「資産管理会社を作ったはいいが、いま個人で持っている物件を、どうやって会社に移せばいいのか」──ここでつまずく地主の方は本当に多いです。ネットには「法人化しましょう」という記事はあふれているのに、「では、どうやって移すのか」を具体的な手順とリアルな金額で書いたものはほとんどありません。
結論から言います。既存物件の法人化は、「土地は売るな、建物だけを簿価で移せ」が王道です。土地まで会社に売ると譲渡税と移転コストで大損しますが、建物だけを帳簿価額(簿価)で移せば譲渡税をほぼゼロにでき、土地は「無償返還の届出+固定資産税の2〜3倍の地代」で会社に貸すことで、相続時の評価まで8割に圧縮できます。
私は税理士であり、宅地建物取引士であり、自社で賃貸管理を行う現役の大家でもあります。このスキームは机上論ではなく、自分の物件で実際に移転を実行してきた当事者の話です。移転コストが何年で回収できたか、金融機関との交渉で何が起きたかまで、実額の肌感覚で書いていきます。
- この記事でわかること
- 結論:「土地は売るな、建物だけ簿価で移せ」を税理士が自分でやった
- 個人の物件を法人へ移す3つの手法──売買・現物出資・贈与
- なぜ「建物だけ」を移すのか──4つの理由と「3年縛り」
- 移転価額の決め方──簿価か時価か、「みなし譲渡」の壁
- 移転コストの総ざらい(2026年時点)──登免税2%・不取税3〜4%・消費税・回収年数
- 土地は「売らずに貸す」──無償返還届+固都税2〜3倍地代で自用地×80%+貸付事業用50%の両取り
- 最大のボトルネックは残債と抵当権──金融機関の事前承諾が命
- 実行手順とチェックリスト──着手から名義変更・個人側の届出まで
- まとめ:移転で外してはいけない「3点セット」と次のアクション
この記事でわかること
- 個人の物件を法人へ移す3つの手法(売買・現物出資・贈与)と、なぜ「売買」が定番なのか
- なぜ「土地は残し、建物だけ」を移すのか──その4つの理由と「3年縛り」
- 移転価額を「簿価にするか時価にするか」の分かれ道と、みなし譲渡(所得税法59条)の壁
- 登録免許税・不動産取得税・消費税・司法書士報酬まで含めた移転コストの総額と、回収年数の出し方
- 土地を「無償返還の届出+固都税2〜3倍地代」で貸し、自用地×80%+貸付事業用50%を両取りする方法
- 見落とされがちな最大の関門──残債・抵当権と金融機関の事前承諾
結論:「土地は売るな、建物だけ簿価で移せ」を税理士が自分でやった
まず検索意図にまっすぐ答えます。既に個人で持っている収益物件を法人化するときの王道は、次の一択です。
建物だけを・簿価で・売買によって法人へ移し、土地は売らずに「無償返還の届出+固定資産税の2〜3倍の地代」で法人へ貸す。
なぜ土地を売ってはいけないのか。理由はシンプルです。先祖代々の土地は取得費が分からないケースがほとんどで、取得費不明の土地は「概算取得費=売却額の5%」しか経費にできません。つまり売却額の95%が譲渡益として課税されてしまう。ここに登録免許税・不動産取得税まで乗るので、土地の移転はコストの塊です。
一方、建物は値上がりしない前提で考えられるため、法人税基本通達9-1-19に基づいて未償却残高(簿価)を時価とみなして移転できます。簿価と時価がほぼ一致するので、譲渡益がほとんど出ない=譲渡税20.315%をほぼゼロにできるわけです。しかも家賃という「果実」だけが法人に付け替わり、個人に利益が溜まって相続財産が膨らむのを止められます。
この記事は「移す実務」だけを深掘りする専門記事です。「そもそも法人化すべきか」「いくらから得か」という手前の判断は、法人化の全体像・判断ガイドといくらから得か(損益分岐)に譲ります。ここから先は、腹を決めた方に向けて、移転の具体手順と数字を一気に見せていきます。
