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法人に移すのは建物だけ。土地は個人に残す

個人で持っている賃貸物件を会社へ移すとき、実務では土地と建物をまとめて売りません。土地は個人に残したまま、建物だけを会社に売ります。

土地と建物で税金の重さがまるで違うからです。そして建物だけを移すと、個人の土地の上に会社の建物が建つ状態になります。その理由と、土地の貸し借りをどう整えるかを説明します。

この記事でわかること
  1. 01
    会社には、土地ではなく家賃を移す
  2. 02
    土地を動かすと、税金が重くなる理由が3つある
  3. 03
    土地を会社に持たせると、相続でも不利になる
  4. 04
    建物だけ移すと借地権の課税が出てくる。整理の仕方は2つある
  5. 05
    届出を出し、地代を取れば、土地は8割の評価になる

1. 会社には、土地ではなく家賃を移す

建物

両手が家の模型をそっと持ち上げて移している手元の線画

建物が家賃を生みます。名義が会社になれば、家賃は会社の売上になります

理由法人化の目的は、家賃を受け取る側を個人から会社に移すことです。建物の名義が会社になれば、それで目的は達せられます。

土地

何も建っていない四角い土地の区画の線画

個人に残します。動かす必要がありません

理由動かす必要がないものを動かせば、そのぶん税金と費用がかかります。だから実務は建物だけに絞ります。

2. 土地を動かすと、税金が重くなる理由が3つある

買った値段を証明できない

古びて色あせ、上のほうが消えかけた契約書の束の線画

分からないと、売った額の5%が取得費になります

問題先祖からの土地は、購入時の契約書が残っていないことがほとんどです。取得費が分からないと、売った金額の5%を取得費とし、残りの95%が利益として課税されます(租税特別措置法31条の4)。

土地は帳簿の価額が下がらない

家の模型は点線で消えかけ、土地の区画だけがくっきり描かれた線画

建物は償却で下がり、土地は買った値段のままです

理由建物は減価償却で帳簿の価額が下がるので、その額に近い価格で売れば利益はあまり出ません。土地は減価償却しないので、値上がりした分がそのまま利益になります。

移すときの税が評価額に比例する

紐で綴じた無地の書類の綴りの上に会社ビルの模型が載っている線画

不動産取得税も登録免許税も、評価額が大きいほど重くなります

理由どちらも固定資産課税台帳の価格をもとに計算します(地方税法73条の13、登録免許税法附則7条)。土地の評価額は建物より大きいことが多く、移す費用がふくらみます。

建物なら帳簿の価額で移せる、と単純には言えません。時価の2分の1に満たない額で会社に売ると、時価で売ったものとみなされます(所得税法59条1項)。同族会社が相手なら、2分の1以上でも時価に直されることがあります。償却が進んで帳簿の価額が数万円になった建物を、その額のまま移すことはできません(「個人から法人へ不動産を移す手続き」)。

3. 土地を会社に持たせると、相続でも不利になる

株の評価方法が変わることがある

大きな土地の区画の上に、小さな会社ビルの模型がひとつ載っている線画

会社の資産に土地が多いと、評価が下がりにくい方式になります

問題会社の資産に占める土地の割合が高いと、土地保有特定会社に当たり、規模にかかわらず純資産価額方式で評価されます(財産評価基本通達189)。

解決土地を個人に残せば、会社の中の土地の割合を上げすぎずに済みます。

小規模宅地等の特例が使えない

家の模型の足元の小さな一角だけが金茶の土地の線画

個人が持つ土地のための制度です

問題相続財産に含まれる宅地が対象なので、会社名義の土地には使えません。

解決土地を個人に残せば、貸付事業用の土地として200㎡まで5割減を使う余地が残ります(租税特別措置法69条の4)。

4. 建物だけ移すと借地権の課税が出てくる。整理の仕方は2つある

建物の名義が会社に変わると、会社は個人の土地を借りて建物を持っている状態になります。権利金をやりとりする慣行のある地域で、権利金を払わずに借りると、会社が借地権をただでもらったものとして扱われます。これが権利金の認定課税です。避ける方法は2つあります。

