親名義のままの実家。祖父名義のままの土地。「いつかやらないと」と思いながら、何十年もそのままになっている登記があります。
2024年4月1日から、相続登記は義務になりました。期限内にしないと、10万円以下の過料の対象になります。しかも、施行前に起きた相続もさかのぼって対象です。
不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に、相続登記を申請する(不動産登記法76条の2)
——施行日より前の相続は、2027年3月31日までが期限です。
※本記事の人物・金額はすべて架空のモデル事例です。一般的な仕組みを解説するもので、個別の税務・法務相談ではありません。
→ 全体像は 相続対策 完全ガイド、工程順の一覧は 相続対策の工程マップ。この記事は工程10「遺産を分割する」のあとに来る手続きです。
この記事でわかること
- 期限の数え方と、過去の相続がいつ切れるか
- 分割がまとまらないときの相続人申告登記と、その限界
- 過料10万円がどう科されるのか
- 登記しないまま放置すると起きる数次相続という詰まり
- 費用と、登録免許税が免除される場合
期限は3年。ただし数え方が2つある
| 場面 | 期限 |
|---|---|
| 相続で不動産を取得したことを知ったとき | その日から3年以内 |
| 遺産分割が成立して取得が決まったとき | 成立の日から3年以内(76条の2第2項) |
| 2024年3月31日以前に起きた相続 | 2027年3月31日まで(知った日から3年のほうが遅ければ、そちら) |
つまり、亡くなってすぐに分割がまとまるなら3年以内に1回。分割が長引いたなら、まとまってからさらに3年という数え方になります。
いちばん見落とされるのが3行目です。10年前、20年前に亡くなった親や祖父の名義のままになっている不動産も、2027年3月31日が期限です。
まとまらないときは「相続人申告登記」
3年以内に遺産分割がまとまらないことは、珍しくありません。そのために用意されたのが相続人申告登記です(不動産登記法76条の3)。
- 相続が開始したことと、自分が相続人であることを法務局に申し出る
- 単独でできる。他の相続人の同意はいらない
- 自分の戸籍だけで足りる。相続人全員分の戸籍は不要
- これで申請義務を果たしたことになる
ただし、これは権利の登記ではありません。登記簿には「相続人である」ことが記録されるだけで、所有権が移ったことにはなりません。売ることも、担保に入れることもできません。過料を避けるための応急処置です。
そして、あとで遺産分割が成立したら、その日から3年以内に本来の相続登記をする義務が改めて生じます。
過料10万円は、いきなり来ない
正当な理由がないのに申請を怠ったときは、10万円以下の過料の対象になります(不動産登記法164条1項)。
ただし、期限を過ぎた瞬間に通知が届くわけではありません。運用では、登記官が義務違反を把握したうえで相当の期間を定めて催告し、それでも申請がない場合に裁判所へ通知する、という流れとされています。催告に応じて登記すれば、過料には至りません。
「正当な理由」があるとされる例としては、次のようなものが挙げられています。
- 相続人が極めて多数で、戸籍などの資料集めに相当な時間がかかる
- 遺言の有効性や遺産の範囲が争われている
- 申請義務を負う人自身が重病である
- 経済的に困窮していて、登記費用を負担する能力がない
「忙しかった」「知らなかった」は入りません。まとまらないなら、相続人申告登記だけでも出しておくのが確実です。
放置すると、相続人が増えていく
義務化より前から、登記を放置する本当の代償はここにありました。
祖父が亡くなり、土地は祖父名義のまま。
その後、相続人だった父が亡くなる。父の相続人である母と子3人が加わる。
さらに叔父が亡くなり、その配偶者と子2人が加わる。
——気づくと、1つの土地に十数人の権利者がいることになります。
これが数次相続です。分割協議には全員の合意と印鑑証明書が要るので、面識のない親族を探して連絡を取ることから始まります。一人でも所在不明なら、家庭裁判所の手続きが必要になります。
時間が経つほど、費用と手間は増えます。登記は「そのうち」が最も高くつく手続きです。
大家にとっては、経営が止まる
- 売れない——名義が違えば所有権移転登記ができない
- 借りられない——抵当権を設定できないので、融資が付かない
- 建て替えられない——資金調達も、共有者の同意も止まる
- 大規模修繕が決められない——共有物の変更に当たる工事で合意が要る
賃貸そのものは続けられますが、次の一手が全部止まります。引き継いだ物件でまずやることは、賃貸借契約書の確認と、この相続登記です。
費用と、免税になる場合
| 費目 | 目安 |
|---|---|
| 登録免許税 | 固定資産税評価額 × 0.4% |
| 戸籍・住民票などの取得費 | 通数による |
| 司法書士報酬 | 依頼する場合 |
登録免許税には免税の措置があります(租税特別措置法84条の2の3)。
- 相続人が登記をしないまま亡くなり、その相続人が登記する場合(中間の相続登記)
- 不動産の価額が100万円以下の土地の相続登記
放置された土地を整理するための措置です。使えるかどうかは、申請の際に確認します。
住所変更登記も義務になります
相続とは別に、所有者の住所・氏名の変更登記も義務化されます。施行は2026年4月1日で、変更から2年以内が期限です。引っ越すたびに登記が要ることになるので、こちらも頭の隅に置いておく場所です。
いらない土地は手放せるか
使い道がなく、売れもしない土地については、相続土地国庫帰属制度(2023年4月27日開始)があります。審査を経て、10年分の管理費相当額を負担金として納めることで、国に引き取ってもらう制度です。
建物が建っている土地、担保が付いている土地、境界が争われている土地などは対象外です。「いらないから放棄する」ほど簡単ではありませんが、選択肢としては増えました。
まとめ
- 相続登記は2024年4月1日から義務。取得を知った日から3年以内
- 過去の相続も対象で、期限は2027年3月31日
- まとまらないときは相続人申告登記。ただし売却も担保設定もできない
- 過料は催告を経てから。応じれば科されない
- 放置すると数次相続で相続人が増え、費用も手間も膨らむ
- 大家は、名義が違うと売却・融資・建て替えが全部止まる
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