- 011. 手取りで判断する
- 022. 空室を数字にする
- 033. 修繕を計画で持つ
- 044. 管理会社は丸投げ先ではなく取引先
- 055. 出口を最初から見ておく
- 06まとめ
- 07出典
物件を買うところまでは、資料も営業担当も手伝ってくれます。買った後に残るのは、誰も代わりに決めてくれない判断です。賃貸経営でオーナーが自分で決めることは5つに絞れます。手取り、稼働率、修繕、管理会社への確認、出口の5つです。どれも気持ちの問題ではなく、数字と頻度に落とせます。それぞれ何を見るのかを順に解説します。
※本記事は一般的な仕組みを解説するものです。登場する事例・金額はすべて架空のモデルです。個別の税務・法務相談ではありません。
→ 賃貸経営の全体像は 賃貸経営の全体像 にまとめています。
この記事でわかること
- 表面利回りではなく手取りで判断するための、引き算の順番
- 帳簿の利益と手元の現金がずれる2つの理由(減価償却と元金返済)
- 空室を稼働率という数字にする方法と、記録する頻度
- 突発対応と計画修繕を分けて持つ意味と、先に決めておく金額
- 管理会社の報告のどこを見るか。賃貸住宅管理業法が求めている報告の中身
- 売却・相続・法人化のどれを前提に置くかで、修繕と借入の判断が変わること
1. 手取りで判断する
物件の資料に載っている表面利回りは、年間の家賃収入を物件価格で割っただけの数字です。買う前の絞り込みには使えますが、持ってからの判断には使えません。判断に使うのは、家賃収入から出ていくものを全部引いた後に手元に残る現金です。
引き算の順番を決めておくと、毎年同じ手順で出せます。
家賃収入から手取りまでの引き算
- 1実際に入った家賃収入満室想定ではなく、口座に入った額。更新料や共益費も含める
- 2運営にかかった費用を引く管理委託料・共用部の電気水道・清掃費・修繕費・損害保険料
- 3固定資産税・都市計画税を引く毎年4月から6月ごろに通知が届く。年額を12で割って月次に均すと管理しやすい
- 4借入金の利息を引く返済額のうち利息の部分だけ。返済予定表で確認する
- 5借入金の元金返済を引く経費にはならないが、現金は確実に出ていく
- 6所得税・住民税を引く減価償却を引いた後の不動産所得に対してかかる。ここまで引いた残りが手取り
ここで引っかかりやすいのが、減価償却と元金返済です。減価償却は経費になりますが現金は出ていきません。元金返済は現金が出ていきますが経費になりません。この2つが逆を向いているため、帳簿の利益と手元に残る現金は一致しません。
【モデル事例】年間の家賃収入が600万円の物件があるとします。運営費用135万円(管理委託料・清掃費・修繕費・損害保険料)、固定資産税と都市計画税が40万円、借入金の利息が60万円だとすると、ここまでの残りは365万円。減価償却が120万円あるとすると、不動産所得は245万円です。所得税と住民税の合計税率を仮に20%とすると税金は49万円。ここから元金返済140万円を引くと、手元に残るのは365万円 − 140万円 − 49万円 = 176万円になります。
600万円の家賃収入で、手元に残るのは176万円。この差を毎年見ておくのが最初の1つです。確定申告の数字がそのまま使えるので、申告が終わった直後に物件ごとに1回出してください。管理を委託するか自分でやるかを手取りで比べる話は 自主管理と管理委託、管理料5%は損か得か、不動産所得の計算そのものは 大家の所得税 にまとめています。
2. 空室を数字にする
「最近ちょっと空きが多い」という感覚は、翌月には忘れます。空室は稼働率という数字にして、毎月1行だけ記録します。出し方は2とおりあります。
| 出し方 | 計算 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 戸数ベース | 入居中の戸数 ÷ 総戸数 | 部屋の広さや家賃がそろっている物件。暗算できる |
| 賃料ベース | 実際の家賃収入 ÷ 満室想定の家賃収入 | 間取りがばらばらな物件。家賃を下げた影響も数字に出る |
どちらか一方に決めて、同じ出し方で毎月続ける。途中で変えると比べられなくなる。
