資産管理会社は株式会社?合同会社?──”社員が死ぬと解散”の盲点と、設立費用・届出7種+期限カレンダー【保存版】

不動産法人化

「法人化する」と腹を決めた。では、器は株式会社と合同会社のどちらで作ればいいのか——ここで多くの地主さんが止まります。ネットには「合同会社のほうが安い」という記事があふれ、一方で「相続なら株式会社」とも書いてある。どちらを信じればいいのか、判断がつかないまま設立を先延ばしにしている方を、私は何人も見てきました。

先に結論を言います。資産管理会社は「税率」では選べません。株式会社でも合同会社でも、法人3税を合算した実効税率は東京23区・資本金1億円以下の中小法人で約33.58%と、ほぼ同じだからです。選ぶ軸は「費用・運営・承継」の3点。そして、この3点を読み違えると、合同会社では「社員が死んだ瞬間に、不動産を入れた会社が丸ごと消える」という最悪の事態すら起こり得ます。

この記事は、税理士 × 宅地建物取引士 × 自社で賃貸管理を行う実務家として、机上のスキームではなく「実際に作って回している」立場から、器の選び方から設立4週間の手順、届出7種の期限までを一気通貫でまとめた保存版です。読み終えたら、そのまま手が動く状態を目指します。

  1. この記事でわかること
  2. まず結論──株式会社と合同会社、税率はほぼ同じ。差は「費用・運営・承継」の3点だけ
  3. 【最大の落とし穴】合同会社は”社員が死ぬと退社”──一人社員は会社ごと解散する(会社法607・608・641条)
    1. 社員の死亡は「法定退社事由」
    2. 一人社員なら、会社そのものが解散する
    3. 回避策はただ一つ、定款の「608条条項」
    4. もう一つの弱点──「1社員1議決権」
    5. ただし、相続税の評価では不利にならない
  4. 経営権と財産権を切り離す「種類株式」は株式会社だけの武器
    1. 「経営権」と「財産権」を分けて渡す
    2. 「1法人集約」より「物件ごとに別会社」
    3. おまけの実益──代表者が死んでも口座は凍結されない
  5. 費用と手間を数字で並べる──株式会社 約20〜25万円 vs 合同会社 約6〜10万円、認証1.5万円の3条件
    1. 設立実費の比較(電子定款の場合)
    2. 2024年12月改正で、株式会社の認証手数料が下がった
    3. ランニング(維持)コストの差
    4. 社会的信用と融資
  6. 箱は誰に持たせるか──出資者は子、現金贈与のエビデンスを必ず残す
    1. 出資者は原則、次世代(子・孫)
    2. 現金贈与のエビデンスを必ず残す
    3. 本人を役員・株主にすると効果が減殺される
    4. 支配権の基礎設計
  7. 資本金は1,000万円”未満”、決算月は”設立直前月”──この2つで消費税を最大2期免税に
    1. 資本金は1,000万円”未満”が鉄則
    2. 決算月は”設立直前月末”に置く
    3. 「特定期間」の落とし穴
    4. 細かいけれど効くポイント
  8. 設立の約4週間タイムライン──電子定款で収入印紙4万円が消える
    1. 電子定款で収入印紙4万円が丸ごと消える
    2. 事業目的と商号の注意
    3. 登記の必要書類(株式会社の例)
    4. 節約ポイント──特定創業支援等事業
  9. 【保存版】設立後の届出7種を1枚のカレンダーに──青色申告は”3か月・1日遅れ”で10年分が全滅
    1. 設立後の届出7種・期限カレンダー
    2. なぜ青色申告承認申請が「命」なのか
    3. 社会保険は一人社長でも強制加入
    4. 課税賃料がある場合の追加届出
  10. まとめ:あなたはどっちを作るべきか──2分岐チャートと次の一手
    1. 会社形態 2分岐チャート
    2. 設立前チェックの総括
    3. 器を作った後の”次の一手”
    4. 最後に一言
  11. CTA:作ると決めた方へ、まず”1枚”を手元に

