空室が続くと、家賃が入らないだけでなく、何から手をつければよいのかがわからなくなります。値下げか、リフォームか、広告料の上乗せか。順番を間違えないための考え方は1つです。原因を3つに切り分け、費用のかからないものから順に、募集条件・部屋の状態・家賃の順で手を打つ。家賃を下げるのは、いちばん最後です。
※本記事は一般的な仕組みを解説するものです。登場する事例・金額はすべて架空のモデルです。個別の税務・法務相談ではありません。
→ 賃貸経営の全体像は 賃貸経営の全体像 にまとめています。
この記事でわかること
- 空室1か月が、年間の家賃収入をいくら減らすか(モデル事例の数字)
- 空室の原因を「届いていない・選ばれない・家賃が合わない」の3つに切り分ける方法
- 手を打つ順番と、家賃の値下げを最後に回す3つの理由
- 募集の直し方と、広告料(AD)が報酬とどう違うか(宅地建物取引業法46条・報酬告示)
- 内見までに済ませる準備と、入居条件を広げるときのリスク
- 管理会社から数字で報告を受ける項目(賃貸住宅管理業法20条)
1. 空室1か月は、いくら減るのか
感覚ではなく金額で見ます。架空のモデルで確認します。
【モデル事例】家賃7万円の部屋が8戸あるアパートです。満室なら年間の家賃収入は 7万円 × 8戸 × 12か月 = 672万円。このうち1戸が空いた場合、年間収入は次のように変わります。
| 満室 | 1戸が1か月空く | 1戸が3か月空く | |
|---|---|---|---|
| 年間家賃収入 | 672万円 | 665万円 | 651万円 |
| 満室との差 | — | −7万円 | −21万円 |
家賃7万円・8戸の架空のモデル。金額はすべて仮の数字です。
空室が1か月延びるたびに、この物件では7万円ずつ減ります。ここに、退去のたびにかかる原状回復と募集の費用が乗ります。金額は部屋の傷み方と地域で大きく変わるため、直近の実績を管理会社に出してもらって自分の数字に置き換えてください。
さらに、空室でも止まらない支出があります。固定資産税・都市計画税、火災保険料、共用部の電気代と水道代、借入金の返済です。家賃が入らない月も、これらは同じ額だけ出ていきます。
なお、総務省の令和5年住宅・土地統計調査では、全国の空き家は900万2千戸、空き家率は13.8%で過去最高でした。ただしこの数字には売却用の住宅や別荘も含まれ、地域差も大きいので、自分の部屋が埋まるかどうかの目安にはなりません。見るべきなのは、近隣で同じ家賃帯の部屋が何日で決まっているかです。
2. 原因を3つに切り分ける
空室が長引く理由は、大きく3つしかありません。どれに当たるかを先に見分けます。
| 起きていること | 疑う原因 | 確かめ方 |
|---|---|---|
| 問い合わせがほとんど来ない | 募集が見込み客に届いていない | 掲載されているポータルサイトの数、写真の枚数、募集図面の記載を自分で検索して見る |
| 問い合わせや内見はあるが、申込に至らない | 内見しても選ばれていない | 同じ家賃帯の競合物件を実際に見に行く。見送られた理由を管理会社に聞く |
| 申込は入るが、条件交渉で流れる | 家賃が相場と合っていない | 近隣で実際に決まった家賃(募集家賃ではなく成約家賃)を出してもらう |
3つは上から順に確認します。
順番が大事です。反響がほぼゼロの状態で家賃だけ下げても、そもそも見られていないので何も変わりません。まず「届いているか」を確かめ、届いているのに決まらないなら「選ばれているか」、そこも問題がなければ「家賃」という順に降りていきます。
3. 手を打つ順番と、家賃を最後にする理由
着手の順番は、費用が軽く元に戻せるものからです。
空室対策に手をつける順番
- 1募集の入口を直す掲載先・写真・募集図面。ほとんど費用がかからず、数日で直せる
- 2部屋を見られる状態にする清掃・臭い・照明・共用部。数万円と手間で済むことが多い
- 3条件で調整するフリーレント・初期費用・入居できる人の幅。一時の負担で済み、家賃水準は保てる
- 4最後に家賃を見直す下げたあとに戻すのは難しい。1と2と3をやり切ってから判断する
家賃の値下げを最後に回す理由は3つです。
