不動産投資や賃貸経営において、税金(所得税や法人税)の対策には熱心でも、意外と見落とされがちなのが「社会保険料」の負担です。
「物件を売却したら、翌年の健康保険料が跳ね上がった」 「良かれと思って妻に給料を払ったら、扶養から外れてしまった」
このような失敗を防ぐために、不動産オーナーが絶対に知っておくべき知識を、「社会保険」という切り口で詳しくまとめました。
今回は、以下の4つのパターンに分けて、必要な情報を余すことなく解説します。
- 個人事業主として経営する場合
- ご家族(配偶者・親)の扶養に関わる場合
- 法人化(資産管理会社)する場合
- 従業員を雇用する場合
1. 個人事業主(個人の不動産オーナー)の場合
会社員のような「給与天引き」ではなく、自分で国民健康保険(国保)や国民年金を支払う場合のポイントです。
■ 保険料は「前年の所得」で決まる
国保の保険料は、前年の「所得(利益)」に連動します。つまり、不動産投資で儲かれば儲かるほど、翌年の保険料は上限(賦課限度額)まで上がります。
■ 「減価償却費」がカギ
国保は「経費を引いた後の所得」で計算されます。 現金が出ていかない経費である「減価償却費」がたっぷりあるうちは所得が抑えられ、保険料も安く済みます。しかし、**デッドクロス(償却期間終了)**を迎えて経費が減ると、所得が一気に増え、保険料が激増するリスクがあります。
■ 物件売却時の「譲渡所得」に注意
ここが最大の落とし穴です。 物件を売却して利益(譲渡所得)が出た場合、税金は「分離課税」ですが、国保の計算にはこの売却益が含まれます。 「売却益が出た翌年に、健康保険料が数倍になった」という悲鳴が多いのはこのためです。 ※会社員の社会保険(協会けんぽ等)に入っている場合は影響ありません。
■ 75歳以上の「現役並み所得」判定
75歳以上で後期高齢者医療制度に移行している場合、不動産所得が多いと「現役並み所得者」と判定され、病院の窓口負担が1割から2割、あるいは3割に引き上げられる可能性があります。
2. 「扶養」から外れるリスク(130万円の壁)
配偶者や親御さんの社会保険(会社員の夫の扶養など)に入ったまま、不動産収入を得る場合の注意点です。
■ 130万円の壁と「収入」の定義
年間収入が130万円(60歳以上は180万円)以上になると、扶養から外れて自分で国保・国民年金を払う必要があります。 ここで重要なのが、「収入」をどう計算するかです。
多くの健康保険組合では、以下のように判定されます。
- 一般的な基準: 家賃収入 - 必要経費 = 所得
- 厳しい組合の基準: 家賃収入 - (必要経費 - 減価償却費)
つまり、**「減価償却費は経費として認めない(足し戻す)」**という厳しいルールを持つ組合があります。この場合、手元のキャッシュフローベースで判定されるため、帳簿上は赤字でも扶養を外されるリスクがあります。必ず加入している健保組合に確認しましょう。
3. 法人化(資産管理会社)した場合
会社を設立し、そこから「役員報酬」をもらう形にすると、ルールが劇的に変わります。
■ 強制加入と労使折半
法人は、社長1人だけであっても社会保険(健康保険・厚生年金)への加入義務があります。保険料は会社と個人で半分ずつ負担します(会社負担分は経費になります)。
■ 「マイクロ法人」による最適化
不動産オーナーによく使われるスキームです。
- 役員報酬を低く設定: 月額45,000円〜6万円程度にし、社会保険料を最低等級(月2万円強)に抑える。
- 生活費の確保: 個人の不動産収入や、法人からの配当金(社会保険料がかからない)で賄う。
これにより、高い国保料を回避しつつ、保障の手厚い社会保険に加入できます。国民年金よりも将来の受給額が増えるメリットもあります。
■ 年金カット(在職老齢年金)の回避
65歳以上で老齢厚生年金をもらいながら社長を続ける場合、給与が高いと年金がカットされる仕組みがあります。 しかし、この判定に使われるのは「給与(役員報酬)」のみです。個人の不動産所得がいくらあっても、年金はカットされません。 役員報酬額を調整することで、年金を満額受け取ることが可能です。
■ 傷病手当金のメリット
国保にはありませんが、社会保険には「傷病手当金」があります。病気で働けなくなった際、役員報酬をストップ(無給)にすれば、手当金が受給できる可能性があります。
4. 従業員を雇用する場合・その他
アパートの清掃スタッフなどを雇う場合や、年齢による追加知識です。
■ 労災保険は「1人」から義務
アルバイトやパートを1人でも、短時間でも雇った時点で「労災保険」への加入が必要です。 通常、オーナー自身は対象外ですが、「中小事業主等の特別加入制度」を使えば、オーナー自身も労災保険に入り、自身が清掃や修繕中に怪我をした場合に備えることができます。
■ 介護保険料(40歳〜64歳)
40歳以上になると、健康保険料に上乗せして「介護保険料」が徴収されます。これも所得連動(国保の場合)のため、不動産所得の増加に伴って負担が増えます。
■ 個人事業税(地方税)
これは社会保険ではありませんが、忘れがちなコストです。 不動産貸付業が一定規模(例:10室以上など、都道府県による)を超えると、年間290万円の控除後の所得に対して5%の事業税がかかります。これも資金繰りに入れておく必要があります。
まとめ
不動産オーナーの社会保険は、立場によって「攻め方」と「守り方」が異なります。
- 個人のままなら: 減価償却費と売却タイミングを注視する。
- 扶養内なら: 健保組合の「経費の計算ルール」を確認する。
- 法人化なら: 役員報酬額の設定で、手取りと年金を最大化する。
「税金」だけでなく「社会保険料」も含めたトータルの手残りを意識することが、賢い賃貸経営の第一歩です。ご自身の状況に合わせて、最適な選択を行ってください。

