管理会社に任せていれば、毎月の送金明細がそのまま帳簿の材料になります。自主管理では、その明細を自分で作ることになります。帳簿づけで迷ったら、確定申告書のどの欄に入る数字かを先に決めます。粒度はそこから逆算すれば決まります。収入側と経費側で、何をどこまで分けて記録するかを整理します。
※本記事は一般的な仕組みを解説するものです。登場する事例・金額はすべて架空のモデルです。個別の税務・法務相談ではありません。
→ 賃貸経営の全体像は 賃貸経営の全体像 にまとめています。
この記事でわかること
- 白色申告でも記帳と帳簿の保存が義務であること。帳簿の保存期間は7年と5年に分かれること
- 収入になるもの・ならないもの(敷金は預り金)と、いつの収入にするかの決め方
- 経費側で分けて記録すべき4か所。修繕費と資本的支出、減価償却、固定資産税、借入金の元本と利息
- 青色申告特別控除が10万円か55万円か65万円かで、求められる帳簿が変わること
- 月に1度やること・年に1度やることの切り分け
1. 帳簿は義務。まず保存期間から押さえる
帳簿づけは「青色申告をする人だけの話」ではありません。国税庁は、記帳と帳簿等の保存の対象を事業所得・不動産所得・山林所得を生ずべき業務を行うすべての人としています。白色申告でも、所得税の申告が必要ない規模でも、記帳と保存の義務はあります。
保存する期間は、帳簿と書類で分かれます。
| 保存するもの | 例 | 保存期間 |
|---|---|---|
| 法定帳簿 | 収入金額や必要経費を記載した帳簿 | 7年 |
| 任意帳簿 | 業務に関して作成した上記以外の帳簿 | 5年 |
| 決算関係の書類 | 決算に関して作成した棚卸表その他の書類 | 5年 |
| 取引の書類 | 請求書・納品書・送り状・領収書など | 5年 |
帳簿・書類の保存期間(国税庁「個人で事業を行っている方の記帳・帳簿等の保存について」をもとに作成。青色申告者の帳簿書類も原則7年、書類によっては5年)
白色申告の記帳は簡易な方法でよいとされており、取引を1件ずつではなく日々の合計額でまとめて書くことも認められています。とはいえ、賃貸経営の取引は件数が多くありません。部屋ごと・月ごとに1行ずつ書けば、簡易な方法の範囲でおさまります。
2. 収入側──何が収入で、いつの収入か
不動産所得の総収入金額には、家賃だけでなく次のものが含まれます(国税庁タックスアンサーNo.1370)。
- 賃貸料収入(家賃・地代)
- 名義書換料、承諾料、更新料、頭金などの名目で受け取るもの
- 敷金や保証金のうち、返還を要しないもの
- 共益費などの名目で受け取る電気代、水道代、掃除代など
大家が最も間違えやすいのは敷金です。預かった敷金は、返す前提のお金なので受け取っても収入になりません。帳簿では預り金として、家賃とは別の行に置きます。返さないことが確定した部分だけが、確定した日の収入になります。
いつの収入にするか
収入に計上する時期は、入金があった日ではありません。地代・家賃・共益費は、契約や慣習などで支払日が定められている場合はその支払日が計上時期です。支払日の定めがなければ、実際に支払を受けた日になります(国税庁タックスアンサーNo.1376)。
この違いは、滞納と前払いに表れます。
【モデル事例】契約で家賃の支払日を「前月末日」と定めた部屋があります。12月分の家賃10万円は11月末が支払日ですが、入居者が支払わないまま年をまたぎ、翌年2月に入金しました。この10万円は、支払日のある年の収入として記録します。入金した年ではありません。逆に、翌年1月分の家賃を12月中に前払いで受け取った場合も、支払日が1月なら翌年の収入です。
つまり、通帳の入出金をそのまま写しただけでは帳簿になりません。契約書に書かれた支払日を基準に、その月の家賃が発生したことを1行書き、入金があったらそれに対応させます。この2段構えにしておくと、年末に未収家賃をそのまま拾えます。
記録の粒度
収入は「物件ごと・部屋ごと・月ごと」に1行ずつが基本です。合計だけを書くと、次のことが年末に分からなくなります。
- 誰の家賃が何か月分たまっているか(未収の金額)