賃料ベースのほうが実態に近く出ます。家賃を下げて埋めた場合、戸数ベースでは100%に戻りますが、賃料ベースでは下がったままになるからです。
【モデル事例】10戸のアパートで、満室想定の家賃が月60万円。2戸空いていて、実際の入金が月48万円だとします。戸数ベースの稼働率は8戸 ÷ 10戸 = 80%、賃料ベースも48万円 ÷ 60万円 = 80%です。翌月、1戸を家賃を5,000円下げて埋めると、戸数ベースは90%になりますが、賃料ベースは53.5万円 ÷ 60万円 = 89.2%にとどまります。
年単位で見るときは、月の数を掛けて計算します。10戸の物件で、年間の延べ入居月数が108か月だったなら、108か月 ÷ (10戸 × 12か月)= 90%です。空室率はこの裏返しで、100%から引いた10%になります。どちらを使ってもかまいませんが、片方に決めてください。物件が複数あるなら、物件ごとに出したうえで合計も出します。1棟の不調が全体に埋もれるのを防げます。
12か月並べると、季節の波と、年をまたいだ傾向が分かれてきます。毎年同じ時期に下がるなら募集の準備を前倒しし、年々下がり続けているなら家賃か設備の問題です。判断の期限も先に決めておきます。「空室が3か月続いたら、家賃・設備・募集条件のどれを動かすかを決める」と書いておけば、その月が来たときに悩まずに済みます。動かし方は 空室対策、家賃の決め方は 家賃はいくらにするか を参照してください。
3. 修繕を計画で持つ
修繕を「壊れたら直す」だけで回すと、出ていく金額が読めません。突発対応と計画修繕を分けて持ちます。
| 突発対応 | 計画修繕 | |
|---|---|---|
| 中身 | 給湯器・エアコンの故障、水漏れ、鍵の紛失 | 外壁・屋根・防水・給排水管・共用部の照明 |
| いつ来るか | 読めない | 年単位で見当がつく |
| 決めておくこと | 管理会社の判断で先に手配してよい上限金額 | 時期・工事の種類・概算の金額を1枚の表に |
突発対応は「上限金額」を、計画修繕は「時期」を先に決めておく。
突発対応で決めておくのは金額の線引きです。「1件◯万円までは連絡不要で手配してよい、それを超えるものは事前に連絡」と管理会社と決めておくと、入居者を待たせずに済みます。金額は自分で決める数字なので、相場を探す必要はありません。手元の資金と、待たせたくない度合いで決めます。
突発対応は、対応した記録も残しておきます。日付・部屋番号・何が壊れたか・かかった金額の4項目で足ります。1年分並べると、同じ部屋や同じ設備で繰り返し起きているものが見えてきます。修理を重ねている給湯器やエアコンは、次に壊れたときに直すか交換するかを、その表を見て決められます。壊れるたびに一から考えずに済むのが、記録を残す理由です。
計画修繕は、見積りが取れていなくても表を作れます。工事の種類と、いつごろやるかの年だけ入れておけば足ります。積立額は、その表の合計を次の実施までの月数で割れば出ます。「家賃の何%」という一般的な数字ではなく、自分の物件の表から逆算するほうが確かです。
税務では、支出が修繕費になるか資産に計上して減価償却するかで、その年の税金が変わります。区分の考え方は 構築物・附属設備・修繕費の分け方 にまとめています。年1回、確定申告のときに計画修繕の表を更新すると、翌年に迷いません。
4. 管理会社は丸投げ先ではなく取引先
管理を委託していても、判断する立場は変わりません。ここで役に立つのが、管理会社に法律上どこまで課されているかを知っておくことです。
賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(賃貸住宅管理業法)は、賃貸住宅管理業を営む者に国土交通大臣の登録を義務づけています(法3条1項)。管理する賃貸住宅の戸数が200戸未満のときは登録が不要とされています(同項ただし書、同法施行規則3条)。登録した業者は、営業所ごとに業務管理者を選任し(法12条)、管理受託契約を結ぶ前に契約の内容などを書面で交付して説明しなければなりません(法13条)。契約後も、管理業務の実施状況などを定期的に報告する義務があり(法20条)、その期間は契約日から1年を超えない期間ごとと、契約期間の満了後遅滞なくと定められています。報告書に書く事項には、管理業務の実施状況のほか、入居者からの苦情の発生状況と対応状況が含まれます(同法施行規則40条)。
