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管理の部分委託──自主管理と全部委託の間で、どこを人に頼むか

賃貸管理の話は、管理会社に全部任せるか、全部自分でやるかの二択で語られがちです。ただ、実際に困っているのは7つある工程のうち1つか2つだけ、ということがよくあります。管理の仕事は分解できます。分解してから、どれを外に出し、どれを自分で持つかを1つずつ決めます。これが部分委託の設計です。

※本記事は一般的な仕組みを解説するものです。登場する事例・金額はすべて架空のモデルです。個別の税務・法務相談ではありません。

→ 賃貸経営の全体像は 賃貸経営の全体像 にまとめています。

この記事でわかること


1. 管理の仕事を7つに分ける

まず、何を任せるかを言葉にします。「管理をお願いします」では範囲が決まらないので、次の7つに分けます。

業務 やること 自分で持つときにかかるもの 外に出すときの相手
1 入居者募集 募集条件を決める。ポータルサイトへの掲載、募集図面の作成、内見の案内 掲載の手配と写真の準備。内見の立会いは相手の都合に合わせることになる 宅地建物取引業者(仲介会社)
2 契約手続き 入居審査、賃貸借契約書の作成と締結、保証会社の申込、更新と解約の受付 審査の判断と書類作成。年に何度も起きないが、間違えると後まで響く 仲介会社、管理会社
3 家賃の集金と督促 毎月の入金確認と消し込み、遅れた人への連絡、滞納が続いたときの手続き 毎月決まった時間。督促は相手との関係が悪くなりやすい 管理会社、家賃保証会社
4 クレームの一次受け 設備の故障、騒音、ゴミ出し、鍵の紛失などの連絡を受ける窓口 いつ鳴るか読めない電話。夜間と休日にも来る 管理会社、コールセンター
5 設備の手配 修繕業者の選定、見積り取得、工事の日程調整と立会い 業者を探すところから。故障の内容によっては即日の判断が要る 管理会社、工事業者
6 退去精算 退去立会い、負担区分の仕分け、精算書の作成、敷金の返還、原状回復の手配 入れ替わりのたびに発生。金額をめぐる行き違いが起きやすい 管理会社
7 建物の清掃・点検 共用部の清掃、植栽の手入れ、消防用設備などの法定点検と報告 清掃は定期的な手間。法定点検は資格を持つ業者でないとできない 清掃業者、点検業者、管理会社

7つの業務と、それぞれを自分で持つときにかかるもの。頼み先は物件の規模や地域によって変わります。

全部委託は、この7つをまとめて1社に渡すことです。自主管理は、7つを全部自分で持つことです。部分委託は、その間のどこかに線を引く選び方を指します。

この分け方は思いつきではありません。国土交通省が公表している管理受託契約の重要事項説明書の記載例も、「点検・清掃等」「修繕等」「家賃等の徴収等」「その他(入居者管理事務)」という区分になっています。項目ごとに管理会社がやるのか、別の業者に委託するのかをチェックする形です。契約の中身は、この粒度で決めるものだと考えてください。

管理という仕事そのものの全体像は 賃貸経営の仕事は、お金と人の管理と、建物の管理の2つ に、任せるか自分でやるかを手取りで比べる話は 管理を任せるか自分でやるかは、手取りで比べる にまとめています。


2. 外に出すか、自分で持つか──3つの物差し

7つのうちどれを外に出すかは、好き嫌いではなく次の3つで決めます。

部分委託を決める3つの物差し

  1. 1いつ起きるかが読めるか毎月同じ日に発生する仕事は予定に組める。いつ来るか読めない仕事ほど、外に出す価値が高い
  2. 2自分が動けない時間に起きるか本業の勤務中や深夜に発生しうる連絡は、受けられる体制を持っている相手に渡します
  3. 3資格や設備が要るか消防用設備の点検のように、資格を持つ業者でないとできない仕事は最初から外に出します

この3つに当てはめると、優先順位は自然に決まります。クレームの一次受けは1と2の両方に当てはまるので、外に出す価値がいちばん高い工程です。建物の法定点検は3に当てはまるので、外に出します。逆に、家賃の入金確認は毎月同じ日に片づく仕事なので、時間さえ取れれば自分で持ちやすい部類に入ります。

注意 もう1つ、金額に表れにくい物差しがあります。自分がやると関係がこじれる仕事かどうかです。家賃の督促と、退去時の負担区分の交渉がこれに当たります。顔を合わせている相手にお金の話をするのが負担なら、その工程だけ外に出すのは合理的な判断です。滞納が起きたときの動き方は 家賃の滞納は、最初の2週間で連絡と記録を済ませる、退去のときの精算は 敷金は、退去の立会いから返還まで6つの手順で精算する にまとめています。

