続税は、亡くなった日(相続開始時)の 「時価」 で財産を評価するのが原則です(根拠:相続税法22条)。とはいえ、すべての土地をその都度、不動産鑑定に出すのは現実的ではありません。そこで国税庁は、全国共通のものさしとして「財産評価基本通達」を定めていて、実務ではこれに沿って評価します。
宅地(建物の敷地)の評価方法は、次の2つです。どちらを使うかは土地の所在地ごとに決まっていて、選べません。
| 方式 | 使う地域 | 計算式 |
|---|---|---|
| 路線価方式 | 市街地(道路に路線価が付いている地域) | 路線価 × 地積 × 各種補正率 |
| 倍率方式 | 路線価が付いていない地域(郊外・農村部など) | 固定資産税評価額 × 倍率 |
どちらの地域かは、国税庁の 「財産評価基準書(路線価図・評価倍率表)」 で調べられます。国税庁のサイトで、住所から地図をたどって確認できます(無料)。まずはここで、実家の土地に「路線価が付いているか/倍率地域か」を確かめるのが第一歩です。
2. 路線価方式 — 市街地はこれ
市街地の土地は、ほとんどが路線価方式です。
計算のかたち
自用地(自分で使う土地)の評価額 = 路線価 × 地積 × 各種補正率
- 路線価:その道路に面する土地の1㎡あたりの価額。千円単位で表示されます。
- 地積:土地の面積(㎡)。原則は登記簿ではなく実測が優先です。
- 補正率:土地の形や間口・奥行に応じて価額を調整する率(後述)。整形地なら「1.0」で、そのまま掛けます。
路線価図の見方
路線価図では、道路の上に「200C」のような記号が書かれています。読み方は次のとおりです。
| 表示 | 意味 |
|---|---|
| 数字(例:200) | 1㎡あたりの路線価。単位は千円。「200」=20万円/㎡ |
| アルファベット(例:C) | その地域の借地権割合(貸している土地の評価などで使う。後述の第4章) |
借地権割合は、地域ごとにA〜Gの記号で決まっています。
| 記号 | A | B | C | D | E | F | G |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 借地権割合 | 90% | 80% | 70% | 60% | 50% | 40% | 30% |
モデル事例(仮の数値)
【モデル事例】 架空の「○○市△△町1丁目100番」(サンプル地番)の自宅の土地。路線価図では道路に「200D」と表示されていました。地積は150㎡、形の整った長方形の土地とします。
路線価 20万円/㎡ × 150㎡ × 補正率1.0 = 3,000万円。
これがこの土地の「自用地としての評価額」です。記号の「D」は、この地域の借地権割合が 60% という意味で、貸している土地のときに使います。
「思っていたより高い」と感じる方が多いところです。路線価は公示地価のおおむね8割の水準に設定されていますが、それでも都市部では評価額が大きくなり、現金が少なくても土地だけで基礎控除を超える——という事態がよく起きます。
3. 倍率方式 — 路線価のない地域
路線価図を見て「路線価が付いていない(倍率地域と書いてある)」場合は、倍率方式です。郊外や農村部に多い方式です。
評価額 = 固定資産税評価額 × 倍率
- 固定資産税評価額:市区町村が決めている評価額。毎年届く固定資産税の課税明細書や、市区町村で取れる評価証明書でわかります。
- 倍率:国税庁の評価倍率表に、地域・地目ごとに載っています(例:宅地1.1倍など)。
モデル事例(仮の数値)
【モデル事例】 架空の郊外の土地。固定資産税評価額が1,000万円、評価倍率表の宅地の倍率が「1.1」だったとします。
1,000万円 × 1.1 = 1,100万円。これが相続税評価額です。
倍率方式は計算そのものはシンプルです。ただし、固定資産税評価額をそのまま相続税評価額と勘違いするミスが起きやすいので、必ず「×倍率」を忘れないようにします。
4. 「使い方」で評価は下がる — 貸家建付地・貸宅地
ここからが、土地評価のいちばん大事なところです。同じ土地でも、他人に貸していたり、貸家を建てていたりすると、自分で自由に使える土地より評価が下がります。利用に制約があるぶん、価値が低いとみなすためです(根拠:LS-08/財産評価基本通達 貸家建付地・貸宅地)。
貸家建付地(自分の土地に、自分のアパートを建てて貸している)
自分の土地に自分名義のアパートやマンションを建てて第三者に貸している場合、その土地は 「貸家建付地」 になります。借家人がいるぶん、地主でも自由に使えないため、評価が下がります。
貸家建付地の評価額 = 自用地評価 ×(1 − 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)
- 借家権割合:全国一律で 30%(財産評価基本通達)。
- 賃貸割合:貸している部屋の割合(満室なら100%)。
【モデル事例のつづき】 第2章の土地(自用地評価3,000万円・借地権割合D=60%)に、自分名義のアパートを建てて満室で貸しているとします。
3,000万円 ×(1 − 0.60 × 0.30 × 1.0)= 3,000万円 ×(1 − 0.18)= 2,460万円。
自用地なら3,000万円のところ、540万円下がりました。空室が多いと賃貸割合が下がり、この効果も小さくなります。
貸宅地(他人に貸している土地。上に他人の建物が建っている)
自分の土地を他人に貸して、借地人がその上に建物を建てている場合は 「貸宅地(底地)」 です。借地権が付いているぶん、地主に残る価値は大きく下がります。
貸宅地の評価額 = 自用地評価 ×(1 − 借地権割合)
