個人⇒法人への不動産譲渡の手続きを解説

procedure for transferring real estate

「不動産を法人に売る場合ってどんな手続きが行われるの?」「普通の不動産売買とは違うの?」——こうした疑問を持つオーナーの方は多いです。

個人で所有している不動産を自身のオーナー法人に譲渡する手続きは、一般的な不動産売買とは異なるポイントがいくつかあります。税理士×不動産オーナーとして、実際に何度もこの手続きをサポートしてきた経験をもとに、具体的な手続きの流れと注意点を徹底解説します。


全体の流れ——5つのステップ

まず全体像を把握しましょう。個人から法人への不動産譲渡は、以下の5ステップで進みます。

ステップ内容所要期間の目安
売買の意思決定・査定・検討1〜3ヶ月
書類の作成(契約書・議事録)1〜2週間
融資の段取り2〜4週間
登記手続き(決済・名義変更)1〜2週間
事後処理(入居者連絡・口座変更等)1〜2週間

全体で2〜4ヶ月程度が一般的です。では各ステップを詳しく見ていきましょう。


ステップ①:売買の意思決定——最も時間をかけるべき工程

不動産譲渡を行う場合には、必ず事前にメリット・デメリットを比較して、しっかりと検討しましょう。不動産は一度名義を変えてしまうと簡単には戻せません。

⚠️ 注意

この査定・検討こそが最も時間をかけるべき工程です。「なんとなく法人にした方が得らしい」という曖昧な動機で進めると、譲渡所得税・不動産取得税・登録免許税などの費用が想定以上にかかり、「やらなければよかった」と後悔するケースがあります。

法人譲渡前のチェック事項

チェック項目内容確認先
税金のシミュレーション譲渡所得税・不動産取得税・登録免許税の試算税理士
売買価格の決定税務署に指摘されない適正価格(時価)の算定不動産鑑定士・税理士
譲渡費用の見積もり司法書士報酬・印紙税・仲介手数料等司法書士
法人の資金計画購入資金の調達方法(融資or自己資金)銀行
長期的な税メリット法人税率vs所得税率の比較、減価償却の再スタート税理士

💡 ポイント

売買価格は「時価」で行うことが大前提です。時価より著しく低い価格で法人に売ると「低額譲渡」として、個人側に時価で売ったものとみなして課税されたり、法人側に受贈益が発生したりします。不動産鑑定士の鑑定評価書を取得するか、最低でも固定資産税評価額や路線価をベースにした根拠のある価格設定が必要です。


ステップ②:書類の作成

不動産を売買する場合には証拠書類として書面を作成します。銀行融資や登記手続きにも必要なので、必ず作成しましょう。具体的には「売買契約書」と「株主総会議事録」が必要です。

売買契約書の作成

社長=株主のオーナー法人に不動産を売却する場合、当事者が同じでトラブルは起きにくいため、そこまで細かい条項に気を遣う必要はありません。インターネットから売買契約書のひな形をダウンロードして、金額・支払方法・日付・両者の署名捺印が確認できれば問題ありません。

💡 ポイント

同族間の不動産売買に不動産仲介会社を入れる必要はありません。むしろ正式に仲介を依頼すると重要事項説明などの手間が増えます。ただし、懇意にしている不動産会社があれば、売買契約書の作成を手伝ってもらうのは良い判断です。

ただし、株主が別途いる場合や関係者が複数いる場合には、トラブル防止のために特約条項を設定しましょう。

株主総会議事録(利益相反取引の承認)

株主(=社長本人)がオーナー法人に不動産を売買する場合、会社法上、株主総会の承認を受ける必要があります。具体的には「利益相反取引承認の件」という議題の株主総会議事録を作成します。

簡単に言うと、「法人にちゃんとした値段で売ってます?それって株主も賛成してますか?」を確認する書類です。オーナー法人だと社長=株主なので形式的ではありますが、会社法で定められた手続きなので必ず書類を作成してください。

契約時にかかる印紙税

契約金額印紙税額
500万円超〜1,000万円以下5,000円
1,000万円超〜5,000万円以下10,000円
5,000万円超〜1億円以下30,000円
1億円超〜5億円以下60,000円

ステップ③:融資の段取り

現金一括や分割払いが可能であれば不要ですが、多くの場合、不動産の譲渡は金額が大きくなるため銀行からの融資を利用します。

銀行との交渉ポイント

  • 返済期間と金利:複数の銀行に相談して条件を比較しましょう。同族間売買は銀行によって融資姿勢が異なります。
  • 決済の方法:一般的な売買は売主と買主が銀行に集まって融資と決済を同時に行いますが、同族間の場合は書類のみのやり取りになることもあります。
  • 担保設定:銀行融資を受ける場合、対象不動産に抵当権を設定します。既存の抵当権がある場合は抹消が前提条件になります。

