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相続対策は何から手をつけるか──節税より先にやる2つ

相続対策と聞くと、まず節税の話になります。ですが実務でつまずくのは、税額の大きさではありません。先にやるのは「分けられるか」と「払えるか」の2つで、節税は3番目です。順番を逆にすると、節税策そのものが分け方と納税資金を壊します。この記事では、節税を先にやると何が起きるのかを具体的に見ていきます。

※本記事は一般的な仕組みを解説するものです。登場する事例・金額はすべて架空のモデルです。個別の税務・法務相談ではありません。

→ 相続対策の全体像は 相続対策の全体像 にまとめています。

この記事でわかること


1. 先にやる2つは「分けられるか」と「払えるか」

相続で家族が困るのは、次の3つのどれかです。誰が何を取るかで揉めます。財産はあるのに税金を払う現金がありません。税額そのものが重いです。この3つに、それぞれ対策が対応します。

手をつける順番

  1. 1分け方を決めるもめないようにする。遺言書と、分けるための現金を用意する
  2. 2納税資金を用意する払えるようにする。10か月以内に現金で納める形をつくる
  3. 3税額を減らす1と2の目処が立ってから、初めて考えます

相続対策の着手順。節税は3番目に置きます

ここで大事なのは、1と2は相続税がかからない家庭でも必要だという点です。分け方で揉めるのに、財産の多い少ないは関係ありません。3つの対策の全体像と、その前に数える2つは 相続対策とは何か で扱っています。この記事は、なぜ3を最後に置くのかを掘り下げます。


2. 節税から入ると起きること3つ

節税策の多くは、現金を評価額の下がる資産に換える形をとります。この「換える」という動きが、分け方と納税資金の両方を削ります。

(1) 分けられない財産が増える

いちばん起きやすいのがこれです。現金は1円単位で分けられますが、賃貸物件は切って配れません。

【モデル事例】佐藤さん(仮)には子が3人います。相続税を減らすため、手元の現金1億円で賃貸アパートを1棟買いました。相続税の計算上の評価額は下がります。ですが相続が起きたあと、子3人はこの1棟を分けられません。売って分けようにも買い手が決まるまで時間がかかり、話し合いはそこで止まりました。

不動産の分け方は、そのまま渡す・1人が取って他に現金を払う・売って現金にする・共有にする、の4つだけです。どれにも弱点があり、とくに共有は決めるのを先送りにしているだけです。4つの違いと税金は 不動産は切って分けられない。分け方は4つある にまとめています。

(2) 手元の現金が減り、納税資金が足りなくなる

相続税は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内に、現金で納めるのが原則です(相続税法27条・33条)。ところが節税のために現金を不動産に換えると、その納税資金が先に消えています。

評価額は下がったので税額も下がります。しかし下がった税額を払う現金は、もっと大きく減っています。税額の減り方より、手元の現金の減り方のほうが大きいのが普通です。納税資金の出どころと確かめる順番は 相続税が払えるか確認 にあります。

(3) 借入で買った物件が空室だと、返済と納税が重なる

借入で物件を買えば手元の現金は減りません。ただし今度は、毎月の返済が家族に引き継がれます。

【モデル事例】高橋さん(仮)は借入1億円でアパートを建てました。満室なら家賃で返済がまわる計画です。相続が起きたとき、たまたま入居が半分でした。家賃収入は計画の半分、返済額は変わりません。相続人は、毎月の持ち出しを抱えたまま、10か月以内に相続税も納めることになりました。

借入そのものに減税の効果はありません。1億円を借りて1億円の現金を持っているだけなら、財産も債務も同じだけ増えて差し引きゼロです。効くのは「その現金を評価額の下がる資産に換えたこと」であって、借入は中立です。一方で利息と空室のリスクは確実に増えます。節税額と引き換えに、事業のリスクを買っているという認識が要ります。

注意 買って評価額を下げる対策そのものも、2027年から取扱いが変わる見込みです。亡くなる前5年以内に取得した貸付用の不動産の評価が見直されます。→ 賃貸不動産の「5年ルール」