この記事でわかること

  • 株式会社と合同会社は「どちらが節税か」では選べない理由と、正しい選択軸(費用・運営・承継)
  • 合同会社の「社員が死ぬと退社→一人社員は会社ごと解散」という落とし穴と、たった一文で防ぐ会社法608条の使い方
  • 設立費用の実額比較(株式会社 約20〜25万円 vs 合同会社 約6〜10万円)と、認証手数料を1万5,000円に下げる3条件
  • 資本金1,000万円”未満”×決算月=設立直前月で消費税を最大2期免税にする設計
  • 設立後の届出7種を1枚にまとめた期限カレンダー(青色申告承認申請だけは”3か月・1日遅れ”で全滅)

まず結論──株式会社と合同会社、税率はほぼ同じ。差は「費用・運営・承継」の3点だけ

資産管理会社を作るとき、実務上の選択肢は事実上株式会社と合同会社の二択です。どちらを選んでも、出資した人(株主・社員)が背負う責任は出資額までという「有限責任」で共通していますし、税制面でもほとんど差がありません。

  • 法人税・法人事業税・法人住民税を合算した実効税率は、いずれも約33.58%(東京23区・資本金1億円以下の中小法人)
  • 役員報酬を損金(経費)に落として家族へ所得を分散できる仕組みも、両形態でほぼ同じ

つまり、「どちらが節税になるか」という発想は、この場面では最初に捨ててください。器(会社形態)は税額を変えません。器が変えるのは、”渡しやすさ”と”維持費”です。だからこの記事では、税率の話はほとんどしません。

では何で差がつくのか。候補は4つ——設立/維持コスト・社会的信用・機関設計・承継のしやすさです。このうち社会的信用と複雑な機関設計は、大々的に取引や採用をしない資産管理会社では、そこまで重みがありません。実際に効いてくるのは、費用(設立費と毎年の維持費)・運営(重任登記や決算公告といった手間)・承継(渡しやすさ)の3点です。

先に答えを置いておきます。

  • 承継者が1人・純粋に既存資産を管理する器が目的・とにかくコストを抑えたい合同会社(ただし後述する会社法608条の一文が絶対条件)
  • 複数の相続人へ支配権を設計しながら分割承継したい・融資で規模を拡大していく・種類株式を使いたい・対外的な信用を重視する株式会社

迷ったら、承継リスクの少ない株式会社を推す税理士が多数派です。実際、資産管理会社は「株式会社が多い」(木下勇人氏『不動産法人化に関する実務論点整理』)とされ、その最大の理由が承継の柔軟性にあります。この記事では、その”承継の差”を1章ずつ分解していきます。

なお本記事は、親記事「不動産の法人化は本当に得か(全体像・判断基準)」で”法人化すべきか”を判断し終えた方が、「器を決めて実際に作る」ための1論点を掘り下げるものです。「そもそも作るべきか」(課税所得900〜1,200万円の損益分岐、維持コスト年55〜100万円の回収)は、いくらから得か(損益分岐)の記事に譲ります。

※2026年時点の情報です。定款認証手数料の段階制や登録免許税の軽減期限、相場・裁判例は年度で変わります。個別具体的な判断は不動産税務に強い税理士へご確認ください。

【最大の落とし穴】合同会社は”社員が死ぬと退社”──一人社員は会社ごと解散する(会社法607・608・641条)

コストだけを見て「合同会社で作ろう」と決める前に、必ず知っておくべき落とし穴があります。ここを外すと、承継対策のために作った会社が、承継の瞬間に消えます。

社員の死亡は「法定退社事由」

合同会社では、社員(出資者)の死亡が法律で定められた退社事由です(会社法607条)。株式会社の「株式」と違い、合同会社の「持分(社員たる地位)」は、原則として相続人に自動では引き継がれません。相続人が手にするのは、死亡時の純資産に基づく「持分払戻請求権」という金銭債権のみ。つまり「会社の一員になる」のではなく、「出資分を金銭で払い戻してもらう権利」だけが残るのです。