⚠️ 注意

同族間売買(個人→自分の法人)に対して融資を渋る銀行もあります。「なぜ法人に移すのか」「事業計画はどうなっているか」を論理的に説明できるよう、税理士と一緒に事前に資料を準備しておきましょう。


ステップ④:登記手続き(決済・名義変更)

銀行融資を受ける場合は抵当権の設定も必要になるため、司法書士に依頼して登記手続きを行います。銀行からの融資実行・売買代金の支払い・登記手続きが同時に行われます。

登記にかかる費用

費用項目目安備考
登録免許税(所有権移転)固定資産税評価額×2%土地は軽減税率1.5%の場合あり
登録免許税(抵当権設定)借入金額×0.4%融資を受ける場合のみ
司法書士報酬5〜15万円物件数・複雑さにより変動
不動産取得税固定資産税評価額×3〜4%登記後3〜6ヶ月後に納税通知が届く

💡 ポイント

銀行融資を受けない場合は、自分で法務局に登記申請することも可能です。少し手間はかかりますが、複数物件の譲渡を予定している場合は経験として一度やってみるのも良いでしょう。法務局の窓口で事前相談もできます。


ステップ⑤:事後処理——賃貸物件の場合

登記が完了したら、賃貸物件の場合は以下の事後処理が必要です。

入居者・管理会社への連絡

物件オーナーの名義が個人から法人に変わるため、入居者への連絡を行いましょう。法律上の義務ではありませんが、更新時にいきなり名義が変わっていると入居者が驚きます。「オーナー変更のご挨拶」という内容の手紙を各入居者に送付するのが一般的です。

💡 ポイント

すぐに入居者全員分の契約書を作り直す必要はありません。ただし、新しい契約書や請求書は新オーナー(法人)名義で行う必要があるため、管理会社には必ず事前に連絡を入れておきましょう。次回の更新時に法人名義の契約書に切り替えればOKです。

敷金の移管

入居者から預かっている敷金は、個人の預り金から法人の預り金に変わります。売買代金とは別に、個人口座から法人口座へ敷金相当額を移しましょう。これを怠ると、退去時の敷金返還で困ることになります。

入出金口座の変更

変更項目連絡先注意点
家賃の入金口座管理会社 or 入居者法人口座への振込先変更を依頼
水道光熱費の支払口座電力会社・水道局等共用部分の光熱費を法人引落に変更
火災保険保険会社契約者名義を法人に変更(またはか新規契約)
固定資産税の納税義務者市区町村(自動変更)登記変更後、翌年から法人宛に届く

⚠️ 注意

物件を売却した日以降の賃貸収入は法人の利益になります。個人の不動産所得と法人の収益を明確に区分する必要があるため、税理士への連絡は売却前に済ませておきましょう。確定申告・法人決算の両方に影響します。


法人譲渡にかかる税金の全体像

税理士として最も相談を受けるのが、「結局いくら税金がかかるの?」という質問です。

税金の種類負担者課税タイミング概要
譲渡所得税(所得税・住民税)売主(個人)売却年の確定申告時売却益に対して課税(所有5年超:約20%、5年以下:約39%)
不動産取得税買主(法人)登記後3〜6ヶ月固定資産税評価額×3〜4%
登録免許税買主(法人)登記申請時固定資産税評価額×2%
印紙税売主・買主契約書作成時契約金額に応じた印紙を貼付

まとめ

個人から法人への不動産譲渡の手続きは、1つ1つは意外と難しいものではありません。流れをまとめると以下の通りです。

  1. 意思決定:メリット・デメリットを徹底比較し、適正な売買価格を決定
  2. 書類作成:売買契約書と株主総会議事録を作成
  3. 融資手続き:銀行と交渉し、融資条件を確定
  4. 登記手続き:司法書士に依頼して名義変更と抵当権設定
  5. 事後処理:入居者連絡、敷金移管、口座変更、税理士連絡

最も重要なのは、ステップ①の意思決定です。法人への不動産譲渡によるメリット(法人税率の活用、減価償却の再スタート、相続対策等)とデメリット(譲渡にかかる各種税金・費用)をしっかりシミュレーションし、長期的に見て本当に得になるかを確認してから進めてください。

不動産に強い税理士に相談すれば、税金のシミュレーションから手続きのサポートまで一貫して対応できます。


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