「不動産の法人化は、いくらから得なのか」。家賃収入が5,000万円を超え、確定申告のたびに引かれる税額を見て、そう検索された方は多いと思います。ネットには「所得300万円でも法人化は有利」という記事もあれば、「サラリーマン大家なら早いほうがいい」という声もあり、正直どれを信じていいか分からない。しかも本当に知りたいのは「税金がいくら減るか」ではなく、「手元にいくら残るか」のはずです。
この記事は、税理士であり宅地建物取引士でもあり、不動産会社を経営し自社管理を行っている私が、自分の物件で実際に電卓を叩いてきた立場から、「いくらから」の答えを数字だけで正直に書きます。結論から言えば、分岐点は“売上”ではなく“所得(利益)”で、しかも税額だけを見て決めると必ず後悔します。買い煽りはしません。見送るべき人には「今はやめておきましょう」と、はっきり書きます。
- この記事でわかること
- 1. 結論:分岐点は“売上”でなく“所得(利益)1,000万円”。しかも見るべきは税額でなく手取り
- 2. なぜ法人化で得するのか──「超過累進 vs 比例税率」のクロスという1枚の構造図
- 3. 数字で見る損益分岐──課税所得800/900/1,200/1,800/2,000万でどれだけ差がつくか
- 4. あなたはどっち?──専業大家とサラリーマン大家で“いくらから”は二本立てで変わる
- 5. 【本記事の核心】税金は減る、でも手取りは減る──社会保険料を込みで多年度検算する
- 6. 見落とすと分岐点が下がる“プラス材料”──法人化で個人事業税5%が消える
- 7. 出口で損するな──5年超保有・個人長期譲渡20.315%を狙うなら、法人化はむしろ不利
- 8. 【診断フロー】あなたは今、法人化すべきか──5つのYES/NOで自己判定
- 9. まとめ:“いくらから”は4つの数字で決まる。次の一手と、深掘りへの地図
- 次の一手(無料・有料の道筋)
この記事でわかること
- 法人化の分岐点は「売上」でなく「不動産所得(利益)1,000万円」、税率が逆転するのは課税所得約900万円である理由
- 課税所得800万/900万/1,200万/1,800万/2,000万円で、個人と法人の税負担がどれだけ違うかの一覧
- 専業大家(課税所得800〜1,000万円)とサラリーマン大家(不動産所得500〜700万円)で目安が二本立てになる理由
- 税金は217万円減っても手取りは393万円減る──社会保険料を込みで見た「本当の損益分岐点」
- あなたが今すぐ法人化すべきか、5つのYES/NOで判定できる自己診断フロー
まず全体像から確認したい方は、親記事の不動産の法人化 完全ガイド(全体像・3方式・手順の総覧)を先にお読みください。この記事はその中の「いくらから」を、手取りベースで深掘りする一本です。
1. 結論:分岐点は“売上”でなく“所得(利益)1,000万円”。しかも見るべきは税額でなく手取り
最初に、検索意図にまっすぐ答えます。
不動産の法人化を「いくらから」検討すべきか。実務の起点は、不動産所得(=売上ではなく、経費を引いたあとの利益)で1,000万円です。家賃収入の総額(売上)が5,000万円あっても、ローン返済・固定資産税・修繕費・減価償却を差し引いた最終利益が300万円なら、法人化はまだ早い。逆に利益で1,000万円を安定して出しているなら、本格検討のテーブルに載ります。
そして税率が個人と法人で逆転する理論上のクロス点は、課税所得で約900万円です。ただし、ここが最初の落とし穴です。「税率がクロスした=得」ではありません。法人には設立費や毎年の維持費という固定コストがかかるため、それを回収して“実益”が出るのは、課税所得でおおむね900〜1,200万円超まで上がってからです。
さらに本記事が一貫してお伝えしたいのは、次の一点です。
税額が減っても、手取り(可処分所得)はむしろ減ることがある。