個人の物件を法人へ移す3つの手法──売買・現物出資・贈与
まず「移す方法」を整理しましょう。個人所有の不動産を法人へ入れる手法は、正しくは「売買」「現物出資」「贈与」の3つです。よく混同される「現物分配」は、会社法上は法人が株主へ資産を交付する行為(方向が法人→株主)で、しかも100%支配の法人間限定なので、個人の物件を会社に入れる場面では使いません。ここは最初に切り分けておきます。
| 手法 | 資金 | 個人側の課税 | 手続きの重さ | 位置づけ |
|---|---|---|---|---|
| 売買 | 法人に買取資金が必要 | 譲渡所得(簿価売却なら益ゼロ) | 軽い(契約+移転登記) | 最も一般的 |
| 現物出資 | 不要(不動産で出資) | 譲渡所得(時価で認識) | 重い(原則、検査役調査) | 資金を用意できない時の代替 |
| 贈与 | 不要 | みなし譲渡(時価課税) | 軽い | 三重課税リスクでほぼ選ばない |
売買は、法人に建物の買取資金が要りますが、契約と移転登記だけで済み、コストが読めるのが強みです。譲渡益も簿価売却なら出ません。
現物出資は、現金の代わりに不動産そのものを出資する方法で、買取資金が要らないのがメリット。ただし原則として裁判所が選任する検査役の調査が必要で、これが数か月・高コストになります。財産の価額が500万円以下であるか、不動産鑑定士の鑑定評価を添えた税理士・弁護士等の価額証明があれば検査役調査は省略できます(会社法33条・207条)。また移転登記に加えて増加した資本金×0.7%の登録免許税も別途かかります。
贈与は、資金も手続きも軽いのですが、税務上は最悪です。個人には「みなし譲渡(時価課税)」、法人には「受贈益課税」、株主には「みなし贈与」と、三重に課税されるリスクがあり、実務ではまず選びません。
結論として、資金の当てがあるなら、手続きが軽くコストの読める「売買」が定番です。以下、この売買を前提に話を進めます。
なぜ「建物だけ」を移すのか──4つの理由と「3年縛り」
賃貸業の法人化では、土地は個人に残し、建物のみを法人へ移すのがほぼ定石です。理由は次の4点に集約されます。
- 土地を動かすと譲渡税が重い──前述のとおり、取得費不明の土地は概算取得費5%しか使えず、譲渡益が売却額の95%まで膨らむ。登録免許税・不動産取得税も高額になる。
- 建物は譲渡益を消せる──建物は値上がりしない前提なので、法基通9-1-19により未償却残高(簿価)を時価として移転でき、簿価≒時価なら譲渡益がほぼゼロになる。
- 家賃という「果実」だけを法人へ付け替えられる──個人に利益が溜まって相続財産化するのを防ぎ、法人の低い税率(所得800万円以下は15%)で所得を分散できる。
- 資金・借地権の処理を最小化できる──土地の売買が要らない分、買取資金も土地の権利関係の処理も軽くなる。
だからこそ、私も含め実務家は「土地は売るな、建物だけを簿価で移せ」と言い切るわけです。
「3年縛り」に注意──早く動くほど得
ここで一つ、時間軸の落とし穴があります。法人が取得して3年以内の土地・建物は、相続税評価上「通常の取引価額(=時価に近い金額)」で評価されるため、この期間に相続が起きると株価が高止まりして評価圧縮が効きません。これが「3年縛り」です。
裏を返せば、移転から3年を過ぎると建物は固定資産税評価額(取得価額の約6割)+貸家として借家権30%減まで下がり、その低い株価で子・孫へ株式を渡せます。つまり法人化は早く着手するほど、簿価と評価額の乖離が縮んで有利になる。相続直前の駆け込みではなく、時間の余裕をもって動くのが鉄則です。
なお、相続で取得した物件を移す場合は、相続開始後3年10か月以内に譲渡すれば取得費加算の特例(措法39条)を併用でき、支払った相続税の一部を譲渡経費に取り込めます。
