会社を作ったところで、節税が終わるわけではありません。役員報酬をいくらにするか、社宅や退職金をどう使うかで、翌年から手元に残る金額が変わります。
役員報酬を上げると税金は減るのに、社会保険料と年金の支給停止でかえって手取りが減る区間があり、やっかいです。だから成否は税額ではなく、世帯に残る現金で測ります。
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1. 手取りで見るには、4つを同じ表に並べる
役員報酬を出すと、会社の利益が減る一方で、受け取る個人の側に所得税・住民税と社会保険料が発生します。年金を受け取る年齢なら、年金そのものが止まることもあります。
| 項目 | 役員報酬を上げると | 誰の負担か |
|---|---|---|
| 法人税など | 減る | 会社 |
| 所得税・住民税 | 増える | 受け取る個人 |
| 社会保険料 | 報酬に比例して増える | 会社と個人で折半 |
| 老齢厚生年金 | 基準を超えると一部または全部が止まる | 受け取る個人 |
2. 役員報酬は家族に分けられる。ブレーキは2つある
家族に分ける

個人事業では壁がありました。会社なら実際に働く家族に報酬を払えます
やり方個人事業では、生計を一にする家族への対価は原則として経費になりません(所得税法56条)。会社ならこの条文の外に出て、働いている家族に役員報酬や給与を出せます。
理由給与所得控除は、収入220万円で74万円、600万円で164万円です。低い給与ほど控除の割合が高く、複数人に分けたほうが控除の合計は大きくなります。
ブレーキ1 定期同額給与

毎月同じ額なら、経費になります
やり方原則として、事業年度の開始から3か月以内なら金額を変えられます。期の途中で自由に増やせません(法人税法34条)。賞与を経費にするなら、事前確定届出給与として期限までに届け出ます。
ブレーキ2 不相当に高額な部分

職務の対価として相当と認められる額を超えた部分は、経費になりません
注意職務の内容、会社の収益、同じ規模の会社の水準に照らして判断されます(法人税法施行令70条)。何%までなら安全という基準は、法令にありません。実際には働いていない家族への支給が、狙われやすいです。何をしている人かを説明できる記録を残します。
3. 社会保険料と年金の停止が、手取りを削る
社会保険料

報酬に比例して増えます。会社の負担分も、実質は自分が負担します
やり方厚生年金の保険料率は18.3%で、会社と本人が半分ずつ負担します(厚生年金保険法81条・82条)。健康保険は都道府県ごとに料率が違い、40〜64歳は介護保険が上乗せされます。
注意役員報酬を0円にすれば保険料も停止も生じませんが、報酬が出ていない会社は銀行から見ると別の説明が要ります(「ローンが残る物件は、銀行の同意なしに会社へ移せない」)。
在職老齢年金

年金をもらいながら報酬を取ると、年金が止まります
やり方年金の月額と報酬の月額の合計が65万円を超えると、超えた分の半分だけ年金が止まります(厚生年金保険法46条)。基準は令和8年4月に51万円から65万円へ上がり、毎年度見直されます。
注意年金を受け取る年齢のオーナーが高い報酬を取ると、節税した分を年金の停止で失うことがあります。その年度の基準額を日本年金機構で確かめてから計算します。
4. 役員社宅は、算式で決まる
役員社宅

会社が借りて役員に貸し、役員が賃貸料相当額を負担すれば、給与になりません
やり方家賃を会社の経費にしつつ、役員側に給与課税が起きない形です(国税庁タックスアンサー No.2600)。その住宅が小規模な住宅(耐用年数30年以下なら床面積132㎡以下、超えるなら99㎡以下)に当たるかで、扱いが変わります。
注意会社と役員の間で賃貸借の契約書を作り、役員から会社への入金の記録を残します。現金で住宅手当を出す形や、役員本人が家主と契約している家賃を会社が払う形は、社宅とは認められません。
小規模な住宅の賃貸料相当額(月)
建物の課税標準額 × 0.2% + 12円 × 床面積㎡ ÷ 3.3 + 敷地の課税標準額 × 0.22%
架空のモデルで計算すると……
建物の固定資産税の課税標準額600万円、敷地800万円、床面積90㎡なら、1万2,000円+約327円+1万7,600円で、月およそ3万円です。近隣の相場がいくらでも、この額を役員が負担していれば給与課税されません。数字は市区町村から届く課税明細書に載っています。小規模でない住宅は算式が変わり、240㎡超などの豪華社宅には算式が使えません。
5. 退職金と、報酬に含まれない受け取り方を使う
退職金

