家賃収入には所得税がかかります。大家の所得税は「不動産所得 = 総収入金額 − 必要経費」を計算し、給与など他の所得と合算して5〜45%の超過累進税率を掛ける。この1本の流れが土台です。この記事では計算の全体像を示し、深掘りが必要な論点はそれぞれの解説記事へ案内します。
※本記事は一般的な仕組みを解説するものです。登場する事例・金額はすべて架空のモデルです。個別の税務・法務相談ではありません。
→ 賃貸経営の全体像は 賃貸経営の全体像 にまとめています。
この記事でわかること
- 不動産所得の計算式と、給与と合算される総合課税の仕組み
- 何が収入になるか(家賃・礼金・更新料。敷金は原則預り金)
- 主な必要経費と、減価償却費の位置づけ
- 所得税の税率表と、住民税・復興特別所得税
- 赤字のときの損益通算と、土地の借入金利子の制限(措法41条の4)
- 青色申告のメリットと、確定申告の期限
1. 不動産所得のしくみ──計算は1本の式
アパート・貸家・駐車場などの貸付けによる所得は、所得税では「不動産所得」に分類されます。計算式は1本だけです。
不動産所得 = 総収入金額 − 必要経費
ここで出た不動産所得は、給与所得など他の所得と合算され(総合課税)、合計額に累進税率が適用されます。会社勤めをしながら物件を持つ人は、給与ですでに上がっている税率の階段に、家賃収入の利益がそのまま上乗せされるイメージです。だからこそ、収入と経費を正しく数えることが節税の出発点になります。
2. 何が収入になるか──敷金は原則、収入ではない
総収入金額に入るもの・入らないものを整理します。
| 受け取るお金 | 扱い |
|---|---|
| 家賃・共益費 | 収入になる |
| 礼金・更新料・名義書換料など | 収入になる(返還しないお金のため) |
| 敷金・保証金 | 原則、収入にならない(預り金)。返還しない部分だけ、返還しないことが確定した日に収入になる |
国税庁タックスアンサーNo.1370・No.1376をもとに作成
計上する時期は、原則として契約で定めた支払日です。実際の入金日ではないため、滞納があっても家賃は収入に計上します。「もらっていないのに税金がかかる」状態になるのが賃貸経営のつらいところで、回収不能が確定したときの扱いは事業的規模かどうかで変わります(5棟10室基準 で解説)。敷金精算まわりの税務は 敷金精算の実務 にまとめています。
3. 主な必要経費と減価償却
必要経費になるのは、家賃収入を得るために直接かかった費用のうち、家事上の支出と明確に区分できるものです。主なものを挙げます。
- 固定資産税・都市計画税などの租税公課(所得税・住民税は経費にならない)
- 火災保険・地震保険などの損害保険料
- 修繕費
- 管理委託料・入居者募集の広告費
- 借入金の利子(元本の返済は経費にならない)
- 税理士報酬・通信費など
そしてもう1つ、金額が大きくなりやすいのが減価償却費です。建物の取得費は、買った年に全額を経費にするのではなく、構造ごとに決められた耐用年数に割り振って毎年少しずつ経費化します。お金の支出を伴わずに経費になるため、不動産所得の計算では中心的な存在です。なお、土地は減価償却の対象になりません。
建物・附属設備・構築物の区分や耐用年数、修繕費と資産計上の分かれ目は、それだけで1本の論点です。構築物・附属設備・修繕費の分け方 で詳しく解説しています。
4. 税率──超過累進に住民税と復興特別所得税が乗る
合算後の課税所得に適用される所得税の税率は、次の7段階です。
| 課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1,000円〜194万9,000円 | 5% | 0円 |
| 195万円〜329万9,000円 | 10% | 9万7,500円 |
| 330万円〜694万9,000円 | 20% | 42万7,500円 |
| 695万円〜899万9,000円 | 23% | 63万6,000円 |
| 900万円〜1,799万9,000円 | 33% | 153万6,000円 |
| 1,800万円〜3,999万9,000円 | 40% | 279万6,000円 |
| 4,000万円以上 | 45% | 479万6,000円 |
