賃貸に出していたアパートを売ろうと考えたとき、いくらで売れるかは調べても、税金がいくら出るかは後回しになりがちです。売ったあとの通知で初めて額を知ると、使い道を決めていたお金が足りなくなります。
売った利益にかかる税金は、給与や家賃とは切り離して計算します。税率は、売った年の1月1日で所有期間が5年を超えるかどうかで、20.315%と39.63%に分かれます。仕組みと、引ける金額の集め方を順に説明します。
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1. 売った利益は、給与や家賃と別に計算する
土地や建物を売った利益は、その年の給与や不動産所得と合算しません。切り離して税額を出します。
給与や家賃とは、別の枠で計算する

売却の税金は、ほかの所得と足し合わせません
やり方売った利益にかかる所得税と住民税は、ほかの所得と分けて計算します。これを分離課税といいます(所得税法33条、租税特別措置法31条)。
理由その年の家賃収入がいくらでも、売却の税額は変わりません。売却で大きな利益が出ても、給与にかかる税率は上がりません。
税金は、売れた金額ではなく利益にかかる

売れた金額から、取得費と譲渡費用を引いた残りに税率を掛けます
やり方譲渡所得は「譲渡収入 −(取得費 + 譲渡費用)− 特別控除」で出します。この譲渡所得に税率を掛けて、税額を出します。
注意特別控除は、特例が使えるときだけ出てきます。賃貸物件の売却では、ふつう出てきません。
2. 税率は、売った年の1月1日で5年を超えるかで決まる
税率は2段階です。所有期間で税率が分かれます。数える日には決まりがあります。
所有期間で、税率がこう変わる(租税特別措置法31条・32条)
買った日から丸5年で数えるわけではありません。売った年の1月1日の時点で5年を超えているかどうかで決まります。売買契約の日でも、引き渡しの日でもありません。
長期の20.315%は、所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%の合計です。短期の39.63%は、所得税30%、復興特別所得税0.63%、住民税9%の合計になります。
【モデル事例】山本さんは2021年3月に賃貸マンションを買いました。2026年中に売ると、2026年1月1日時点の所有期間は4年10か月で、短期譲渡です。譲渡所得が1,000万円なら税額は約396万円になります。2027年1月1日以後に売れば長期譲渡になり、約203万円で済みます。売る年を1年ずらすだけで、差は約193万円です。人物と金額は架空です。
「買ってから丸5年たったから長期になる」と思い込んで年内に売ると、この税金でいちばん多い取りこぼしになります。売却を考え始めたら、長期になるのは何年の1月1日からかを先に確かめます。
3. 取得費は、買った値段そのままではない
取得費の出発点は、購入代金に購入時の費用を足した金額です。土地はその金額のままです。建物は所有期間の分だけ目減りします。
建物は、減価償却の分だけ減っている

毎年経費にしてきた減価償却費の累計を、買った値段から引きます
やり方賃貸に使ってきた建物は、確定申告で減価償却費を経費にしてきたはずです。その累計額だけ、税務上の取得費は毎年下がっています。
注意買った値段と同じくらいで売れても、帳簿の上では利益が出ていることがあります。貸していた期間が長いほど、この差は開きます。
買ったときの費用は、取得費に足せる

購入代金のほかに、足せるものがいくつもあります
やり方購入時に払った仲介手数料、土地の測量費や造成費用、あとから資産に計上した増改築などの改良費が入ります。
例買うために借りたお金の利子も、その物件を使い始める日までの期間に対応する部分は取得費に入ります。
賃貸物件では、取得費に入らない費用もある

購入時の登録免許税、不動産取得税、印紙税は、買った年の経費になります
やり方自宅など業務に使わない資産なら、これらは取得費に入ります。賃貸物件では、買った年の必要経費として扱います。
注意同じ費用でも、物件の使い方で扱いが分かれます。迷う支出は、自分で決めずに税理士に確かめます。
4. 買った値段を証明できないと、売値の5%になる
先代から引き継いだ物件などで、いくらで買ったかを示す書類が見つからないことがあります。そのときは、売却代金の5%を取得費とみなして計算します(租税特別措置法31条の4)。
購入時の契約書があるかどうかで、税額はここまで変わります

