「法人化すれば税金が安くなる」──そのシミュレーションがどれだけ完璧でも、既存のローンが付いた物件は、金融機関の承諾がなければ1cmも動かせません。
法人化の話になると、多くの記事は税率差や相続対策ばかりを語ります。ですが、私が自社で賃貸管理を行いながら顧問先の法人化を手伝ってきて痛感するのは、税務より先に「銀行」でつまずく人がほとんどだということです。個人で組んだアパートローンは、法人名義にそのまま引き継げません。団信も、個人と同じ感覚では使えません。ここを知らずに動くと、最悪の場合「残債の一括返済」を突きつけられます。
この記事は、親記事で「よし、不動産所有方式で物件を法人へ移そう」と腹を決めた地主・不動産オーナーが、実行ボタンを押す前に必ず読んでおくべき1本です。銀行が壁になる現実と、その壁の越え方を、机上論でなく現場の言葉でお話しします。
この記事でわかること
- 個人ローンは「名義変更」では法人へ移せない理由と、借り換えの正しい3ステップ
- 無断で名義を移すと起きる「期限の利益喪失」=残債一括返済の仕組み
- 団信の罠──法人では入りにくく、入れても「債務免除益」に法人税がかかる
- 金融機関が法人の決算書のどこを見るか(スコアリング4指標)と、節税と与信のトレードオフ
- 連帯保証を外す「経営者保証ガイドライン3要件」と、絶対にやってはいけない禁じ手
- 法人化は「税務」より先に「銀行」でつまずく──この記事の地図
- 大前提──個人ローンは「付け替え」できない。実質は”売買+新規融資”
- 無断で名義を移すと”期限の利益喪失”──残債一括返済の引き金
- 団信の罠──法人では入りにくく、入れても”債務免除益”で法人税がかかる
- 金融機関は決算書のどこを見るか──スコアリング4指標と”実態純資産”修正
- 節税と与信は”トレードオフ”──赤字決算は融資を殺す、低報酬すぎも逆効果
- プロパー融資 vs アパートローン──拡大の主役はどっちか(2026年の金利感)
- 連帯保証を外せるか──経営者保証ガイドライン3要件と「有限責任の誤解」
- 絶対にやってはいけない”1物件1法人1金融機関”と、承諾を得る正攻法【まとめ】
- まとめ──融資は「税務とセット」で、動かす前に銀行へ
法人化は「税務」より先に「銀行」でつまずく──この記事の地図
不動産を法人へ移す、あるいは法人で買い増していく局面では、税務と同じか、それ以上に「金融機関がどう見るか」が実務のボトルネックになります。冒頭の「わかること」で挙げたとおり、根っこにある落とし穴は2つです。
- 個人で組んだローンは、法人名義のまま引き継げない
- 団信も、個人と同じ感覚では使えない
この2つを知らないまま「節税になるから」と物件を法人へ移そうとすると、銀行に無断で名義を変えた瞬間に契約違反となり、残債の一括返済を迫られる──という事故が現実に起きます。
私の立場は、税理士 × 宅地建物取引士 × 自社で賃貸管理を行う実務家です。だからこそ、税理士としての「机上のスキーム」だけでなく、宅建士・大家としての「銀行との付け替え交渉、司法書士との連携、共同担保の付け替え調整」という現場の生々しさを橋渡しできると思っています。以下、付け替えは不可であること/無断移転は期限の利益喪失を招くこと/団信の罠/決算書のスコアリング/そして絶対にやってはいけない禁じ手──の順に解いていきます。
なお、法人化そのものを「やるべきか」の全体像や損益分岐は、法人化の全体像・判断ガイドで俯瞰しています。本記事は、その中の「実行フェーズ」を担う融資の解説です。
大前提──個人ローンは「付け替え」できない。実質は”売買+新規融資”
まず、最も誤解の多いポイントから。
「物件の名義だけを個人から法人に書き換える」という発想は、融資が付いている限り通用しません。