所得税の速算表(国税庁タックスアンサーNo.2260。平成27年分以後)
これに加えて、住民税(所得割の標準税率10%)と、復興特別所得税(基準所得税額の2.1%。令和19年分まで)がかかります。
【モデル事例】給与の課税所得が500万円の会社員に、不動産所得100万円が上乗せされた場合。この100万円には所得税20%と住民税10%が掛かり、税負担はおよそ30万円(復興特別所得税を除く)。同じ100万円でも、給与水準が高い人ほど手取りは小さくなります。
5. 赤字になったら──損益通算と「土地の利子」の制限
不動産所得が赤字になった場合、給与所得など他の黒字と相殺できます(損益通算)。給与から天引きされた所得税が確定申告で戻ることもあります。
ただし大きな例外があります。赤字のうち、土地を取得するための借入金の利子に相当する部分は、損益通算の対象になりません(租税特別措置法41条の4)。土地建物をフルローンで買った場合など、思ったより赤字が使えないことがあります。別荘のように主として趣味・保養目的で持つ不動産の貸付けによる赤字も、通算できません。
6. 青色申告と確定申告の期限
賃貸経営を始めたら、青色申告を選ぶのが基本です。主なメリットは次のとおりです。
- 青色申告特別控除──最大10万円。事業的規模で複式簿記などの要件を満たすと最大65万円
- 純損失の繰越し──損益通算しても引き切れない赤字を、翌年以後3年間繰り越せる
- 青色事業専従者給与──事業的規模なら、家族への給与を届出の範囲で経費にできる
65万円控除と専従者給与は、貸付けが事業的規模(おおむね5棟10室以上)であることが前提です。判定と中身は 5棟10室基準 で詳しく解説しています。
手続の期限は2つ覚えてください。青色申告をするには、その年の3月15日まで(1月16日以後に貸付けを始めた場合は開始から2か月以内)に承認申請書を税務署へ提出します。確定申告は、翌年2月16日から3月15日までに行います。
規模が大きくなってきたら、次の2つも視野に入ります。テナントや駐車場の収入が増えたときの消費税は 大家の消費税、個人の累進税率と法人税率の比較は 大家の法人税 と 法人化はいくらから得か へ進んでください。
まとめ
- 大家の所得税は「不動産所得 = 総収入金額 − 必要経費」を給与などと合算し、5〜45%の超過累進税率で計算する。住民税10%と復興特別所得税2.1%も乗る
- 家賃・礼金・更新料は収入。敷金は原則預り金で、返還しないことが確定した部分だけ収入になる。滞納家賃も支払日基準で収入に計上する
- 経費の柱は租税公課・保険料・修繕費・管理料・借入金利子・減価償却費。元本返済と土地は対象外
- 赤字は損益通算できるが、土地取得の借入金利子に対応する部分は通算できない(措法41条の4)
- 青色申告で最大65万円控除(事業的規模が前提)と赤字の3年繰越し。承認申請は3月15日まで、確定申告は翌年2月16日〜3月15日
次に読む:5棟10室基準と事業的規模/構築物・附属設備・修繕費の分け方/大家の消費税/大家の法人税/法人化はいくらから得か
出典
- 所得税法26条(不動産所得)・36条・37条(収入金額・必要経費)・89条(税率)
- 租税特別措置法41条の4(不動産所得に係る損益通算の特例)・25条の2(青色申告特別控除)
- 国税庁タックスアンサーNo.1370「不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)」・No.1376「不動産所得の収入計上時期」・No.2260「所得税の税率」・No.1391「不動産所得が赤字のときの他の所得との通算」・No.2070「青色申告制度」・No.2072「青色申告特別控除」・No.2024「確定申告を忘れたとき」
- 総務省「個人住民税」(所得割の標準税率10%)
- 国税庁・e-Gov法令検索・総務省ウェブサイト(確認日:2026年8月7日)
※税率・控除・特例の適用は、個々の状況と最新の税制改正によって変わります。本記事は制度の入口を示す一般的な解説です。実際の申告や物件購入の判断にあたっては、最新の情報を確認のうえ税理士にご相談ください。
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