一人社員なら、会社そのものが解散する

問題は、社員が1人しかいない合同会社です。承継の定めがないまま社員が亡くなると、社員が欠けて会社が解散します(会社法641条4号)。不動産を入れた”器”そのものが消えてしまう、最悪のシナリオです。ネットの「合同会社は安い」という情報だけを頼りに作ると、まさにここで詰みます。

回避策はただ一つ、定款の「608条条項」

これを防ぐ方法は唯一です。設立時の定款に、会社法608条の持分承継規定——「社員が死亡した場合等に、その相続人が持分を承継して社員となる」旨の一文——を必ず盛り込むこと。この一文があるかないかが、一人合同会社では「存続か解散か」を分けます。たった一文ですが、その重みは計り知れません。

もう一つの弱点──「1社員1議決権」

合同会社にはもう一つ、支配権のコントロールが効きにくいという弱点があります。合同会社は原則「1社員1議決権(頭数)」で、出資比率と議決権が連動しません。複数の子を社員にすると、出資割合に関係なく子どうしが手を組めば、親が経営権を失うリスクがあります。株式会社の「1株1議決権」とは根本的に違う点です。

ただし、相続税の評価では不利にならない

誤解しないでいただきたいのは、合同会社だから相続税評価で損をするわけではないということです。合同会社の持分も「取引相場のない株式に準じて」評価され、純資産価額方式における含み益に対する法人税相当額37%控除(国税庁タックスアンサーNo.4638)などの圧縮メリットは、株式会社の株式とまったく同様に得られます。評価面での優劣はありません。

だからこそ、判断は「評価がどうか」ではなく、「承継の作りやすさ」に絞られるのです。

経営権と財産権を切り離す「種類株式」は株式会社だけの武器

ここが、株式会社を選ぶ最大の理由です。

株式会社では、株式は当然に相続財産となり、議決権(経営権)と配当受領権(財産権)をそのまま承継できます。親が過半数を握って支配権を維持しながら、複数の子へ段階的・比率を調整しながら分割して承継する——そんな設計を自由に組めます。

「経営権」と「財産権」を分けて渡す

株式会社ならではの道具が種類株式です。これを使うと、「経営権」と「財産権」を切り離して相続人に配れます。

  • 無議決権株式・配当優先株式:後継者に議決権を集中させ、他の相続人には議決権のない代わりに配当を優先的に受け取れる株式を渡す
  • 取得条項付株式:株主が死亡したときに会社が強制的に買い取り、株式の分散を防ぐ
  • 拒否権付株式(黄金株):先代が1株だけ持ち、重要な決議に拒否権を効かせて監督を続ける

合同会社には、こうした道具立てがありません。「分けにくい不動産を、株式という分けやすい単位に変えて渡す」——これが法人化による承継対策の本質であり、それを最も自由に組めるのが株式会社なのです。これが形態選択の最終的な決め手になります。

「1法人集約」より「物件ごとに別会社」

承継の器の設計論として、もう一つ大事な視点があります。推定相続人が複数いるなら、1つの法人にすべての物件を集約するのは避け、物件ごとに会社を分けて、土地・建物1セットで単独承継させるのが定石です。

1つの法人に株式を1/2ずつ持たせると、それは「株式の共有=不動産の共有」と同じで、次の相続でまた紛争の火種になります。共有はいずれ揉めます。すでに1法人に集約してしまっている場合でも、適格分割型分割で会社を2社に分けて兄弟へそれぞれ承継させる手があります。

おまけの実益──代表者が死んでも口座は凍結されない

見落とされがちな実益ですが、法人化しておくと、代表者が死亡しても法人名義の預金口座は凍結されません。個人名義の口座は名義人が亡くなると凍結され、遺産分割が終わるまで動かせなくなりますが、法人口座なら家賃の入金・修繕費の支払い・借入の返済といったキャッシュフローが、遺産分割協議の最中でも止まりません。これは賃貸経営を止めないための、地味ですが大きなメリットです。