個人ローンの抵当権が付いた物件を法人名義にするには、原則として個人の借入を一括返済して抵当権を抹消し、法人が新たに融資を受け直す(借り換え)必要があります。つまり移管は、名義変更ではなく、実質的には「売買+新規融資」なのです。
借り換えの3ステップ
具体的には、次の三段構えになります(木下勇人『不動産法人化に関する実務論点整理』ほか)。
- 法人が金融機関から購入資金を新規借入する
- 法人が個人へ売買代金を支払い、個人はその代金で既存債務を全額弁済し、抵当権を抹消する
- 法人の新規借入に、抵当権を新たに設定する
図にすると「銀行→法人へ購入資金を融資/法人→個人へ売買代金/個人→銀行へ残債返済」という資金の流れです。ここに、実務で必ずつまずく4つの落とし穴があります。
見落とすと資金が回らない4つの落とし穴
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落とし穴①:残債が簿価を上回ると”追金”が発生する。 法人が建物を簿価で買い取る場合、売買代金は簿価どまりです。ところが融資残高がそれより多いと、差額を個人が自腹で用意しなければ既存債務を完済できません。木下氏の実例では、融資残高4,500万円−簿価4,300万円=約200万円を個人が自己資金で追金する必要が生じます。
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落とし穴②:繰上返済に違約金がかかる。 既存ローンを一括弁済する際、繰上返済手数料(違約金)がかかることが多く(固定金利型では元本の1〜2%程度に及ぶ例もあり、料率は商品・時期で変わります)、これも移転コストに乗ります。
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落とし穴③:築古物件は「移せない」ことがある。 法人が新規融資を受けるとき、築古物件は担保評価が伸びず、残債を法人融資でカバーしきれないケースがあります。この場合、そもそも移転自体が実現困難になります(和田税理士)。
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落とし穴④:共同担保は付け替え調整が要る。 複数物件で1つの融資を担保する「共同担保」が付いていると、抵当権の抹消・付け替えを金融機関と細かく調整する必要があります。だからこそ、金融機関との事前交渉と司法書士との連携を、早い段階で始めるのが鉄則です。
なお、「なぜ土地は動かさず建物だけを簿価で移すのか」「みなし譲渡課税の壁」といった移転価額の詳細は、建物だけ簿価で移す・移転コストの記事で掘り下げています。本記事は、その移転に必ず絡む「融資」の側から見た現実を扱います。
無断で名義を移すと”期限の利益喪失”──残債一括返済の引き金
「銀行に黙って名義を移してしまえばいい」──これが最も危険な発想です。
住宅ローンは「本人がその家に住む」ことが融資の大前提です。法人へ名義変更すれば、たちまち目的外使用となり、契約違反です。アパートローンについても、金融機関の事前承諾が原則として必須です。
金融機関に無断で法人へ名義変更すると、目的外使用・契約違反として融資契約の「期限の利益喪失」事由に該当します。「期限の利益」とは、「分割で、期日まで払えばよい」という借り手の権利のこと。これを失うと、残った借入の全額を、一括で返済せよと請求されるおそれがあるのです。30年ローンの残り25年分を、一度に返せと言われる──そういう事態です。
さらに、法人での借り換えは信用実績が浅いため、金利・保証条件が個人時代より悪化しやすい点も織り込んでおく必要があります。
節約テク:同一行なら”債務者変更のみ”で登録免許税を圧縮できる
一方で、同じ金融機関の中で借り換える場合には、コストを抑える裏技があります。
