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ローンが残る物件は、銀行の同意なしに会社へ移せない

法人化の試算がどれだけ丁寧でも、ローンの残っている物件は、銀行の承諾なしには動かせません。登記の名義だけを書き換える方法は、融資が付いた物件には使えません。

実質は、個人の借入をいったん返して、会社が新しく借り直す取引です。その仕組みと、承諾を取らずに動かしたときに何が起きるか、団体信用生命保険がどうなるかを順に説明します。

この記事でわかること
  1. 01
    名義変更では移せない。会社が3ステップで借り直す
  2. 02
    承諾なしに動かすと、残債の一括返済を求められる
  3. 03
    登記のかたちで、登録免許税が変わる
  4. 04
    団体信用生命保険は、借りている本人に付いている
  5. 05
    銀行は決算書のどこを見るか。保証を外す要件が3つある

1. 名義変更では移せない。会社が3ステップで借り直す

抵当権とは、担保に入れた不動産から、ほかの債権者に先立って返済を受けられる権利です(民法369条)。担保になっている不動産の所有者が、貸し手の知らないうちに変わると、この前提が崩れます。だから融資契約には、担保の不動産を処分するときは事前に承諾を得る、という条項が置かれます。

融資が残っている物件を会社へ移すときの、お金の流れ

実質は売買と、新しい融資の組み合わせです

1会社が銀行から借りる会社としての新しい融資で、個人の借入をそのまま引き継ぐわけではない
2会社が代金を払い、個人が完済する個人は受け取った代金で残債を全額返し、抵当権を消す
3会社の借入に抵当権を付ける融資の実行、代金の支払い、抹消と設定の登記は、同じ日に行います

この3つのどこかで止まると、移転そのものが実行できません。次の4か所で詰まりやすいです。

残債が、売る値段を上回る

家の模型の横に、家より背の高い借用書の束が立っている線画

建物だけを帳簿の価額で移すと、代金は帳簿の価額どまりです

問題借入の残高がそれより多ければ、差額を個人が自分で用意しないと完済できません。

繰上返済に費用がかかる

無地の返済予定表の上にハサミが置かれている線画

一括で返すときの手数料や違約金が、契約で決まっていることがあります

やり方金額は商品と時期で違います。返済予定表と契約書で確かめます。

建物が古い

外壁にひびの入った古びたアパートの模型の線画

会社が借りるときの担保評価が伸びません

問題残債をカバーできる融資が組めなければ、移転そのものが成り立ちません。

共同担保が付いている

家の模型2つが1本の鎖で結ばれ、中央の南京錠だけが金茶の線画

複数の物件で1つの融資を担保しています

やり方どれを外してどれを残すかを、銀行と調整します。

2. 承諾なしに動かすと、残債の一括返済を求められる

期限の利益を失う

細い鎖がひと巻きされた家の模型と、下がった南京錠の線画

30年で返せばよいという立場を、失います

問題期日まで払わなくてよいという借り手の利益を、期限の利益といいます(民法136条)。担保を減らしたときなどに失います(民法137条)。加えて借入契約には、承諾なく担保の不動産を譲渡したときを喪失の事由に挙げる条項が置かれます。

注意失うと、残っている借入の全額を一度に返すよう請求されうる状態になります。名義を移せば必ず請求されるとも、されないとも言えません。手元の契約書を読み、該当しそうなら動かす前に相談する。それ以外に確かめる方法はありません。

解決移転を検討し始めたら、税理士への相談と同じかそれより早く、取引銀行に話を通します。連帯保証人がいれば、保証人にも影響が及びます(民法458条の3)。

3. 登記のかたちで、登録免許税が変わる

登記の種類課税標準税率・税額
抵当権の設定債権金額1,000分の4
登記事項の変更(債務者の変更など)不動産の個数1個につき1,000円
登記の抹消不動産の個数1個につき1,000円

抵当権をいったん抹消して新しく設定し直すなら、5,000万円を借りれば登録免許税は20万円です。既にある抵当権を残して、債務者を個人から会社へ変更する登記で足りるなら、1,000円の区分です。ただし、その形を取れるかは銀行と登記の判断によります。所有権の移転そのものにかかる登録免許税と不動産取得税は、これとは別です(登録免許税法別表第一)。