- どの部屋が何か月空いていたか(空室の状況)
- 更新料・礼金がどの契約から出たか(一時金の内訳)
更新料の扱いと請求できる条件は 更新料とは、敷金の精算と収入計上のタイミングは 敷金は、退去の立会いから返還まで6つの手順で精算する にまとめています。
3. 経費側──分けて記録すべき4か所
必要経費とできるのは、不動産収入を得るために直接必要な費用のうち、家事上の経費と明確に区分できるものです。主なものとして固定資産税、損害保険料、減価償却費、修繕費が挙げられています(国税庁タックスアンサーNo.1370)。
ここで大事なのは、経費の総額よりもどこで線を引いて記録するかです。あとから分けようとすると領収書を並べ直すことになる4か所を挙げます。
(1) 修繕費と資本的支出
修繕費か資本的支出かの判断が、いちばん分かれます。通常の維持管理や修理のための支出はその年の必要経費(修繕費)になりますが、資産の使用可能期間を延ばしたり、価値を高めたりする部分は資本的支出とされ、減価償却で少しずつ経費にしていきます。名目ではなく実質で判定します(国税庁タックスアンサーNo.1379)。
国税庁は、迷ったときに使える形式的な目安を示しています。
| 目安 | 内容 |
|---|---|
| 周期と金額 | おおむね3年以内の周期で行う修理・改良、または1つの修理・改良の金額が20万円未満なら修繕費にできる |
| 判定できないとき | 資本的支出か修繕費か明らかでない金額が、60万円未満のとき、またはその資産の前年末の取得価額のおおむね10%以下のときは修繕費にできる |
修繕費として処理できる場合の目安(国税庁タックスアンサーNo.1379をもとに作成)
この判定は「1つの修理・改良」ごとに行います。そのため、記録の粒度が効きます。工事代金を1本の「修繕費80万円」で書いてしまうと、内訳を分けられません。見積書の行単位で、外壁塗装・給湯器交換・網戸張替えのように、工事の内容ごとに金額を分けて記録しておきます。
どの工事がどちらに寄るかの具体例は 構築物・附属設備・修繕費の分け方、入居中に起きた不具合の初動は 入居中のトラブルは、記録を残してから直す。直した費用は経費とは限らない にまとめています。
(2) 減価償却
建物や設備は、買った年に全額が経費になるのではなく、使用可能期間にわたって分けて経費にします。この期間として法定耐用年数が定められており、その配分の手続が減価償却です(国税庁タックスアンサーNo.2100)。
大家が押さえるべき点は次のとおりです。
- 土地は減価償却しない。時の経過で価値が減らないため対象外です。物件を買ったときは、契約書と固定資産税評価額から土地分と建物分を分けて記録します
- 建物は定額法。平成10年4月1日以後に取得した建物の償却方法は旧定額法または定額法だけです。平成28年4月1日以後に取得した建物附属設備と構築物も定額法になります
- 取得価額10万円未満は全額経費。使用可能期間が1年未満のもの、取得価額が10万円未満のものは、業務に使い始めた年の必要経費にできます
記録としては、資産ごとに「取得日・取得価額・耐用年数・その年の償却費・年末の未償却残高」を並べた固定資産台帳を1枚持ちます。青色申告の帳簿としても、現金出納帳などと並んで固定資産台帳が挙げられています。
(3) 固定資産税と損害保険料
固定資産税は経費になりますが、記録するときに2つ分けます。賃貸に使っている部分と自宅部分、それと土地分と建物分です。自宅の一部を貸している場合や、自宅の隣の土地を駐車場として貸している場合は、面積などの合理的な基準で按分した金額だけが経費です。
火災保険や地震保険などの損害保険料も経費になります。数年分をまとめて払ったときは、その年に対応する分だけがその年の経費です。支払った全額を1年で落とさないよう、契約期間を帳簿の摘要欄に書いておきます。
(4) 借入金の元本と利息
返済額のうち経費になるのは利息だけです。元本の返済は経費になりません。返済予定表を見れば元本と利息が分かれているので、毎月の引落し1件を、元本の返済と支払利息の2行に分けて記録します。