相当の地代を払う

硬貨が横一列に12枚並び、右端の1枚だけが金茶の線画

土地の更地価額の、おおむね年6%です

注意会社が毎年この額を払い続けると、家賃を会社へ移した意味が薄れます。資産管理会社ではあまり使われません。

無償返還の届出書を出す

芝生の台座に建つ家の模型と、脇に立てかけた無地の届出書の線画

「将来、土地は無償で返す」と契約書に書いて、税務署へ届け出ます

やり方個人と会社の連名で、会社の税務署へ出します(法人税基本通達13-1-7)。資産管理会社では、これがほぼ標準です(「土地の無償返還の届出書を出さないと、会社に税金がかかる」)。

注意先に土地の賃貸借契約を結び、無償で返す旨を契約書に書いておく必要があります。届出書を出しても、地代が相当の地代より少ないときは、差額を贈与したものとして扱われることがあります。

5. 届出を出し、地代を取れば、土地は8割の評価になる

賃貸借にして、届出を出す

土地の区画の右端2割が点線になり、残り8割がくっきり描かれた線画

相続のとき、土地は自用地の価額の80%で評価されます

やり方届出書が出ていれば、会社側に借地権という財産は立たず、個人の土地は自用地の価額の80%で評価されます(昭和60年直資2-58)。

注意外れた20%は消えません。同族会社に貸している場合、その分は会社の株の評価に取り込まれます(昭和43年直資3-22)。土地だけ見て2割減ったと考えないことです。

ただで貸す(使用貸借)

くっきり描かれた土地の区画の手前に、裏返しの空の小皿がある線画

届出書を出していても、評価は下がりません

注意条件は書類を出したことではなく、賃貸借の実態があることです。地代を決めたら、会社の口座から個人の口座へ毎月入金し、記録を残します。

移す前から、貸家の土地は貸家建付地として評価が下がっています。移した後の80%と、移す前の評価のどちらが低いかは、借地権割合で変わります。並べて比べます。

移してすぐには効果が出ません。会社が3年以内に取得した土地や建物は、通常の取引価額で評価されます(財産評価基本通達185)。移した直後に相続が起きると、建物が時価に近い額で評価され、株価が高いままです。年数の余裕がないなら、着手しないほうがよいこともあります。

建物を移す前に片づける

逆にすると移したあとでやり直しになります

1方式を決める所有方式を選んだ場合だけ、建物を移す
2銀行に確かめるローンが残る物件は、承諾がなければ移せない
3価額と地代を固める建物の価額と土地の地代を税理士と決める。決まらないと契約書が作れない

そのあと、売買契約、所有権移転登記、土地の賃貸借契約、無償返還の届出書の順に進めます。

まとめ

要点

まず、今日できること

  1. 物件ごとに、土地と建物の固定資産税評価額を課税明細書で確かめます
  2. 建物の未償却残高を、確定申告書の減価償却の明細で確かめます
  3. 土地を買ったときの契約書があるかを探します

次に読む:土地の無償返還の届出書を出さないと、会社に税金がかかるローンが残る物件は、銀行の同意なしに会社へ移せない

出典

※確認日:2026年9月3日。本記事は一般的な仕組みを説明するもので、個別の税務・法務相談ではありません。地代の水準、建物の売買価額、届出書の要否は、土地の評価額と契約の内容で変わります。実行の前に、税理士と司法書士にご確認ください。

公開 2026.07.19 / 更新 2026.09.07 不動産法人化 筆者:宍倉奎次郎(税理士・宅地建物取引士・大家)
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不動産法人化の12工程

工程5 建物を移す

いくらで移すか。ここを間違えると、みなし譲渡・消費税・登記コストで一気に重くなります。

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宍倉奎次郎
税理士・宅地建物取引士・大家
宍倉 奎次郎

税理士・宅地建物取引士。自身も賃貸物件を持つ大家の立場から、法人化・相続・不動産管理まわりの税務を、制度と判例にもとづいて解説しています。記事内の事例はすべて架空のモデルケースです。制度・税率・判例は年度で変わります。個別具体的な判断は、不動産税務に強い税理士へご確認ください。

工程4 器を作る(設立)株式会社か合同会社かは、費用と運営と承継で決める 工程7 融資・既存借入を処理するローンが残る物件は、銀行の同意なしに会社へ移せない
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