アパートの外構工事、エアコンの入れ替え、退去後のリフォーム。請求書の上ではどれも同じ「工事代金」ですが、税務上の扱いは同じではありません。
同じ工事代金でも、構築物・建物附属設備・水道施設利用権・修繕費のどれに区分するかで、経費になる速さが変わります。この記事では、4つの区分の見分け方を順番に整理します。
※本記事は一般的な仕組みを解説するものです。登場する事例・金額はすべて架空のモデルです。個別の税務相談ではありません。
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この記事でわかること
- 工事代金が4つの区分(構築物・建物附属設備・水道施設利用権・修繕費)に分かれる全体図
- 構築物と建物附属設備の代表的な耐用年数と、区分するだけで経費化が速くなる理由
- 建物本体と附属設備で年間の償却額が3倍以上変わるモデル計算
- 水道加入金と下水道の受益者負担金の扱いの違い
- リフォーム代を修繕費か資本的支出か、金額基準から順に判定する手順
- 中古物件の按分の考え方と、少額減価償却資産の特例の枠組み
1. 全体図──工事代金は4つに分かれる
建物や設備にかけたお金は、原則としてその年に全額は経費になりません。何年かに分けて少しずつ経費にしていきます。この仕組みが減価償却です。経費化にかける年数(法定耐用年数)は、資産の区分ごとに省令で決まっています。
だから出発点は、支払った工事代金を「建物一式」でまとめず、次の4つに分けて見ることです。
| 区分 | 中身 | 経費になる速さ |
|---|---|---|
| 構築物 | 土地の上にある建物以外の工作物(舗装・フェンスなど) | 種類ごとの耐用年数で償却(10〜20年程度が多い) |
| 建物附属設備 | 建物の中の設備(電気・給排水・エレベーターなど) | 建物本体より短い年数で償却 |
| 水道施設利用権 | 水道加入金など、形のない権利 | 15年で償却 |
| 修繕費/資本的支出 | リフォーム・修理の代金 | 修繕費ならその年の経費。資本的支出なら資産計上して償却 |
建物本体(住宅用RC造なら47年)に全部を寄せてしまうと、経費になるのがいちばん遅くなります。分けられるものを分けます。これが区分の考え方の中心です。
2. 構築物──土地の上にある「建物以外」の工作物
見落としやすいのが構築物です。土地に定着している工作物のうち、建物以外のものを指します。駐車場の舗装、フェンス、看板、植栽などが代表例です。
| 種類 | 例 | 耐用年数 |
|---|---|---|
| 舗装道路・舗装路面(アスファルト敷) | 駐車場のアスファルト舗装 | 10年 |
| 舗装道路・舗装路面(コンクリート敷) | 駐車場のコンクリート舗装 | 15年 |
| 金属造のフェンス・へい | 敷地まわりの金属製フェンス | 10年 |
| 広告用のもの(金属造) | 広告塔 | 20年 |
| 緑化施設(工場緑化施設以外) | 植栽・庭木 | 20年 |
耐用年数は「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」別表による代表例
この表に挙げた以外のもの(コンクリートブロック塀・擁壁・自転車置き場など)は、構造や材質で年数が細かく分かれます。耐用年数省令の別表で確認するか、税理士に相談してください。
構築物と建物の境界
迷いやすいのが屋根付き駐車場です。屋根と柱だけのカーポートは構築物、壁に囲われて人が中に入って使うシャッター付きガレージは建物、というのが一般的な整理です。境界に近い構造のものは、判断を税理士に確認してください。
3. 建物附属設備──本体と分けるだけで償却が速くなる
建物附属設備は、建物の柱や壁といった本体とは別に扱います。建物の中に取り付けられた設備で、本体より短い耐用年数が決まっています。
| 設備の種類 | 例 | 耐用年数 |
|---|---|---|
| 電気設備(その他のもの) | 照明・配電盤・コンセント | 15年 |
| 給排水・衛生設備、ガス設備 | 給水管・排水管・トイレ・洗面台・ガス配管 | 15年 |
| 冷房・暖房設備(冷凍機の出力22kW以下) | 業務用エアコン | 13年 |
| 昇降機設備(エレベーター) | エレベーター | 17年 |
| 消火・排煙設備 | スプリンクラー・排煙設備 | 8年 |
| ドア自動開閉設備 | エントランスの自動ドア | 12年 |
区分の効果を、架空のモデルで比べます。RC造の賃貸マンションで、1,000万円分の支出を建物本体に含めた場合と、附属設備として区分した場合です。
| 区分 | 耐用年数 | 1,000万円の場合の年間償却額(定額法) |
|---|---|---|
| 建物本体(住宅用RC造) | 47年 | 約21万円 |
| 建物附属設備(給排水設備・電気設備など) | 15年 | 約67万円 |
同じ1,000万円でも、年間の経費は約21万円と約67万円。差は3倍以上です。トータルで経費になる金額は同じでも、早く経費になるほど手元のお金は残りやすくなります。
分けるための材料は見積書です。新築や大規模な工事のときは、「建物一式」の1行ではなく、電気設備・給排水設備といった内訳を出してもらってください。内訳がないと、区分のしようがありません。
4. 水道施設利用権──形のない資産