4. 団体信用生命保険は、借りている本人に付いている

団信は引き継がれない

金茶の帯の保険証券の隣に人の駒があり、離れた会社ビルの模型には何も付いていない線画

個人の借入が終わると、団信も役目を終えます

理由団信は、その借入をしている個人が被保険者です。会社の新しい借入に、同じ保障が自動で引き継がれることはありません。

注意個人で借りていたときに万一に備えられていた部分が、法人化で外れます。生命保険で埋めるかどうかを、ここで考えます。

会社の借入が保険金で消えると、利益になる

点線で消えかけた借用書の隣に、硬貨の山がある線画

現金は入らないのに、課税所得だけが立ちます

問題会社の借入に保障を付ける商品もありますが、借入が保険金で消えれば、消えた債務の分は会社の収益として扱われます(法人税法22条2項)。

解決会社を受取人とする生命保険で備える設計もあります。保険料をどこまで損金にできるかは契約の時期と解約返戻率で変わるので、契約の前に税理士に確かめます。

自宅は、個人に残すことが多いです。個人が持つ自宅の敷地には小規模宅地等の特例(330㎡まで8割減)があり、売るときにも3,000万円の特別控除があります。収益物件と自宅を同じ扱いで考えないことです(「自宅の土地が最大8割減」)。

5. 銀行は決算書のどこを見るか。保証を外す要件が3つある

決算書で見られる点は4つある

電卓と、開いた無地の帳面が机に並んでいる線画

利益、返済にかかる年数、自己資本、手元の現預金

やり方利益が何期続いているか。利益と減価償却費で借入を何年で返せる計算か。債務超過になっていないか。毎月の支払いに対して現預金がどれだけあるか。基準の数字は銀行ごとに違い、公表もされていません。

注意役員貸付金や使途のはっきりしない仮払金があると、必ず聞かれます。会社と個人のお金を混ぜないことです。

節税と与信は、同時に最大化できない

天秤の左に家の模型、右に書類の束が載っている線画

利益を消した決算書は、返済力の乏しい会社に見えます

理由経費を積んで利益を消せば法人税は減りますが、次の融資の場面では不利です。買い増す予定があるなら、利益を残して納めるほうが結果的に得なことがあります(「会社の節税は、税額ではなく手取りで決める」)。

法人にすれば有限責任だから安全、とはなりません。中小企業の借入では代表者の連帯保証を求められることが多いです。見直す枠組みが「経営者保証に関するガイドライン」で、要件は3つです。会社と経営者の資産・お金のやりとりが明確に分かれていること、会社だけの収益力で返済できること、銀行に財務情報を適時に開示していることです。法的な拘束力はなく、外すかどうかは銀行の判断です。何を整えれば交渉できるようになるかは、この3行に書かれています。

まとめ

要点

まず、今日できること

  1. 物件ごとに、借入の残高、担保の範囲、繰上返済の条件を返済予定表と契約書で確かめます
  2. 契約書の「期限の利益の喪失」の条項を読み、担保の譲渡が挙がっているかを見ます
  3. 取引銀行に、会社へ移す場合の扱いを聞きます。税理士より先でよいです

次に読む:法人に移すのは建物だけ。土地は個人に残す個人から法人へ不動産を移す手続き

出典

※確認日:2026年9月3日。期限の利益の喪失事由、繰上返済の費用、担保の扱いは、契約ごとに違います。本記事は一般的な書かれ方を説明したもので、個々の契約の結論を示すものではありません。物件を動かす前に、契約書を手元に置いて取引銀行に相談し、税務は税理士、登記は司法書士にご確認ください。

公開 2026.07.19 / 更新 2026.09.07 不動産法人化 筆者:宍倉奎次郎(税理士・宅地建物取引士・大家)
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不動産法人化の12工程

工程7 融資・既存借入を処理する

残債のある物件は、銀行の合意なしに動かせません。ここが実務で一番止まる場所です。

この記事は 相続手続き STEP 4「相続するか、放棄するかを決める」 でも紹介しています。

12工程の全体像を見る

「不動産法人化」の入口は2つあります

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宍倉奎次郎
税理士・宅地建物取引士・大家
宍倉 奎次郎

税理士・宅地建物取引士。自身も賃貸物件を持つ大家の立場から、法人化・相続・不動産管理まわりの税務を、制度と判例にもとづいて解説しています。記事内の事例はすべて架空のモデルケースです。制度・税率・判例は年度で変わります。個別具体的な判断は、不動産税務に強い税理士へご確認ください。

工程5 建物を移す法人に移すのは建物だけ。土地は個人に残す 工程9 回す(運用・実態づくり)身内の会社に払う管理料は、率ではなく仕事の実態で決まる
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