このページの全体像
売却でやることは、大きく8つ。番号を押すと、その章に飛びます。
決める ── 売り出す前に
売る ── 手続きを通す
0売却で決まるのは、売値ではなく手取り税額の組み立て
不動産を売るとき、いちばん気にされるのは「いくらで売れるか」です。ですが最後に残る金額は、売値だけでは決まりません。
売値から、まず仲介手数料などの費用が引かれます。そのあと譲渡所得税がかかります。この税額は、同じ売値でも2倍近く変わることがあります。決めるのは、売った時期と、買ったときの資料が手元にあるかどうかです。
売値だけを見る
- 高く買う業者を探す
- 早く売れるほうがいい
- 税金は売れてから考える
- 買ったときの資料は探さない
手取りで見る
- 費用と税を引いて比べる
- 年をまたぐかどうかを先に見る
- 税額は売る前に概算する
- 資料探しから始める
同じ物件・同じ売値でも、手取りは数百万円変わります。
税額の組み立て
譲渡所得税は、給与や不動産所得とは切り離して計算します(分離課税)。式はひとつだけです。
計算のかたち
譲渡所得 = 売った金額 −(取得費 + 譲渡費用)− 特別控除
注意 このガイドのSTEP 5から7は、すべて引く側を厚くする話です。売値を上げる交渉より、こちらのほうが確実に効きます。
もっと詳しく(2本)
1いくらで売れるかを知る相場の調べ方
成約価格で相場をつかむ。査定額と売出価格は基準にしない
最初にやるのは相場の把握です。ここで気をつけるのは、査定額は売れる値段ではないということです。
査定額は「この値段で売り出しましょう」という提案です。媒介契約を取りたい会社ほど高い数字を出すことがあります。高すぎる値段で売り出すと、問い合わせが来ないまま数か月が過ぎ、結局値下げすることになります。
見るべき3つの数字
| 数字 | どこで見るか | 何がわかるか |
|---|---|---|
| 成約価格 | 国土交通省の取引価格情報、レインズ・マーケット・インフォメーション | 実際に売れた値段 |
| 売出価格 | 不動産ポータルサイト | いま出ている競合 |
| 公的評価 | 路線価、固定資産税評価額 | 下限のあたり |
基準にするのは成約価格です。売出価格は「その値段で出している」だけで、決まった値段ではありません。
2売り時を決める5年の分かれ目
売る年の1月1日で所有期間が5年を超えるか数える。超えないなら年をまたぐ
売ると決めたら、次は時期です。ここが、このガイドで最も金額の動く場所です。
譲渡所得の税率は、所有期間が5年を超えているかどうかで大きく変わります。
税率の分かれ目
所有期間が5年を超えているか(譲渡した年の1月1日時点で判定)
注意 数えるのは売った日ではなく、売った年の1月1日です。取得日から数えて5年を超えていても、その年の1月1日時点で5年以下なら短期になります。
なぜ「1月1日」でつまずくのか
たとえば2021年6月に買った物件を2026年8月に売ったとします。買ってから5年2か月が経っています。ところが判定するのは2026年1月1日時点なので、そこでは4年7か月。短期譲渡になります。
この物件を2027年に売れば長期です。同じ売買で、税率は39.63%から20.315%に下がります。譲渡所得が2,000万円なら、税額の差はおよそ390万円です。
- 判定日は「譲渡した年の1月1日」
- 取得日は原則として引渡日。契約日を使える場合もある
- 相続で取得した物件は、亡くなった人の取得日と取得費を引き継ぐ
- 年末に売る話が出たら、まず所有期間を数える
相続した物件は所有期間を引き継ぐので、親が長く持っていたなら相続直後に売っても長期になります。逆に、あとで見るとおり特例のほうには短い期限があります(STEP 7)。
3誰に頼むかを決める媒介契約
3種類から選ぶ。専任にするならレインズの登録証明書を受け取る
不動産会社に仲介を頼むときに結ぶのが媒介契約です。3種類あり、縛りの強さと会社側の義務が違います。
一般媒介
複数社に頼める
- 自分で買主を見つけてもよい
- レインズ登録の義務なし
- 報告義務なし
- 各社の本気度は下がりやすい
専任媒介
1社のみ
- 自分で買主を見つけてもよい
- 7日以内にレインズ登録
- 2週間に1回以上の報告
- 契約期間は3か月以内
専属専任媒介
1社のみ・自己発見も不可
- 自分で買主を見つけても通せない
- 5日以内にレインズ登録
- 1週間に1回以上の報告
- 契約期間は3か月以内
仲介手数料
売買代金が400万円を超える場合の上限は、売買代金×3%+6万円+消費税です。これは上限であって、必ずこの金額という決まりではありません。
もっと詳しく(1本)
4引き渡しまで通す契約から決済まで
権利証と買ったときの契約書をそろえる。固定資産税の精算金は売却代金に含めて計算する
買主が決まってからの流れです。売買契約を結び、手付金を受け取り、後日の決済で残代金と引き換えに登記を移します。
そろえる書類
- 登記識別情報(権利証)
- 固定資産税の納税通知書
- 建築確認済証・検査済証、間取図
- 買ったときの売買契約書と領収書(STEP 5で効きます)
- 賃貸中なら、賃貸借契約書・入居者名簿・敷金の預り一覧
賃貸中のまま売る場合、貸主の立場は買主に移ります。敷金を返す義務も一緒に移るので、預り残高は決済のときに精算します。
建物の消費税
