物件を貸しに出すとき、家賃をいくらにするかにいちばん迷います。高すぎれば空室が続き、安すぎれば収益が細ります。結論から言うと、家賃は勘で決めず、「相場から基準を出す→経費から下限を確かめる→入居者の手取りから上限を確かめる→物件の条件で調整する→下げる前に工夫を試す」の順で決めます。
※本記事は一般的な仕組みを解説するものです。登場する事例・金額はすべて架空のモデルです。個別の税務・法務相談ではありません。
→ 賃貸経営の全体像は 賃貸経営の全体像 にまとめています。
この記事でわかること
- 相場の調べ方、比較する条件のそろえ方と、成約事例の見方
- 経費から出す「これ以下にはできない」下限ライン
- 入居者の手取りから見た「これ以上は決まりにくい」上限ライン
- 物件の強み・弱みで金額を調整するときの考え方
- 家賃を下げる前に試す「下げ方の工夫」と、税務の注意点
1. 相場から基準の家賃を出す
最初にやることは、思いつきの金額を捨てて、相場から「基準の家賃」を出すことです。SUUMO・LIFULL HOME’S・アットホームなどの物件サイトで、自分の物件と条件の近い募集を調べます。
比べるときは、次の条件をそろえます。
- 最寄り駅
- 駅からの徒歩分数
- 築年数
- 間取りと広さ
- 階数
条件の近い物件を10件ほど一覧にします。家賃だけでなく、管理費(共益費)・敷金と礼金・フリーレント(入居後の一定期間の家賃を無料にする条件)の有無もメモします。入居者は月々の総額と初期費用で比べるからです。
注意したいのは、サイトに載っている金額は「募集賃料」、つまり貸主の希望価格だという点です。実際に決まった金額(成約賃料)とは差があります。不動産会社に頼めば、業者間の物件データベース(レインズ)にある成約事例を教えてもらえます。また、2か月以上載り続けている物件は「その家賃では決まらなかった例」として参考になります。
2. 経費から「下限」を確かめる
次に、物件を持ち続けるのにかかる年間の経費を洗い出します。目的は利益の計算ではありません。「これを下回ると持ち出しになる」という下限ラインを知るためです。
| 費用項目 | 確認のしかた |
|---|---|
| ローン返済(元金と利息の合計) | 返済予定表で年間額を確認 |
| 固定資産税・都市計画税 | 毎年届く課税明細書で確認 |
| 管理委託料 | 管理会社に委託している場合。契約書で確認 |
| 修繕費の積み立て | 退去時の原状回復や設備の故障に備える分 |
| 火災保険・地震保険 | 保険証券で年あたりの負担を確認 |
| 空室による減収の見込み | 満室前提にせず、一定割合を見込む |
この合計を12で割った金額が、月あたりの下限ラインです。たとえば年間の経費合計が66万円なら、66万円÷12で月5万5,000円が下限になります(架空のモデルです)。これを下回る家賃で貸すと、貸すほど資金が減っていきます。
3. 入居者の手取りから「上限」を確かめる
借りる側には、払える金額の天井があります。家賃と管理費の合計で、手取り月収の3割前後までが一般的な目安です。これを超える設定は、申し込みが減るだけでなく、入居後の滞納リスクも高めます。
そこで、狙う入居者層を先に決めます。たとえば手取り20万円前後の単身者向けなら、家賃と管理費をあわせて6万円前後までが現実的な線です(架空のモデルです)。ステップ1で出した基準の家賃がこの天井を超えているなら、金額をいじる前に「誰に貸すのか」から考え直します。
4. 物件の条件で上下に調整する
基準の家賃に、物件ごとの条件を足し引きします。
| 方向 | 条件の例 |
|---|---|
| 上乗せしやすい | 角部屋・最上階/インターネット無料/オートロック・防犯カメラ/宅配ボックス/ペット可/独立洗面台 |
