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入居中のトラブルと修繕──初動でやる記録と、修繕費か資本的支出かの分かれ目

公開 2026.08.07 賃貸経営 筆者:宍倉奎次郎(税理士・宅地建物取引士・大家)

入居が決まって家賃が入り始めると、次に来るのは連絡です。「上の階がうるさい」「エアコンが動かない」「消防の点検の案内が来た」。賃貸経営で手が止まるのは、たいていこの場面です。

入居中に来る連絡は、クレーム・設備の故障・法定点検の3つに分かれます。どれも初動は同じで、まず記録を残すこと。そして直したあとに、その費用がその年の経費になるか、何十年もかけて落とすことになるかが決まります。

※本記事の人物・金額はすべて架空のモデル事例です。一般的な仕組みを解説するもので、個別の税務・法務相談ではありません。

→ 全体の流れは 賃貸経営の全体像。この記事は章6「トラブルと修繕に対応する」の解説です。

この記事でわかること


1. 入居中に来る連絡は3種類

種類 大家がやること
入居者どうしのトラブル 騒音、ゴミ出し、ペット、駐車 記録 → 全体への注意 → 個別の申し入れ
設備の故障 給湯器、エアコン、水漏れ、鍵 直す義務がある。すぐ手配する
建物の法定点検 消防設備、貯水槽、エレベーター 期限どおりに点検し、報告する

この3つを混ぜて考えると動けなくなります。「これは直す話か、伝える話か、届け出る話か」で仕分けるのが先です。

2. 設備の故障は、放っておくと家賃が減る

貸している側には、貸した物を使える状態にしておく義務があります(民法606条1項)。そして2020年4月からの民法では、入居者のせいでなく設備が使えなくなったとき、使えなくなった部分の割合に応じて、家賃は当然に減額されます(民法611条1項)。

ここは以前の民法と変わったところです。昔は「減額を請求できる」でしたが、いまは請求を待たずに減ります。連絡を受けてから手配までの日数が、そのまま収入に効くということです。

【モデル事例】 真夏に給湯器が止まったと連絡が来たが、業者の手配を後回しにして10日かかった。この10日は「風呂が使えない部屋」を貸していたことになり、その分の家賃は減る前提で精算することになった。

実務では、業者への連絡日・訪問日・完了日を記録しておくと、あとで金額の話になったときに揉めません。管理会社に任せている場合も、報告のタイミングだけは決めておきます。→ 自主管理 vs 管理委託——管理料5%は損か得か

3. クレームは、解決の前に記録

騒音やゴミのクレームで、いきなり相手の部屋に言いに行くのは危険です。事実がはっきりしないうちに個人を特定して動くと、こちらが加害者になりかねません。順番があります。

この記録は、あとで契約を続けるかどうかを判断するときの材料にもなります。詳しくは → 騒音・ゴミトラブルはオーナーが取るべき3段階の対応

4. 法定点検は「やる」だけでなく「報告する」

建物には、法律で決まった点検があります。消防用設備等は定期に点検し、その結果を消防署へ報告する義務があります(消防法17条の3の3)。共同住宅では、報告の周期が決まっています。

点検業者に頼んで終わり、と思っていると報告が抜けます。点検の実施と、行政への報告は別の作業です。賃貸物件と消防法──オーナーの義務と、点検・報告の基本

5. 直した費用は、その年の経費になるとは限らない

ここが税金の話です。かかった費用は、修繕費(その年の経費)資本的支出(資産に計上して減価償却)に分かれます。同じ「直した」でも、扱いはまったく違います。

区分 中身 経費になるタイミング
修繕費 元の状態に戻すための支出。壊れた給湯器の交換、原状回復の壁紙 その年に全額
資本的支出 価値を高める、使える期間を延ばす支出。全室の間取り変更、外壁の全面改修 資産に計上し、耐用年数で分けて

迷ったときの目安が通達に置かれています(所得税基本通達37-11、37-13ほか)。

大規模修繕のように金額が大きいものは、まず資本的支出を疑ってかかります。工事の見積書を「原状回復の部分」と「グレードを上げた部分」に分けて書いてもらうと、後の判断がぐっと楽になります。→ 構築物・附属設備・修繕費の分け方──減価償却を左右する4つの区分

まとめ

→ 次に読む:敷金精算の実務──退去立会いから返還までの手順(章7)


出典

※確認日:2026年8月7日。契約解除や明渡しの手続きは弁護士の領域です。税務の影響とあわせて、着手前に専門家へご確認ください。

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宍倉奎次郎
税理士・宅地建物取引士・大家
宍倉 奎次郎

税理士・宅地建物取引士。自身も賃貸物件を持つ大家の立場から、法人化・相続・不動産管理まわりの税務を、制度と判例にもとづいて解説しています。記事内の事例はすべて架空のモデルケースです。制度・税率・判例は年度で変わります。個別具体的な判断は、不動産税務に強い税理士へご確認ください。

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