承継の設計そのものは、相続・承継・出口(株価引下げ・株式贈与)の記事で深掘りします。

費用と手間を数字で並べる──株式会社 約20〜25万円 vs 合同会社 約6〜10万円、認証1.5万円の3条件

承継の話をしたところで、次はもう一つの選択軸「費用」を数字で並べます。

設立実費の比較(電子定款の場合)

費目 株式会社 合同会社
登録免許税(最低額) 15万円 6万円
定款認証手数料 1.5万〜5万円 0円(認証不要)
定款印紙(電子なら不要) 0円 0円
謄本・証明書等 数千円 数千円
法定費用の合計目安 約20〜25万円 約6〜10万円
司法書士報酬(依頼時) +約10万円前後 +約10万円前後

登録免許税は「資本金×0.7%」と「15万円(合同会社は6万円)」の高い方です。資本金が2,143万円を超えなければ最低額で済むため、資産管理会社ではほぼ最低額と考えて構いません。

司法書士報酬まで含めた総額の目安は、書籍では株式会社30〜40万円/合同会社15〜25万円(青木・松岡・吉田『不動産オーナーのための会社活用と税務』)とされています。

2024年12月改正で、株式会社の認証手数料が下がった

かつて株式会社の弱点は「定款認証手数料が高い」ことでしたが、2024年(令和6年)12月1日の改正で引き下げられました(日本公証人連合会)。資本金額に応じた段階制になっています。

区分 認証手数料
資本金100万円未満 3万円(下記3条件をすべて満たせば1万5,000円
100万〜300万円未満 4万円
300万円以上 5万円

1万5,000円になる3条件は以下のとおりです。

  1. 発起人が全員自然人(個人)で3人以下
  2. 発起人が設立時発行株式の全部を引き受ける旨が定款に記載されている
  3. 取締役会を設置しない

取締役1名・親族少人数で作る資産管理会社は、ほぼこの3条件に該当します。そうすると、小資本の株式会社の実費は約16.5万円まで下がり、合同会社との差はかつてより大きく縮まりました。

ランニング(維持)コストの差

初期費用だけでなく、毎年かかる維持コストにも差があります。

  • 役員の重任登記:株式会社は役員任期が原則2年(最長10年)で、任期満了ごとに重任登記が必要(登録免許税1万円)。合同会社は役員任期がなく、重任登記も不要
  • 決算公告:株式会社は決算公告が義務(官報掲載なら年約6〜8.5万円)。合同会社は不要

運営のシンプルさでは、合同会社が明確に有利です。決算公告も重任登記も不要なので、「既存資産を管理する器」が目的なら合同会社で十分に機能します(近年、管理会社の設立で合同会社が増加傾向——『税経通信』2021年12月号)。

社会的信用と融資

社会的信用は株式会社のほうが高いのですが、資産管理会社は大きな取引や採用をしないため、信用面のハンデは実務上ほとんど効きません。ただし、銀行借入で規模を拡大していく方針なら、融資審査で有利な株式会社が無難です。金融機関がどこを見るかは融資・金融機関対応の記事で詳しく扱います。

現場の結論はこうです。純粋に既存資産を管理する器なら、合同会社で十分。決め手は費用差ではなく、前の2章で見た”承継の差”を飲めるかどうかです。

箱は誰に持たせるか──出資者は子、現金贈与のエビデンスを必ず残す

器の種類が決まったら、次は「誰に持たせるか」です。ここを間違えると、節税のために作った会社が、逆に相続財産を膨らませる装置になります。

出資者は原則、次世代(子・孫)

出資者(株主・社員)は、原則として次世代である子・孫にします。オーナー本人が出資者になると、会社に内部留保が積み上がった分だけ株式の価値が上がり、その上昇分がそのまま本人の相続財産に取り込まれてしまうからです。

木下氏が挙げる典型例では、出資50万円が10年で1,050万円にまで膨張します。所得分散のために作ったはずが、株価上昇で相続財産が20倍超に膨れ上がる——これが「本人が株主になる」失敗の正体です。

