「管理会社に毎月払っている管理料、これ自分でやれば浮くのでは」——賃貸を持つと一度は考える疑問です。税理士であり大家でもある私自身、この「任せるか、自分でやるか」の分かれ道は何度も通ってきました。
結論から言うと、管理料5%は「高い・安い」で決める話ではありません。浮く5%と、その代わりに自分へ返ってくる手間・時間・突発対応を、手取りと時間の両方で並べて比べる話です。 そして多くの場合、答えは「全部任せる」でも「全部自分で」でもなく、その間のどこかにあります。
※本記事の人物・金額はすべて架空のモデル事例です。一般的な仕組みを解説するもので、個別の税務・法務相談ではありません。
→ 賃貸経営の全体像は 賃貸経営・管理の進め方(12工程)。この記事は工程3「自主管理か委託か決める」です。募集・契約・回収・修繕・退去と続く実務を、「誰がやるか」から設計します。
この記事でわかること
- 管理委託料の相場(家賃収入のおおむね5%前後)と、その5%で管理会社が何をやってくれるか
- 自主管理で浮くお金と、代わりに増える手間・リスクを、モデル事例の手取り比較で見る
- 「全部自分で」でなくていい——集金代行だけ/客付けだけという部分委託の考え方
- 良い管理会社の見分け方と、乗り換えの手順(解約予告・引き継ぎ・入居者への通知)
- 税務の視点——自主管理でも記帳・申告は必要。法人で管理料を取る手法の落とし穴
1. 管理料5%で、管理会社は「何を」やってくれるのか
まず、払っているお金が何の対価かをはっきりさせます。賃貸管理の委託料は、家賃収入のおおむね5%前後が一つの目安です。ただし地域・会社・物件規模で幅があり、3〜8%程度まで開くこともあります。管理戸数が少ないと定額(1戸あたり月◯円)の会社もあります。
この5%の中身、つまり管理会社がやってくれる業務は、ざっくり次のとおりです。
| 分類 | 管理会社がやる主な業務 |
|---|---|
| お金まわり | 家賃の集金・入金確認と消込・オーナーへの送金/滞納の督促・催告 |
| 入居者対応 | クレームの一次受け(設備故障・騒音・ゴミ)・問い合わせ窓口 |
| 契約まわり | 契約更新の案内・更新手続き・解約受付 |
| 退去まわり | 退去立会い・敷金精算・原状回復の手配(業者手配・見積り取り) |
| 空室まわり | 募集・客付け(仲介会社への依頼)・募集条件の調整・内見対応 |
大事なのは、業務範囲は契約書で決まるという点です。「集金と送金だけ(募集は別料金)」の契約もあれば、退去立会いまで丸ごと含む契約もあります。契約前にこの表のどこまでが5%に含まれるかを必ず確認してください。国土交通省の「賃貸住宅標準管理委託契約書」が、範囲を確認するときの物差しになります(根拠:LK-03 管理委託契約の型)。管理戸数が一定以上の業者には賃貸住宅管理業法上の登録義務があり、登録業者かどうかも会社選びの目安です。
2. 自主管理で「浮くお金」と「増える手間」——モデル事例で手取りを比べる
では、自分でやると手取りはいくら変わるのか。架空のモデルで見てみます。
【モデル事例】 佐藤さん(仮)は、家賃月40万円のアパート1棟(年間家賃収入 480万円)を持っています。管理会社に管理料5%で委託中。年間の管理委託料は 480万円 × 5% = 24万円(月2万円)です。
管理料だけを取り出して比べると、こうなります。
| 管理委託のまま | 自主管理にする | |
|---|---|---|
| 年間家賃収入 | 480万円 | 480万円 |
| 管理委託料(5%) | −24万円 | 0円 |
| 管理料を差し引いた残り | 456万円 | 480万円 |
差し引き、自主管理で年24万円が浮きます。 数字だけ見れば「24万円も得」ですが、ここで止まってはいけません。浮いた24万円の代わりに、さきほどの表の業務が全部、自分に返ってくるからです。
増える手間とリスク(お金に換算しにくい側)
- 毎月の入金確認・消込を自分でやる——誰がいつ振り込んだか、遅れは誰か、を毎月チェック
- 滞納したら自分で督促——「払ってください」を自分の口で言う心理的な負担