| 下げる方向に働く | 1階/浴室・トイレ・洗面が一体の3点ユニットバス/線路沿い・幹線道路沿い/北向きなど日当たりの弱さ/築年数の経過 |
いくら上乗せできるかは、地域と客層で変わります。金額の感覚をつかむには、地元の客付け仲介会社に「この条件でいくらなら決まりますか」と聞くのが確実です。募集の現場の答えが、いちばん信頼できる相場情報です。
マイナス条件を値下げだけで受け止めるのは下策です。設備で解消できないかを先に考えます。たとえば家賃を月2,000円上げられる設備なら、増収は年2万4,000円です。設備費が12万円なら5年で回収できる計算になります(架空のモデルです)。
5. 下げる前に「下げ方の工夫」を試す
募集を始めたら、仲介会社から問い合わせ数と内見数の報告をもらい、2〜4週間の動きで判断します。反応が鈍いときも、月々の家賃を下げるのは最後の手段です。家賃を下げると年間収益が減り、収益物件としての売却査定にも響きます。同じ建物の既存入居者との金額差が、更新時の交渉の火種になることもあります。
先に、月額を守ったまま入りやすくする工夫を試します。
下げる前に試す順番
- 1フリーレント入居後1〜2か月分の家賃を無料にする。月額を守ったまま初期負担を軽くできる
- 2敷金・礼金の調整初期費用の壁を下げる。敷金をゼロにするなら、退去時クリーニング費用の負担を特約で契約書に明記する
- 3広告料(AD)の上乗せ貸主から仲介会社へ払う募集の報酬。紹介の優先度が上がりやすいです
- 4家賃と共益費の内訳変更検索サイトの価格帯の区切りを意識した内訳にします。更新料の計算基準が変わる点に注意
賃貸には季節の波もあります。進学・就職・転勤が重なる1〜3月は需要が多く、春以降は落ち着きます。閑散期の空室は、値下げで埋めるより、条件面の工夫でつないで次の繁忙期に備えるのが定石です。
→ 空室が続くときの手の打ち方は 空室が埋まらない原因は3つ。家賃を下げるのは最後 で詳しく扱います。
6. 税務の視点──家賃収入は不動産所得になる
家賃収入は不動産所得として所得税・住民税の対象になります(所得税法26条)。「家賃がいくら入るか」だけでなく、税引き後にいくら残るかで収支を考えてください。フリーレント期間は家賃収入が立ちませんが、その間の借入利息や管理費などの経費は通常どおり計上できます。
もう1つ、親族に相場より大幅に安く貸す場合は注意が必要です。その部分について経費の按分などで税務上不利な扱いになることがあります。相場を大きく外れる金額を設定する前に、税理士に確認してください。
まとめ
- 家賃は「相場から基準→経費から下限→手取りから上限→条件で調整→下げる前に工夫」の5ステップで決めます
- 相場は5条件(駅・徒歩・築年数・間取り・階数)をそろえて10件比較。長く載り続けている物件は「決まらなかった例」として読みます
- 年間経費÷12が下限ライン。入居者側の上限は家賃と管理費の合計で手取りの3割前後が目安
- 条件による上げ下げの金額感覚は、地元の仲介会社への聞き取りが確実
- 反応が鈍くても、まずフリーレント・敷金礼金の調整・広告料・内訳の工夫。月額の値下げは最後
- 家賃収入は不動産所得。親族への低額賃貸は税理士に確認します
次に読む:空室が埋まらない原因は3つ。家賃を下げるのは最後/大家の所得税は、家賃から経費を引いた不動産所得にかかる/賃貸経営の全体像
出典
- 所得税法26条(不動産所得)
※本記事の「手取りの3割前後」「2〜4週間で判断」「1〜3月が繁忙期」などの数値は一般的な目安で、地域・物件・時期により幅があります。実際の家賃は募集の現場の情報とあわせて判断してください。税務の個別判断は税理士にご相談ください。(確認日:2026年8月7日)
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