現金贈与のエビデンスを必ず残す

とはいえ、子や孫に出資の原資がないことは多い。その場合は、まず現金を贈与してから、その資金で出資させます。このとき欠かせないのが、贈与のエビデンス(証拠)です。

  • 贈与契約書を作成する
  • 通帳の資金移動(親→子への振込記録)を残す

ここを省くと、後で税務署から「これは名義株では?」(=実質は親のお金で、子は名前を貸しているだけ)と疑われる分岐点になります。名義株と認定されれば、その株式は親の相続財産に戻され、法人化の意味が半減します。面倒でも、この一手間は絶対に省かないでください。

本人を役員・株主にすると効果が減殺される

オーナー本人を役員・株主にすると、所得分散・相続対策の効果が減殺される——これは典型的な失敗パターンです(青木・松岡・吉田)。役員報酬を受け取るのは子・孫が望ましく、家族を役員にして報酬を分散すれば、実支出のない給与所得控除も世帯全体で活かせます(勤務実態があり、金額が過大でないことが前提)。役員報酬をいくらに設定するかは節税(役員報酬・社宅・退職金)の記事で詳しく検証します。

なお、合同会社は「出資者(社員)以外を役員にできない」という制約があります。オーナーが業務執行社員として関与するなら、出資額を最低限に抑える工夫が要ります。家族を役員に据えやすさという点でも、株式会社に分があります。

支配権の基礎設計

支配権をどう握るかも設計しておきます。

  • 後継者に普通決議を単独で通せる過半数(1/2超)、できれば特別決議を単独で通せる2/3以上を持たせる
  • 50%対50%のような同数持分は避ける(意思決定がデッドロックする)
  • 株式に譲渡制限を付けて非公開会社にし、勝手な株式移転を防ぐ

最後に注意点を一つ。株式会社は役員に任期があり、12年間まったく登記をしないと「みなし解散」として登記官の職権で解散扱いにされます。重任登記の期限管理を忘れないでください。

資本金は1,000万円”未満”、決算月は”設立直前月”──この2つで消費税を最大2期免税に

ここからは、作ると決めた人が実際に手を動かす実務です。まず「資本金」と「決算月」。この2つの設定だけで、消費税を最大2期分、免税にできます。

資本金は1,000万円”未満”が鉄則

設立事業年度の開始日の資本金が1,000万円以上だと、売上実績のない第1期・第2期でも、消費税の課税事業者になってしまいます(消費税法12条の2)。逆に1,000万円未満なら、原則として設立から2期は免税です。

注意すべきは、均等割(法人住民税の定額部分)の判定は「資本金」ではなく「資本金等の額(資本金+資本準備金など)」で行われること。資本金を999万円に抑えても、資本準備金を積んで合計が1,000万円を超えると、均等割の区分が上がってしまいます(東京都特別区で年約18万円)。資本準備金も含めて1,000万円未満に収めてください。

一方で、資本金1円だと口座開設や融資審査で不利になります。対外的な信用と運転資金を考え、数十万〜数百万円が現実的なラインです。

決算月は”設立直前月末”に置く

消費税の免税は「暦の2年間」ではなく「2事業年度分」です。だからこそ、決算月を設立月の直前月末に置き、第1期をできるだけ長く(約12か月)確保するのが定石です。

  • 良い例:4月設立 → 3月決算。第1期をほぼ12か月確保でき、最大で約24か月の免税
  • 悪い例:4月設立 → 5月決算。第1期が約1か月しかなく、免税期間を大きく損なう

「特定期間」の落とし穴

もう一つ、特定期間という関門があります。前事業年度開始後6か月間の課税売上高と給与支払額が、ともに1,000万円を超えると、2期目から課税事業者になります(消費税法9条の2)。

