アパートや貸家の契約書には、「普通借家」と「定期借家」の2種類があります。どちらで貸すかによって、貸主の側から契約を終えられるかどうかが大きく変わります。長く安定して貸し続けるなら普通借家、建替えや売却の予定があり期限を区切って貸したいなら定期借家。これが基本の選び方です。
※本記事は一般的な仕組みを解説するものです。個別の税務・法務相談ではありません。
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この記事でわかること
- 普通借家は、借主が希望する限り原則として更新が続く契約だということ
- 貸主から普通借家を終えるには「正当な理由(正当事由)」が必要で、ハードルが高いこと
- 定期借家は期間満了で終わる契約だが、書面と事前説明の手続きが厳格なこと
- 更新・契約方法・期間・中途解約・賃料特約という5つの違い
- 物件の将来計画から契約形態を選ぶ考え方
1. 普通借家とは──借主の保護が強い、原則の契約
ふつうに賃貸募集をして結ぶ契約は、ほとんどが普通借家契約です。期間は2年とすることが多いのですが、期間が満了しても、借主が住み続けたければ契約は原則として続きます。貸主が期間満了の1年前から6か月前までに更新を拒む通知をしない限り、契約は自動的に更新されるためです(法定更新。借地借家法26条)。
では貸主から更新を拒めるかというと、これが簡単ではありません。更新拒絶には「正当な理由(正当事由)」が必要です(借地借家法28条)。建物が古くなった、自分が使いたい、という事情だけでは足りないと判断されることが多く、実務では立ち退きの補償金(立退料)を提示して、ようやく認められるかどうかを争う世界です。
正当事由があるかどうかは、貸主と借主それぞれが建物を必要とする事情、これまでの契約の経過、建物の利用状況や老朽化の程度、立退料の申出などを総合して判断されます。「これを満たせば確実」という基準はありません。
賃料にも特徴があります。借主には家賃の減額を求める権利があり(借地借家法32条)、「家賃を下げない」という特約を契約書に入れても、普通借家では無効です。逆に、周辺相場が上がれば貸主から増額を求めることもできます。
2. 定期借家とは──期間満了で確実に終わる契約
定期借家契約(定期建物賃貸借。借地借家法38条)は、2000年に導入された契約形態です。最大の特徴は、更新がなく、期間の満了で契約が確定的に終わることです。正当事由も立退料も要りません。
双方が合意すれば、新しい契約を結び直して住み続けてもらえます(再契約)。これは更新とは別のもので、新規の契約という扱いです。また、定期借家では賃料を「増やさない・減らさない」と決める特約が有効です。貸主・借主双方にとって、収支の見通しを立てやすくなります。
そのかわり、手続きが厳格です。流れで確認します。
定期借家の手続きの流れ
- 1契約前の説明「更新がなく、期間満了で終了する」旨を記した書面を渡して説明します(借地借家法38条3項)。これを欠くと定期借家にならず、普通借家と同じ扱いになります
- 2書面で契約契約は書面で結ぶ。2022年5月以降は電磁的記録でもよい
- 3終了通知期間が1年以上なら、満了の1年前から6か月前までの間に「期間満了で終了する」と通知します(38条6項)。忘れると、通知から6か月たつまで終了を主張できません
- 4期間満了明け渡してもらうか、合意のうえで再契約します
3. 5つの違いを表で整理する
| 比較項目 | 普通借家 | 定期借家 |
|---|---|---|
| 更新 | 法定更新あり。借主が希望すれば原則続く | 更新なし。期間満了で終了(合意すれば再契約) |
| 契約の方法 | 口頭でも成立する(書面が通例) | 書面(電磁的記録も可)が必須。契約前の書面交付・説明も必須 |
| 契約期間 | 1年未満と定めると「期間の定めなし」の扱い(借地借家法29条) | 自由に設定できる(数か月でも10年でも可) |
| 中途解約(借主から) | 特約に従う(予告1か月などが通例) | 原則不可。特約があるか、200㎡未満の居住用でやむを得ない事情がある場合のみ可 |
| 賃料の特約 | 「減額しない」特約は無効 | 「増額しない・減額しない」特約とも有効 |
1行目がとくに重要です。普通借家は「借主が続けたければ続く」契約、定期借家は「期限が来たら終わる」契約。貸主から見ると、普通借家は契約を終えにくく、定期借家は終わりの時期を計画に組み込める、という違いになります。
4. どちらを選ぶか──物件の将来計画で決める
どちらが正解かは、物件をこの先どうしたいかで決まります。
| 状況 | 普通借家 | 定期借家 |
|---|---|---|
| 長く保有して安定的に貸したい | ○ | × |
| 数年後に建替え・売却・自己使用の予定がある | × | ○ |
| 転勤の間だけ自宅を貸したい | × | ○ |
| 相場どおりの家賃と決まりやすさを優先したい | ○ | × |
物件の将来計画から見た向き不向きの目安
定期借家は「期限が来たら退去が前提」の契約なので、募集の場面では敬遠されることがあります。家賃を相場よりやや下げて募集する例も多く、収入面での織り込みが必要です。一方で、建替えや売却の期日が決まっている物件を普通借家で貸すと、立ち退きの交渉と補償が計画の重荷になります。
事業計画の面から見ると、普通借家は退去してもらうときの費用(立退料)が読めず、定期借家は終わりの時期と再契約の事務負担が読める、という対比になります。物件ごとの使い分けも有効です。長く持つ物件は普通借家、数年で動かす物件は定期借家、という整理です。
なお、いま普通借家で貸している部屋を定期借家へ切り替えるには、借主の合意が必要です。さらに居住用では、定期借家制度が始まる前(2000年3月より前)に結んだ普通借家契約について、合意による定期借家への切替えが認められていません。切替えを考える場合は、契約の時期から確認してください。
5. 実務の注意点──手続きを1つ欠くと普通借家になる
定期借家は、手続きの正確さがすべての前提になります。次の3点を押さえてください。
- 契約前の書面交付・説明を欠くと、契約書に「定期借家」と書いてあっても普通借家の扱いになります。管理会社任せにせず、説明書面の控えを自分でも確認します
- 終了通知(満了の1年前から6か月前)は忘れやすい期限です。契約したらすぐ、通知の時期をカレンダーに登録しておきます
- 再契約は新規契約と同じ事務が発生します。定期借家の運用に慣れた管理会社かどうかを、依頼する前に確かめてください
まとめ
- 普通借家は借主の保護が強く、貸主から契約を終えるには正当事由が必要
- 定期借家は期間満了で確実に終わるが、契約前の書面交付・説明と終了通知の手続きが厳格
- 違いは、更新・契約方法・期間・中途解約・賃料の特約
- 選び方の軸は物件の将来計画。長期保有なら普通借家、建替え・売却・転勤なら定期借家
- 手続きを1つ欠くと定期借家の効力は失われます。管理会社選びと期限管理が実務の要
出典
- 借地借家法26条(建物賃貸借契約の更新等)・28条(更新拒絶等の要件)・29条(建物賃貸借の期間)・32条(借賃増減請求権)・38条(定期建物賃貸借)
- 良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法 附則(施行前に締結された居住用建物の賃貸借に係る定期借家への切替え制限)
- e-Gov法令検索「借地借家法」(確認日:2026年8月7日)
※契約実務の運用や立退料の水準は、物件・地域・個別の事情で大きく異なります。本記事は一般的な目安です。契約書の作成・変更は宅建業者や弁護士に、事業計画への影響は税理士に確認してください。
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