3. 分け方が決まらないと、節税の成果そのものが消える

順番を守る理由は、感情の問題だけではありません。相続税の大きな特例には、申告期限までに分けられていることが条件になっているものがあります。

制度 効果 分割との関係
小規模宅地等の特例 居住用の土地は330㎡まで80%減、貸付用の土地は200㎡まで50%減 原則として相続税の申告期限までに分割されていることが必要
配偶者の税額軽減 配偶者が実際に取得した正味の遺産額のうち、1億6,000万円か法定相続分のどちらか多い金額まで相続税がかからない 申告期限までに分割されていない財産は対象にならない

分割が条件になる主な制度(国税庁タックスアンサーNo.4124・No.4158をもとに作成)

つまり、どれだけ評価額を下げても、話し合いがまとまらなければ特例は使えません。節税の成果は、分け方の成否にぶら下がっています。ここが順番を逆にできない最大の理由です。

救済の道がないわけではありません。配偶者の税額軽減は、申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添えて、申告期限から3年以内に分割すれば対象になります。ただしこれは、いったん特例なしの税額を現金で納めたうえで、後から取り戻す手続きです。10か月の時点で必要な現金は、特例を使えなかった前提の金額になります。


4. 着手前に見積もる3つ

では、何をどう見積もれば「1と2の目処が立った」と言えるのか。見るのは3つです。

見積もるもの 確かめ方 足りないときの手
もめる可能性 財産に占める不動産の割合を出す。相続人が複数で、同居している人や事業を継ぐ人がいるかを見る 分け方を決めて遺言書にする。代償金の原資を用意する
納税額の見込み 財産の合計が「3,000万円+600万円×法定相続人の数」を超えるか。超えた分に税率を当てて概算する 税額の目安を家族で共有する。分けにくい物件の扱いを先に決める
手元の流動性 相続人ごとに、納税額に対して使える現金・保険金がいくらあるかを並べる 生命保険で不足分を埋める。売る物件を生前に決めておく

節税に着手する前に見積もる3つ

この3つは、財産目録がないと出せません。まずは棚卸しからです。→ 相続の準備、何から始めるか

納税額の見込みを出す手順は 相続税がかかるかは、3,000万円+600万円×人数で確かめる に、分け方の決め方は 財産の分け方を考える にあります。

注意 流動性は家全体ではなく相続人ごとに見てください。家全体では現金が足りていても、不動産だけを取る相続人には納税資金がゼロ、という形はよく起こります。誰がいくら払うのかまで割り付けて初めて、目処が立ったと言えます。

5. 節税に着手してよい状態と、やりすぎの線

3つの見積もりが終わり、次の状態になったら節税を考える段階です。

この状態からなら、節税策を足しても分け方と納税資金を壊しません。逆に、遺言書もなく納税資金の割り付けもないまま物件を買うのは、防ぎたかった困りごとを自分で作る動きになります。

もう1つ、節税には認められる範囲の線があります。節税の効果だけの行為は、通常の評価方法によらずに課税されたり、否認されたりすることがあります。実態のある形にしておくことが前提です。3つの節税の方向と、その線の引かれ方は 相続税に対策する にまとめています。手法ごとの効果と手間の比較は 相続税を減らす3つの柱 をご覧ください。


まとめ

次に読む:相続対策とは何か財産の分け方を考える相続税が払えるか確認相続税を減らす3つの柱相続の準備、何から始めるか


出典

※特例の適用要件と分割の取扱いは個別事情で判断が分かれます。遺言書の作成や遺産分割の進め方は弁護士・司法書士の領域です。節税策の実行を検討する段階で、分け方と納税資金の見通しとあわせて税理士にご相談ください。

公開 2026.01.21 / 更新 2026.09.07 相続対策 筆者:宍倉奎次郎(税理士・宅地建物取引士・大家)
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相続対策の12工程

工程1 相続対策とは何かを知る

節税の話なのか、争いを防ぐ話なのか。まず相続対策の全体像と、手をつける順番をつかみます。

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宍倉奎次郎
税理士・宅地建物取引士・大家
宍倉 奎次郎

税理士・宅地建物取引士。自身も賃貸物件を持つ大家の立場から、法人化・相続・不動産管理まわりの税務を、制度と判例にもとづいて解説しています。記事内の事例はすべて架空のモデルケースです。制度・税率・判例は年度で変わります。個別具体的な判断は、不動産税務に強い税理士へご確認ください。

工程2 現状を把握する相続の準備、何から始めるか──財産の棚卸しと相続人の確定
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