ただし、居住用の家賃は消費税の非課税売上なので、住宅系の資産管理会社なら通常はセーフです。店舗・事務所テナントや不動産の売買がある場合は要注意で、その場合はあえて第1期を7か月以下に区切って特定期間を発生させないという設計もあります。

細かいけれど効くポイント

  • 税理士繁忙期(11〜5月、特に確定申告の2〜3月)と決算作業が重なる月を避けると、丁寧な決算・節税提案を受けやすい(例:9月決算・11月申告)
  • 決算後2か月で納税資金が必要になる点も加味する
  • 設立日を「1日」にすると均等割が満額、2日以降なら月割になる(設立初月の均等割を少し節約できる)

なお、免税事業者向けのインボイス2割特例は、2026年(令和8年)9月30日を含む課税期間で終了します。2026年に設立する法人ではこの経過措置がほぼ使えないため、課税賃料(テナント・店舗・駐車場など)があるなら、本則課税か簡易課税(不動産業はみなし仕入率40%の第六種)の選択を早めに検討してください。住宅系の器なら、そもそも免税・インボイスの論点は小さくなります。

設立の約4週間タイムライン──電子定款で収入印紙4万円が消える

設定が決まったら、いよいよ設立実行です。全体で約4週間が目安。登記そのものは合同会社で3日程度、株式会社で10日程度ですが、基本事項の決定・印鑑作成・定款認証・払込を含めると4週間みておきます。物件移転や融資交渉まで含む所有型なら、事前準備に1〜3か月みておくと安全です。

工程 主な作業
準備(〜0週) 基本事項の決定 商号・事業目的・本店・資本金・役員・事業年度を確定。会社実印を作成。発起人の印鑑証明を取得
1〜2週 定款作成・認証 定款を作成(電子定款が基本)。株式会社は公証役場で認証(合同会社は認証不要)
2週 資本金の払込 発起人の個人口座へ払込み(会社口座は登記後にしか作れない)。通帳コピーで払込証明書を作成
3週 設立登記申請 本店所在地を管轄する法務局へ申請。申請日=会社設立日
3〜4週 登記完了 登記事項証明書・印鑑カードを取得、法人名義の銀行口座を開設
4週〜 各種届出 税務署・都道府県・市区町村・年金事務所へ期限内に提出

電子定款で収入印紙4万円が丸ごと消える

紙の定款には収入印紙4万円が必要ですが、印紙税は「紙の定款」にのみ課税されるため、電子定款にすれば4万円がまるごと不要になります。自作には電子証明書などが要るので、司法書士に電子定款で作成依頼するのが一般的です。

事業目的と商号の注意

  • 事業目的:「不動産の保有、賃貸、管理及び売買」を基本に、「前各号に附帯又は関連する一切の事業」というバスケット条項を添えるのが基本形。ただし、反復継続して売買・仲介を行うと宅地建物取引業免許が別途必要になるため、自己所有物件の賃貸のみなら、安易に「宅地建物取引業」と書かない配慮が要ります
  • 商号:同一所在地の同一商号は登記できません。また、大手不動産会社などの著名な商号・登録商標に類似すると不正競争防止法・商標権のリスクがあるため、登記情報とJ-PlatPat(商標)で事前確認します

登記の必要書類(株式会社の例)

登記申請書、登録免許税納付用台紙、定款、発起人の決定書、設立時取締役・代表取締役の就任承諾書、設立時取締役の印鑑証明書、払込証明書(+通帳写し)、印鑑届出書、「登記すべき事項」を記載した書面またはCD-R。合同会社は就任承諾書などが簡素で、書類が少なくなります。

節約ポイント──特定創業支援等事業

市区町村の特定創業支援等事業の証明を受けると、登録免許税が半額になる特例があります(株式会社7.5万円・合同会社3万円)。設立前にお住まいの自治体の制度を確認する価値は十分にあります。

【保存版】設立後の届出7種を1枚のカレンダーに──青色申告は”3か月・1日遅れ”で10年分が全滅

登記が終わったら、期限のバラバラな届出をまとめて同時提出するのが鉄則です。とりわけ危険なのが青色申告承認申請。他の届出は多少遅れても取り返しがつきますが、これだけは1日遅れると取り返せません。

