建物だけを法人に移すと、土地は個人、建物は法人という形になります。このとき法人は、個人の土地を借りて建物を建てている状態です。ここで手を打たないと、お金を1円も動かしていないのに、法人に多額の課税が起きます。
これを止める方法は3つあり、同族の資産管理会社でいちばん使われるのが「土地の無償返還に関する届出書」です。紙1枚ですが、出し忘れると後から取り返しがつきません。
※本記事の人物・金額はすべて架空のモデル事例です。一般的な仕組みを解説するもので、個別の税務・法務相談ではありません。
→ 全体の流れは 不動産法人化の全体像。この記事は章5「土地の課税を届出で防ぐ」の解説です。
この記事でわかること
- 権利金を払わずに借りると、なぜ法人に課税されるのか(借地権の認定課税)
- 止める方法は3つ。同族会社で届出書が選ばれる理由
- 届出書は誰と誰の連名で、どこへ、いつまでに出すのか
- 地代を安くしすぎると、相続のときの8割評価が使えなくなる
1. 何もしないと、法人に「もらった」課税が起きる
権利金を払って土地を借りるのが慣行になっている地域では、権利金を払わずに借りると、その分をタダでもらったものとして扱われます。法人が借りた側なら、借地権相当額を受贈益として法人の利益に加えるのが原則です(法人税法22条2項、法人税基本通達13-1-3)。これを権利金の認定課税、または借地権の認定課税と呼びます。
【モデル事例】 田中さん(仮)は、自分の土地の上にあるアパートの建物だけを、自分が作った資産管理会社に移しました。土地はそのまま個人名義で、会社から地代を受け取ることにしました。権利金のやりとりはありません。
この土地の更地価額が6,000万円、その地域の借地権割合が60%だとすると、法人は3,600万円をタダでもらったとみなされ、その分に法人税がかかる可能性があります。
現金は1円も動いていません。それでも税金だけが出ていく——これが、建物を移したあとで最初に踏む地雷です。
2. 止める方法は3つ
| 方法 | 中身 | 同族会社での使いやすさ |
|---|---|---|
| 権利金を払う | 相場どおりの権利金を法人から個人へ実際に支払う | 法人に多額の現金が要る。個人側に譲渡所得が出る |
| 相当の地代を払う | 土地の更地価額のおおむね年6%の地代を払う(法人税基本通達13-1-2) | 地代が高くなりすぎて、法人の利益を圧迫しやすい |
| 無償返還の届出書を出す | 「将来、土地は無償で返す」と契約書に書き、税務署へ届け出る | 現金の負担がなく、地代も自由に決められる |
3つとも認定課税は起きません。ただし、権利金は法人にまとまった現金が要り、相当の地代は毎年の負担が重くなります。親族間で作った資産管理会社では、3つ目の届出書がほぼ標準です。
3. 届出書の出し方——連名で、法人の税務署へ
正式には「土地の無償返還に関する届出書」といいます(法人税基本通達13-1-7)。手順は次のとおりです。
- 先に契約書を作る。個人と法人の土地賃貸借契約書に、「将来、借地人は土地を無償で返還する」という条項を必ず入れます。これが届出書の前提です
- 地主(個人)と借地人(法人)の連名で作成します。片方だけでは出せません
- 提出先は法人の納税地の所轄税務署長です。個人の住所地の税務署ではありません
- 提出は契約したあと遅滞なく。決算を待つ必要はありません。契約書ができたらすぐ出すのが安全です
後から思い出して出しても、その年より前にさかのぼって効かせることはできません。建物を移す段取りの中に、届出書を組み込んでおくのが実務です。→ なぜ建物だけを法人へ移すのか
4. 地代を安くしすぎない
届出書を出せば地代はいくらでもよい、というわけではありません。地代が安すぎて使用貸借(ただ貸し)とみなされると、相続のときの評価が変わってしまうからです。
目安になるのが固定資産税です。固定資産税・都市計画税と同額程度しか受け取っていないと、賃貸借ではなく使用貸借と見られやすくなります。それを明確に超える地代を決め、契約書どおりに毎月きちんと動かすことが必要です。地代の入金がない、金額が毎年ばらばら、という状態は避けます。
地代は個人の不動産所得になります。取りすぎれば個人の所得税が増え、少なすぎれば評価が使えない。この幅の中で決める話です。
5. 相続のときに効く——土地は8割評価になる
届出書を出して賃貸借にしておくと、相続税の計算でその土地は自用地としての価額の80%で評価されます(昭和60年6月5日付 直資2-58)。残りの20%は、借りている法人側の価値として、その法人の株式の評価(純資産価額)に加えます。
- 土地(個人が持つ)……自用地価額 × 80%
- 法人の株式(家族が持つ)……純資産に自用地価額 × 20% を加算
家族全体で見れば合計100%で、消えてなくなるわけではありません。ただし20%ぶんが「土地」から「株式」に移るので、株式のほうで評価を下げる工夫(役員退職金や含み損など)が効く形になります。ここが、法人化が相続に効くと言われる仕組みの一つです。→ 資産管理会社の株をどう子へ渡すか
逆に、使用貸借のままだと土地は100%評価で、20%の圧縮も株式への付け替えも起きません。届出書と地代は、セットで初めて効きます。
まとめ
- 個人の土地に法人が建物を持つと、権利金なしでは法人に借地権相当額の課税が起きる
- 止める方法は3つ。同族の資産管理会社では「土地の無償返還に関する届出書」が標準
- 契約書に無償返還の条項を入れ、個人と法人の連名で、法人の税務署へ、遅滞なく出す
- 地代が固定資産税と同程度だと使用貸借とみられ、相続時の8割評価が使えなくなる
→ 次に読む:法人化と融資(章6)
出典
- 法人税法22条2項(各事業年度の所得の金額の計算)
- 法人税基本通達13-1-3(権利金の認定課税)、13-1-2(相当の地代)、13-1-7(土地の無償返還に関する届出)
- 昭和60年6月5日付 直資2-58「相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて」
- 国税庁「土地の無償返還に関する届出書」(様式・提出先)
※確認日:2026年8月7日。契約書の作成や登記は司法書士・弁護士の領域です。税務の影響とあわせて、着手前に専門家へご確認ください。
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