移転価額の決め方──簿価か時価か、「みなし譲渡」の壁
移転で最も神経を使うのが「いくらで売るか」=移転価額です。ここは専門書でもスタンスが割れる論点です。
- 簿価移転説:建物を帳簿価額(=時価とみなす)で売れば譲渡益ゼロで譲渡税を回避できる。建物簿価は通常、固定資産税評価額を上回るのでこれを使う。
- 時価移転説:同族会社への移転は、不動産鑑定評価などの客観的な時価が望ましい、とする。
両者の分岐点にあるのが、みなし譲渡課税(所得税法59条1項・所令169)という壁です。
時価の「2分の1未満」で売ると、時価で課税される
法人へ時価の2分の1未満の価額で売ると、実際に受け取った対価ではなく「時価で譲渡したもの」とみなされて、個人に譲渡所得課税、さらに法人側にも受贈益課税が及びます。「安く売れば税金が減る」どころか、逆に含み益全額に課税される最悪の展開です。
しかも相手が同族会社の場合は、2分の1以上で売っても、所得税基本通達59-3による行為計算の否認で時価課税されうる──これが「同族の壁」です。したがって「簿価=時価」で押し通せるのは、簿価が時価と大きく乖離していない場合に限られます。
簿価が1円まで償却しきったような建物では、簿価をそのまま売買価額にすると「安すぎる」と見られるため、固定資産税評価額を時価の指標に置くのが安全です(法基通9-1-19の運用)。実務では、相続税評価額や固定資産税評価額をそのまま時価とせず、70〜80%で割り戻した実勢価格で算定根拠を残しておきます。
なお、建物の譲渡で損が出ても、他の所得と損益通算はできません(所法69)。益も損もあえて出さない、簿価近辺の水準に収めるのが実務の勘所です。
移転コストの総ざらい(2026年時点)──登免税2%・不取税3〜4%・消費税・回収年数
売買であれ現物出資であれ、移転そのものに次のコストが乗ります。「移せば節税」ではなく、まず一時コストが出ていくという前提を押さえてください。
| 費目 | 税率・水準 | 備考 |
|---|---|---|
| 登録免許税(移転登記) | 建物2.0%/土地1.5% | 固定資産税評価額ベース。土地1.5%は2029年3月末までの軽減(本則2.0%)。賃貸用は住宅用0.3%軽減の対象外 |
| 不動産取得税 | 賃貸住宅(家屋)3%/店舗・事務所等(非住宅家屋)4%/宅地は評価額×1/2×3% | 住宅・宅地の軽減は2027年3月末まで |
| 個人の譲渡所得税 | 長期(5年超)20.315%/短期(5年以下)39.63% | 取得費不明は概算5%。簿価売却なら益ゼロ |
| 消費税 | 建物10%(土地は非課税) | 個人が課税事業者の場合に建物譲渡へ課税 |
| 司法書士報酬ほか | 数万〜十数万円 | 登記手続きの実費 |
不動産取得税の免税点(この金額未満なら課税されない)は、土地10万円/家屋(新築・増改築)23万円/家屋(売買等その他)12万円です。中古建物の売買移転はこの「12万円」ラインで判定します。
消費税は「諸刃の剣」
消費税は要注意です。オーナーが課税事業者(基準期間の課税売上高1,000万円超)だと、建物譲渡に10%が上乗せされます。一方、対象が店舗・事務所など課税売上の物件なら、逆に法人が設立初年度に課税事業者を選択して、建物取得分の消費税還付を受けられる余地があります。また免税事業者でも、建物売却額が加わって課税売上が1,000万円を超えると、翌々年に課税事業者化する波及がある点にも注意してください。居住用家賃は非課税なので、住宅系の物件ではこの論点は小さくなります。
【最重要】回収年数を必ず数値化する
移転コストは「出したら終わり」ではなく、「一時コスト ÷ 年間節税額 = 回収年数」で必ず数値化します。ここが実務の分かれ目です。