【モデル事例】 自用地評価3,000万円・借地権割合D=60%の土地を、他人に貸して家を建てさせているとします。
3,000万円 ×(1 − 0.60)= 1,200万円。地主に残る評価は自用地の4割になります。
【注意】 「相続税を下げるために、借入でアパートを建てて評価を下げる」という手法は確かにありますが、節税だけを目的にした極端なやり方は否認されることがあります(最高裁令和4年4月19日判決/財産評価基本通達6=総則6項)。効果と否認リスクはセットで考えてください。
不整形地や貸宅地など、評価を下げられる土地の見分け方は別記事にまとめています。→ 評価が下がる土地の特徴(不整形地・広い土地・私道など)
5. 形・広さでも下がる — 補正と地積規模の大きな宅地
土地の「使い方」だけでなく、形や広さでも評価は変わります。ここを見落とすと、きれいな長方形の前提で計算してしまい、払いすぎにつながります。
形が悪い土地は補正で下がる
路線価に掛ける補正率は、整形地なら1.0ですが、次のような土地は1.0より小さくなり、評価が下がります。
| 補正の例 | どんな土地か |
|---|---|
| 不整形地補正 | 三角形・旗竿地など、形がいびつな土地 |
| 間口狭小補正 | 道路に接する幅(間口)が狭い土地 |
| 奥行長大補正 | 間口に対して奥行きが極端に長い土地 |
| 奥行価格補正 | 奥行きが標準より短い/長い土地 |
このほか、私道(宅地の一部が通り抜け道路になっている等)は、状況に応じて評価が下がる、またはゼロになることもあります。
地積規模の大きな宅地の評価
一定以上に広い宅地は、「地積規模の大きな宅地の評価」という補正で評価を下げられます(2018年〈平成30年〉1月1日以後の相続から適用)。広い土地は分譲時に道路や公園の用地が必要になり、そのぶん価値が目減りするという考え方です。
主な面積の要件は次のとおりです。
| 地域 | 対象となる面積 |
|---|---|
| 三大都市圏 | 500㎡以上 |
| それ以外の地域 | 1,000㎡以上 |
ただし、面積だけでは判定できず、地区区分(普通住宅地区など)・都市計画・容積率などの細かい要件も満たす必要があります。広い土地をお持ちの場合は、使えるかどうかで評価が大きく変わるため、必ず確認する価値があります。
6. 評価額を出したあと — 特例とAI概算
土地の評価額が出たら、実はまだ先があります。
小規模宅地等の特例は「評価後にさらに減額」する別制度
自宅の敷地や事業・賃貸に使っていた土地は、小規模宅地等の特例を使えると、ここまでで出した評価額からさらに最大80%(貸付用は50%)下げられます。これは「土地をいくらと評価するか(=この記事)」とは別のステップで、評価額を出したあとに適用する制度です(工程11)。使えるかどうかで税額が数百万円変わることもあります。→ 小規模宅地等の特例(居住用330㎡80%ほか)(工程11)
まずざっくり出したいならAI概算
「正確な申告は税理士に頼むとして、まずは自分でおおよそを知りたい」という方へ。路線価・倍率や貸家建付地の考え方を使って、AIで概算を出してみた検証メモも用意しています。→ 実家の土地評価をAIで出してみた
土地評価は「差が出る」難所
最後に大事な注意です。土地評価は、税理士によっても評価額に差が出る領域です。補正や特例を使い切れず過大評価になると、そのぶん相続税を払いすぎます。逆に下げすぎれば否認のリスクがあります。「路線価×地積」で機械的に出した数字を鵜呑みにせず、形・使い方・広さで下げられる余地がないかを必ず点検してください。ここは、税務の専門家に一度あたりを見てもらう価値がいちばん大きい工程です。
まとめ
- 相続税の土地評価は「時価」が原則だが、実務は 財産評価基本通達の共通ルールで出す(相続税法22条)
- 宅地は 路線価方式(路線価×地積×補正率) か 倍率方式(固定資産税評価額×倍率)。地域で決まっており選べない
- 路線価図は 数字=千円単位/アルファベット=借地権割合(A90%〜G30%)
- 貸家建付地(自分のアパートを建てた土地)と 貸宅地(他人に貸した土地)は評価が下がる
- 不整形地・間口狭小・奥行長大などの補正、地積規模の大きな宅地(三大都市圏500㎡・その他1,000㎡以上) でも下がる
- 小規模宅地等の特例は評価後にさらに減額する別制度(工程11へ)
- 土地評価は税理士でも差が出る難所。過大評価=払いすぎに注意
次に読む:相続税がかかるか判定する(基礎控除・工程9)/評価が下がる土地の特徴/小規模宅地等の特例(工程11)/実家の土地評価をAIで出してみた/不動産オーナーのための相続税対策・完全ガイド(総論)
出典
- 相続税法(昭和25年法律第73号)22条(評価の原則=時価)
- 財産評価基本通達(路線価方式・倍率方式/貸家建付地・貸宅地・借地権/地積規模の大きな宅地の評価/不整形地・間口狭小・奥行長大の各補正/同6項〈総則6項〉)
- 国税庁「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」(確認日:2026年7月24日)
- 租税特別措置法69条の4(小規模宅地等についての課税価格の計算の特例)
- 最高裁令和4年4月19日判決(総則6項による評価の否認)
※本記事の路線価・地番・評価額はすべて架空のモデル事例で、実在の土地の評価を示すものではありません。地積規模の大きな宅地の個別要件(地区区分・容積率など)は国税庁の要件表で確認してください。土地評価は形・使い方・特例で結果が大きく変わり、税理士によっても差が出ます。過大評価による払いすぎ・下げすぎによる否認いずれも避けるため、実際の申告では税理士にご確認ください。組成や登記など法務の手続きは提携の専門家へおつなぎします。
