法人化を考え始めた人は、まず「うちの規模でやる意味があるのか」を知りたくなります。答えは家賃収入では決まりません。経費を引いたあとの所得で決まります。
そして、税金が減っても手取りが増えるとは限りません。どこで税率が入れ替わり、どこから実際に得が出るのかを順に説明します。
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1. 「いくらから」は、課税所得で測る
家賃収入、不動産所得、課税所得は、法人化の話に出てくる別の数字です。
同じ人の数字が、3つある
架空のモデルアパート3棟を持つ田村さん
課税所得に税率を掛けます。分岐点もここで測ります。自分の課税所得は、確定申告書で確かめられます。
誰かの「いくらから」を読むときは、どの段の数字なのかを先に確かめます。家賃収入が大きくても、返済と修繕と減価償却で残りが薄ければ、会社へ移す所得がありません。不動産所得の計算は「大家の所得税は、家賃から経費を引いた不動産所得にかかる」で説明しています。
2. 課税所得900万円あたりで税率が入れ替わる
個人の税率は上がり続ける

所得が増えるほど、段ごとに上がります
やり方住民税10%を足すと、課税所得900万円を超えた部分に43%、1,800万円を超えた部分に50%がかかります(所得税法89条)。上限はありません。
例課税所得1,000万円でも、43%は、900万円を超えた100万円の部分にだけかかります。
法人の税率はどこかで止まる

年800万円を超えた部分が23.2%で、止まります
やり方年800万円以下の部分が15%、超える部分が23.2%です(法人税法66条)。所得が1億円でも、この先へは上がりません。これに法人住民税と法人事業税が乗ります。
注意15%は令和9年3月31日までの期限つきの特例で、本則は19%です(租税特別措置法42条の3の2)。
| 課税所得 | 所得税 | 住民税 | 合わせて |
|---|---|---|---|
| 195万円以下 | 5% | 10% | 15% |
| 330万円以下 | 10% | 10% | 20% |
| 695万円以下 | 20% | 10% | 30% |
| 900万円以下 | 23% | 10% | 33% |
| 1,800万円以下 | 33% | 10% | 43% |
| 4,000万円以下 | 40% | 10% | 50% |
| 4,000万円超 | 45% | 10% | 55% |
695万円から900万円までの段は33%で、法人側の負担とほぼ並びます。900万円を超えて43%の段に乗ると、個人の税率が法人を明らかに上回ります。だから「900万円あたりで入れ替わる」と言われます(「法人税率は何%か」)。
3. 入れ替わっても、まだ得は出ない
税率が入れ替わる位置と、実際に得が出る位置は別です。会社には、儲かっていなくても出ていくお金があるからです。
毎年、お金が出ていく

赤字でも均等割が年7万円かかり、決算の費用も別にかかります
やり方法人住民税の均等割は、資本金1,000万円以下で従業者50人以下なら標準税率で年7万円です(地方税法52条・312条)。法人の決算書と申告書は個人の確定申告とは別物で、税理士に頼めば報酬がかかります。
注意税率の差で浮いた額からこれらを引いて、なお残るかで決まります。得が出る位置は、入れ替わる位置より上にあります。
逆に、負担が消える

個人事業税は減ります
やり方不動産の貸付けが一定の規模になると、個人には事業税がかかります。標準税率5%で、所得から290万円の事業主控除を引いた残りに掛かります(地方税法72条の49の14・72条の49の17)。所得を会社へ移せば、この負担は減ります。
理由法人事業税は、2章で見た法人側の負担にもとから含まれています。二重に取られるわけではありません(「5棟10室基準とは」)。
4. 税金が減っても、手取りが減ることがある
法人化の話は、たいてい「税金がいくら減るか」で語られます。生活では税額よりも手元に残るお金が大事です。この2つは、しばしば逆を向きます。
社会保険料が、新しく発生する

