相続税を減らす方法は数多くありますが、行き着く先は3つです。財産そのものを減らす生前贈与、評価額を下げる評価減、課税されない枠に移す非課税枠。問題は、この3つで「効果が出るまでの時間」も「手間」も違うことです。この記事では、主な手法を5つの軸で並べて比べ、使う順番の決め方を整理します。
※本記事は一般的な仕組みを解説するものです。登場する事例・金額はすべて架空のモデルです。個別の税務・法務相談ではありません。
→ 相続対策の全体像は 相続対策の全体像 にまとめています。
この記事でわかること
- 主な7つの手法を、効果・時間・手間・注意点・向く人の5つの軸で比べた一覧
- 使う順番は「非課税枠 → 評価減 → 生前贈与」で考えると決めやすいこと
- 非課税枠は生命保険と死亡退職金の2つ。どちらも500万円×法定相続人の数
- 評価減は、持っている土地に効くものから使います。買って下げる対策は2027年から変わること
- 生前贈与は暦年課税と相続時精算課税の2方式。どちらを選ぶかの分かれ目
1. 主な手法を5つの軸で比べる
まず全体を1枚で見ます。金額の大きさだけでなく、時間と手間を並べて置きます。
| 手法 | 効果の出方 | 必要な時間 | 手間 | 注意点 | 向く人 |
|---|---|---|---|---|---|
| 生命保険の非課税枠 | 500万円×法定相続人の数まで課税対象から外れる | 契約すればその時点から | 小 | 健康状態によっては加入できない。受取人の指定が要る | 手元に現金があり、納税資金も同時に用意したい人 |
| 死亡退職金の非課税枠 | 500万円×法定相続人の数まで課税対象から外れる | 会社の規程を整える期間 | 中 | 法人がある場合に限られる。死亡後3年以内に支給が確定したものが対象 | 資産管理会社などの法人を持っている人 |
| 小規模宅地等の特例 | 居住用の土地は330㎡まで80%減、貸付用の土地は200㎡まで50%減 | 要件を満たしていればすぐ | 中 | 申告が条件。原則として申告期限までに分割されていること | 自宅や賃貸物件の土地を持つ人 |
| 持っている土地を貸す・建てる | 借地権と借家権の分だけ土地の評価が下がる | 建築なら年単位 | 大 | 空室が出ると評価も収益も落ちる。賃貸経営として成り立つかが先 | すでに土地があり、賃貸を続ける意思がある人 |
| 賃貸不動産を買う | 現金のまま持つより評価が下がる | 2027年以後は取得から5年 | 大 | 5年以内に取得した貸付用不動産は取扱いが変わる見込み | 5年を超えて持ち続けられ、事業として回せる人 |
| 暦年課税の贈与 | 年110万円まで贈与税がかからない。渡した分だけ財産が減る | 長い。年単位で積み上げる | 小 | 加算対象期間内の贈与は相続財産に足し戻される | 時間があり、渡す相手が複数いる人 |
| 相続時精算課税の贈与 | 年110万円の基礎控除は足し戻されない。特別控除2,500万円までまとめて渡せる | 届出をすればその年から | 中 | 一度選ぶと暦年課税に戻せない。贈与者60歳以上・受贈者18歳以上 | まとまった額を早く渡したい人 |
相続税を減らす主な手法の比較(国税庁タックスアンサーNo.4114・No.4117・No.4124・No.4402・No.4103をもとに作成)
各手法の仕組みそのものは 相続税に対策する で解説しています。この記事は、その中から何をどの順で使うかに絞ります。
2. 使う順番は「非課税枠 → 評価減 → 生前贈与」
比較表を上から下へ見ていくと、そのまま検討の順番になります。理由は3つです。
検討する順番
- 1非課税枠枠が法律で決まっていて効果が読める。手続きが軽く、納税資金にもなる
- 2評価減1件あたりの効果が大きい。まず、持っている財産に効くものから使う
- 3生前贈与効果は確実だが年単位。使うと決めたら、その年から始める
手法を検討する順番
第1に、確実さが違います。非課税枠は「500万円×法定相続人の数」と条文で決まっており、計算のぶれがありません。評価減は要件の判定が入り、生前贈与は何年続けられるかで結果が変わります。読める金額から先に固めます。