抵当権をいったん抹消して再設定するのではなく、債務者を個人から法人へ変更する「債務者変更」だけで済ませれば、登録免許税は不動産1個あたり1,000円に圧縮できます(山本ほか『相続対策の方程式』)。新規に抵当権を設定すると借入額×0.4%がかかりますから、たとえば5,000万円の借入なら20万円。その差は歴然です。
同一行内の借り換えは、そもそも取引実績があるぶん交渉もしやすい。「動かす前に、まず取引銀行へ相談する」──これが融資対応の鉄則であり、無用な一括返済リスクを避ける唯一の道です。
団信の罠──法人では入りにくく、入れても”債務免除益”で法人税がかかる
個人でアパートローンを組んだ方の多くは、団体信用生命保険(団信)に加入しているはずです。「自分が死んだら、保険でローンが完済される」──あの安心感です。
ところが、この団信こそ、法人化で見落とされる最大の落とし穴です。
法人では、そもそも入りにくい
団信は原則として個人向けの保険で、資産管理法人では加入できないことがほとんどです。理由はシンプルで、法人は代表者が交代しても「死なない」ため、団信を付ける意義が薄いのです。
入れても、残債完済が”課税イベント”になる
仮に法人向けの団信に加入できたとしても、安心はできません。代表者が死亡して残債が完済されると、その残債分が法人の「債務免除益」となり、法人税が課されるのです。
数千万円のローンが完済されれば、その数千万円が丸ごと利益として計上されます。手元に現金が入るわけではないのに、多額の法人税だけが発生する。結果として納税資金に困り、物件の売却に追い込まれる例すらあります。「団信で完済されて安心」という個人の感覚は、法人ではむしろ危険なのです。
代替策と、居住用は”個人のまま”が有利という結論
法人で残債リスクに備えるなら、法人を受取人とする法人契約の生命保険(定期保険等)を組み、その保険金で残債を返済する設計が代替策になります。ただし保険料をどこまで損金にできるかは、2019年の通達改正後の「最高解約返戻率」の区分に左右されるため、必ず税理士の確認を前提にしてください。
そして、ここが重要な線引きです。この団信の存在ゆえに、居住用不動産(自宅)だけは個人所有のままにしておくほうが有利です。個人なら団信で残債がクリアされるうえ、相続時には次のような個人ならではの優遇が使えます(塩見『不動産相続の教科書』)。
- 小規模宅地等の特例(特定居住用宅地)で330㎡まで評価80%減
- 自宅売却時の3,000万円特別控除
- マイホーム売却の軽減税率
つまり「全部を法人所有にすればよい」わけではありません。収益物件は法人、自宅は個人という切り分けが基本です。居住用と収益用の相続上の違いは、相続・承継・出口の記事で詳しく整理しています。
金融機関は決算書のどこを見るか──スコアリング4指標と”実態純資産”修正
法人で買い増していくなら、避けて通れないのが「法人の決算書を、銀行がどう読むか」です。
法人融資の審査は、次の三本柱で見られます。
- 購入物件の担保評価
- 法人の財務(過去2〜3期決算の安定性)と事業計画
- 代表者個人の信用情報
ここで注意したいのが、設立直後の「0期」は、独立した事業体とみなされず、個人の延長として評価されるという点です。そのため設立直後の法人融資は原則として困難で、融資を継続的に引くには「黒字決算書3期」が一つの目安とされます(長岐監修『新世代大家』)。逆に、数年営業した個人が法人成りした場合は、金融機関が決算書に見慣れており、勘定科目明細などで情報量が多いため、かえって融資を受けやすくなる面もあります。
決算書は「4つの指標」で採点される
決算書は、主に次のスコアリング指標で読まれます。ここは覚えておいて損はありません。
| 指標 | 計算式 | 目安 |
|---|---|---|
| 債務償還年数 | (借入金−運転資金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等) | 5〜7年未満が適正/10年超で融資困難 |
