法人化を決めたあとに、もう1つ決めることがあります。個人が持つ不動産の家賃を、会社へどこまで移すかです。
方式は、管理委託、サブリース、所有の3つです。移す度合いが大きい方式ほど節税額は大きくなります。ただし、移すときの費用も、融資の手当ても、税務署に説明することも同じ順で重くなります。その釣り合いを、4つの軸で比べます。
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1. 3方式は、家賃をどこまで会社に移すかで違う
3つの方式は、まったく別の仕組みではありません。個人に入っている家賃を、どこまで会社の収入に付け替えるかという1本の軸の上に並んでいます。
管理委託

管理料の分だけが移り、いちばん小さいです
やり方物件は個人が持ったまま。募集、集金、清掃、修繕の手配を会社に任せ、管理料を払います。
例所有権を動かさないので、すぐ始められ、やめるときの損失も小さいです。
サブリース(転貸)

借り上げと転貸の差額が移り、中くらいです
やり方個人が会社へ物件を一括で貸し、会社が入居者へ貸します。入居者からの家賃と、会社が個人に払う一括賃料の差額が会社の収入です。
注意空室の月も、会社は個人へ賃料を払い続けます。その資金が要ります。
所有

家賃がそのまま会社の売上になり、いちばん大きいです
やり方会社が建物を持ちます。原則として、土地は個人に残します(「法人に移すのは建物だけ。土地は個人に残す」)。
注意売買契約、登記、税金、融資の組み替えが要ります。
2. 4つの軸で並べて比べる
| 見るところ | 管理委託 | サブリース | 所有 |
|---|---|---|---|
| 節税の大きさ | 小さい | 中くらい | 大きい |
| 移すときの費用と手間 | 委託契約と、仕事を回す体制 | 賃貸借契約と、空室の月の資金 | 売買契約、登記、税金 |
| 融資への影響 | なし | ほぼなし。契約条項は確認 | 銀行の承諾と借り直しが前提 |
| 同族間で否認されにくいか | 管理料の水準と仕事の実態が争点 | 差額の大きさと空室リスクが争点 | 争点は移す価額だけ |
上の3つの軸は、同じ方向に動きます。移る所得が大きい方式ほど、費用が重く、融資の手当ても要ります。4つ目だけ、方向が違います。いちばん大きく所得を移す所有方式が、否認の争点はいちばん少なくなります。所有権が実際に会社へ移っているので、家賃が会社のものになること自体を疑われにくいからです。
3. 移すときに費用がかかり、効果を取り戻すには年数がかかる
管理委託とサブリースは、率で決める

税法に「何%まで」という定めはありません
やり方近隣の管理会社から同じ仕事の範囲で見積りを取り、そこを出発点にします(「身内の会社に払う管理料は、率ではなく仕事の実態で決まる」)。
理由会社が空室のリスクを引き受けているので、サブリースの差額は管理料より大きくできます。空室が出たら支払いを止める運用では、リスクを引き受けたことになりません。
所有方式は、移すときにお金が出る

登録免許税、不動産取得税、譲渡所得税、消費税がかかります
やり方費用は最初にまとめて出て、効果は毎年少しずつ出ます。費用を毎年の効果で何年かけて取り戻せるかを比べ、長すぎるなら移しません。
注意安く売れば費用を抑えられる、とはなりません。時価の2分の1に満たない額で売ると、時価で売ったものとみなされます(所得税法59条1項)。同族会社が相手なら、2分の1以上でも時価に直されることがあります。
4. 所有方式は、銀行の承諾をいちばん先に取る
融資に影響する

ローンが残る物件は、承諾なしに動かせません
問題担保に入っている物件の所有者を勝手に変えると、残債の一括返済を求められるおそれがあります(民法137条、融資契約の条項)。
解決個人の借入を返して抵当権を消し、会社があらためて借り直す形になります。この借り直しができるかで、所有方式を選べるかが決まります(「ローンが残る物件は、銀行の同意なしに会社へ移せない」)。
注意管理委託とサブリースは所有権を動かさないので、借入にも担保にも触りません。承諾が取れないときは、この2つが現実的な選択肢です。
5. 手軽な方式ほど、実態の説明が要る
身内の会社との取引には、2つの決まりがかかわります。税負担を不当に減らす取引は計算し直せること(所得税法157条・法人税法132条)と、名義が誰であれ、実際に収益を受け取っている人のものとして扱うこと(所得税法12条)です。契約書を作って名義を整えても、仕事も入出金も個人のままなら、家賃は個人の所得として扱われます。
管理委託は実態が問われる

会社が、その仕事を実際にしているか
やり方管理委託契約書、業務の記録、会社名義の口座への入金、他社の見積りをそろえます。毎期の決算に料率が出るので、毎年くり返し説明することになります。
サブリースはリスクが問われる

空室のリスクを、会社が本当に負っているか
やり方賃貸借契約書と、空室の月も一括賃料を払っている通帳の記録を残します。
注意個人と会社の間の一括賃貸も建物の賃貸借です。貸主から解約するには正当な事由が要り、身内どうしでもいつでも戻せるとは限りません(借地借家法28条)。
所有方式は価額が問われる

移した価額が、時価から離れていないか
やり方売買契約書と価額の根拠資料を残します。説明は移した年に集中し、その後は家賃が会社の売上として並びます。
方式を1つに絞る
コツ効果の大きさからではなく、制約の強いものから確かめます
そのうえで、相続までの年数と、本人が契約の当事者でいられる年数を数えます。どちらも有限です。
所得がまだ育っていない、または借入の承諾が見通せないなら、管理委託から始めます。所得も大きく、借り直しの見通しも立ち、相続まで見据えるなら所有方式です。管理委託から始めて、あとから所有方式へ切り替えることもできます。ただし、切り替えの時点で移転の費用がかかります。
まとめ
- 3方式は、家賃をどこまで会社に付け替えるかの順に並び、管理委託、サブリース、所有と続きます
- 移すほど節税額は大きく、移すほど重くなるが、所有方式だけは家賃の帰属を疑われにくいです
- 管理料や一括賃料に、税法で決まった率はなく、会社が実際に仕事をしているかで決まります
- 所有方式は、銀行の承諾と借り直しが前提で、ここをいちばん先に確かめます
- 絞る順番は、借入の確認、仕事を回せる人、費用と取り戻す年数、残っている年数の順に確かめます
まず、今日できること
- ローンが残る物件について、借りている銀行に「会社へ移す場合の扱い」を聞きます
- 募集、集金、修繕の手配を、誰がやっているかを書き出します。会社で回せる人がいるかを見ます
- 近隣の管理会社に、同じ仕事の範囲で管理料の見積りを取ります
出典
- 所得税法12条(実質所得者課税の原則)、59条(みなし譲渡)、157条(同族会社等の行為又は計算の否認等)、所得税法施行令169条、所得税基本通達59-3
- 法人税法132条(同族会社等の行為又は計算の否認)
- 民法137条(期限の利益の喪失)、借地借家法28条(更新拒絶等の要件)
- 財産評価基本通達185(純資産価額)、189・189-4(特定の評価会社の株式)
※確認日:2026年9月3日。本記事は一般的な仕組みを説明するもので、個別の税務相談ではありません。どの方式が合うかは、所得の規模・借入の状況・家族構成・相続までの年数で変わります。移す価額、管理料や一括賃料の水準、銀行への相談の順番は、税理士にご確認ください。
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