個人が自宅を売る場合、消費税はかかりません。ただし賃貸事業として使っていた建物を売る場合は、建物部分が課税の対象になります。その年の課税売上が大きくなり、その後の年に課税事業者になることがあります。居住用の家賃だけで免税事業者だった大家が、売却の年をきっかけに判定が変わる場面です。
5取得費を確定するいちばん取り返しがつかない場所
買ったときの契約書と領収書を探す。見つからないと、取得費は売値の5%しか認められない
ここからは税額の話です。そしていちばん取り返しがつかないのが、この取得費です。
取得費とは、その不動産を買ったときの金額と、買うためにかかった費用の合計です。仲介手数料、登録免許税、不動産取得税、印紙代なども入ります。
建物は減価償却で減る
土地は買った値段がそのまま取得費になりますが、建物は違います。使った年数の分だけ価値が減ったものとして、減価償却費を差し引いた金額が取得費になります。土地と建物を一括で買っている場合は、契約書の内訳や固定資産税評価額の比で分けます。
資料が見つからないとき
とくに親から相続した物件で起きます。相続では亡くなった人の取得費を引き継ぐので、親が何十年も前に買ったときの契約書を探すことになります。
- 売買契約書・領収書・住宅ローンの金銭消費貸借契約書
- 通帳の入出金記録、住宅ローンの返済予定表
- 購入時のパンフレット、新聞折込チラシ
- 抵当権設定登記の債権額(借入額の手がかり)
- 市街地価格指数などによる推計(認められるとは限らない)
この作業は、売ると決めた日ではなく親が元気なうちにやっておくのがいちばん確実です。
6譲渡費用を数える引ける費用・引けない費用
仲介手数料・印紙代・測量費・立退料など、売るために直接かかった費用を集める
譲渡費用は、売るために直接かかった費用です。ここも落とすと税額が増えます。
譲渡費用になるもの
- 仲介手数料
- 売買契約書の印紙代
- 売るために行った測量費
- 売るために建物を壊した費用
- 入居者に払った立退料
- より有利な条件で売るために解除した契約の違約金
譲渡費用にならないもの
- 修繕費・固定資産税など、維持管理の費用
- 売却代金の取立てにかかった費用
- 抵当権抹消の登記費用
- 引越し費用
- 相続登記の費用(取得費に入る場合はあります)
分かれ目は「売るために直接かかったか」です。
もっと詳しく(1本)
7特例を確かめる3,000万円控除と3年の期限
居住用3,000万円控除・空き家特例・取得費加算のどれが使えるか確かめる。相続がらみは3年で切れる
譲渡所得から直接引ける特別控除があります。当てはまるのに使わないと、そのまま税額になります。
居住用財産の3,000万円特別控除
自分が住んでいた家を売ったとき、譲渡所得から3,000万円まで引けます(租税特別措置法35条)。住まなくなってから売る場合は、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までが期限です。
10年超所有の軽減税率
売った年の1月1日で所有期間が10年を超える居住用財産は、3,000万円控除を使ったうえで、残りの部分にさらに低い税率が使えます(同31条の3)。6,000万円以下の部分が14.21%です。
相続した空き家の3,000万円特別控除
親が一人で住んでいた家を相続して売る場合の特例です(同35条3項)。条件が細かく、ひとつでも外れると使えません。
- 昭和56年5月31日以前に建てられた家屋であること
- 区分所有建物(マンション)でないこと
- 相続開始の直前に、被相続人が一人で住んでいたこと
- 相続してから売るまで、住居・貸付け・事業に使っていないこと
- 売った金額が1億円以下であること
- 耐震基準を満たすようにするか、建物を取り壊して売ること
- 相続開始の日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
相続税を払った人の取得費加算
相続税を納めた財産を売る場合、納めた相続税のうちその財産に対応する部分を取得費に加算できます(同39条)。期限は相続税の申告期限の翌日から3年以内、つまり亡くなってからおよそ3年10か月です。
空き家特例と取得費加算は、どちらか有利なほうを選びます。両方とも「相続から3年」あたりで切れるので、相続した不動産を売るかどうかは、この時計を見ながら決めることになります。
8申告して納める翌年の確定申告
翌年2月16日〜3月15日に申告する。税額がゼロでも、申告しないと特例は使えない
不動産を売った年の翌年、確定申告をします。期間は2月16日から3月15日です。給与だけで年末調整が済んでいる人も、売った年は自分で申告します。
特別控除を使って税額がゼロになる場合でも、申告しなければ特例は適用されません。「税金が出ないから申告しなくていい」は成り立ちません。
- 譲渡所得の内訳書
- 売ったときの売買契約書の写し
- 買ったときの売買契約書・領収書の写し
- 仲介手数料などの領収書
- 特例を使うなら、その要件を示す書類(住民票、登記事項証明書など)
売却は、相続や賃貸経営の「出口」にあたります。いつ売るかを決める時計は、たいてい売る前から動いています。STEP 2の1月1日と、STEP 7の3年。この2つだけは、早めに数えておく場所です。
個人が居住用または賃貸用の不動産を売る場合を想定しています。登場する事例はすべて架空のモデルケースです。制度は2026年7月時点のものです。
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