- 設備故障の一次対応——「お湯が出ない」「鍵をなくした」の電話が、夜間・休日にも来うる
- 退去のたびに立会い・精算・原状回復の手配——業者を自分で探して見積りを取る
- 空室が出たら自分で仲介を回して客付け——動かないと空室期間が延びる
平常月なら入金確認は月1〜2時間で済むかもしれません。問題は退去・トラブル・空室が重なった月です。手間が一気に膨らみ、しかもいつ来るか読めない。この「突発性」こそ、管理委託料の正体でもあります。
「時間の値段」で判断軸を作る
浮く24万円を、自分の時給で割ると判断しやすくなります。
時間の価値を仮に時給3,000円とすると、24万円 ÷ 3,000円 = 年80時間。つまり「自主管理に年80時間以上(+突発対応のストレス)を取られるなら、委託のほうが割に合う」という目安です。
本業が忙しい人ほど時給は高くつき、時間に余裕がある人ほど自主管理が有利に振れます。24万円という金額そのものより、あなたの時間の価値と、突発対応を引き受けられるかで決まる——ここが工程3の核心です。
3. 全部自分でやらなくていい——「部分委託」という設計
「委託は楽だけど5%が惜しい、でも全部自分でやる自信はない」なら、その中間が正解かもしれません。管理の仕事は、バラして一部だけ頼めるからです。
- 集金代行だけ頼む——毎月の入金管理と督促という、いちばん気の重い部分をプロに。募集や更新は自分で
- 客付け(募集)だけ頼む——普段は自主管理で、空室が出たときだけ仲介に本気で動いてもらう
- 退去立会いだけスポットで頼む——トラブルになりやすい原状回復の部分だけプロの目を入れる
こうすると、5%より低い費用で、いちばん苦手で・いちばんリスクの高い工程だけを外に出せます。「委託か自主管理か」の二択で考えず、自分の弱点を1つずつ埋める発想に切り替えるのがコツです。
→ 集金代行・客付けだけ頼む「部分委託」の設計図(工程3)
なお、自主管理でも避けて通れないのが重要事項説明です。宅地建物取引業者でないオーナーは、契約時の重説を宅建業者とどう分担するかを整理しておきましょう。→ 自主管理と重要事項説明の役割分担(工程5)
4. 良い管理会社の見分け方と、変えるときの手順
「委託する」または「乗り換える」と決めたなら、会社選びで結果の大半が決まります。 惰性で動かない会社に5%を払い続けるのは、いちばんもったいない支出です。
良い管理会社を見分ける4つの視点
| 視点 | 見るポイント |
|---|---|
| 対応の速さ | 問い合わせへの返信・入居者への一次対応までのスピード |
| 報告 | 家賃入金・滞納・クレームの報告が、求めなくても定期的に届くか |
| 空室への動き | 空室が出たときの募集の速さ・広告の打ち方・内見数や反響の報告があるか |
| 提案力 | 家賃改定・リフォーム・設備更新を、データを添えて提案してくれるか |
とくに差が出るのが空室のときです。「募集に出しました」で止まる会社と、「反響◯件・内見◯件・決まらない理由はここ」まで返す会社では、埋まる速さがまるで違います。空室対応こそ、管理会社の実力が最も出る場面だと考えてください。
乗り換えの手順(4ステップ)
今の会社に不満があれば乗り換えは可能です。ただし順番を誤ると入居者に迷惑がかかるので、次の順で進めます。
- 現契約の解約予告期間を確認する——契約により1〜3か月前などが一般的です。まず自分の契約書を見る
- 次の受け皿を先に決める——新しい管理会社(または自主管理の体制)を決めてから解約し、空白期間を作らない
- 引き継ぐものを一覧化する——賃貸借契約書・入居者情報・鍵・敷金の預り・保証委託契約・滞納の有無を漏れなく
- 入居者へ通知する——管理会社が変わること、とくに家賃の振込先が変わる場合は丁寧に案内する。ここが雑だと入金トラブルの原因になる
引き継ぎで抜けやすいのが敷金の預り金と滞納状況です。前の会社が預かる敷金の扱いと、督促の進捗は、書面で必ず確認してください。
5. 税務の視点——「浮いた5%」には税金がつき、記帳は自分に返ってくる
