亡くなった人の口座は、銀行が死亡を知った時点で止まります。葬儀の費用の支払いも、家賃の引き落としも、そのままではできません。
それでも、相続人1人で、1つの銀行につき150万円までは引き出せます(民法909条の2)。止まる仕組みと、引き出す手順を順に説明します。
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1. 口座は、銀行が死亡を知ったときに止まる
死亡届を出したら止まる、ではありません。市区町村と銀行はつながっていないからです。銀行が死亡を知ったときに止まります。相続人からの連絡、新聞のお悔やみ欄、支店の担当者が知ることなど、きっかけはいろいろです。
取引が止まる

出金も、振込も、引き落としも止まります
問題公共料金、保険料、ローンの口座振替が落ちず、引き落とし不能の通知が来ます。キャッシュカードも使えなくなります。
解決止まる前提で、引き落としの相手を書き出しておきます(5章)。
入るけれど、出せない

家賃や年金の入金は入ります。でも、引き出せません
問題入金は受け付けられます。分け方が決まるまでは、自由には引き出せません。
解決当面の現金は、2章の仮払いで出します。
2. 引き出せる額は、2段階の上限で決まる
2019年7月から、遺産分割を待たずに、相続人1人で払い戻しを受けられるようになりました(民法909条の2)。上限は2段階です。
相続人1人で引き出せる額
口座の残高 × 3分の1 × 自分の法定相続分
ただし、1つの銀行につき150万円まで
銀行が2行に分かれていれば、それぞれで150万円まで使えます。同じ銀行に口座が複数あるときは、口座ごとに計算したうえで、合計150万円で頭打ちです。
【モデル事例】相続人は妻と子2人。A銀行の普通預金に1,200万円があります。人物と金額は架空です。
妻と子で、引き出せる額はこう違う
妻(法定相続分 2分の1)
1,200万円 × 3分の1400万円
× 2分の1200万円
引き出せる額150万円
子1人(法定相続分 4分の1)
1,200万円 × 3分の1400万円
× 4分の1100万円
引き出せる額100万円
妻は計算では200万円です。上限の150万円で止まります。3人を合わせると350万円です。葬儀の費用は、この仮払いでまかなえることが多いです。
引き出した分は、遺産の一部を先に受け取ったものとして扱われ、分け方を決めるときに自分の取り分から引かれます(民法909条の2)。何にいくら使ったか、領収書とメモを残しておきます。葬儀の費用は、相続税の計算で引けます(相続税法13条)。香典返し、初七日や四十九日の法要、墓地の購入費は引けません。
3. 書類をそろえる。戸籍集めに1〜2週間かかる
戸籍をそろえる

相続人が誰かを示す書類は、全員分そろえます
やり方亡くなった人の出生から死亡までの戸籍(除籍・改製原戸籍)、相続人全員の戸籍、引き出す人の印鑑証明書、銀行の依頼書です。
注意手続きは1人でできます。戸籍は全員分です。集めるのに1〜2週間かかります。
法定相続情報一覧図を作る

1枚作ると、戸籍の束を何度も出さずに済みます
やり方戸籍がそろったら、法務局で法定相続情報一覧図を作ります。無料で、何通でも出せます。
理由銀行ごとの手続き、税務署、登記で、戸籍の束の代わりに使えます。
4. 150万円で足りないときは、家庭裁判所を頼る
相続税の納税や、まとまった借入の返済には、150万円では届きません。そのときは、家庭裁判所に預貯金の仮分割を求めます(家事事件手続法200条3項)。
銀行の窓口で仮払いを受ける

急ぎの支払いは、これで
やり方上限は、残高×3分の1×法定相続分です。1つの銀行で150万円までです。銀行の窓口だけで済み、ほかの相続人の同意は要りません。
例書類がそろえば、数日から数週間で受け取れます。
家庭裁判所に仮分割を求める

大口は、これで
やり方必要な範囲なら上限はありません。ただし、遺産分割の調停か審判の申立てをしていることが前提です。
注意数か月かかることもあります。争いがある前提の手続きです。
争いがないなら、遺産分割協議をまとめてしまうほうが早いことがほとんどです。分け方が決まれば、協議書で口座を解約できます。
5. 家賃の口座が止まったら、先に3つ連絡する
家賃の口座が止まる

入金は続きます。引き落としが落ちません
問題亡くなった人の口座に家賃が入り、そこからローンと管理料が引き落とされている形が普通です。止まると、返済と管理料が落ちず、延滞になります。
解決止まる前提で、下の順に連絡します。
注意相続人が受け取った家賃は、分け方が決まるまで、法定相続分で各自のものです(最高裁平成17年9月8日判決)。使わずに、分けて置きます。
止まる前に、この順で連絡する
先に引き落としの相手を書き出します(返済・管理料・固定資産税・火災保険)
放置すると、延滞に加えて保険も失効します。
生命保険金は、受取人が1人で請求でき、凍結されません。当面の現金の備えになります(「生命保険は相続対策の一手」)。判断能力が落ちた時点で先に止まる場合のほうが、凍結そのものより厄介です。こちらは「親が認知症になると、相続対策も資産も止まる」で説明しています。
まとめ
- 口座は、銀行が死亡を知ったときに止まり、死亡届とは連動しません
- 相続人1人で引き出せる額は、残高×3分の1×法定相続分で、1つの銀行につき150万円が上限になります
- 戸籍は全員分そろえるが、法定相続情報一覧図を1枚作ると早いです
- 大口は家庭裁判所を頼るが、遺産分割の申立てが前提になります
- 家賃の口座は、金融機関、管理会社、引き落としの順に手当てします
まず、今日できること
- 亡くなった人の口座を書き出し、どの口座から何が引き落とされているかを通帳で確かめます
- 葬儀の費用など、当面いくら要るかを出します。150万円で足りるかを見ます
- 戸籍を集め始めます。そろったら、法務局で法定相続情報一覧図を作ります
出典
- 民法909条の2(遺産分割前の預貯金の払戻し)、921条(法定単純承認)
- 民法第909条の2に規定する法務省令で定める額を定める省令(150万円)
- 家事事件手続法200条3項(預貯金債権の仮分割の仮処分)
- 相続税法13条(債務控除・葬式費用)、相続税法基本通達13-4・13-5(葬式費用の範囲)
- 不動産登記規則247条(法定相続情報一覧図)
- 最高裁平成17年9月8日判決(遺産分割までの賃料の帰属)
※確認日:2026年9月3日。本記事は一般的な仕組みを説明するもので、個別の税務・法務相談ではありません。遺産分割の争いと家庭裁判所の手続きは、弁護士の領域です。
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この記事は 相続手続き STEP 1「直後の2週間を乗り切る」/相続手続き STEP 4「相続するか、放棄するかを決める」 でも紹介しています。
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