届いた報告書で見るのは、次の4点だけで足ります。
- 入出金──満室想定との差はいくらか。送金額の内訳に、身に覚えのない控除が入っていないか
- 滞納──誰が何か月分か。1か月で連絡、2か月で書面といった動き出しの線を決めておく。進め方は 家賃滞納が起きたら へ
- 問い合わせ・苦情──件数と、同じ部屋で繰り返していないか。繰り返しは退去の前ぶれになる
- 退去予定──解約予告が出ている部屋。募集を始める時期をその場で決める
読んで分からない行があれば、その月のうちに質問します。3か月ためると何を聞いていたか分からなくなります。月1回、この4点を見て1つ質問する。それだけで報告書は変わります。
なお、一括借上げ(サブリース)は管理の委託とは別の契約です。家賃が保証される仕組みと限界は 30年家賃保証が法的には保証されない理由 にまとめています。
5. 出口を最初から見ておく
持っている不動産は、いつか手放すか、渡すか、形を変えます。出口は3つです。
| 出口 | 先に確かめること |
|---|---|
| 売却する | いま売ったら手取りはいくらか。譲渡所得の税率は保有期間で変わる → 不動産売却の全体像 |
| 相続で渡す | 誰に、どう分けるか。分けられない不動産をどうするか → 相続対策の全体像 |
| 法人に移す | 所得がいくらから法人が有利になるか。移すコストは回収できるか → 法人化の全体像 |
3つのどれかを選ぶのではなく、いまどれを前提に置いているかを決める。
今すぐ決める必要はありません。決めるのは「どれを前提に置くか」です。前提が変われば、手前の判断も変わります。5年以内に売る前提なら、大規模修繕は買い手が気にする部分に絞ります。子の代に渡す前提なら、建物を長く持たせる工事を先に回します。法人に移す前提なら、いま個人で大きな設備投資をする前に順番を考えます。前提を決めていないと、どの工事も「やったほうがよさそう」に見えて決まりません。
年1回、確定申告が終わったタイミングで、いまの前提を1行で書き直してください。所有している物件が複数あるなら、物件ごとに書きます。全部を同じ出口にする必要はありません。
まとめ
- 判断に使うのは表面利回りではなく手取り。家賃収入から運営費・税金・利息・元金返済・所得税と住民税を順に引く。減価償却と元金返済が逆を向くため、帳簿の利益と手元の現金は一致しない
- 空室は稼働率にして毎月1行記録する。賃料ベースで出すと、家賃を下げて埋めた影響も数字に残る
- 修繕は突発対応と計画修繕に分ける。突発は「連絡不要で手配してよい上限金額」を、計画は「時期」を先に決める。積立額は自分の計画表から逆算する
- 管理会社が法律上求められている報告は1年に1回以上(賃貸住宅管理業法20条)。月次報告がほしいなら管理受託契約に書いておく
- 報告書で見るのは入出金・滞納・問い合わせ・退去予定の4点。分からない行はその月のうちに質問する
- 出口は売却・相続・法人化の3つ。どれを選ぶかではなく、いまどれを前提にしているかを年1回書き直す
次に読む:自主管理と管理委託、手取りで比べる/空室対策/構築物・附属設備・修繕費の分け方/大家の所得税/賃貸経営の全体像
出典
- 賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(令和2年法律第60号)3条(登録)・12条(業務管理者の選任)・13条(管理受託契約の締結前の書面の交付)・20条(委託者への定期報告)
- 同法施行規則3条(登録を要する規模=賃貸住宅の戸数200戸)・40条(定期報告の期間と管理業務報告書の記載事項)
- e-Gov法令検索ウェブサイト(確認日:2026年8月7日)
※本記事のモデル事例の金額はすべて架空です。税率・減価償却の額・修繕の要否は、物件と個人の状況によって大きく変わります。手取りの試算や出口の選び方について、個別の判断は税理士などの専門家にご相談ください。
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