私の師と仰ぐ税理士の実例では、収益物件2棟を移転し、登録免許税+不動産取得税の合計531万円を、毎年238万円の節税で約2.2年で回収しています。移転コストが531万円と聞くと身構えますが、年間の節税額で割れば「2年ちょっとで元が取れる投資」と見えてくる。逆に、年間の節税額が小さければ回収に10年以上かかることもあり、それなら移転そのものを見送る判断になります。
この分母となる「年間節税額」がどう作られるか──役員報酬・地代・所得分散の設計──は節税シミュレーション(役員報酬・社宅・退職金)で詳しく解説しています。
※2026年時点の情報です。個別具体的な判断は不動産税務に強い税理士へご確認ください。
土地は「売らずに貸す」──無償返還届+固都税2〜3倍地代で自用地×80%+貸付事業用50%の両取り
建物だけを法人へ移すと、個人名義の土地の上に、法人名義の建物が建つという状態になります。ここで新たな論点が生まれます。借地権認定課税です。
日本では土地を借りて建物を建てる際、権利金を支払う慣行があります。それなのに法人が無償で土地を使うと、「法人が借地権(更地価額の通常6〜7割)を贈与でもらった」とみなされ、法人に受贈益課税がかかってしまう。これを避ける方法が3つあります。
- 権利金を実際に授受する
- 相当の地代を収受する(更地価額のおおむね年6%)
- 「土地の無償返還に関する届出書」を個人・法人の連名で税務署へ提出する(実務の主流)
定番は「無償返還届+通常の地代」のセット
同族間では、③の無償返還届が圧倒的に主流です。通常の地代(固定資産税+都市計画税の2〜3倍程度)を授受しつつ、無償返還の届出を出すと、次の両取りができます。
- 借地権評価はゼロになり、相続時の底地(貸宅地)は自用地価額×80%で評価される(相当の地代通達8)。つまり土地評価が▲20%。
- 地代を実際に授受する「賃貸借」の実態があれば、小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等:200㎡まで50%減)も併用の余地が出る。自用地×80%にさらに50%減が乗る計算です。
地代設定が生命線──使用貸借は「絶対NG」
ここで最も外してはいけないのが地代の水準です。
| 地代の水準 | 判定 | 結果 |
|---|---|---|
| 無償〜固定資産税相当額(使用貸借) | NG | 賃貸借と認められず、土地が更地評価100%に戻る |
| 固都税の2〜3倍(通常の地代) | 安全域 | 自用地×80%評価+貸付事業用の併用余地 |
| 高すぎる地代 | 非推奨 | 被相続人に資金が還流し、かえって相続財産が増える |
つまり「安ければ安いほどいい」わけでも「高ければ節税」でもなく、賃貸借の実態を作りつつ資金還流を最小化するバランス点が固都税の2〜3倍、というわけです(専門書によっては「2〜5倍」とするものもありますが、実務は2〜3倍を起点に、更地価額×6%=相当の地代を超えない範囲で設定します)。契約は必ず「賃貸借」を選び、使用貸借にしないこと。これは土地評価が丸ごと変わる分かれ道なので、絶対に外さないでください。
そしてよくある誤解が「無償返還届を出せば安心」というもの。実際には、地代の授受が伴っていないと、相続時に事業用(賃貸借)と認められません。書類を出しただけでは足りず、通帳に地代の入金履歴が残っている「現場の実態」が必要です。
なお、無償返還届を出した土地の借地権相当額20%は、同族会社の株式(純資産価額)に取り込まれます(昭和43年直資3-22)。個人の土地評価が80%に下がる代わりに、その20%分が株価に顕現する仕組みで、土地の評価減がまるごと消えるわけではありません。それでも所得分散・果実移転のメリットは残ります。この土地評価と株価圧縮、純資産価額での法人税相当額37%控除の詳細は相続・承継・出口で掘り下げています。