3. よくある組み合わせ4つ

実際に選ばれることが多い型を4つ挙げます。どれが正解ということではなく、手元にどの仕事が残るかを見て選びます。

外に出す業務 手元に残る業務 向いている状況
集金型 3 集金と督促 1・2・4・5・6・7 入居者との関係は自分で持ちたいが、お金の催促だけは他人にやってほしい
募集型 1 募集、2 契約手続き 3・4・5・6・7 入居中の対応は自分でできるが、空室のときに借り手を見つける経路がない
建物型 7 清掃・点検、5 設備の手配 1・2・3・4・6 物件が遠方にある。または資格が要る点検の相手を探すのが負担
窓口型 4 クレームの一次受け 1・2・3・5・6・7 本業の勤務時間中に電話を取れない。夜間の呼び出しを止めたい

番号は第1章の7業務に対応しています。組み合わせは自由に足し引きできます。

【モデル事例】会社員をしながら6戸のアパートを持つ架空の大家が、空室が出るたびに募集で苦戦していました。入金確認は毎月の口座の記帳で足りており、清掃も月に1度なら自分でできます。そこで、募集と契約手続きだけを近くの仲介会社に頼み、それ以外は自分で持つ形にしました。困っていた工程だけを外に出した形です。

逆の順番で考えることもできます。全部委託をしている人が、そのうち1つだけを自分の手元に戻す形です。ただし、戻すなら建物の清掃のように予定を組める工程から始めてください。クレームの一次受けを自分に戻すと、生活のリズムがいちばん変わります。


4. 頼み方によって、法律の保護が変わる

ここが部分委託でいちばん見落とされる点です。賃貸住宅管理業法という法律は、頼み方によって適用されるかどうかが決まります。

同法2条2項は、賃貸住宅管理業を次のように定めています。賃貸住宅の賃貸人から委託を受けて、賃貸住宅の維持保全を行う業務、または、それと併せて家賃・敷金・共益費などの金銭の管理を行う業務を行う事業のことです。金銭の管理については、条文にわざわざ「前号に掲げる業務と併せて行うものに限る」と書かれています。

そして、同法にいう維持保全の意味を、国土交通省は次のように説明しています。共用部分や居室内外の設備などについて、点検・清掃等の維持を行い、その結果を踏まえた必要な修繕を一貫して行うことです。この説明に続けて、当たらない例も挙げられています。

頼み方 賃貸住宅管理業に当たるか
点検・清掃から、その結果を踏まえた修繕までを一貫して頼む
上に加えて、家賃や敷金の管理も併せて頼む
家賃の集金と督促だけを頼む(維持保全は頼まない) ×
定期清掃だけ、または修繕工事だけを頼む ×
エレベーターなど、建物の一部分だけの点検と修繕を頼む ×
入居者からの苦情の受付だけを頼み、修繕の手配はしてもらわない ×

国土交通省の賃貸住宅管理業法FAQ集の説明にもとづく整理です。

当たらない場合との違いは、次のとおりです。賃貸住宅管理業に当たる相手には、法律上の義務がいくつもかかります。契約を結ぶ前の書面の交付と説明(同法13条)、契約を結んだときの書面の交付(14条)、預かった家賃や敷金を自分の財産と分けて管理すること(16条)、そして委託者への定期報告(20条)です。定期報告の中身も国土交通省令で決まっていて、報告の対象期間、管理業務の実施状況、入居者からの苦情の発生状況と対応状況を書いた報告書を交付して説明することとされています(同法施行規則40条)。

集金だけを頼む、清掃だけを頼むといった部分委託では、これらが法律上の義務としてはついてきません。つまり、部分委託ほど、契約書を自分で作り込みます。

注意 とくに気をつけたいのが、集金だけを頼む形です。相手が入居者から受け取った家賃を、自分の会社のお金と分けて管理する法律上の義務がかかりません。専用の口座で預かること、いつまでに自分へ引き渡すこと、明細をどの形で出すことを、契約書に書いてください。