役員報酬600万円に、保険料がおよそ170万円ついてきます
例報酬を月50万円にすると、東京都の協会けんぽ(令和8年度)では厚生年金18.3%と健康保険9.85%などで、保険料は年およそ170万円です。会社と本人がおよそ85万円ずつ負担します。40〜64歳は介護保険料が加わります。
注意料率は都道府県で違い、毎年度改定されます。捨て金にはならず、将来の年金と給付につながります。損得を決めつけず、手取りの計算に入れます(「大家の社会保険」)。
会社に残したお金は、自分のお金ではない

引き出すには、役員報酬か配当という形が要ります
問題会社の税金が減っても、そのお金の持ち主は会社です。個人が使うには報酬か配当で引き出し、そこにまた所得税・住民税と、報酬なら社会保険料がかかります。
解決生活費として使うつもりの額は、会社に移さない。判断は単年の税額よりも、何年かの手取りで比べます(「会社の節税は、税額ではなく手取りで決める」)。
5. 同じ所得でも、得になるかどうかは3つの事情で変わる
すでに給与収入がある

早くから法人が有利になる
理由不動産所得は給与と合算してから税率を掛けます(所得税法22条)。給与だけで課税所得900万円ある会社員なら、不動産所得500万円は最初から43%の段にかかります。
注意税率だけが下がります。会社の固定費と社会保険料は同じようにかかります。
実際に働く家族がいる

早くから法人が有利になる
理由実際に仕事をしている家族を役員にして報酬を払えば、1人に集まっていた所得が分かれます。給与所得控除も人数分つきます。
注意勤務先の規則で役員になれない家族もいます。分けられる人数を先に数えます。個人のままでも、青色事業専従者給与を使えます(所得税法57条)。
近いうちに売る予定がある

決める前に、売る予定を見ます
理由個人が5年を超えて持った物件を売れば税率は20.315%です。法人が売ればその年の所得に合算されます。近いうちに売る物件を会社に移すと、売るときに損をします(「不動産を売った税金は、給与と別に計算し、5年で税率が2倍変わる」)。
まとめ
- 分岐点は家賃収入ではなく、税率を掛ける課税所得で決まります
- 課税所得900万円あたりで入れ替わり、個人は43%、法人は23.2%で止まります
- そこは税率が並ぶ位置で、得が出る位置ではなく、均等割と決算の費用を引いて残るかで決まります
- 役員報酬600万円で社会保険料はおよそ170万円かかり、会社に残したお金は自分のお金ではありません
- 給与のある人と家族に分けられる人は早くから法人が有利になり、売る予定があるなら、売るときの税金を先に見ます
まず、今日できること
- 直近の確定申告書を開いて、課税所得がどの段にいるかを確かめる
- 出ていく側として、均等割7万円、決算の費用、役員報酬にかかる社会保険料を数える
- 役員になれる家族が何人いるか、物件を数年内に売る予定があるかを書き出す
出典
- 所得税法22条(課税標準)、26条(不動産所得)、57条(青色事業専従者給与)、89条(税率)
- 法人税法66条(法人税の税率)、租税特別措置法42条の3の2(中小企業者等の法人税率の特例)、31条・32条(譲渡所得の課税の特例)
- 地方税法35条・314条の3(個人住民税の所得割)、52条・312条(法人住民税の均等割)、72条の49の14・72条の49の17(個人事業税の事業主控除・標準税率)
- 日本年金機構「厚生年金保険料額表(令和8年度)」、全国健康保険協会「令和8年度都道府県単位保険料率」
- 国税庁タックスアンサー No.1410(給与所得控除)、No.2260(所得税の税率)、No.5759(法人税の税率)
※確認日:2026年9月3日。税率・保険料率・特例の期限は、毎年のように変わります。本記事は一般的な仕組みを説明するもので、個別の税務相談ではありません。分岐点は家族構成・ほかの所得・売るかどうかの方針で変わります。実行の前に税理士にご確認ください。
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