第2に、手間が違います。保険の契約は1件で終わりますが、賃貸物件を建てるのは事業を1つ始めることです。軽いものを先に片づければ、重い手法を検討する余力が残ります。
第3に、取り返しのつきやすさが違います。保険は見直せます。贈与も来年やめられます。ですが建てた建物は元に戻せません。
3. 非課税枠──500万円×法定相続人の数が2つ
相続税には、財産の種類ごとに課税されない枠があります。次の2つが使いやすいです。
- 生命保険金:被相続人が保険料を負担していた死亡保険金は、相続人が受け取った合計額のうち「500万円×法定相続人の数」までが非課税になります(相続税法12条)
- 死亡退職金:死亡後3年以内に支給が確定した退職手当金等も、相続人が受け取った合計額のうち「500万円×法定相続人の数」までが非課税になります(相続税法12条)
相続人が3人なら、それぞれ1,500万円までです。現金1,500万円を口座に置いたまま相続すると全額が課税対象ですが、保険金で受け取る形にすれば枠におさまります。
この枠が最初に来る理由は、納税資金対策を兼ねられることです。保険金は受取人が単独で請求でき、遺産分割の話し合いを待たずに現金が届きます。→ 生命保険は相続対策の一手
4. 評価減──持っている財産に効くものから使う
評価減は、同じ財産でも税金の計算に使う金額を下げる方向です。効果が大きいぶん、要件と時期の縛りがあります。
小規模宅地等の特例
これを、いちばん先に確かめます。すでに持っている土地に効き、新たに何かを買う必要がありません。
| 区分 | 限度面積 | 減額される割合 |
|---|---|---|
| 特定居住用宅地等(自宅の土地) | 330㎡ | 80% |
| 特定事業用宅地等(事業用の土地) | 400㎡ | 80% |
| 貸付事業用宅地等(賃貸物件の土地) | 200㎡ | 50% |
小規模宅地等の特例の限度面積と減額割合(国税庁タックスアンサーNo.4124をもとに作成。貸付用と他の区分を併用する場合は面積の調整が入る)
注意が2つあります。第1に、この特例は申告して初めて使えます。税額が0円になる場合でも申告が必要です。第2に、貸付事業用は、相続開始前3年以内に新たに貸付事業に使い始めた土地が原則として対象外です。「相続が近そうだから貸し始める」は効きません。要件と誰が継ぐかの設計は 自宅の土地が最大8割減 にまとめています。
貸家・貸家建付地
持っている土地に賃貸建物を建てて人に貸すと、その土地は貸家建付地として評価が下がります。計算は「自用地としての価額 − 自用地としての価額 × 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合」です(財産評価基本通達26)。借地権割合と借家権割合は地域ごとに定められており、国税庁の財産評価基準書で確認できます。
式の最後にある賃貸割合に注目してください。空室が多いほど、評価の下がり方も小さくなります。評価減は、賃貸経営が回っていることの結果です。
賃貸不動産を買って下げる対策
現金で賃貸物件を買えば評価は下がりますが、この手法は取扱いが変わります。令和9年(2027年)1月1日以後の相続から、亡くなる前5年以内に取得した一定の貸付用不動産の評価が見直される方向です。買ってすぐに効かせる形は成り立たなくなります。→ 賃貸不動産の「5年ルール」
5. 生前贈与──2つの方式のどちらを選ぶか
贈与は、財産そのものを先に渡して減らす方向です。方式は2つあり、贈与者ごとに選びます。
| 暦年課税 | 相続時精算課税 | |
|---|---|---|
| 年間の基礎控除 | 110万円 | 110万円 |
| まとめて渡せる枠 | なし | 特別控除2,500万円(期限内申告が条件) |
| 相続時の足し戻し | 加算対象期間内の贈与は足し戻される | 基礎控除110万円の部分は足し戻されない |
| 年齢の要件があるか | × | ○ |
| 選び直し | いつでも変えられる | 選ぶと暦年課税に戻せない |
贈与2方式の比較(国税庁タックスアンサーNo.4402・No.4103をもとに作成。相続時精算課税は贈与者が贈与の年の1月1日で60歳以上、受贈者が18歳以上などの要件がある)