- 一度下げた家賃は戻しにくい──次の募集も、下げた水準が出発点になります。値上げに転じるには、入居者の入れ替わりか、周辺の家賃相場が上がるのを待つことになります
- 既存の入居者との差ができる──同じ間取りが自分の家賃より安く募集されていると、値下げの申し出や、退去のきっかけになります
- 収益で見た資産価値が下がる──買い手は年間の家賃収入から物件の値段を逆算します。月3,000円の値下げは年36,000円の減収で、利回り8%で評価する買い手から見れば 36,000円 ÷ 8% = 45万円 の評価減にあたります
もちろん、近隣の成約家賃を調べた結果、自分の募集家賃が明らかに高いとわかったなら、下げるのが正しい判断です。判断の材料は感覚ではなく、近隣で実際に決まった家賃です。決め方の手順は 家賃はいくらにするか にまとめています。
4. 募集の見直し──掲載・写真・依頼先・広告料
いちばん費用が軽く、効きやすいのがここです。
掲載と写真・図面
- 掲載先を自分で検索して確認する──何社のポータルサイトに出ているか、掲載が切れていないか、条件が古いままになっていないか
- 写真の枚数と明るさ──居室だけでなく、水回り・収納の中・玄関・共用部・建物の外観まで撮ります。写真がない場所は「見せられない場所」と受け取られます
- 募集図面の記載漏れ──インターネット、独立洗面台、宅配ボックス、駐輪場のように、あるのに書かれていない設備がないか確認します
依頼先を1社に絞らない
募集を1社にしか出していないと、その会社の集客力がそのまま空室期間になります。管理委託契約の内容によっては、複数の仲介会社に募集を出せます。まず自分の契約書で、募集をどこまで任せる約束になっているかを確認してください。
広告料(AD)は「報酬」とは別枠
空室が長引くと、仲介会社に払う広告料の話が出ます。ここは法律の枠組みを知っておくと判断がぶれません。
宅地建物取引業者が受け取れる報酬の額は、国土交通大臣が定めて告示することになっています(宅地建物取引業法46条1項・3項)。その告示によれば、貸借の媒介で依頼者の双方から受け取れる報酬の合計は、借賃1か月分の1.1倍に相当する金額が上限です。居住用の建物では、依頼を受けるにあたって承諾を得ている場合を除き、一方から受け取れる額は借賃1か月分の0.55倍までとされています。
そのうえで、告示には報酬とは別に受け取れるものが1つ書かれています。「依頼者の依頼によって行う広告の料金に相当する額」です。広告料は、オーナーが頼んだ広告の料金という位置づけになります。
5. 内見で選ばれる部屋にする
問い合わせは来るのに申込にならないなら、見られたときに負けています。案内の前に済ませられる準備から手をつけます。
| 場所 | 案内の前にやること |
|---|---|
| 玄関・共用部 | ポストとゴミ置き場を清掃する。たまったチラシを片づける |
| 水回り | 各排水口に水を流す。しばらく使っていないと封水が切れ、下水の臭いが上がってくる |
| 照明 | 全室に電球を入れ、ブレーカーを上げておく。暗い部屋は狭く見える |
| 空気 | 案内の前に窓を開けて換気する。閉め切った部屋のこもった臭いは第一印象を決める |
| 迎え方 | スリッパを置く。最寄りのスーパーや駅までの所要時間を書いたメモを1枚置く |
| 鍵 | 現地にキーボックスを置き、案内する会社が鍵を取りに寄らずに済むようにする |
いずれも費用はほとんどかからず、その日のうちに手を打てる項目です。
条件で間口を広げる
- フリーレント──入居後の一定期間の家賃を無料にします。家賃の水準を下げずに、入居時の負担だけを軽くできます。無料期間と、短期で解約された場合の扱いを契約書に書いておきます
- 初期費用の見直し──礼金や敷金の額を下げると、申込のハードルが下がります。ただし敷金を下げると、退去時の精算で回収できる範囲が狭くなります
- 入居できる人の幅を広げる──ペット可、楽器相談、高齢者可などです。競合が受け入れていない条件ほど、申込の母数は増えます
6. 設備投資の見方と、管理会社からの報告
設備投資は回収年数で判断する