設立後の届出7種・期限カレンダー

# 届出書 提出先 期限 ポイント
法人設立届出書 税務署 設立から2か月以内 法人税法148条。定款の写し等を添付
青色申告承認申請書 税務署 設立後3か月経過日と第1期末のいずれか早い日の前日 最重要。1日でも遅れると初年度が白色に。欠損金の10年繰越・30万円未満少額資産の即時償却が全滅
給与支払事務所等の開設届出書 税務署 開設から1か月以内 役員報酬を払う一人社長でも必要
源泉所得税の納期の特例申請書 税務署 随時(常時10人未満) 毎月納付を年2回(7/10・翌1/20)に集約できる
棚卸資産評価方法・減価償却方法の届出書 税務署 第1期確定申告期限まで 任意。届出がないと法定の方法が適用される
法人設立・設置届 都道府県・市区町村 自治体で異なる(東京都15日以内/千葉県1か月/大阪府2か月) 国税より短い期限に注意。東京23区内は都税事務所のみ
健康保険・厚生年金 新規適用届 年金事務所 事実発生から5日以内 +資格取得届・被扶養者異動届。一人社長でも強制加入

なぜ青色申告承認申請が「命」なのか

②の青色申告承認申請書だけは、期限を「3か月経過日」と「第1期末」の早い方の前日と覚えてください。ここを1日でも過ぎると、初年度が自動的に白色申告になります。すると、

  • 欠損金(赤字)の10年繰越が使えない
  • 30万円未満の少額資産の即時償却(少額減価償却資産の特例)が使えない

設立初年度は設立費用や移転コストで赤字になりがちです。その赤字を10年間繰り越して将来の黒字と相殺できるのが青色申告の最大の武器なのに、たった1日の遅れでそれが全滅します。だから私は顧問先に、「設立日の翌日に、この7枚をひとまとめにして机の上に置け」と伝えています。他は取り返せても、青色の3か月だけは取り返せません。

社会保険は一人社長でも強制加入

⑦の社会保険(健康保険・厚生年金)は、社長1人だけの会社でも加入が強制です。押さえるべきポイントは以下です。

  • 未加入が発覚すると、最大2年遡及して保険料+延滞金を徴収される
  • ただし役員報酬0円だと、そもそも被保険者になれない(加入したくてもできない)
  • 負担は本人と会社の労使折半で、概算では月額役員給与30万円につき月8.5万円程度。40歳以上はさらに介護保険料が上乗せ

この社会保険料は「第二の税金」として法人化の節税効果を相殺しかねないため、役員報酬の額とセットで最適化する必要があります。詳しくは法人化のデメリット・向かない人節税(役員報酬・社宅・退職金)の記事をご覧ください。

課税賃料がある場合の追加届出

店舗・事務所など課税賃貸物件の建物取得で消費税還付を狙う場合のみ、消費税課税事業者選択届出書を初年度に提出します(3年縛りに注意)。また、テナント・店舗・駐車場など課税売上がある場合は、インボイス登録の要否を判断します(居住用家賃は非課税なので通常は不要)。

まとめ:あなたはどっちを作るべきか──2分岐チャートと次の一手

長い保存版でしたので、最後に判断を1枚に凝縮します。

会社形態 2分岐チャート

  • 【承継者が1人・器目的・コスト最小】 → 合同会社
    (定款に会社法608条の持分承継規定を必ず追加。この一文がないと社員死亡=退社→一人社員は会社ごと解散)
  • 【複数相続人へ支配権を設計しつつ分割承継・融資で規模拡大・種類株式を使いたい・対外信用重視】 → 株式会社
  • 迷ったら → 承継リスクの少ない株式会社を推す税理士が多数派

繰り返しになりますが、税率など税制上の実質的な差はほとんどありません。違いは費用・運営・承継の柔軟性です。「分けにくい不動産を、株式(持分)という単位に変えて渡す」という法人化の本質を最も自由に組めるのが株式会社である——これが最終的な決め手です。