もう1つ、赤字になったときの制限があります。不動産所得が赤字のとき、その赤字は他の黒字の所得と通算できますが、必要経費に入れた「土地等を取得するために要した負債の利子」に相当する部分は、損益通算の対象になりません(国税庁タックスアンサーNo.1391)。土地と建物をまとめて借入で買った場合、この計算のために土地分の利息がいくらかを出します。買った年に土地と建物の金額を分けて記録しておけば、あとで計算できます。
4. 青色申告──10万円・55万円・65万円で必要な帳簿が変わる
ここまでの記録をどこまでやるかは、青色申告特別控除をいくら取りにいくかで決まります。
| 10万円 | 55万円 | 65万円 | |
|---|---|---|---|
| 事業として行われている規模か | × | ○ | ○ |
| 正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)による記帳 | × | ○ | ○ |
| 貸借対照表・損益計算書を確定申告書に添付 | × | ○ | ○ |
| 期限内(翌年3月15日まで)の申告 | × | ○ | ○ |
| 優良な電子帳簿の要件を満たす電子帳簿保存(届出が必要)またはe-Taxによる電子申告 | × | × | ○ |
青色申告特別控除の要件(国税庁タックスアンサーNo.2072・No.1373をもとに作成。○は必要、×は不要。10万円の控除は55万円・65万円の要件に当てはまらない青色申告者が受けられる)
55万円の控除は、不動産所得を生ずべき事業を営んでいることが前提です。事業として行われているかどうかは、原則として社会通念上事業と称するに至る程度の規模かで実質的に判断されますが、建物の貸付けについては次のいずれかに当てはまれば、原則として事業として行われているものとして扱われます(国税庁タックスアンサーNo.1373)。
- 貸間・アパート等については、貸すことのできる独立した室数がおおむね10室以上であること
- 独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること
この規模に届かない場合、青色申告特別控除は最高10万円になります。判定の実務は 5棟10室基準とは にまとめています。
65万円にするには、55万円の要件に加えて、次のどちらかを満たします。1つは、仕訳帳と総勘定元帳について「優良な電子帳簿」の要件を満たして電子データで備付け・保存し、届出書を提出することです(令和4年分以後)。届出書は「国税関係帳簿の電磁的記録等による保存等に係る65万円の青色申告特別控除・過少申告加算税の特例の適用を受ける旨の届出書」で、適用を受ける年の翌年3月15日までに提出します。一般の電子帳簿保存を行っているだけでは、65万円にはなりません。もう1つは、確定申告書と貸借対照表・損益計算書等の提出を、提出期限までにe-Taxで行うことです。大家にとっては、会計ソフトからのe-Taxが現実的な選び方です。
5. 月に1度やること・年に1度やること
1年分をまとめてやろうとすると、帳簿づけが苦しくなります。作業を月次と年次に分けます。
月に1度やること
- 1家賃発生の記録契約書の支払日を基準に、部屋ごと・月ごとに1行書く。空室の部屋は0円ではなく行を立てない
- 2入金の照合通帳と突き合わせ、入金があった行に消し込みを入れる。合わない部屋は未収として残す
- 3支払の記録領収書・請求書を物件ごとに仕分け、修繕は工事の内容ごとに金額を分けて書く
- 4借入返済の分解返済予定表を見て、元本の返済と支払利息の2行に分ける
年に1度やること
- 1未収・前受の整理年末時点で未入金の家賃、翌年分の前受家賃を確定させる
- 2預り金の確認預かっている敷金の残高を確認し、返還しないことが確定した分を収入へ振り替える
- 3減価償却の計算固定資産台帳を更新する。年の途中で取得した資産は月数で按分する
- 4按分の見直し固定資産税・保険料・自宅兼用の費用について、賃貸部分の割合を確認する
- 5決算書の作成と申告貸借対照表と損益計算書を作り、期限までに申告する
自主管理の帳簿づけの年間サイクル