設備を入れるかどうかは、人気設備の順位表のような一般論ではなく、自分の物件の回収年数で決めます。計算は単純です。
回収年数 = 投資額 ÷ 1年あたりに取り戻せる金額(上げられる家賃、または短くできる空室期間の家賃)
【モデル事例】15万円かけて設備を入れ、家賃を月2,000円上げられたとします。年間で24,000円。回収年数は 15万円 ÷ 24,000円 = 約6.3年です。この建物をあと10年使う予定なら検討の余地がありますが、5年後に建て替える予定なら見送る判断になります。
何を入れるかは、近隣の競合が何を付けているかで決めます。周りが全戸インターネット無料なら、そこで並ばないと土俵に上がれません。逆に、周りが付けていない設備は差別化になります。
税務では、支出が修繕費になるか資本的支出になるかで、その年の経費にできるか減価償却になるかが変わります。区分の考え方は 構築物・附属設備・修繕費の分け方 にまとめています。
報告は数字で受け取る
賃貸住宅管理業者は、管理業務の実施状況などについて、定期的に委託者へ報告する義務があります(賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律20条)。この報告を、感想ではなく数字で受け取ります。
| 聞く項目 | わかること |
|---|---|
| 掲載しているポータルサイトの名前と数 | 募集が見込み客に届く経路の広さ |
| 期間ごとの問い合わせ件数 | 入口で止まっているかどうか |
| 期間ごとの内見件数 | 写真と図面が実物と合っているか |
| 申込件数と、見送られた理由 | 部屋で負けたのか、条件で負けたのか |
この4項目がそろうと、第2章の3つの原因のどれかが特定できます。
「募集には出しています」だけの報告では、次に何を直せばよいかが決まりません。数字が返ってこない状態が続くなら、管理の任せ方そのものを見直す段階です。委託と自主管理の比べ方は 自主管理と管理委託の比較 にまとめています。
まとめ
- 空室1か月の損は、家賃1か月分に原状回復と募集の費用が乗った額。空室でも固定資産税・保険料・返済は止まらない
- 原因は「募集が届いていない・内見で選ばれない・家賃が合わない」の3つ。上から順に確かめる
- 手を打つ順番は、募集の入口 → 部屋の状態 → 条件 → 家賃。費用が軽く戻せるものから着手する
- 家賃の値下げは最後。戻しにくく、既存入居者との差が生まれ、収益で見た資産価値も下がる
- 広告料は報酬とは別枠の「依頼者の依頼によって行う広告の料金」。内容と金額を書面で決めてから払う
- 管理会社からは、掲載先・問い合わせ・内見・申込を数字で受け取る。それが次の一手を決める材料になる
次に読む:家賃はいくらにするか/普通借家と定期借家の選び方/修繕費と資本的支出の分け方/自主管理と管理委託の比較/賃貸経営の全体像
出典
- 宅地建物取引業法46条(報酬)
- 「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額」(昭和45年10月23日建設省告示第1552号、最終改正 令和6年6月21日国土交通省告示第949号)第四・第十一
- 賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律20条(委託者への定期報告)
- 総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計(確報集計)結果」(令和6年9月25日公表)
- 国税庁タックスアンサーNo.1370「不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)」
- e-Gov法令検索・国土交通省・総務省統計局・国税庁ウェブサイト(確認日:2026年8月7日)
※空室の原因と有効な対策は、物件の立地・築年数・周辺の競合状況によって個別に変わります。広告料の扱いや募集の委託範囲は契約内容によって異なり、設備投資の税務上の区分も工事の内容ごとに判断が分かれます。個別の判断は、契約書と見積りを揃えたうえで専門家にご相談ください。
「賃貸経営」の入口は2つあります