ネットでよく見る「所得300万円でも法人化は有利」という話は、税理士報酬・社会保険料・法人住民税の均等割といった“出ていくお金”を計算に入れていない、机上の空論です。実際には、税金が217万円減っても、オーナー個人の手取りは393万円減るという試算すらあります(後述します)。だからこそ私は、単年の税額ではなく、社会保険と固定費を織り込んだ「手取りの多年度シミュレーション」で判断すべきだと考えています。
この記事は、そこを正直に検算するための一本です。得な人には「やりましょう」、そうでない人には「今は見送りましょう」と、数字で言い切ります。
2. なぜ法人化で得するのか──「超過累進 vs 比例税率」のクロスという1枚の構造図
そもそも、なぜ法人化で税負担が変わるのか。答えは、個人と法人で税率の“形”がまったく違うからです。
個人は「上がり続ける」、法人は「頭打ちになる」
個人の不動産所得は、給与などほかの所得と合算して課税される総合課税・超過累進です。所得が増えるほど税率が階段状に上がり、住民税・復興特別所得税まで含めると最高で約55.9%(所得税45%×1.021=45.945%+住民税10%)に達します。稼げば稼ぐほど、半分以上が税金になる世界です。
一方、資本金1億円以下の中小法人は違います。
| 区分 | 税率(2026年時点) |
|---|---|
| 個人・所得税 | 5%/10%/20%/23%/33%/40%/45%(課税所得4,000万円超) |
| 個人・住民税 | 一律10% |
| 個人・実質合計 | 課税所得900万円超で約43%、1,800万円超で約50%、4,000万円超で約55.9% |
| 中小法人・法人税 | 年800万円以下部分15%(本則19%)/800万円超部分23.2% |
| 法人・実効税率(東京23区・標準税率) | 約33.58% |
法人は所得が増えても、法人税・法人事業税・法人住民税を合わせた法定実効税率が約33.58%で頭打ちになります(東京23区・資本金1億円以下・標準税率)。上がり続ける個人と、頭で止まる法人。この2本の線が交わる点──それが法人化の核心です。
個人の実質税率が法人の33.58%を上回り始めるのは、課税所得900万円前後(住民税込みで約43%)。ここが理論上の税率クロス点になります。
「33.58%」を他の数字と取り違えない
ここで注意点を一つ。33.58%という数字の近くには、紛らわしい税率がいくつもあります。
- 34.59%(超過税率)=資本金1億円超、または年所得2,500万円超、または年収入2億円超の“大きい”法人だけに適用される率です。通常の資産管理会社には無関係です。
- 29.74%=資本金1億円超・外形標準課税が適用される大法人の実効税率。資産管理会社では使いません。
800万円という数字も、「法人税の軽減税率(15%)の境目」であって「実効税率の境目」ではありません。所得800万〜2,500万円の一般的な賃貸法人は、33.58%のままです。
「限界税率」と「平均負担」のギャップ
もう一つ、損益分岐の“実感”とズレる原因になる大事な話をしておきます。33.58%はあくまで限界(800万円を超えた部分)の実効税率です。所得の大半が800万円以下(軽減税率15%)に収まる小規模法人の場合、平均の実効負担は21〜25%前後まで下がります。「33.58%も取られるのか」と身構えがちですが、実際の平均負担はもっと軽い。この“限界税率と平均負担のギャップ”を知っておくと、次の損益分岐表の読み方が正確になります。
3. 数字で見る損益分岐──課税所得800/900/1,200/1,800/2,000万でどれだけ差がつくか
言葉より数字です。課税所得の水準ごとに、個人のまま行くのと法人化するのとで税負担がどう変わるか。モデル試算で整理すると、次のようになります。
| 課税所得 | 個人 vs 法人の税負担差 | 位置づけ |
|---|---|---|
| 800万円 | 個人が約37万円有利 | 法人化は時期尚早 |
| 900万円 | ほぼ拮抗(税率クロス) | 検討開始 |
| 1,200万円 | 法人が約53万円有利 | 積極検討 |
| 1,800万円超 | 法人が大幅有利 | 強く推奨 |
| 2,000万円 | 法人が約253万円有利 | ── |