分かれ目は足し戻しの有無です。暦年課税で毎年110万円ずつ渡しても、加算対象期間に入る贈与は相続財産に足し戻されます。精算課税の110万円は足し戻されません。年数が残っていないなら精算課税、年数があり渡す相手が複数いるなら暦年課税、が出発点です。精算課税は一度選ぶと戻せず、渡した宅地の小規模宅地等の特例も失われます。→ 相続時精算課税を選ぶ前に
足し戻しの期間は、令和6年1月1日以後の贈与について3年から7年へ段階的に延びます。2026年中に相続が起きた場合はまだ3年です。2027年以後の相続から順に長くなります。延びた期間の贈与には、総額100万円まで足し戻さない扱いもあります。→ 生前贈与加算が3年から7年に
このほか、結婚子育て資金・住宅取得等資金には、目的を限った贈与の非課税特例があります。教育資金の一括贈与については、令和8年3月31日をもって新しく契約できる期間が終了しました。いずれも期限のある特例で、限度額も要件も改正で動きます。使うかどうかを考える段階で、国税庁の最新の情報を確認してください。
6. 使う前に確かめる2つと、やりすぎの線
着手の前に確かめることが2つあります。分け方が決まっているかと、納税資金の目処が立っているかです。
小規模宅地等の特例は、原則として申告期限までに分割されていることが条件です。分け方が決まらなければ、いちばん大きな評価減が消えます。また、節税で現金を不動産に換えると、納税資金が先に減ります。順番の理由は 相続対策は何から手をつけるか に、納税資金の出どころは 相続税が払えるか確認 にまとめています。
もう1つ、節税には認められる範囲の線があります。節税の効果だけの行為は、通常の評価方法によらずに課税されたり、形だけの贈与として否認されたりすることがあります。その線の引かれ方は 相続税に対策する で扱っています。
まとめ
- 節税の手法は、効果の出方・必要な時間・手間・注意点・向く人の5つで比べると選びやすいです
- 検討の順番は「非課税枠 → 評価減 → 生前贈与」。確実さ・手間の軽さ・取り返しのつきやすさが理由
- ただし生前贈与は年数が効果になるので、使うと決めたらその年から始めます
- 非課税枠は生命保険と死亡退職金の2つ。どちらも500万円×法定相続人の数
- 評価減は小規模宅地等の特例から。居住用330㎡まで80%減、貸付用200㎡まで50%減。申告が条件。買って下げる対策は2027年から取扱いが変わる見込み
- 贈与2方式の分かれ目は足し戻しの有無。2026年中の相続はまだ3年、以後段階的に7年へ
次に読む:相続税に対策する/小規模宅地等の特例/生前贈与加算が3年から7年に/生命保険は相続対策の一手/相続対策は何から手をつけるか
出典
- 相続税法12条(相続税の非課税財産。生命保険金・退職手当金等の非課税限度額)、15条(遺産に係る基礎控除)、19条(生前贈与加算)、21条の9から21条の12(相続時精算課税)
- 租税特別措置法69条の4(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)、70条の2の4(贈与税の基礎控除の特例)
- 財産評価基本通達25・26(貸宅地・貸家建付地の評価)
- 国税庁タックスアンサー No.4103(相続時精算課税の選択)・No.4114(相続税の課税対象になる死亡保険金)・No.4117(相続税の課税対象になる死亡退職金)・No.4124(小規模宅地等の特例)・No.4161(贈与財産の加算と税額控除)・No.4402(贈与税がかかる場合)・No.4614(貸家建付地の評価)
- 国税庁ウェブサイト(確認日:2026年8月7日)
※租税特別措置は改正で内容と期限が変わります。とくに目的を限った贈与の非課税特例と、貸付用不動産の評価の見直しは、実行前に最新の法令をご確認ください。どの手法が自分の家に効くか、いくら効くかは、財産の中身と家族構成で分かれます。個別の判断は税理士にご相談ください。
「相続対策」の入口は2つあります
筆者(宍倉)が、オンライン90分の無料モニターを募集中です。事前のヒアリングをもとに資料をこちらで用意し、当日は一緒に眺めながら話します。
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