不動産投資をしていると、必ず耳にする言葉があります。それが「5棟10室基準(ごとうじゅっしつきじゅん)」です。
「アパートを買ったけれど、税金はどうなるの?」 「青色申告の65万円控除は使えるの?」
これらの疑問の答えは、すべてこの基準をクリアしているかどうかにかかっています。 不動産所得には「事業的規模(ビジネス)」と「業務的規模(副業レベル)」の2種類があり、どちらに判定されるかで手元に残るお金が大きく変わります。
今回は、税理士かつ現役不動産オーナーの視点から、この重要な分岐点について詳しく、具体的に解説します。
1. 「5棟10室基準」の定義とは?
国税庁が定めている形式基準は非常にシンプルです。以下のどちらかを満たせば、原則として「事業的規模」として認められます。
- アパート・マンションなどの貸間: 10室以上
- 一戸建てなどの独立家屋: 5棟以上
「アパート8室と戸建て2棟を持っている場合はどうなるの?」という疑問については、後述する換算方法で判定します。まずは「10室」か「5棟」、この数字を覚えておきましょう。
2. ここが違う!事業的規模の「4大メリット」
なぜみんな必死に「5棟10室」を目指すのか。それは、税制上の優遇措置が圧倒的に違うからです。主なメリットは以下の4つです。
① 青色申告特別控除が「最大65万円」
- 事業的規模:要件(e-Tax申告など)を満たせば65万円控除
- それ以外:最大10万円控除
所得から差し引ける経費のような枠が55万円も増えるため、税率20%の人なら約11万円、税率30%なら約16.5万円も手取りが変わります。
② 家族への給与を経費にできる(青色事業専従者給与)
- 事業的規模:届出を出せば、配偶者や親族への給与を全額経費にできる
- それ以外:経費にはできず、「専従者控除」という定額枠のみ
これが最大の節税効果を生むことも多いです。所得を家族に分散させることで、世帯全体の税率を下げることが可能です。
③ 取り壊し損(資産損失)を全額経費にできる
- 事業的規模:全額を経費算入でき、赤字が出れば給与所得などと相殺(損益通算)できる。
- それ以外:その年の不動産所得の金額が限度(給与との相殺不可)。
古い物件を建て替える際や、大規模リフォームで内装を廃棄する際、事業的規模ならその損失を給与所得から引くことで、所得税の還付を受けられる可能性があります。
④ 貸倒損失の回収不能時点での経費化
- 事業的規模:家賃滞納などで回収不能が確実になった年に経費計上可能。
- それ以外:収入に計上した年まで遡って「更正の請求」をする必要があり、手続きが煩雑。
3. 【実務編】迷いやすい「カウント方法」のルール
単に部屋数を数えるだけではありません。駐車場や共有物件はどうなるのでしょうか?実務上の判定基準を整理します。
駐車場は「5台=1室」
駐車場経営も立派な不動産所得です。
- 判定基準:おおむね5台でアパート1室相当
- 例:アパート6室 + 駐車場20台の場合
- 20台 ÷ 5 = 4室相当
- 6室 + 4室 = 10室 → 事業的規模判定!
共有物件は「建物全体」でカウント
夫婦や親子で共有している物件の場合、持ち分(50%など)で割る必要はありません。
- ルール:共有者全員が、物件全体の室数で判定可能。
- 例:夫婦でアパート1棟(10室)を共有している場合、夫も妻も「10室の規模」として判定されます。
空室やサブリースの場合
- 空室:入居募集中であれば、空室でもカウントに含めます(賃貸の意思がない放置物件はNG)。
- サブリース:業者に一括で貸していても、本来の部屋数(戸数)で判定します。契約が1本だからといって1室カウントにはなりません。
4. メリットだけではない?「2つのデメリット」
規模が大きくなると、新たな負担も発生します。
① 個人事業税(地方税)がかかる
事業的規模になると、所得税・住民税とは別に「個人事業税」の対象になります。
- 税率:5%
- 控除:年間290万円(事業主控除)
- 計算式:(不動産所得 + 青色申告特別控除額 - 290万円)× 5% ※青色申告特別控除を引く「前」の数字で計算される点に注意が必要です。
② 社会保険の扶養から外れるリスク
サラリーマンの配偶者がアパート経営をしている場合、事業的規模になると「収入」の認定基準が厳しくなる健康保険組合があります。減価償却費以外の経費が認められないケースなどもあり、扶養を外れて国民健康保険・国民年金への加入が必要になる場合があります。
5. 「実質基準」という例外
「9室しかないけれど、事業的規模にはならないの?」
実は、形式基準(5棟10室)を満たしていなくても、「実質基準」で認められるケースがあります。 例えば、リゾートマンションや下宿のように、食事の提供や頻繁な清掃など「人的役務の提供」が多い場合や、建物自体の規模が極めて大きく賃料収入が莫大である場合などです。ただし、これは税務署との見解の相違が生まれやすい部分ですので、専門家への相談が必須です。
まとめ:次の物件購入は「基準」を意識しよう
- 基準:アパート10室 or 戸建て5棟(駐車場5台=1室)
- メリット:65万控除、家族給与、損失の損益通算
- 注意点:個人事業税の発生
不動産投資を拡大していく中で、「あと1室増えれば事業的規模になって、税金が安くなる」というケースは多々あります。 ご自身の物件が今どう判定されるのか、次にどう動くべきか、迷われた際はぜひご相談ください。