800万円の段階では、まだ個人のほうが約37万円有利です。ここで法人化しても、後述する固定費で逆に持ち出しになります。900万円でようやく拮抗し、1,200万円で法人が約53万円有利、2,000万円になると約253万円もの差が開きます。所得が上がるほど差は加速度的に広がる──これが超過累進と比例税率のクロスの威力です。
累進の“段差”を移す、という読み方
この表をもう一段深く読むと、実務の勘所が見えてきます。青木・松岡・吉田『会社活用と税務』は、課税所得900万〜1,800万円(実質税率43.693%)の所得を、法人の800万円以下(23〜25%)へ移せば有利になり、1,800万円超(実質税率50.84%)は特にメリットが大きいと、累進の“段差”に着目します。つまり法人化とは、個人の高い階段に乗っている所得を、法人の低い階段へ移し替える作業なのです。
家賃収入(物件規模)で見る目安
課税所得ではピンと来ない方のために、家賃収入(売上)ベースの目安も示しておきます。
- 年5,000万円未満 … 効果は限定的
- 年5,000万〜1億円 … 検討対象
- 年1億円超 … メリット顕著
ただし何度でも申し上げますが、これは“売上”の目安であって、最終的な判断は“利益”で行います。売上1億円でも利益がほとんど残っていなければ、法人化のうまみはありません。
「税率クロス」と「損益分岐」は別物
最後に念押しです。税率がクロスした(900万円)=得が出る、ではありません。 クロスは「税率が逆転し始める点」にすぎず、そこから固定費を回収して実益が出る「損益分岐」は、もっと上の900〜1,200万円超にあります。この二つを混同すると、「クロスしたから法人化したのに、固定費で赤字になった」という典型的な失敗に陥ります。
4. あなたはどっち?──専業大家とサラリーマン大家で“いくらから”は二本立てで変わる
ここまで「課税所得900万円」を軸に話してきましたが、実はあなたが専業大家か、給与のあるサラリーマン大家かで、目安は二本立てで変わります。
理由は明快で、不動産所得は総合課税だからです。他の所得と合算されるため、もともとの所得が高い人ほど、少ない不動産所得でも高い累進税率が最初から乗っているのです。
| タイプ | 法人化検討の目安 | 理由 |
|---|---|---|
| 専業大家(他に高所得なし) | 課税所得800〜1,000万円 | 不動産所得だけで累進を上っていく |
| サラリーマン大家(高い給与所得あり) | 不動産所得500〜700万円でも可 | 給与と合算され、高い累進税率が最初から乗る |
サラリーマン大家は「3つのライン」で見る
長岐隆弘氏監修『新世代大家』は、サラリーマン大家向けに具体的な3つのラインを示しています。
- 給与+不動産所得の合計が695万円超で、実質税率が33%(所得税23%+住民税10%)となり、法人の23.2%を上回る
- 合計900万円超なら、新規に買う物件は最初から法人で取得したほうが適用税率が低い
- 税額だけを見るなら、合計1,800万円超が一つの目安
高い給与所得がある方は、不動産所得が500〜700万円程度でも、給与と合算した瞬間に高い税率帯へ押し上げられます。だからサラリーマン大家は、専業大家より低い水準で法人化の検討に入れるわけです。
「所得300万円でも有利」説への釘刺し
一方で、高山弥生氏『個人事業と法人どっちがいいか考えてみた』は、「所得300万円でも計算上は有利」という説に真っ向から釘を刺します。税理士報酬(年40〜50万円)・社会保険料・法人住民税の均等割まで織り込むと、現実的に法人化が得になるのは利益を700〜800万円コンスタントに出せる頃だ、と。私も同意見です。単年の税率計算だけで「300万円でも有利」と言うのは、固定費という現実を見ていません。
5. 【本記事の核心】税金は減る、でも手取りは減る──社会保険料を込みで多年度検算する
ここが、この記事でいちばんお伝えしたい章です。
法人化の話は、たいてい「税金がいくら減るか」で語られます。でも、あなたの生活に効くのは税額ではなく、最終的に手元に残るお金(可処分所得)です。そして両者は、しばしば逆を向きます。