5. 契約書で決めておく7項目

部分委託の契約書で決めておく項目です。国土交通省が公表している管理受託契約の重要事項説明書の記載例が、そのまま物差しになります。

決めること 書き方の目安
業務の範囲 場所・内容・頻度まで書く。「共用廊下の清掃 月1回」「玄関・階段の外観点検 年2回」のように、あとから実施の有無を確かめられる形にする
自分がやることの明記 頼まなかった業務を、頼まないと書いておく。書かないと、双方が相手の担当だと思う工程が生まれる
報酬 金額、支払の時期、支払の方法。家賃から差し引いて残りを送金する形にするなら、その旨も書く
預かったお金の扱い 専用口座で分けて預かるか、いつ自分へ引き渡すか、明細の形式
報告 報告の頻度と、書く項目。入金の状況、苦情の発生と対応、実施した点検・清掃の記録
判断の限度額 いくらまでなら相談なしで修繕を手配してよいか。金額の線を決めておかないと、深夜の故障で動きが止まる
終わり方 契約期間、解約の予告期間、終わるときに引き継ぐもの(鍵・入居者の連絡先・預かっている敷金・滞納の状況)

項目名は、管理受託契約の重要事項説明書の記載例の区分に合わせています。

7項目のうち、2つめと6つめは後から揉めやすい項目です。2つめは、募集だけを頼んだのに入居後の苦情の電話が仲介会社に行き、誰も動かないまま数日が過ぎる、という形で表面化します。6つめは、給湯器が止まった夜に連絡がつかず、判断を待つ間に入居者の不満だけが大きくなる形で表面化します。どちらも、契約書に1行書いておけば防げるものです。


6. お金の話──相場は言えないが、上限が決まっているものはある

部分委託の費用がいくらになるかは、地域、物件の規模、戸数、頼む範囲によって大きく変わります。全国共通の目安として示せる数字はありません。判断の材料は1つで、同じ規模・同じ範囲の見積りを複数の会社から取り、内訳を並べて比べることです。

ただし、募集を頼む場面だけは上限が法律で決まっています。宅地建物取引業者が売買や貸借の代理・媒介に関して受け取れる報酬の額は、国土交通大臣が定めて告示することになっています(宅地建物取引業法46条1項・3項)。その告示によると、貸借の媒介について依頼者の双方から受け取れる報酬の合計は、借賃1か月分の1.1倍に相当する金額が上限です。居住用の建物では、媒介の依頼を受けるにあたって承諾を得ている場合を除き、一方から受け取れる額は借賃1か月分の0.55倍までとされています。

この告示には、報酬とは別に受け取れるものが1つだけ書かれています。依頼者の依頼によって行う広告の料金に相当する額です。何の広告なのかを説明できない広告料が上乗せされていないか、請求書の内訳で確かめてください。

なお、長く使われていない空き家や空き室については、令和6年の改正で特例が設けられ、一定の条件のもとで借賃1か月分の2.2倍までを受け取れることになっています。長期の空室で仲介会社が動いてくれないときは、この枠組みが使えるかを聞いてみる価値があります。

税務では、管理委託料、清掃費、点検費はいずれも不動産所得の必要経費になります(所得税法37条)。部分委託でも扱いは同じです。請求書に修繕工事が混ざっている場合だけは、注意してください。工事の内容によっては、その年の経費ではなく資産に計上して減価償却します。区分の考え方は 構築物・附属設備・修繕費の分け方、不動産所得の計算全体は 大家の所得税は、家賃から経費を引いた不動産所得にかかる にまとめています。記録の残し方は 自主管理の帳簿づけ も参考にしてください。


まとめ

次に読む:管理を任せるか自分でやるかは、手取りで比べる自主管理でどこまでできるか賃貸経営の仕事は、お金と人の管理と、建物の管理の2つ自主管理の帳簿づけ賃貸経営の全体像


出典

※委託できる業務の範囲・費用の水準・報告の形は、契約の内容と地域の慣行によって個別に異なります。修繕費が経費になるか資産になるかも、工事の内容ごとに判断が分かれます。個別の判断は、契約書と見積りを揃えたうえで、税務は税理士へ、契約の実務は各分野の専門家にご相談ください。

公開 2026.08.07 / 更新 2026.09.07 賃貸経営 筆者:宍倉奎次郎(税理士・宅地建物取引士・大家)

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宍倉奎次郎
税理士・宅地建物取引士・大家
宍倉 奎次郎

税理士・宅地建物取引士。自身も賃貸物件を持つ大家の立場から、法人化・相続・不動産管理まわりの税務を、制度と判例にもとづいて解説しています。記事内の事例はすべて架空のモデルケースです。制度・税率・判例は年度で変わります。個別具体的な判断は、不動産税務に強い税理士へご確認ください。

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