退職金を使うと、会社にためたお金を個人にいちばん有利に戻せます
例勤続31年で2,500万円を受け取ると、退職所得控除は800万円+70万円×11年=1,570万円。残りの2分の1、465万円だけが課税の対象です(所得税法30条)。
注意適正額の計算式は法令にありません。倍率の上限もありません。役員としての勤続が5年以下だと2分の1の計算が使えません。株主総会の決議と算定の根拠を残し、税理士に確かめます。
共済

掛金には、社会保険料が乗りません
やり方小規模企業共済は個人の所得控除(月1,000円〜7万円)、経営セーフティ共済は会社の損金(月5,000円〜20万円、残高800万円まで)です。
注意経営セーフティ共済は、令和6年10月以後に解約して再加入すると、2年間は掛金を損金にできません。解約と再加入の繰り返しはできません。
赤字の繰越し

青色申告なら、10年繰り越せます
やり方大規模修繕で大きな赤字が出た年の損失を、その後の利益と相殺できます(法人税法57条)。中小法人には控除の上限もありません。
役員が在職中に亡くなった場合の死亡退職金には、500万円×法定相続人の数の非課税枠があり、死亡保険金の枠とは別です(相続税法12条)。会社の株そのものを渡す話は「会社の株は、株価が下がった年に子へ渡す」で説明しています。
まとめ
- 会社の節税は、法人税、所得税・住民税、社会保険料、年金の停止の4つを同じ表に並べ、世帯に残る現金で測ります
- 役員報酬は家族に分けられます。ブレーキは定期同額給与と、不相当に高額な部分の2つになります
- 厚生年金は18.3%で折半します。年金をもらいながら報酬を取ると、月65万円を超えた分の半分が止まります
- 役員社宅の賃貸料相当額は、固定資産税の課税標準額から計算します
- 退職金は控除と2分の1課税で軽いです。共済と繰越欠損金は、報酬に含まれない受け取り方になります
まず、今日できること
- 役員報酬の候補を2〜3通り置き、法人税、所得税・住民税、社会保険料、年金の停止額を1枚の表に並べる
- 実際に仕事をしている家族が誰で、何をしているかを書き出す
- 年金を受け取っている人は、今年度の在職老齢年金の基準額を日本年金機構で確かめる
出典
- 所得税法30条(退職所得)、56条・57条(親族への対価・青色事業専従者給与)
- 法人税法34条(役員給与の損金不算入)、57条(欠損金の繰越し)、法人税法施行令70条(過大な役員給与)
- 厚生年金保険法46条(支給停止)、81条・82条(保険料と負担)、健康保険法160条、介護保険法9条
- 令和7年年金制度改正法(令和7年法律第74号。在職老齢年金の基準額を令和8年4月から月65万円へ)
- 相続税法12条(死亡退職金の非課税)
- 国税庁タックスアンサー No.1410(給与所得控除)、No.1420(退職金)、No.2600(役員社宅)、No.5211(役員給与)、No.5762(欠損金の繰越控除)
- 日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」、中小企業基盤整備機構「小規模企業共済」「経営セーフティ共済」
※確認日:2026年9月3日。社会保険の料率、在職老齢年金の基準額、税制は毎年見直されます。本記事は仕組みを説明したもので、金額の最適点を示すものではありません。役員報酬の額、社宅の契約、退職金の額は、家族構成と物件の状況で変わります。実行の前に税理士にご確認ください。
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