税217万円減、でも手取りは393万円減
青木・松岡・吉田『会社活用と税務』には、こんな試算があります。
課税所得3,000万円のうち800万円を法人へ移すと、税金は217万円減る。しかし、オーナー個人の可処分所得は393万円減る。
税金は確かに減っているのに、手元のお金はもっと大きく減っている。なぜか。所得を法人に移すと、そのお金は「会社のお金」になり、個人が自由に使えなくなるからです。役員報酬として引き出すには、また別の税と社会保険がかかります。これが「税額で判断してはいけない」決定的な理由です。
社会保険は“第二の税金”
高山弥生氏は、社会保険料を「第二の税金」と呼びます。具体例として、税負担が45万円減っても、社会保険料が70万円近く増えて逆転するケースを挙げています。しかも役員報酬は労使折半とはいえ、会社と個人の合計では約30%の社会保険料がかかります。役員報酬を100万円出すのに、会社は約115万円のキャッシュを用意しなければならないのです。
「軽くなる税額の何倍ものキャッシュが出ていく」──これが法人化の隠れたコストです。
固定費の内訳を分解する
法人を維持するだけで、毎年これだけの固定費がかかります。
- 法人住民税の均等割 … 赤字でも年約7万円(資本金1,000万円以下・従業員50人以下)
- 税理士報酬 … 年24〜50万円程度
- 社会保険料 … 役員報酬の約30%(労使折半)
社会保険料を除いても、固定費だけで年55〜100万円が目安です。この金額を上回る節税額が出て、初めて法人化に意味が生まれます。
移転コストの回収年数を実額で見る
固定費だけでなく、物件を法人に移すときには登録免許税・不動産取得税といった移転コストもかかります。ただし、ここは希望のある数字です。木下勇人氏『不動産法人化に関する実務論点整理』は、収益物件2棟を移転し、毎年238万円の節税が出るケースで、移転費用531万円を約2.2年で回収できた実例を示しています。
さらに規模の大きいオーナーだと効果は跳ね上がります。同書のモデルでは、所得4,500万円のオーナーが地代2,000万円を受け取り、長男に給与2,000万円を出す設計で毎年672万円、長男・次男へ1,000万円ずつ分散すれば毎年874万円の節税になります。
実務家としての結論
私が顧問先に必ずお願いするのは、「単年の税額表を見て決めないでください」ということです。社会保険・固定費・移転コストまで載せた“手取りの多年度シミュレーション”を、必ず税理士に作らせてください。 そこで初めて、「法人化して本当に得か」の正味の答えが出ます。数字の裏側まで見せてくれる情報が知りたい方は、コスト・リスク側を掘り下げた法人化のデメリット・向かない人もあわせてご覧ください。
6. 見落とすと分岐点が下がる“プラス材料”──法人化で個人事業税5%が消える
ここまで「手取りを減らす要因(社保・固定費)」を見てきましたが、逆に分岐点を下げてくれるプラス材料もあります。見落とされがちなので、必ず計算に入れてください。
事業的規模(概ね5棟10室以上)で賃貸をしている個人には、個人事業税5%(290万円の事業主控除後)がかかっています。多くの地主・オーナーが、すでに毎年これを払っているはずです。
法人化すると、この個人側の個人事業税5%が消えます。「法人事業税がかかるのでは?」と思われるかもしれませんが、法人事業税は先ほどの実効税率33.58%にすでに内包されているので、二重取りにはなりません。
損益分岐の試算をするとき、この個人事業税の消滅分を“節税メリット側”に計上し忘れると、分岐点を実際より高く見積もってしまいます。前章の社会保険・固定費(マイナス材料)と、この個人事業税消滅(プラス材料)を両面で載せて、初めて正味の分岐点が正しく出るわけです。
7. 出口で損するな──5年超保有・個人長期譲渡20.315%を狙うなら、法人化はむしろ不利
ここまでは「持っている間の税金」の話でした。でも、判断は売るとき(出口)の課税まで通算して行わなければいけません。これを忘れると、せっかく法人化したのに出口で大損します。