最後に、税理士として必ず付け加えたい視点が3つあります。
(1) 浮いた24万円は、まるまる手元に残らない
管理委託料は不動産所得の必要経費です。自主管理で委託料を払わなくなると、経費が24万円減る=課税される所得が24万円増えます。
【モデル事例のつづき】 佐藤さん(仮)の浮いた24万円は、そのまま不動産所得の増加になります。所得税と住民税の合計税率を仮に20%とすると、税負担が約4.8万円増え、手取りの増加は約19万円にとどまります。
「浮いた5%」は税引き後で見るのが正確です。第2章の「時間の値段」も本来は税引き後の金額で割るべきで、その分だけ自主管理のハードルは上がります。
(2) 自主管理でも記帳・確定申告は必要
管理会社に任せていると、毎月の管理報告書が入金記録の代わりになります。自主管理ではこれがなくなるぶん、入金管理・請求書や領収書の保存・記帳を自分で回す必要があります。「管理料は浮いたが経理の手間が増えた」となりがちなので、帳簿の型を先に用意しておくと安全です。→ 自主管理オーナーの帳簿づけと証憑の残し方(工程11)
(3) 「法人で管理料を取る」は法人化の論点
規模が出てくると、同族の法人に自分の物件の管理を委託し、管理料を法人へ落として所得を分散する手法(不動産管理会社方式)が視野に入ります。これは自主管理の延長ではなく、法人化の設計そのものです。→ 不動産の法人化の進め方(法人化ピラー)
ただし注意点があります。法人へ払う管理料が、実際の管理業務の対価として不相当に高いと、税務上「役務に見合わない」として否認されるリスクがあります。同族会社との取引は、同族会社等の行為計算の否認(所得税法157条・法人税法132条)の対象になりうるためです。過去の裁判例でも、管理料が役務の対価として相当かが争われています。世間相場(家賃の5%前後)を大きく超える高率な管理料ほど否認されやすいので、「節税になるから」と実態のない設定にするのは危険です。管理料は、法人が担う業務の範囲とセットで、相場を踏まえて決める——この点は法人化を考える段階で必ず税理士に相談してください。
まとめ
- 管理委託料はおおむね家賃収入の5%前後。その5%で、集金・入金確認・滞納督促・クレーム一次対応・更新・退去立会い・原状回復手配・募集までを任せられる(範囲は契約次第)
- 自主管理にすると年24万円(モデル事例)が浮くが、代わりに手間・突発対応・心理的負担が自分に返ってくる
- 判断軸は「浮くお金 ÷ 自分の時給=何時間ぶんか」。本業が忙しい人ほど委託有利、時間に余裕がある人ほど自主管理有利
- 二択で考えず、集金代行だけ・客付けだけの部分委託で、苦手な工程だけ外に出す設計が現実的
- 会社選びは対応の速さ・報告・空室への動き・提案力の4視点。乗り換えは解約予告→受け皿確保→引き継ぎ一覧→入居者通知の順
- 税務では、浮いた委託料には税金がつく(手取りは税引き後)/自主管理でも記帳・申告は必要/法人で管理料を取るなら否認ラインに注意
次に読む:部分委託の設計図(工程3)/自主管理と重要事項説明(工程5)/自主管理の帳簿づけ(工程11)/不動産管理の全知識(総論)/不動産の法人化の進め方
出典
- 賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(令和2年法律第60号/賃貸住宅管理業法)——管理業者の登録・重要事項説明
- 国土交通省「賃貸住宅標準管理委託契約書」——管理業務の範囲の参考
- 所得税法26条(不動産所得)、同法157条(同族会社等の行為計算の否認)、法人税法132条(同族会社等の行為計算の否認)
- 国税庁ウェブサイト(確認日:2026年7月24日)
※管理委託料の相場(5%前後・3〜8%程度)、解約予告期間(1〜3か月前など)は地域・会社・契約により幅があり、本記事の数値は一般的な目安と架空のモデル事例です。法人で管理料を取る手法の否認リスク(管理料の適正水準・裁判例)は個別事情で判断が分かれます。管理委託契約の締結・変更や法人化を検討する際は、契約書の内容を確認のうえ、税務は当事務所へ、契約・法務の手続きは提携の専門家へご相談ください。
