入居者から退去の連絡が入った瞬間から、敷金の精算は始まっています。記録が足りないと、返す額でたいていもめます。
買った人も、建てた人も、相続した人も、退去のたびに同じ作業が来ます。立会いで損耗の事実を確かめ、負担を仕分け、精算書で根拠を示し、明渡しのあとすみやかに返します。この順番を守ります。
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1. 敷金はいったん預かるお金で、明渡しのあとに差し引いて返す
先に、法律の枠組みを確かめます。敷金の性質と、返す順番は条文で決まっています(民法622条の2)。
明渡しを受けたあとに返す

先に部屋を返してもらい、それから精算して返します
注意退去日の前に返す約束をすると、損耗が分かる前に金額を決めることになります。順番を入れ替えません。
2. 退去通知から返還までは、6つの手順で進む
退去の連絡を受けてから敷金を返すまでを、6つに切ります。前半は明渡しを受けるまで、後半は金額を決めて返すまでです。
明渡しを受けるまで
先に退去の通知は、文書やメールなど記録の残る形で受けます
電話だけで退去の話を済ませると、退去日をめぐる言った言わないの火種になります。受けるときに返金口座まで聞いておくと、あとの手戻りがありません。
明渡しを受けたあと
ここから金額を決めて、書面で示します
先に明渡しを受け、それから精算して返します。この順番は条文で決まっています(民法622条の2)。
3. 立会いの前に記録をそろえ、当日は事実の確認までにする
立会いは、荷物の搬出と掃除が終わった状態で行います。部屋ごとに壁、天井、床、建具、設備を順に見ます。
入居時の記録をそろえる

契約書の特約、チェックシート、入居時の写真、修繕履歴をそろえます
理由損耗が入居中に生じたことを示す責任は、貸主の側にあります。記録がないと、最初からあった傷だと言われたときに返す材料がありません。
注意記録のない部屋では、証拠のない損耗は折半で落ち着かせます。次の入居者からは、チェックシートと日付入りの写真をそろえて残します。
損耗を写真と寸法で残す

1つの損耗につき、部屋全体、中間、アップの3カットを撮ります
やり方負担額は面積で計算するので、損耗のある面の寸法も測ります。写真は位置と程度の両方が分かるように撮ります。
4. 借主の負担額は、単価と面積と経過年数で出す
ふつうに住んでいて生じた傷みと年月による劣化は貸主の負担、借主の故意や過失や手入れ不足によるものだけが借主の負担です(民法621条)。負担区分の考え方は「敷金トラブルを防ぐ基礎知識」で説明しています。
借主に請求できる額の出し方
補修の単価 × 損耗のある面の面積 × 経過年数による負担割合
壁紙(クロス)の入居年数が……
フローリングの部分補修、畳表や襖紙のような消耗品、鍵の紛失によるシリンダーの交換、クリーニングは、経過年数を考えない類型です。損耗ごとの扱いは、ガイドラインの負担区分表で確かめます。
【モデル事例】4年住んだ入居者が、クロスの2面(合計13平方メートル)に引っかき傷を残して退去しました。張替えの単価を1平方メートルあたり1,300円、4年経過の負担割合を40%とすると、借主の負担は1,300円 × 13平方メートル × 40% = 6,760円です。部屋全体を張り替えたとしても、借主に請求できる金額は、この範囲にとどまります。人物と金額は架空です。
精算書には、預かった敷金の額、未払家賃や日割家賃の精算額、損耗ごとの内容と負担者と金額、特約に基づく控除と根拠になる契約条項、差引返還額と振込先と支払予定日を書きます。貸主が負担する分まで載せると、借主の納得を得やすくなります。民法は返す期日を定めていないため、見積りから返金まで1か月ほどかかる見込みを立会いのときに伝えます。争いのない部分を先に振り込むのも、話をこじらせないやり方です。
5. 税務は、預り金、確定した日の収入、修繕費の3つで整理する
最後に税金の扱いです。3つ覚えれば足ります。
預かった敷金は、収入ではない

返す前提のお金なので、受け取った時点では預り金として扱います
やり方受け取った年の不動産所得には入れません。
返さないと決まった分は、その日の収入になる

償却の部分は契約のとき、借主負担に充てた分は退去のときに収入計上します
やり方返さないことが確定した日に、不動産所得の収入に計上します(タックスアンサーNo.1370、No.1376)。
まとめ
- 敷金は精算して返します。先に明渡しを受け、未払家賃などを差し引いた残額を返します
- 立会いの前に、契約書の特約、入居時チェックシート、入居時の写真、修繕履歴をそろえます
- 立会いでは事実確認とサインまでにとどめます。金額はその場で迫らず、見積りが出てから書面で示します
- 借主の負担は、単価と面積と経過年数の割合で出します。クロスは6年で残存価値1円が目安になります
- 税務は、預り金、確定した日の収入、修繕費の3つで整理する。相殺せず両建てで記帳します
まず、今日できること
- いま空いている部屋の入居時チェックシートと写真が残っているかを確かめる
- 契約書を開き、クリーニング特約と敷金償却の条項の文言を書き写す
- 次の退去で使う精算書のひな形を1枚作り、貸主が負担する行を入れておく
出典
- 民法621条(賃借人の原状回復義務)、622条の2(敷金)
- 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」(平成23年8月)
- 国税庁タックスアンサーNo.1370(不動産収入を受け取ったとき)、No.1376(不動産所得の収入計上時期)
※確認日:2026年9月3日。負担区分、特約の有効性、精算の金額は、契約の中身と損耗の状況によって個別に判断が分かれます。本記事は一般的な手順を説明するもので、個別の税務・法務相談ではありません。争いになりそうなときは、契約書と記録をそろえたうえで専門家に、記帳の扱いは税理士にご確認ください。
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