| 自己資本比率 | 自己資本÷総資本 | 10%以上=正常先/15%以上で好評価 |
| 手元流動性 | 現預金等÷月商 | 月商1か月分以上/比率150%で良好 |
| 債務超過解消年数 | 債務超過額÷税引後利益 | 3年超で融資は非常に困難 |
とりわけ債務償還年数は最重要で、「いまの利益ペースで、借金を何年で返せるか」を測る指標です。10年を超えると、多くの金融機関が新規融資に慎重になります。
“実態純資産”に引き直される──役員貸付金は決算前に消す
もう一つ、決算書には表れにくい落とし穴があります。金融機関は、決算書の額面をそのまま信じるわけではありません。
役員貸付金・仮払金・不良資産といった「回収が怪しい資産」は、資産から控除して「実態純資産」に修正されます(『会社設立サポートブック』)。これらはマイナス、あるいは0円評価となり、見かけの純資産を押し下げます。とくにオーナーが会社から引き出した「役員貸付金」は嫌われますから、決算までに解消しておくのが鉄則です。
節税と与信は”トレードオフ”──赤字決算は融資を殺す、低報酬すぎも逆効果
ここが、税理士と大家の「二つの顔」を持つ私が、最も声を大にして言いたいところです。
節税(利益を消すこと)と、与信(利益を見せること)は、同時に最大化できません。
赤字決算は、融資を止める
節税を突き詰めると、経費を積み上げて利益をゼロ、あるいは赤字にしたくなります。ですが、これは融資とまったく両立しません。
金融機関の評価では、赤字か債務超過のどちらか一つがあるだけで「正常先」から「要注意先」へ、両方そろえば「破綻懸念先」へと格付けが落ちます。金融庁の指導もあり、赤字企業への新規融資は事実上難しいのが実情です(長岐監修『新世代大家』)。せっかく節税で赤字にした決算書が、次の物件を買う道を自ら塞いでしまうのです。
役員報酬を”下げすぎる”のも逆効果
一方で、「社会保険を抑えたいから」と役員報酬を極端に低くするのも考えものです。生活費すら賄えないほどの低報酬は、「この会社、本当に大丈夫か」と金融機関に疑念を持たれます(『会社設立サポートブック』)。
実務家としての折り合いのつけ方
つまり、買い増し・規模拡大を狙うなら、あえて利益を残し、素直に納税する決算設計が必要になります。税理士としての「利益を消す最適解」と、大家としての「次を買うために利益を見せる最適解」は、真逆を向いているのです。
私自身、賃貸管理の現場を回してきて、この折り合いには何度も悩みました。答えは物件戦略によって変わります。「もう買い増さない、相続に向けて畳んでいく」局面なら節税に振り切ってよい。「まだ拡大する」局面なら、税金を払ってでも与信を守る。ここは一律の正解がありません。
なお、役員報酬は「社会保険・所得税・在職老齢年金の支給停止・給与所得控除・与信」を総合した最適点で設計すべきものです。その具体的な最適額は節税(役員報酬・社宅・退職金)の記事で、所得ラインや損益分岐の詳細はいくらから得かの記事で掘り下げています。
プロパー融資 vs アパートローン──拡大の主役はどっちか(2026年の金利感)
法人での借入には、大きく2つの「入口」があります。この違いを知らないと、規模拡大は頭打ちになります。
| アパートローン | プロパー融資 | |
|---|---|---|
| 審査軸 | 借主の属性(年収・勤続・資産)中心 | 物件の収益性+「賃貸事業」としての事業性 |
| 保証会社 | 付き(保証料が発生) | なし(金融機関が100%リスクを負う) |
| 融資枠・期間 | 商品規格で固定 | 柔軟(枠・期間の交渉余地が大きい) |
| 審査 | 1〜3週間と早い/金利は高め | 1〜2か月・難度は非常に高い |
| 向く相手 | 初期の個人・小規模 | 法人名義・一棟物・買い増し |