個人と法人では、売却時の課税方式が根本的に違います。
| 個人(分離課税) | 法人 | |
|---|---|---|
| 長期(所有5年超※譲渡年1/1判定) | 20.315%(所得税15%+復興0.315%+住民税5%) | 保有期間の区分なし、譲渡益も実効約33.58% |
| 短期(所有5年以下) | 39.63%(所得税30%+復興0.63%+住民税9%) | 同上(約33.58%) |
ここから、明快な帰結が二つ出ます。
- 短期売却(5年以内)を想定するなら … 個人39.63% > 法人33.58%。法人が有利。
- 長く持って売るなら … 個人の長期譲渡20.315% < 法人33.58%。個人のまま売るほうが有利。
つまり、「5年超しっかり保有して、いずれ個人で長期譲渡(20.315%)で売り抜ける」という出口を描いている人には、法人化はかえって不利になり得るのです。ここは買い煽り記事が絶対に書かない、しかし最も誠実であるべき論点だと私は考えています。
「売却直後の相続」はさらに不利
木下氏は、「売却直後の相続は不利」とも指摘します。建物の簿価が相続税評価額を上回っている時期に法人へ売却し、その直後に相続が起きると、その資産は現金・貸付金として簿価どおりに課税されてしまいます。個人保有のままなら、固定資産税評価額×(1−借家権割合)で評価される(例:3,000万円×0.7=2,100万円)ため、むしろ個人のほうが評価は下がるのです。
逆に言えば、法人化は相続まで期間が長いほど有利です。時間が経つほど簿価と相続税評価額の乖離が縮み、法人化のメリットが効いてきます。「法人化は早いほど得。ただし出口が近い個人売却型は例外」──これが出口の結論です。
出口・相続の設計を詳しく知りたい方は、相続・承継・出口戦略の記事へ進んでください。
8. 【診断フロー】あなたは今、法人化すべきか──5つのYES/NOで自己判定
ここまでの内容を、実際に使える診断に落とし込みます。上から順にYES/NOで下ってください。一つでも致命的なNOがあれば、見送りか再設計が正解です。
Q1. 不動産の「所得(利益)」は十分に大きいか
売上ではなく利益で見ます。税率クロスは課税所得約900万円、実益ラインは900〜1,200万円超。専業大家なら課税所得800〜1,000万円、サラリーマン大家なら不動産所得500〜700万円、家賃収入で5,000万〜1億円が目安です。
→ NOなら、まず青色事業専従者給与で配偶者・親族へ所得を分散し、様子を見ましょう。
Q2. その所得はコンスタントに続くか
一過性の高所得では、年55〜100万円の固定費を回収できません。高山氏の「利益700〜800万円をコンスタントに」が現実的な目安。移転費用の回収年数(木下氏の実例で2棟2.2年)も試算しておきます。
Q3. 出口は「長く持って個人で売る」方針か
5年超保有の個人長期譲渡20.315%は、法人33.58%より軽い。近い将来に個人で長期譲渡売却する予定の物件を法人へ移すと、かえって不利になります。
Q4. 相続まで時間があるか/新築直後に相続が迫っていないか
簿価と相続税評価額の乖離が縮むほど有利で、相続まで期間が長いほど得。建築後短期で相続が見込まれるなら、個人建築のほうが有利なこともあります。
Q5. 承継の受け皿を設計できるか
出資者は次世代(子・孫)にします。父自身が出資すると、内部留保で株価が上がり、相続財産がかえって膨らみます(出資50万円が10年で1,050万円に膨張した例もあります)。相続人が複数なら、1法人に集約せず物件ごとに別会社を検討します。
以上をすべて通過し、認知症対策・共有回避・団信加入といった非税務メリットも加味してGOなら、いよいよ実行フェーズです。「どの器で作るか」は株式会社か合同会社か・設立実務の記事、「どう物件を移すか」は法人化3方式の選び方と建物だけ簿価で移す方法へ進んでください。
※2026年時点の情報です。個別具体的な判断は不動産税務に強い税理士へご確認ください。
9. まとめ:“いくらから”は4つの数字で決まる。次の一手と、深掘りへの地図
長くなりましたが、「いくらから得か」の答えは、次の4つの数字に集約されます。