最大のボトルネックは残債と抵当権──金融機関の事前承諾が命
ここまで税務の話をしてきましたが、実務で移転そのものを頓挫させる最大の壁は、実は税金ではありません。残債と抵当権、つまり金融機関対応です。
個人ローンの抵当権が付いた物件を法人名義にするには、原則として次の手順を踏みます。
個人の借入を一括返済 → 抵当権を抹消 → 法人が新たに融資を受け直す(借り換え)
ここで絶対に外してはいけないのが、金融機関の事前承諾です。担保物件の所有者を変更するには金融機関の承諾が必須で、無断で名義を移すと融資契約の「期限の利益喪失」事由に該当し、残債の一括返済を求められます。分割で返す約束(=期限の利益)を失い、いきなり全額返せと言われる──これは資金繰りを直撃する最悪のシナリオです。加えて、繰上返済には元本の1〜2%程度の違約金が設定されていることも多い。
融資の付け替えは、実務では三段構えになります。
- 銀行 → 法人へ、建物購入資金を融資
- 法人 → 個人から、建物を簿価で購入
- 個人 → 銀行へ、残債を一括返済
このとき、融資残高が残存簿価を上回る場合、その差額(例:約200万円)は個人の自己資金で追金する必要があります。また築古物件は法人融資での担保評価が伸びず、残債を法人融資でカバーしきれずに移転自体が実現困難になることもあります。共同担保が絡む物件は抵当権の抹消・付け替え調整が要るため、金融機関との事前交渉と司法書士との連携を早期に始めるのが鉄則です。
残債の借り換え、法人融資での金利・個人保証の条件悪化、団体信用生命保険の扱いといった金融機関対応の深掘りは、融資・金融機関対応にまとめています。移転を考えるなら、税理士より先に「銀行の担当者と話す」くらいの順番でちょうどいいです。
実行手順とチェックリスト──着手から名義変更・個人側の届出まで
ここまでを実行の順番に組み直します。所有型で建物を移す工程は、おおむね次の流れです。
移転の実行ステップ
- 基礎資料9点を揃える──確定申告書3年分/固定資産台帳・課税明細/返済予定表/保証人情報/登記簿謄本/部門別試算表 など
- 建物売却価額を決定する──原則は簿価(>固定資産税評価額)で売却して譲渡税を回避。簿価1円級なら固定資産税評価額を時価の指標に。時価の1/2未満はみなし譲渡なので厳禁
- 残債があれば融資の付け替え──法務局・金融機関の事前承諾を取る(無断移転は期限の利益喪失)
- 地代を決定する──固定資産税+都市計画税の2〜3倍で「賃貸借」契約に
- 「土地の無償返還に関する届出書」を提出──個人・法人の連名で税務署へ
- 所有権移転登記──登録免許税(建物2.0%)・不動産取得税・司法書士報酬を負担。課税物件は初年度の課税事業者選択で消費税還付も検討
移転チェックリスト
- [ ] 移転物件の選定:収益性が高く、築古木造(償却余地が大きい)、借入の少ない物件を優先。※相続対策用に借入で建てた建物は、債務控除を失うため移さない判断もある
- [ ] 移転価額:簿価(または鑑定時価)で。みなし譲渡ラインを割らない
- [ ] 契約・登記:建物売買契約書(印紙貼付)→所有権移転登記
- [ ] 土地の手当て:地代=固都税の2〜3倍で賃貸借+無償返還届
- [ ] 残債付き物件:金融機関の事前承諾、違約金、追金の有無を確認
- [ ] 消費税:個人が課税事業者なら建物対価に10%課税。法人側の還付可否も確認
運用開始後と個人側の手続き
移転が終わったら、法人口座の開設、賃貸借契約・火災保険・家賃振込先の名義変更を行い、役員報酬は定期同額給与を期首3か月以内に株主総会で決議します。
個人側では、地代収入が残る所有型なら個人事業は継続=廃業届は不要です。ただし物件を法人へ移した結果、事業的規模(5棟10室)を割ると青色申告特別控除が65万円→10万円に激減する点は要注意。移す物件の数によっては、個人側の控除減も損得計算に入れてください。