パッケージ商品のアパートローンは審査が早い代わりに金利が高め、事業性を評価するプロパー融資は難度が高い代わりに枠・期間・金利の交渉余地が大きい。買い増しによる規模拡大の主役は、後者のプロパー融資です。
拡大の定石順
実務では、次の順番が拡大のセオリーとして語られます(長岐監修『新世代大家』)。
- まず個人がアパートローン(スルガ等)で2億円程度まで買う
- 次に法人を設立し、地銀・信金からプロパー融資を引く
- 最後に日本政策金融公庫を使う
2026年の金利感
金利環境は、この数年で大きく変わりました。日銀の政策金利は2024年3月のマイナス金利解除以降、段階的に引き上げられ、2026年4月には約31年ぶりの1.0%へ到達し、さらなる利上げ局面にあります。
これを受け、金利は上振れ傾向です。目安として、メガ・地銀が概ね年1%台後半〜3%台(地銀は4%台も)、信金・信組が2〜5%台、公庫が1.1%台〜、ノンバンクはさらに高め、といったところです。
融資額は担保評価額(積算・収益還元)の70〜80%(LTV)が一般的で、頭金20〜30%+諸費用(物件価格の5〜8%)の自己資金が要ります。融資期間は原則として「法定耐用年数−築年数」で決まり、RC造47年・重量鉄骨34年・木造22年が基準です。築古物件ほど融資期間が短くなり、月々の返済が重くなる──これが先述の「築古は移せない」問題の背景でもあります。
長期保有の採算は、この金利上昇を前提に組み直す必要があります。融資が必要になるのは主に「不動産所有方式」ですから、3方式の選び方は法人化3方式の記事も併せてご覧ください。
連帯保証を外せるか──経営者保証ガイドライン3要件と「有限責任の誤解」
「法人にすれば、有限責任だから安全」──これも、融資の世界では通用しない誤解です。
中小法人の借入では、代表者の連帯保証がほぼ必ず求められます。 会社が借りたお金を、社長個人が「もし会社が返せなければ、私が返します」と保証する。これがある限り、法人の有限責任は形だけのものになります。
経営者保証ガイドライン3要件
この連帯保証を外す枠組みが、「経営者保証に関するガイドライン」(全国銀行協会・日本商工会議所、平成25年公表)です。次の3要件を満たすほど、保証を外せる余地が広がります。チェックリストとして押さえてください。
- ☐ ① 法人と個人の資産・経理が分離されている(会社のお金と個人のお金が混ざっていない)
- ☐ ② 法人単独の返済力がある(十分な純資産と安定した収益)
- ☐ ③ 財務情報を適時に開示している(月次試算表の提出など)
2022年12月の「経営者保証改革プログラム」以降、民間金融機関は保証を求める際の理由説明・記録が義務化されました。さらに2024年3月からは、信用保証付き融資で、保証料の上乗せと引き換えに「経営者保証なし」を選べる制度も始まっています(金融庁・中小企業庁)。
それでも、賃貸業は保証を求められやすい
もっとも現実は甘くありません。不動産賃貸業は、代表者=実質オーナーであり、物件が唯一の返済原資という構造上、実務では依然として連帯保証を求められることが多いのが実態です。
そして肝に銘じておくべきは、会社が債務免除を受けても、経営者個人の連帯保証は免責されないということ。民事再生などで会社を畳んでも保証だけは残り、社長が自己破産に至る事例は少なくありません(本郷『会社の終わらせ方』)。「法人=有限責任だから安心」という思い込みが、いちばん危ないのです。
連帯保証を避けたいなら、連帯保証不要の日本政策金融公庫の創業融資制度を活用するのも一手です(『会社設立サポートブック』)。
絶対にやってはいけない”1物件1法人1金融機関”と、承諾を得る正攻法【まとめ】
最後に、ネットの一部で「拡大の裏技」として語られる危険な禁じ手と、正攻法をお伝えします。
禁じ手:1物件1法人1金融機関スキーム