- 税率クロスは課税所得約900万円、実益ラインは900〜1,200万円超(クロスと損益分岐は別物)
- 手取りは税額とは別物──税217万円減でも可処分所得は393万円減。社会保険・固定費55〜100万円を込みで検算する
- 目安は二本立て──専業大家は課税所得800〜1,000万円、サラリーマン大家は不動産所得500〜700万円
- 出口が「5年超・個人売却」ならむしろ見送り(個人長期譲渡20.315% < 法人33.58%)
そして最も大切なのは、法人実効税率を33.58%で統一して見ること。34.59%(超過税率)や29.74%(大法人)と取り違えると、試算そのものが狂います。
GOと出た方へ──次は「どう組むか」です。器の選び方は会社形態と設立実務、所得を移す3方式は3方式の選び方、本命の「建物だけ簿価移転」は建物だけ簿価で移す、既存ローンがある方は融資・金融機関対応を順にお読みください。
NO・保留と出た方へ──焦る必要はありません。まずは青色事業専従者給与での所得分散、判断能力に不安があるなら家族信託の先行検討など、次善策があります。法人化は「早いほど得」ですが、無理に踏み切って手取りを減らしては本末転倒です。
なお、本記事の数値は2026年時点のものです。防衛特別法人税や給与所得控除の改正など、制度は流動的に動きます。最終判断は必ず、不動産税務に精通した税理士の多年度シミュレーションで裏付けてください。全体像に戻りたい方は不動産の法人化 完全ガイドへ。
次の一手(無料・有料の道筋)
① まずは自己診断から
本記事の「5つの問い」であなたの課税所得ラインと出口方針を確認しましょう。GOと出たら次は「どう移すか」。法人化3方式の選び方へ。NO・保留なら、法人化の前段として青色事業専従者給与での分散を検討してください。
② 個別相談(税理士×宅建士×自社管理の不動産会社経営)
あなたの確定申告書3年分・固定資産台帳・返済予定表をもとに、社会保険料まで込みの多年度シミュレーションと移転コストの回収年数を作成します。第1回は無料の概算検討から承ります。「税額でなく手取りで見たい」という方こそ、お気軽にご相談ください。
③ Note(有料)=私の実額を全部見せます
本記事では青木試算(税217万円減/可処分393万円減)や木下試算(回収2.2年)を“紹介”にとどめましたが、Noteでは、私が自社で管理する物件のうち移転対象物件で実際に回した、家賃・簿価・地代・役員報酬・社会保険料・均等割・税理士報酬を全部入れた「税額と可処分所得の10年シミュレーション表」を丸ごと公開しています。移転コスト531万円の内訳(登録免許税・不動産取得税・司法書士報酬)と回収年数の実測、社会保険が“第二の税金”として実際いくら効いたかの生数字まで。一般論を、当事者の実額で追体験したい方へ。
④ YouTube「地主のための相続」
『“利益いくらから法人化?”に3分で答える──でも税額でなく手取りで見ないと騙される』を公開予定です。ホワイトボードで税率クロス900万円の1枚図、「税217万減でも手取り393万減」の電卓実演、専業800万/サラリーマン500万の二本立て、そして「5年超・個人売却ならやめとけ」の逆張り結論まで解説します。
著者プロフィール
税理士 × 宅地建物取引士 × 自社で賃貸管理を行う現役の実務家
税務の理論と、現場の実務の両方を一人称で語れることが強みです。世の中の法人化コンテンツは「理論だけの税理士解説」か「根拠の薄い大家体験談」に二分されがちですが、私は自分自身の物件で建物移転・無償返還届・管理業務を実際に回し、税務署が見るのは“机上のスキーム”ではなく“現場”だという一点を、業務日誌・契約書・入出金通帳という実物で語れます。買い煽らず、見送るべき人には正直に「見送り」とお伝えするのが、私の発信の約束です。
※本記事は一般的な情報提供であり、個別の税務判断を保証するものではありません。数値・制度は2026年時点のもので、今後の税制改正で変わり得ます。実行前には必ず、不動産税務に精通した税理士による多年度シミュレーションで裏付けてください。

