個人で持っている賃貸物件を会社へ移すとき、実務では土地と建物をまとめて売りません。土地は個人に残したまま、建物だけを会社に売ります。
土地と建物で税金の重さがまるで違うからです。そして建物だけを移すと、個人の土地の上に会社の建物が建つ状態になります。その理由と、土地の貸し借りをどう整えるかを説明します。
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1. 会社には、土地ではなく家賃を移す
建物

建物が家賃を生みます。名義が会社になれば、家賃は会社の売上になります
理由法人化の目的は、家賃を受け取る側を個人から会社に移すことです。建物の名義が会社になれば、それで目的は達せられます。
土地

個人に残します。動かす必要がありません
理由動かす必要がないものを動かせば、そのぶん税金と費用がかかります。だから実務は建物だけに絞ります。
2. 土地を動かすと、税金が重くなる理由が3つある
買った値段を証明できない

分からないと、売った額の5%が取得費になります
問題先祖からの土地は、購入時の契約書が残っていないことがほとんどです。取得費が分からないと、売った金額の5%を取得費とし、残りの95%が利益として課税されます(租税特別措置法31条の4)。
土地は帳簿の価額が下がらない

建物は償却で下がり、土地は買った値段のままです
理由建物は減価償却で帳簿の価額が下がるので、その額に近い価格で売れば利益はあまり出ません。土地は減価償却しないので、値上がりした分がそのまま利益になります。
移すときの税が評価額に比例する

不動産取得税も登録免許税も、評価額が大きいほど重くなります
理由どちらも固定資産課税台帳の価格をもとに計算します(地方税法73条の13、登録免許税法附則7条)。土地の評価額は建物より大きいことが多く、移す費用がふくらみます。
3. 土地を会社に持たせると、相続でも不利になる
株の評価方法が変わることがある

会社の資産に土地が多いと、評価が下がりにくい方式になります
問題会社の資産に占める土地の割合が高いと、土地保有特定会社に当たり、規模にかかわらず純資産価額方式で評価されます(財産評価基本通達189)。
解決土地を個人に残せば、会社の中の土地の割合を上げすぎずに済みます。
小規模宅地等の特例が使えない

個人が持つ土地のための制度です
問題相続財産に含まれる宅地が対象なので、会社名義の土地には使えません。
解決土地を個人に残せば、貸付事業用の土地として200㎡まで5割減を使う余地が残ります(租税特別措置法69条の4)。
4. 建物だけ移すと借地権の課税が出てくる。整理の仕方は2つある
建物の名義が会社に変わると、会社は個人の土地を借りて建物を持っている状態になります。権利金をやりとりする慣行のある地域で、権利金を払わずに借りると、会社が借地権をただでもらったものとして扱われます。これが権利金の認定課税です。避ける方法は2つあります。
相当の地代を払う

土地の更地価額の、おおむね年6%です
注意会社が毎年この額を払い続けると、家賃を会社へ移した意味が薄れます。資産管理会社ではあまり使われません。
無償返還の届出書を出す

「将来、土地は無償で返す」と契約書に書いて、税務署へ届け出ます
やり方個人と会社の連名で、会社の税務署へ出します(法人税基本通達13-1-7)。資産管理会社では、これがほぼ標準です(「土地の無償返還の届出書を出さないと、会社に税金がかかる」)。
注意先に土地の賃貸借契約を結び、無償で返す旨を契約書に書いておく必要があります。届出書を出しても、地代が相当の地代より少ないときは、差額を贈与したものとして扱われることがあります。
5. 届出を出し、地代を取れば、土地は8割の評価になる
賃貸借にして、届出を出す

相続のとき、土地は自用地の価額の80%で評価されます
やり方届出書が出ていれば、会社側に借地権という財産は立たず、個人の土地は自用地の価額の80%で評価されます(昭和60年直資2-58)。
注意外れた20%は消えません。同族会社に貸している場合、その分は会社の株の評価に取り込まれます(昭和43年直資3-22)。土地だけ見て2割減ったと考えないことです。
ただで貸す(使用貸借)

届出書を出していても、評価は下がりません
注意条件は書類を出したことではなく、賃貸借の実態があることです。地代を決めたら、会社の口座から個人の口座へ毎月入金し、記録を残します。
例移す前から、貸家の土地は貸家建付地として評価が下がっています。移した後の80%と、移す前の評価のどちらが低いかは、借地権割合で変わります。並べて比べます。
建物を移す前に片づける
逆にすると移したあとでやり直しになります
そのあと、売買契約、所有権移転登記、土地の賃貸借契約、無償返還の届出書の順に進めます。
まとめ
- 会社には家賃を移したいだけで、建物の名義が会社になれば足ります
- 土地を動かすと、取得費が5%になり、帳簿の価額が下がらず、移す税が評価額に比例して重くなります
- 土地を会社に持たせると、株の評価方法が変わり、小規模宅地等の特例も使えません
- 建物だけ移すと借地権の課税が出るが、相当の地代か無償返還の届出書で整理します
- 届出を出して地代を取れば土地は8割評価になるが、ただで貸すと下がらず、効果が出るまで3年かかります
まず、今日できること
- 物件ごとに、土地と建物の固定資産税評価額を課税明細書で確かめます
- 建物の未償却残高を、確定申告書の減価償却の明細で確かめます
- 土地を買ったときの契約書があるかを探します
出典
- 所得税法59条(みなし譲渡)、所得税法施行令6条(減価償却資産の範囲)・169条、所得税基本通達59-3
- 租税特別措置法31条の4(概算取得費)、69条の4(小規模宅地等の特例)
- 地方税法73条の13・73条の21(不動産取得税の課税標準)、登録免許税法附則7条
- 法人税基本通達13-1-2(相当の地代)、13-1-7(土地の無償返還に関する届出)
- 国税庁「相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて」(昭和60年直資2-58)、「相当の地代を収受している貸宅地の評価について」(昭和43年直資3-22)
- 財産評価基本通達26(貸家建付地)、185(純資産価額)、189・189-4(特定の評価会社)
- 国税庁タックスアンサー No.3258(取得費が分からないとき)、No.5730(権利金の認定課税)、No.5732(相当の地代)
※確認日:2026年9月3日。本記事は一般的な仕組みを説明するもので、個別の税務・法務相談ではありません。地代の水準、建物の売買価額、届出書の要否は、土地の評価額と契約の内容で変わります。実行の前に、税理士と司法書士にご確認ください。
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