不動産売却で「手取り」を減らさないために。税率40%と20%の分岐点と、正しい計算の罠

税金

「不動産を売りたいけれど、税金で半分近く持っていかれると聞いて怖い」 そんな不安を抱えていませんか?実はその不安、あながち間違いではありません。不動産売却の税金は、知識があるかないかで数百万円単位の差がつく怖い世界です。

この記事では、専門用語を極力使わず、**「いくら手元に残るのか」**を正確に把握するための計算ロジックをお伝えします。

1. そもそも「売却益(譲渡所得)」とは? 計算の基本

不動産を売ったときにかかる税金は、売った金額そのものにかかるわけではありません。「売って出た利益」にかかります。これを専門用語で**「譲渡所得(じょうとしょとく)」**と言います。

計算式はシンプルに見えますが、実はここに最大の落とし穴があります。

【譲渡所得の計算式】

譲渡所得 = 売却価格 -( 取得費 + 譲渡費用 )

  • 売却価格:売れた金額
  • 譲渡費用:仲介手数料、印紙代、測量費など、売るためにかかったお金
  • 取得費:その不動産を買ったときのお金……ではありません!

【超重要】「取得費」は買った金額ではない!

ここを勘違いしている方が非常に多いのです。

建物は時間が経てば古くなりますよね。税金の計算上、建物は毎年価値が減っていくものとして扱います(これを減価償却といいます)。

つまり、計算式に入れる「取得費」とは、

「買った時の値段」から「所有している期間に経費計上した減価償却費の合計」を引いた金額(未償却残高)

を使わなければなりません。

「買った時は5000万だったから、5000万で売っても利益ゼロだ」と思っていると、実は帳簿上の価値が3000万に下がっていて、差額の2000万に対してガッツリ税金がかかる……なんてことが頻繁に起こるのです。


2. 天国と地獄の分かれ道。「所有期間」の5年ルール

利益(譲渡所得)が出た場合、そこにかかる税率(所得税+住民税)は、その不動産をどのくらいの期間持っていたかで約2倍も変わります。

区分所有期間税率(復興特別所得税含む)
短期譲渡所得5年以下39.63%(約40%)
長期譲渡所得5年超20.315%(約20%)

40%と20%。この差はあまりに大きいですよね。

ここで注意すべきは、「5年」の数え方です。

「お正月」を何回越えたかが勝負

単純に「買った日から5年後の同じ日」ではありません。

**「売却した年の1月1日時点で、所有期間が5年を超えているかどうか」**で判定します。

極端な例ですが、2020年の12月に買って、2025年の12月に売った場合、カレンダー上は丸5年経っていますが、税法上は「短期譲渡(約40%)」になります。2026年の1月1日を迎えてから売れば「長期譲渡(約20%)」です。

たった数日の違いで税金が倍になることもあります。「売却は所有期間が5年を超えた翌年の1月1日以降」。これだけは絶対に覚えておいてください。


3. 【実践】シミュレーションで見る正しい税金計算

では、具体的な数字を使って計算してみましょう。

元の記事にあった例をベースに、法律に則って正しく計算し直します。

【シミュレーション条件】

  • 売却価格:5,000万円
  • 取得費(減価償却後の簿価):3,000万円
    • ※購入額ではなく、減価償却費を引いたあとの現在の帳簿価格とします。
  • 譲渡費用(仲介手数料など):200万円

ステップ1:利益(譲渡所得)を出す

まずは、いくら儲かったことになっているのかを計算します。

5,000万円(売値)-{ 3,000万円(取得費)+ 200万円(経費)}

= 1,800万円

これが今回の**「譲渡所得(利益)」**です。

※元の記事ではここで2000万円となっていましたが、正しくは経費の200万円も引けるので、課税対象は1,800万円になります。経費の引き忘れは納税者の損になりますから、しっかり引きましょう。

ステップ2:税金をかける

この1,800万円に対して、所有期間別の税率をかけます。

パターンA:短期譲渡(所有期間5年以下)の場合

1,800万円 × 39.63% = 約 713万円

パターンB:長期譲渡(所有期間5年超)の場合

1,800万円 × 20.315% = 約 365万円

いかがでしょうか。

同じ5,000万円で売れたとしても、売るタイミングが違うだけで、手残りの現金に約348万円もの差が出ます。高級車が一台買えてしまう金額です。これが不動産税制の怖さであり、面白さでもあります。


4. 最後に:知識はあなたの財産を守ります

「計算が面倒だ」「税金は難しい」

そう思われるお気持ちは、私も大家の一人としてよく分かります。しかし、不動産投資や賃貸経営の最終ゴールである「売却(出口戦略)」において、この計算を知らないまま動くのは、ブレーキのない車で坂道を下るようなものです。

今回のポイントをまとめます。

  1. 取得費は「買った値段」ではなく「減価償却後の値段」を使う。
  2. 売却経費(仲介手数料など)は忘れずに差し引く。
  3. 「短期」か「長期」かで税金は倍違う。判定は「譲渡した年の1月1日」基準。

もし、「自分の物件は今いくらで売れて、税金はどうなるんだろう?」「減価償却費の計算が合っているか不安だ」と思われたら、お近くの税理士、あるいは私のような不動産に強い専門家に一度ご相談ください。

売却契約のハンコを押す前に相談するか、押した後に相談するか。そのタイミングだけで、手元に残るお金が数百万円変わることも珍しくないのですから。

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