月次の4つは、慣れれば物件数によらず短時間で終わります。逆にここを飛ばすと、年末に通帳とにらみ合います。帳簿づけの負担は作業量ではなく、思い出す作業の量で決まります。
不動産所得の計算そのものの流れは 大家の所得税は、家賃から経費を引いた不動産所得にかかる、契約書や工事の書類をどう束ねるかは 物件の書類は、1物件1ファイルにまとめて残す にまとめています。自主管理を続けるか一部を人に頼むかを考える段階なら、管理を任せるか自分でやるかは、手取りで比べる もあわせてご覧ください。
まとめ
- 記帳と帳簿の保存は、不動産所得のある人全員の義務です。法定帳簿は7年、任意帳簿・書類は5年保存します
- 収入には家賃のほか更新料・礼金・名義書換料・承諾料・共益費で受け取る実費が入ります。敷金は預り金で、返さないことが確定した日に収入になります
- 収入の計上時期は入金日ではなく、契約で定めた支払日です。通帳を写すだけでは帳簿になりません
- 経費は4か所で分けます。修繕費と資本的支出、土地と建物、賃貸部分と自宅部分、借入返済の元本と利息。修繕費の目安はおおむね3年以内の周期または20万円未満で、判定できないときは60万円未満または前年末取得価額のおおむね10%以下
- 青色申告特別控除は、事業として行われている規模と複式簿記で55万円、優良な電子帳簿での保存(届出が必要)かe-Taxを加えて65万円、それ以外は10万円
- 作業は月次4つと年次5つに分けます。月次を飛ばすと年末の負担が跳ね上がります
次に読む:管理を任せるか自分でやるかは、手取りで比べる/大家の所得税は、家賃から経費を引いた不動産所得にかかる/5棟10室基準とは/構築物・附属設備・修繕費の分け方/賃貸経営の全体像
出典
- 所得税法26条(不動産所得)・36条(収入金額)・37条(必要経費)・69条(損益通算)・143条から149条(青色申告)、租税特別措置法25条の2(青色申告特別控除)
- 国税庁タックスアンサー No.1370「不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)」(総収入金額に含まれるもの・主な必要経費)
- 国税庁タックスアンサー No.1376「不動産所得の収入計上時期」(家賃・共益費は契約で定めた支払日、敷金・保証金は返還を要しないことが確定した日)
- 国税庁タックスアンサー No.1379「修繕費とならないものの判定」(おおむね3年以内の周期・20万円未満・60万円未満・前年末取得価額のおおむね10%以下)
- 国税庁タックスアンサー No.1391「不動産所得が赤字のときの他の所得との通算」(土地等を取得するために要した負債の利子)
- 国税庁タックスアンサー No.2100「減価償却のあらまし」(10万円未満の全額必要経費算入、建物・建物附属設備・構築物の償却方法)
- 国税庁タックスアンサー No.2070「青色申告制度」(帳簿書類の保存、青色申告承認申請書の提出期限)
- 国税庁タックスアンサー No.2072「青色申告特別控除」(10万円・55万円・65万円の要件)
- 国税庁「A1-15、H4-9 国税関係帳簿の電磁的記録等による保存等に係る65万円の青色申告特別控除・過少申告加算税の特例の適用を受ける旨の届出手続」(届出書の名称・提出期限)
- 国税庁タックスアンサー No.1373「事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分」(おおむね10室・おおむね5棟)
- 国税庁「個人で事業を行っている方の記帳・帳簿等の保存について」(記帳義務の対象者、帳簿・書類の保存期間、加算税の加重措置)
- e-Gov法令検索・国税庁ウェブサイト(確認日:2026年8月7日)
※修繕費と資本的支出の区分、按分の割合、事業として行われている規模かどうかの判定は、物件の状況によって個別に判断が分かれます。少額の資産に関する特例には適用期限があり、改正で変わることがあります。本記事は一般的な考え方の解説です。個別の判断は税理士にご相談ください。
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