契約書がある実際に買った値段で引けます
購入代金に購入時の費用を足し、建物は減価償却の分を引いた額が取得費になります

見つからない売却代金の5%しか引けません
3,000万円で売れた土地なら、取得費は150万円になります。残りの2,850万円が丸ごと利益の扱いになり、長期譲渡でも税額は500万円を超えます
購入時の売買契約書と領収書には、数百万円の値打ちがあります。見当たらないときも、通帳の振込記録やローンの契約書から探す道があります(「買った値段がわからないと、取得費は売値の5%になる」)。
5. 賃貸物件に3,000万円控除は使えない
3,000万円の特別控除は、売却の特例で最も名前が知られています。ただし、賃貸に出していた物件は対象から外れます。
3,000万円の特別控除を使える

自分が住んでいた家を売ったときだけ使えます
やり方所有期間に関係なく、利益から最高3,000万円を引けます(租税特別措置法35条)。
注意賃貸に出していたアパートやマンションには使えません。3,000万円までは税金がかからないという思い込みは、大家には当てはまりません。
相続税の取得費加算を使える

相続で取得した物件なら、払った相続税の一部を取得費に足せます
やり方相続開始の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで、つまり相続開始からおおむね3年10か月以内に売ることが条件です(租税特別措置法39条)。
注意期限を過ぎると使えません。相続した物件を売るなら、この期限から先に確かめます。
まとめ
- 売却の利益は分離課税になります。給与や家賃収入と合算せず、別枠で税額を出します
- 税率は長期20.315%と短期39.63%に分かれます。判定は売った年の1月1日で5年を超えるか
- 建物の取得費は、経費にしてきた減価償却費の累計だけ目減りしています
- 買った値段を証明できないと売却代金の5%で計算され、税額が跳ね上がります
- 3,000万円控除は自分が住んでいた家だけに使えます。相続した物件は取得費加算の期限を確かめます
まず、今日できること
- 買ったときの売買契約書と領収書を探し、1か所にまとめます
- 確定申告書から、その建物の減価償却費の累計額を書き写します
- 売った年の1月1日で所有5年を超えるのは何年からか、カレンダーで確かめます
次に読む:いくらで売れるかは、成約価格、公的な価格、査定の3方向で挟む/売却の手取りは、売値から取得費、費用、税金、残債を引いた残り
出典
- 所得税法33条(譲渡所得)、38条(譲渡所得の金額の計算上控除する取得費)
- 租税特別措置法31条・32条(長期・短期譲渡所得の課税の特例)、31条の4(概算取得費)、35条(居住用財産の譲渡所得の特別控除)、39条(相続財産に係る譲渡所得の課税の特例)
- 東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法13条(復興特別所得税)
- 国税庁タックスアンサー No.3208(長期譲渡所得の税額の計算)、No.3211(短期譲渡所得の税額の計算)、No.3252(取得費となるもの)、No.3255(譲渡費用となるもの)、No.3258(取得費が分からないとき)、No.3267(相続財産を譲渡した場合の取得費の特例)、No.3302(マイホームを売ったときの特例)
※確認日:2026年9月3日。税率と特例の内容は、税制改正で変わります。本記事は一般的な仕組みを説明するもので、個別の税務相談ではありません。取得費の集め方や特例が使えるかどうかは、物件の買い方と使い方で結論が変わります。売買契約の前に税理士にご確認ください。
この記事は 相続対策 工程12「二次相続・活用と売却」/不動産法人化 工程6「土地を手当てする」/賃貸経営 工程12「出口・法人化・規模拡大」 でも紹介しています。
8工程の全体像を見る「不動産売却」の入口は2つあります
筆者(宍倉)が、オンライン90分の無料モニターを募集中です。事前のヒアリングをもとに資料をこちらで用意し、当日は一緒に眺めながら話します。
参加費は無料です。枠が埋まり次第、受付を終了します。