相続税でつまずくのは、税額の大きさより払い方です。相続税は、亡くなってから10か月以内に、現金でまとめて納めるのが原則です(相続税法27条・33条)。
財産の大半が土地と建物という家庭では、「財産はあるのに、払う現金がない」が普通に起きます。だから対策は、税額の目安を出して、払うお金の出どころを生前に決めておくことです。
※本記事の人物・金額はすべて架空のモデル事例です。一般的な仕組みを解説するもので、個別の税務・法務相談ではありません。
→ 全体の流れは 相続対策の全体像。この記事は章4「相続税が払えるか確認」の解説です。
この記事でわかること
- 相続税の期限と納め方の原則
- 払う額の目安の出し方
- 納税資金の5つの出どころと確かめる順番
- 口座凍結と仮払い制度
- 生命保険が2番目に来る理由
1. 原則は「10か月以内・現金一括」
相続税の申告と納税の期限は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月です。納付は現金一括が原則で、分け方の話し合いがまとまらなくても、期限は延びません。
10か月は長いようで短い期間です。葬儀、戸籍集め、財産調査、分け方の話し合いを終えたうえで、納税資金まで用意する必要があります。→ 期限の全体は 実際に相続が起きたら(章7)
2. まず、いくら払うかの目安を出す
出どころを考える前に、払う額の目安が要ります。手順は2段階です。
- 財産の合計が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えるか確かめる
- 超えるなら、超えた分に速算表を当てて概算する
この計算は別の記事で手順にしています。→ うちは相続税がかかる?まず「3,000万+600万×人数」で確かめる
3. 出どころは5つ。順に確かめる
納税資金の出どころは、実務ではこの順に見ていきます。
| 順 | 出どころ | 注意 |
|---|---|---|
| 1 | 手元の現金・預貯金 | まず、これで足りるかを数える |
| 2 | 生命保険金 | 500万円×法定相続人の数まで相続税がかからない(相続税法12条) |
| 3 | 財産を売って現金にする | 10か月に間に合うか。売った利益に譲渡所得税がかかる。相続税の一部を取得費に足せる特例(租税特別措置法39条。申告期限から3年以内の売却)はある |
| 4 | 税務署に分割払いを認めてもらう(延納) | 担保を入れ、利息(利子税)を払う(相続税法38条) |
| 5 | 不動産などの現物で納める(物納) | 条件が厳しく、納める財産の順位も決まっている。最後の手段(相続税法41条) |
4と5は「税務署にお願いして、認めてもらう」制度です。申請すれば通るものではなく、延納でも払えないと認められて初めて物納、という順番です。生前の対策とは、1〜3で完結する形をつくっておくことだといえます。
4. 口座は凍結される
見落としがちなのが、亡くなった人の口座は銀行が凍結することです。残高がいくらあっても、遺産分割が終わるまで自由には引き出せません。
凍結中でも、相続人1人で引き出せる仮払い制度はあります(民法909条の2)。ただし上限は「預貯金×3分の1×その人の法定相続分」かつ1つの金融機関につき150万円までです。葬儀費用には足りても、納税には足りません。→ 親の口座は死亡で止まる──凍結中に引き出せる「仮払い」の上限と手順
5. 生命保険が2番目に来る理由
出どころの2番目に生命保険を置くのには、理由が3つあります。
- 非課税枠がある──500万円×法定相続人の数までは相続税の対象になりません
- 凍結されない──保険金は受取人が1人で請求でき、通常は数日から1週間ほどで振り込まれます
- 渡す先を指定できる──納税する人・代償金を払う人を受取人にしておけば、必要な人に現金が届きます
「納税資金の不足分を、保険金の額で埋めておく」のが、不動産オーナーの納税資金対策の基本形です。→ 生命保険は相続対策の一手──500万円×法定相続人の非課税枠を使う
まとめ
- 相続税は10か月以内・現金一括。話し合いが長引いても期限は延びない
- 先に税額の目安を出す。基礎控除の判定から
- 出どころは「現金 → 保険 → 売却 → 延納 → 物納」の順に確かめる
- 口座は凍結される。仮払いは1金融機関150万円まで
- 不足分は生命保険で埋めておくのが基本形
→ 次に読む:相続税に対策する──節税3つの方法と、やりすぎの線(章5)
出典
- 相続税法12条(生命保険金の非課税)、27条(申告期限)、33条(納付)、38条(延納)、41条(物納)
- 租税特別措置法39条(相続財産に係る譲渡所得の課税の特例・取得費加算)
- 民法909条の2(遺産分割前における預貯金債権の行使)
※確認日:2026年8月4日。延納・物納の可否判断と申請は要件が細かいため、期限より十分前に税理士へご相談ください。
「相続対策」の入口は2つあります
