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「30年家賃保証」が法的には保証されない理由──サブリース契約で大家が線を引くべき5か所

公開 2026.07.31 / 更新 2026.08.07 賃貸経営 筆者:宍倉奎次郎(税理士・宅地建物取引士・大家)

「30年一括借上げ、家賃保証です」──アパート建築の提案書に必ず載っている一行です。

この言葉を「30年間、この金額が振り込まれる」と読むと、まず間違いなく事故ります。法律上、その保証は成立していません。なぜそうなるのか、そして契約前にどこへ線を引けばいいのかを整理します。

結論から言うと、こうです。

① 家賃の減額請求は、特約で封じられません(借地借家法32条/最高裁平成15年10月23日判決)。契約書に「○年間減額しない」と書いてあっても同じです。② 業者からは解約できるのに、大家からの更新拒絶には正当事由が要るという非対称があります。③ 契約が終わると、大家は転貸人の地位と敷金返還債務を承継します。サブリースは「任せて終わり」ではなく、契約書の5か所に線を引けるかどうかの勝負です。

※本記事の人物・金額はすべて架空のモデル事例です。一般的な仕組みを解説するもので、個別の法律相談ではありません。

→ 賃貸経営の全体像は 賃貸経営の全体像 にまとめています。この記事は STEP 2「任せるか、自分でやるか(管理の形)」 の各論です。

この記事でわかること


1. なぜ「家賃保証」は保証にならないのか

借地借家法32条は、特約で排除できない

借地借家法32条は、賃料が不相当になったときに当事者のどちらからでも増減額を請求できると定めています。そして、この規定は特約で排除できません(普通借家の場合)。

サブリース契約では、大家が「貸主」、サブリース業者が「借主」です。つまり借地借家法で保護されるのは、大家ではなく業者のほうです。ここが直感に反するところで、多くの方が取り違えます。

だから業者は、周辺相場が下がったとき、契約書に何と書いてあっても賃料の減額を請求できます。

根拠となる最高裁判決

最高裁平成15年10月23日判決は、サブリース契約に家賃保証の特約があっても、業者からの借賃減額請求は認められると判示しました。

ただし、この判決には続きがあります。相当な賃料を決めるにあたっては、保証特約が存在したこと・事業の収支・建築資金の返済計画を考慮するとされています。

実務的な読み方はこうです。

「30年家賃保証」は法的には保証されない。ただし減額の協議では、当初の事業計画を主張材料にできる。

減額請求を受けたからといって、大家が言い値を飲む義務はありません。協議が調わなければ、調停・訴訟で相当賃料が決まります。空室が増えた、業者の経営が苦しい、というだけでは減額の要件を満たしません。


2. 出口が非対称になっている

もう一つの構造的な問題が、契約をやめるときの非対称性です。

業者から 大家から
中途解約 契約条項次第で可能(○か月前予告など) 契約条項による。認められないことが多い
更新拒絶 可能 借地借家法28条の正当事由が必要

サブリース契約にも借地借家法が適用されます(裁判所も認めています)。したがって、大家から「更新しません」と言うには正当事由が必要です。そして一棟まるごとを大家が自分で使う必要性は認められにくく、更新拒絶のハードルは高いのが実情です。

「嫌になったら解約すればいい」は通りません。入るのは簡単で、出るのが難しい契約だと理解してください。

契約が終わるときにも、思わぬものが回ってくる

マスターリース契約が終了すると、大家は転貸人の地位を当然に承継します。つまり、

だから契約書には、契約終了時に業者が入居者の敷金・転貸借契約書・入居者名簿を大家へ引き渡す義務を明記させ、敷金が業者の固有財産と分別管理(別口座)されているかを確認しておく必要があります。

関連して押さえておきたいこと。 大家がサブリース会社と合意解約しても、それを入居者に対抗できません(最判昭和37年2月1日。改正民法613条3項で明文化されました)。会社と話をつければ部屋を空けられる、ということはありません。


3. 大家に用意されている武器

2020年の賃貸住宅管理業法(サブリース規制は2020年12月15日施行)で、大家側の防御手段が法定されました。ほとんど使われていないので、ここは知っておく価値があります。

① 誇大広告の禁止

「家賃保証」「空室保証」と書くなら、その隣接する箇所に、定期的な見直しがあること・借地借家法32条により減額されうることを表示しなければなりません。

NGとされる例を挙げます。

② 不当な勧誘の禁止

故意に事実を告げない・事実でないことを告げると、6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。契約に至らなくても違反は成立します。

告げないと違反になる例:家賃の減額リスク/業者側から中途解約できること/大家からの解約には正当事由が要ること/修繕費用の負担/新築当初の免責期間。

さらに、午後9時から午前8時までの承諾のない電話・訪問勧誘再勧誘(一度断られたら、担当者を変えても再度勧誘すれば違反)も禁止されています。

そして重要なのが「勧誘者」も直接規制されるという点です。 建設会社・不動産業者・金融機関・FP・コンサルタント、さらに紹介料をもらって知人に勧める大家仲間まで含まれます。