絶対デッドラインは「認知症の発症前」
最後に、最も見落とされる制約を。意思能力を失うと、建物の売買契約も、株式の贈与も、無償返還届の提出も、当事者になれません。後見人が就いても、本人の相続対策を目的とした贈与・移転は原則できない。つまり法人化スキームに着手できる期限=認知症の発症前という絶対の締め切りがあります。判断能力に不安があるなら、家族信託や任意後見を法人化に先行または並行して組み、移転を実行できる体制を先に作っておくことが不可欠です。
まとめ:移転で外してはいけない「3点セット」と次のアクション
既存物件の法人化は、建物のみを・簿価(または鑑定時価)で・売買により移し、土地は無償返還届+固都税2〜3倍の地代で貸す──これが王道です。その上で、絶対に外してはいけないのが次の3点セットです。
- 移転コストを洗い出し、回収年数を試算する──登録免許税・不動産取得税・消費税・譲渡所得税をすべて積み上げ、「一時コスト÷年間節税額」で回収年数を出す。目安は数年で回収できるか(実例では2棟531万円を毎年238万円で約2.2年)
- 地代は固都税の2〜3倍・必ず賃貸借契約に──使用貸借にすると土地が更地評価100%に戻り、8割評価の効果が消える
- 抵当権の借り換え可否を金融機関に事前確認する──無断移転は期限の利益喪失。残債・共同担保がある物件は、税理士より先に銀行へ
数値はいずれも前提条件に依存するモデルです。社会保険料・年間維持費・防衛特別法人税まで通算し、顧問税理士の個別の多年度試算と、金融機関との事前協議を前提にしてください。
そして繰り返しますが、このスキームは私が自分の物件で実際に実行済みです。回収年数の実額、移転価額を簿価にした根拠資料、金融機関との付け替え交渉の生々しさ──ブログの一般論では書ききれない部分は、当事者として別途お見せしていきます。
次に読むべき記事
- 全体像に戻る:不動産の法人化は本当に得か──全体像・判断ガイド
- 移転前の判断:いくらから得か(損益分岐)/3方式の選び方
- 移転と一体で:融資・金融機関対応(残債の借り換え・団信)
- 移転の相続効果:相続・承継・出口(土地8割評価・株価圧縮・37%控除)
- 年間節税額の内訳:節税(役員報酬・社宅・退職金)
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「あなたの物件だと、移転コストは何年で回収できるのか」──ここが分からないまま動くと、数百万円の移転コストが空振りに終わりかねません。確定申告書3年分・固定資産台帳・返済予定表をお持ちいただければ、税理士×宅地建物取引士×自社で賃貸管理を行う実務家が、回収年数・地代設定・借り換え可否を一度に確認します。まずは無料の初回概算検討からどうぞ。
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※2026年時点の情報です。税制・料率・軽減措置の期限は年度ごとに変わり、令和8年度大綱の「5年ルール」(相続開始前5年以内取得の貸付用不動産を購入価額の約80%で評価)など未確定の論点もあります。個別具体的な判断は、必ず不動産税務に強い税理士へご確認ください。
この記事の筆者について
税理士 × 宅地建物取引士 × 自社で賃貸管理を行う現役の実務家。「理論だけの税理士解説」でも「根拠の薄い大家の体験談」でもなく、税務と現場の両方を一人称で語れるのが強みです。本記事で解説した建物移転スキームは、机上論ではなく、筆者自身が自分の物件で実行してきた実務に基づいています。税務署が見るのは「現場」です。契約書・業務日誌・入出金通帳という実物のエビデンスまで含めて、地主のみなさまの法人化を伴走します。

