不動産所得が年間1,000万円あっても、個人の大家は会社員のような社会保険には入りません。個人のままなら国民健康保険と国民年金。会社員なら給与ベースの社会保険のままで、家賃収入があっても保険料は増えない。法人化して役員報酬を払うと、1人社長でも厚生年金・健康保険に強制加入。大家の社会保険は「立場」で決まります。税金と並ぶ固定費として、立場別に仕組みを整理します。
※本記事は一般的な仕組みを解説するものです。登場する事例・金額はすべて架空のモデルです。個別の税務・法務相談ではありません。
→ 法人化の全体像は 法人化の全体像 にまとめています。
この記事でわかること
- 個人大家は不動産所得がいくらあっても国民健康保険+国民年金のままであること
- 国民健康保険料は前年の所得に応じて上がり、上限(賦課限度額)があること
- 会社員大家は、給与で社会保険に入っていれば家賃収入で保険料が増えないこと
- 法人化して役員報酬を払うと、1人社長でも強制加入になる仕組みと労使折半の実質
- 家族を扶養に入れるときの130万円基準に、不動産収入も含まれること
- 不動産所得では在職老齢年金は止まらないこと
1. 個人大家──不動産所得がいくらあっても国保+国民年金
個人で賃貸経営をしている大家は、規模がどれだけ大きくても、公的保険は市区町村の国民健康保険(国保)と国民年金です。厚生年金には入れません。
国保の保険料は、前年の所得に応じて計算されます。家賃収入から必要経費を引いた不動産所得が増えれば、翌年度の保険料も上がります。ただし青天井ではなく、賦課限度額という上限があります。上限の額や料率は年度と市区町村によって異なるので、自分の市区町村の案内で確認してください。国民年金の保険料は所得に関係なく定額です(額は年度ごとに改定されます)。
大家として見落としやすいのが、物件を売却した年です。売却益(譲渡所得)にかかる税金は給与や不動産所得と分けて計算されますが、国保料の計算には売却益も反映されるのが一般的です。売却の翌年度に保険料が大きく上がることがあるため、手取りの計画には翌年度の保険料まで入れておきます。→ 売却の税金は 譲渡所得税の基本
2. 会社員大家──給与で入っていれば保険料は増えない
会社に勤めながら賃貸経営をする大家は、勤務先の健康保険と厚生年金に入っています。この場合の保険料は給与(標準報酬月額と賞与)だけをもとに決まり、不動産所得は計算に入りません。家賃収入が増えても社会保険料は1円も増えない。ここは会社員大家の大きな利点です。
【モデル事例】給与年収600万円の会社員・伊藤さん(仮)が、アパート経営で年300万円の不動産所得を得ても、社会保険料は給与ベースのまま変わりません。ところが退職して専業大家になると国保に切り替わり、翌年度からは前年の所得全体をもとに保険料が計算されます。同じ収入構成でも、立場が変わると保険料の土台が変わります。
立場ごとの違いをまとめると、次のとおりです。
| 立場 | 入る制度 | 保険料の土台 | 不動産所得で保険料が上がるか |
|---|---|---|---|
| 個人大家(専業) | 国民健康保険+国民年金 | 前年の所得(国保)/定額(国民年金) | ○ |
| 会社員大家 | 勤務先の健康保険+厚生年金 | 給与(標準報酬月額) | × |
| 法人化・役員報酬あり | 健康保険+厚生年金(強制加入) | 役員報酬(標準報酬月額) | × |
| 法人化・役員報酬ゼロ | 国民健康保険+国民年金 | 前年の所得 | ○ |
立場別の社会保険のかかり方(○=不動産所得で保険料が上がる。国保には賦課限度額という上限あり)
3. 法人化すると──役員報酬を払えば1人社長でも強制加入
資産管理会社などの法人を作ると、ルールが変わります。法人の事業所は、社長1人だけでも健康保険・厚生年金の適用事業所です(日本年金機構「適用事業所と被保険者」)。役員報酬を受け取れば、金額が小さくても原則として加入します。「入るかどうか」を選ぶ余地は基本的にありません。
押さえておきたい点が3つあります。
- 保険料は労使折半だが、実質は全額自分のコスト──会社負担分も自分の会社の支出なので、オーナー社長にとっては合計額が実際の負担です