物件ごとに別々の法人を作り、他の法人の存在を各金融機関に伏せたまま融資を引く──これが「1物件1法人1金融機関」スキームです。法人の借入が個人の信用情報に載らない、という抜け穴を悪用したやり方ですが、絶対に手を出してはいけません。
金融機関の名寄せや銀行合併で他法人の借入が発覚すれば、期限の利益喪失となり、30年契約であっても即時全額返済を求められます。抜け穴は、いつか必ず塞がります。
承諾を得る正攻法
遠回りに見えて、これが最短ルートです。
- ① 動かす前に、必ず金融機関へ相談する。 抵当権付き・共同担保の物件は、事前交渉と司法書士連携が必須です。
- ② 資料を揃えて、事業計画で語る。 過去2〜3期の決算書一式・納税証明書・商業登記簿謄本・返済予定表・保証人情報・物件資料・事業計画書を準備します。法人化の提案時に集める基礎資料(確定申告3年分、固定資産台帳、返済予定表など)が、そのまま金融機関への提出資料の骨格になります。
- ③ 同一行内の付け替え・借り換えは、取引実績を武器に交渉する。 新設法人でも、個人の資産背景と事業実績、そして資料・プレゼン次第で応じる金融機関はあります。
金融機関に正直に全体像を開示し、経営者保証ガイドラインの3要件(資産分離・返済力・情報開示)を地道に満たしていくことが、結局は低金利・無保証・買い増しへの最短ルートになります。
まとめ──融資は「税務とセット」で、動かす前に銀行へ
この記事の核心を、4点に凝縮します。
- 既存ローンのある物件は「名義変更」では移せない。 付け替えは実質「売買+新規融資」であり、残債>簿価なら追金、繰上返済違約金、築古の担保不足、共同担保の付け替えという壁がある。
- 無断で名義を移すと「期限の利益喪失」=残債一括返済。 動かす前に必ず銀行へ相談する。同一行なら債務者変更で登録免許税を1個1,000円に圧縮できる。
- 団信は法人で入りにくく、入れても残債完済が「債務免除益」に課税される。 だから居住用(自宅)だけは個人所有が有利。
- 金融機関は決算書を債務償還年数・自己資本比率などで見る。 節税目的の赤字決算は融資を止める。節税と与信はトレードオフである。
つまり、融資は税務とセットで設計し、物件を動かす前に必ず金融機関へ相談する──これが唯一の正解です。完璧な節税プランも、銀行の承諾がなければ絵に描いた餅になります。
※2026年時点の情報です。個別具体的な判断は不動産税務に強い税理士へご確認ください。金利・保証制度・団信の条件は変動するため、実行にあたっては必ず取引金融機関と顧問税理士に個別確認してください。
次に読む・相談する
- まず全体像から確認したい方は法人化の全体像・判断ガイドへ。
- そもそも自分は法人化して得か、から確かめたい方はいくらから得か(損益分岐)へ。
- 建物をどう移すか、移転コストの詳細は建物だけ簿価で移す全手順へ。
- 居住用と収益用の切り分け・相続の出口は相続・承継・出口の記事へ。
【個別相談】 「税理士 × 宅建士 × 自社管理の不動産会社経営」の当事者だからできる、銀行との付け替え交渉・共同担保調整・団信の代替設計のご相談を承っています。まずは無料の初回概算検討から。あなたの確定申告書3年分・固定資産台帳・返済予定表をもとに、融資と税務を一体で設計します。
【体験談をもっと詳しく】 本記事は「型」の解説です。個人ローン付きの物件を実際に法人へ付け替えた全記録(銀行への持参資料、同一行内借り換えを引き出したやり取り、共同担保の付け替え段取り、金利が個人1.9%→法人2.6%へ上がった生数字、経営者保証を外すまでの過程)は、有料の体験談で公開しています。
著者について
税理士 × 宅地建物取引士 × 自社で賃貸管理を行う現役の実務家。机上のスキームではなく「自分で回している現場」から、不動産オーナーの法人化・相続・融資を一人称で解説しています。税務署が見るのは、契約書でも節税プランでもなく「現場」です。その現場を、当事者としてお見せします。