設立前チェックの総括

作ると決めたら、まず次を揃えます。

基礎資料9点:確定申告書3年分/固定資産台帳/固定資産税の課税明細(直近)/返済予定表(直近)/保証人情報/不動産登記簿謄本/部門別P/L(物件ごとの損益)/(既存法人があれば)商業登記簿・定款・提出済届出書。

基本事項6項目:①会社形態(2分岐チャートで決定)②資本金1,000万円未満(資本準備金含む)③決算月=設立直前月末④事業目的(不動産の保有・賃貸・管理及び売買+バスケット条項)⑤商号(同一所在地・著名商号を回避)⑥出資者=次世代・現金贈与のエビデンスを残す。

器を作った後の”次の一手”

会社という器ができたら、次はそこに何を、どう入れるかです。

そして最初に立ち返るべきは、法人化の全体像・判断(親記事)です。「そもそも自分は法人化すべきか」からもう一度確かめたい方は、いくらから得か(損益分岐)へ戻ってください。

最後に一言

机上のスキームなら、書籍やネットでいくらでも学べます。しかし、税務署が最後に見るのは”現場”です。定款に608条の一文を入れ、届出を期限内に出し、子への出資に贈与のエビデンスを残す——こうした地味な実務の積み重ねが、後々の否認や争族から会社を守ります。私は税理士 × 宅建士として、そして自社で賃貸管理を行う当事者として、器を作った後の”実態づくり”まで一貫して伴走できる立場から、この記事を書いています。


CTA:作ると決めた方へ、まず”1枚”を手元に

① 無料ダウンロード:「設立日の翌日に机へ置く 届出7種チェックリスト(提出先・期限入り1枚)」+「会社形態 2分岐チャート」を配布しています。届出漏れと形態の選び違いを、この2枚で防いでください。

② 無料30分オンライン相談:会社形態の選定、決算月の逆算(免税最大化)、合同会社の定款608条条項の要否診断まで、実行前の疑問をその場で解消します。

③ Note(有料):「資産管理会社 設立実務パック(保存版テンプレ集)」——合同会社の”社員死亡=退社”を防ぐ会社法608条の定款文例、届出7種の記入例と提出先マップ、決算月を免税最大化から逆算する設計シート、子への出資を名義株と疑われないための贈与契約書・通帳エビデンス雛形、株式会社/合同会社の多年度コスト比較表を収録。

④ YouTube「地主のための相続」:「”社員が死ぬと会社が消える”合同会社の落とし穴」——会社法607/608/641条をホワイトボードで実演し、青色申告”3か月・1日遅れ”で欠損金10年繰越が全滅する事例を電卓で見せます。

※本記事は2026年時点の情報に基づきます。定款認証手数料の段階制、登録免許税の軽減期限、社会保険料率などは年度で変わります。実行時点の最新基準を公証役場・法務局・国税庁・年金事務所で必ず確認し、個別具体的な判断は不動産税務に強い税理士へご確認ください。


この記事を書いた人

税理士 × 宅地建物取引士 × 自社で賃貸管理を行う現役の不動産オーナー。相続・不動産法人化を専門とし、机上の理論ではなく「自分で物件を持ち、自分で回している」当事者の視点で、地主・不動産オーナーの資産と承継を守る実務を発信しています。設立の器選びから、移転・融資・管理料の実態づくり、そして相続・出口設計まで、税務と現場の両面から一貫して伴走します。

免責事項
本記事は、不動産オーナー・個人事業主の方に向けた一般的な情報提供を目的として、税理士でもある筆者が執筆・監修しています。掲載内容は執筆時点の法令等に基づく一般的な解説であり、正確性・完全性を保証するものではなく、個別の税務・法務上の判断を行うものではありません。実際の申告・手続き・ご判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。本記事の情報を利用したことにより生じたいかなる損害についても、責任を負いかねます。
不動産法人化
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