- 保険料は役員報酬の額で決まる──不動産収入そのものではなく、会社から自分に払う報酬(標準報酬月額)が土台です。報酬の設定しだいで、税・社会保険料・手取りのバランスが大きく変わります
- 役員報酬ゼロなら加入できない──報酬という「労務の対償」がないため被保険者になれず、国保・国民年金のままです
負担が増える一方で、厚生年金は将来の年金額に上乗せがあり、健康保険には傷病手当金などの給付があります。負担と給付をセットで見るのが公平な比較です。役員報酬の決め方と「社会保険料はもう1つの税金」という視点は → 資産管理会社の節税は手取りで決まる に詳しくまとめています。法人化そのものの損得は → 不動産の法人化は得か損か/法人化はいくらから得か
4. 家族の扶養──130万円基準に不動産収入も含まれる
会社員や法人役員として健康保険に入っている人は、家族を保険料の追加負担なしで被扶養者にできます。判定の基本は、家族の年間収入が130万円未満(60歳以上または障害のある方は180万円未満)で、同居なら被保険者の収入の半分未満、別居なら仕送り額未満であることです。年間収入は過去の実績ではなく、今後の見込み額で判定されます(年齢帯などによる別基準が設けられる改正もあります)。
大家の家庭で注意したいのは、この「収入」に不動産収入も含まれることです。配偶者名義の物件から家賃収入がある場合や、贈与で物件を配偶者に移した場合、扶養から外れる可能性があります。外れると、配偶者は自分で国民年金と国保に入ることになり、負担が一気に増えます。
5. 年金受給中の大家──不動産所得で年金は止まらない
「家賃収入が多いと年金がカットされるのでは」という心配をよく聞きますが、これは誤解です。年金の支給停止(在職老齢年金)は、厚生年金に加入して働く人の給与・役員報酬(総報酬月額相当額)と年金額の合計で判定される仕組みで、不動産所得はこの計算に入りません。個人大家として家賃収入がいくらあっても、それを理由に老齢厚生年金が止まることはありません。
支給停止の基準額は年度ごとに見直されます(令和8年4月以降は月65万円。日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」)。注意が要るのは、法人化して役員報酬を受け取りながら年金をもらう場合です。報酬が高いと報酬ベースで支給停止がかかることがあるため、受給が近い大家は役員報酬の設定を年金とあわせて設計してください。
まとめ
- 大家の社会保険は「立場」で決まる。個人のままなら不動産所得がいくらあっても国保+国民年金
- 国保料は前年の所得に応じて上がり、上限(賦課限度額)がある。額は年度・市区町村で異なる
- 物件売却の年は、売却益が翌年度の国保料に反映されるのが一般的。手取り計画に織り込む
- 会社員大家は給与ベースの社会保険のままで、家賃収入があっても保険料は増えない
- 法人化して役員報酬を払うと1人社長でも強制加入。労使折半でも実質は全額自分のコスト。報酬ゼロなら加入できず国保のまま
- 家族の扶養は130万円基準で、不動産収入も含まれる。経費の扱いは保険者ごとに違うので加入先に確認。在職老齢年金は不動産所得では止まらない
次に読む:資産管理会社の節税は手取りで決まる/不動産の法人化は得か損か/法人化はいくらから得か/法人税の基本/大家の所得税
出典
- 健康保険法・厚生年金保険法(適用事業所、被保険者、保険料の労使折半)
- 国民健康保険法(保険料・保険税の賦課)
- 日本年金機構「適用事業所と被保険者」「従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き」「在職老齢年金の計算方法」
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)「被扶養者とは」
- 日本年金機構・全国健康保険協会ウェブサイト(確認日:2026年8月7日)
※国民健康保険の料率・賦課限度額や、被扶養者認定の細かな運用は、市区町村・保険者(協会けんぽ・健康保険組合)によって異なります。法人化や役員報酬の設定、扶養の判定に関わる個別の判断は、加入先の保険者・年金事務所への確認とあわせて、税理士・社会保険労務士など専門家にご相談ください。