新築や建て替えのとき、水道局に「水道加入金」「局納金」を払うことがあります。これはモノではなく、水道を利用するための権利(水道施設利用権)です。形のない資産(無形固定資産)として、15年の定額法で償却します。払った年に全額経費にはできません。
似た名目でも扱いが分かれるので、請求書の名目を確認してください。
| 名目 | 扱い | 償却 |
|---|---|---|
| 水道加入金・局納金 | 水道施設利用権(無形固定資産) | 15年・定額法 |
| 敷地内への引込工事費 | 給排水設備や構築物など、工事の内容に応じた区分 | 区分ごとの耐用年数 |
| 下水道の受益者負担金 | 繰延資産(数年に分けて経費化する支出) | 6年が一般的 |
5. 修繕費か資本的支出か──リフォーム代の分かれ道
リフォーム代は、実務でいちばん悩みが多く、税務調査でも見られやすい項目です。その年の経費にできる「修繕費」か、資産に計上して減価償却する支出(資本的支出)かの分かれ道になります。
考え方の軸はシンプルです。元の状態に戻す・保つための支出は修繕費、元より価値を高める・長持ちさせるための支出は資本的支出です。
修繕費になる例(原状回復・維持管理)
- 割れたガラスの交換、雨漏りの修理
- 壁紙の同等品への張り替え
- 給湯器の同等品への交換
- 排水管の詰まりの修理
資本的支出になる例(価値の向上・耐久性の増加)
- 住居から事務所への改装など、用途変更のための工事
- 非常階段の新たな取り付け
- 断熱材や防音壁を上位グレードに替える工事
- 間取り変更をともなう大規模なリノベーション
とはいえ、実際の工事は両方の性質が混ざります。区分に迷うときのために、金額などで判定する形式基準が通達で用意されています。次の順で見ます。
修繕費か資本的支出かの判定手順
- 120万円未満か1つの修理・改良の金額が20万円未満なら、修繕費として経費にできます。
- 2おおむね3年以内の周期かおおむね3年以内の周期で繰り返し行う修理・改良も、修繕費として経費にできます。
- 3性質がはっきりしているか用途変更や設備の新設など、価値の向上が明らかな部分は資本的支出。原状回復が明らかな部分は修繕費です。
- 460万円未満か、前期末取得価額の10%以下かそれでも判断がつかない支出は、60万円未満、または前期末の取得価額のおおむね10%以下なら、修繕費として扱って差し支えありません。
- 5それでも区分できないとき継続して同じ処理を続けることを条件に、支出額の30%と前期末取得価額の10%のいずれか少ない額を修繕費、残りを資本的支出とする方法が認められています。
6. 中古物件の按分と、少額減価償却資産の特例
中古物件は「分ける材料」を集める
中古物件では、購入価格をまず土地と建物に分けます(按分)。売買契約書に建物価格や消費税額の記載があればそこから計算でき、記載がなければ固定資産税評価額の比率で分けるのが一般的です。
建物をさらに本体と附属設備に分けられるかは、資料しだいです。建築時の設計図書や工事見積書が残っていれば、合理的に区分できる場合があります。資料がないまま根拠のない割合で分けるのは危険なので、税理士に相談してください。
少額減価償却資産の特例
金額の小さい設備投資には、償却を待たずに経費化できる枠組みがあります。
| 取得価額 | 扱い | 対象 |
|---|---|---|
| 10万円未満 | 全額その年の経費 | 事業者一般 |
| 10万円以上20万円未満 | 3年で均等に経費化(一括償却資産) | 事業者一般 |
| 40万円未満 | 全額その年の経費(年間合計300万円まで) | 青色申告の中小企業者等 |
まとめ
- 工事代金は「建物一式」でまとめず、構築物・建物附属設備・水道施設利用権・修繕費の4つに分けて見ます
- 構築物・建物附属設備は建物本体より耐用年数が短いです。区分するだけで経費化が速くなります(1,000万円ならRC造47年で年約21万円、附属設備15年で年約67万円)
- 平成28年4月1日以後に取得する建物附属設備・構築物は定額法のみ。「定率法で早期償却」は使えません
- 水道加入金は水道施設利用権として15年、下水道の受益者負担金は繰延資産として6年が一般的
- リフォーム代は原状回復なら修繕費、価値向上なら資本的支出。迷ったら20万円未満→3年周期→60万円未満・10%以下→7:3基準の順で判定
- 中古物件は按分の材料(契約書の内訳・固定資産税評価額・設計図書)を集めます。少額特例の期限は国税庁サイトで確認
出典
- 減価償却資産の耐用年数等に関する省令(別表第一・別表第三)
- 所得税基本通達・法人税基本通達(修繕費関係)
- 国税庁タックスアンサー No.2100「減価償却のあらまし」、No.5408「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」
- 国税庁ウェブサイト(確認日:2026年8月7日)
※本記事の耐用年数・金額基準は一般的な目安と架空のモデル計算です。資産の区分や修繕費・資本的支出の判定は、工事の内容・契約・資料により個別に異なります。実際の申告にあたっては税理士にご相談ください。
この記事は 不動産売却 工程6「譲渡費用を数える」 でも紹介しています。
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