アパートを建てる前に、サブリースのリスク説明を受けるのは大家の権利です。建設請負・土地売買とセットで勧誘されている場合、リスク告知は「建てる前」にされるべきものとされています。契約後では、もう多額の債務が発生してしまっているからです。

③ 契約締結前の重要事項説明

サブリース業者自身の義務です(違反は50万円以下の罰金)。説明から契約までは1週間程度の熟慮期間を置くことが望ましいとされています。その場でサインを求められたら、それ自体が黄信号です。

④ 業者の財務諸表を見せてもらえる

見落とされがちですが、サブリース業者は業務状況調書・貸借対照表・損益計算書を営業所に3年間備え置き、大家や契約を検討している人の求めに応じて閲覧させる義務があります。

30年の約束をする相手の財務を、契約前に見られる制度です。使っている大家はほとんどいません。

⑤ 国土交通大臣への申出制度

誰でも、利害関係がなくても、原則メールで違反を申し出ることができます。

執行の実情も知っておく

国交省は賃貸住宅管理業者・特定転貸事業者への全国一斉立入検査を継続しており、令和6年の公表分では187社を検査して127社に是正指導(約6割)が入っています。管理業法に基づく初の監督処分として、サブリース事業者への業務停止命令(重要事項説明書の不交付67件等を理由とする15日間の業務停止)も出ています。

「規制はあるが、守っていない業者が相当数いる」という前提で契約に臨むのが正しい姿勢です。契約前に、国交省のネガティブ情報等検索サイトで処分歴を確認してください。


4. 重要事項説明書で線を引くべき5か所

説明書は分量が多く、全部を同じ濃度で読むのは現実的ではありません。次の5か所だけは、必ず指を止めてください。

# 見る場所 何を確認するか
1 免責期間 新築時・退去後に、借上げ賃料が支払われない期間がどれだけあるか。ここが長いと初年度の収支が崩れます
2 家賃改定 改定日はいつか。設定の根拠は何か(近傍同種の家賃相場を示させる)。「○年間据置き」と書かれていても、32条の減額請求は排除できません
3 解約 業者からの解約予告期間は何か月か。「契約後一定期間は解約不可」が入っているか。大家からの解約条件はどうなっているか
4 契約終了時の承継 転貸人の地位・敷金返還債務・入居者名簿・転貸借契約書の引渡しがどう定められているか
5 費用分担 経年劣化・通常損耗の修繕費が、具体的にどちらの負担か。「維持保全の実施方法」と併せて確認

あわせて、契約期間は「家賃が固定される期間」ではないことを、書面上で明示させてください。ここを混同させたまま契約させる例が後を絶ちません。

大家からの催告解除ができる事由(家賃3か月分以上の滞納・転貸条件違反・費用負担義務違反など)も、契約書に入っているか確認しておきます。


5. 定期借家型にすると何が変わるか

マスターリース契約を定期借家の形にすると、扱いが変わります。

「減額されるのが怖い」という悩みには効きますが、途中でやめる自由と引き換えです。どちらのリスクを取るかという選択になります。

→ 普通借家と定期借家の違いそのものは 「普通借家」と「定期借家」どっちにする? で扱っています。


6. 同族の資産管理会社への一括貸しは、規制の対象外

最後に、資産管理会社を持っている方向けの補足です。

サブリース規制(特定賃貸借契約)は、借主が大家の親族(6親等内の血族・配偶者・3親等内の姻族)や、親会社・子会社・関連会社などの密接な関係者である場合は対象外です。したがって同族の資産管理会社への一括貸しには、重要事項説明義務などはかかりません。

ただし、規制の外だからこそ、自分で契約書に条項を入れておく必要があります。

そして、借地借家法は通常どおり適用され、税務も通常どおりです。実態が伴わないサブリース法人は否認されます。借上料の水準(満室想定家賃の10〜15%を差し引いた85〜90%が相場観)、空室損を法人が実際に負担している実態、契約書と入金記録の整備が必要です。

→ 管理料の水準そのものは 同族の管理会社に払う管理料は何%まで認められるか、方式の選び方は 法人化の3方式の選び方 をご覧ください。


まとめ

次に読む:自主管理 vs 管理委託——管理料5%は損か得か(STEP 2)/不動産管理ってなにをするの?(STEP 0)/「家賃、いくらにする?」で迷ったら(STEP 3)/不動産の法人化は得か損か


出典

※法令・ガイドラインは改正されることがあります。減額請求が認められるか、更新拒絶に正当事由があるかは、個別の事情による判断です。契約書の作成・交渉、訴訟や調停といった法律事務は弁護士の領域であり、本記事は一般的な情報提供にとどまります。個別の判断は弁護士等の専門家にご確認ください。税務の取扱い(同族法人への一括貸しにおける借上料の水準など)については税理士にご相談ください。

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宍倉奎次郎
税理士・宅地建物取引士・大家
宍倉 奎次郎

税理士・宅地建物取引士。自身も賃貸物件を持つ大家の立場から、法人化・相続・不動産管理まわりの税務を、制度と判例にもとづいて解説しています。記事内の事例はすべて架空のモデルケースです。制度・税率・判例は年度で変わります。個別具体的な判断は、不動産税務に強い税理士へご確認ください。

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