「うちはそんなに資産家じゃないから大丈夫」 そう思っている人ほど、不動産の相続でトラブルになります。
現金と違い、不動産は「1円単位で分けられない」上に、「持っているだけでお金がかかる」こともあるからです。さらに、2024年からは相続登記が義務化され、放置すると罰則まで発生するようになりました。
今回は、税理士かつ不動産経営者である私の視点で、**「相続発生前に知っておかないと損をする、不動産相続の必須知識」**を、情報の抜け漏れなく徹底解説します。
1. 全てのスタートは「現状把握」から
対策を打つ前に、「何が」「誰に」関係するのかを確定させないと、すべての対策が無駄になります。まずはこの3つから始めましょう。
① 相続人の確定(戸籍の確認)
「誰が相続人になるのか」を法的に確定させます。 自分たちが認識していない異母兄弟や、養子縁組の存在が後から発覚すると、遺産分割協議がやり直しになります。必ず戸籍謄本で確認しましょう。
② 財産目録の作成(不動産の洗い出し)
自宅だけでなく、以下のような「忘れがちな不動産」がないか確認してください。
- 貸地、農地、山林
- 私道の持分(意外と見落とします)
- 共有持分
【プロのコツ】 役所で**「名寄せ帳(固定資産課税台帳)」**を取得してください。その人が所有する不動産が一覧で分かります(※非課税の私道などは載らない場合があるので注意)。
③ 遺言書の有無の確認
公正証書遺言があるか、自筆証書遺言(または法務局保管制度の利用)があるかを確認します。これがあるかないかで、手続きのスピードが劇的に変わります。
2. 「税金」対策:現金を残し、評価を下げる
不動産相続の最大の恐怖は**「資産価値(評価額)は高いが、納税するための現金がない」**ことです。
① 小規模宅地等の特例(評価額80%減)
これは超重要です。 亡くなった人の自宅などの土地(330㎡まで)の評価額を、一定の要件を満たせば80%減額できます。
- 注意点: 「同居していること」や「家なき子(持ち家がない親族)」など要件は厳格です。「誰が継ぐか」で相続税が数百万〜数千万円変わるため、事前のシミュレーションが必須です。
② 「路線価」と「実勢価格(時価)」のギャップ
- 都心部: 実勢価格 > 路線価(税金より高く売れる=資産価値が高い)
- 地方: 実勢価格 < 路線価(売値より税金評価が高い=負動産リスク)
特に地方の土地は「売れないのに高い税金がかかる」リスクがあります。事前に査定に出し、時価を知っておくことが重要です。
③ 納税資金の確保(生命保険の活用)
相続税は原則「現金一括払い(10ヶ月以内)」です。 不動産はすぐに現金化できません。**生命保険の非課税枠(500万円 × 法定相続人の数)**を活用し、納税用の現金を「受取人固有の財産」として用意しておくのが鉄則です。
3. 「法律・手続き」対策:2024年ルール改正対応
ルールが変わりました。「知らなかった」では済まされない義務があります。
① 相続登記の義務化(2024年4月〜)
不動産を取得したことを知ってから3年以内に登記申請しない場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。 これは過去の相続も対象(猶予期間は2027年3月末まで)です。先代名義のまま放置している土地があれば、大至急対応が必要です。
② 遺言書の作成(公正証書推奨)
不動産は分けにくい資産です。「自宅は長男、預金は次男」など指定しておかないと、共有名義にする羽目になり、将来の売却が困難になります。
③ 認知症対策(家族信託 vs 成年後見)
親が認知症になり判断能力を失うと、不動産の売却・修繕・活用ができなくなります(資産凍結)。
- 成年後見制度: 家庭裁判所の監督下に入り、柔軟な売却や対策ができなくなるデメリットあり。
- 家族信託: 親が元気なうちに「管理権限」だけを子供に移す契約。親が認知症になっても、子供の判断で売却し、介護費用に充てることができます。
4. 「不動産固有」の実務対策:売却・管理を見据えて
相続後に「売りたいのに売れない」事態を防ぐための物理的な準備です。
① 境界確定測量の実施
隣地との境界が確定していない土地は、原則として売却できません(または買い叩かれます)。 測量は数ヶ月かかり、隣人の協力も必要です。親が元気なうちに隣人と立ち会い、境界杭を入れておくのが理想です。
② 「負動産」の処分検討(相続土地国庫帰属制度)
売れない山林や原野がある場合、2023年開始の**「相続土地国庫帰属制度」**を検討しましょう。審査手数料と10年分の管理費(負担金)を払えば、国に土地を引き取ってもらえる可能性があります。
③ 空き家特例(3,000万円控除)
相続した空き家を売却した利益から3,000万円を控除できる特例です。
- 要件:昭和56年5月31日以前の建築(旧耐震)、更地にするか耐震リフォームをする、など。
- マンションは対象外です。
5. 揉めないための「分け方」4選
不動産をどう分けるか、方針を決めておきましょう。
- 現物分割: 土地Aは長男、土地Bは次男。(一番揉めないが、価格バランスが難しい)
- 代償分割: 不動産を長男が貰い、長男が次男に代償金(現金)を支払う。(長男に現金の準備が必要)
- 換価分割: 不動産を売却し、現金を分ける。(住む人がいない場合に有効)
- 共有(※絶対避けるべき): 兄弟で1/2ずつ共有名義にする方法。
- 理由: 将来、誰か一人が反対すると売却も建替えもできなくなります。次の相続で権利者がネズミ算式に増え、解決不能になります。
まとめ:今すぐやるべきアクションプラン
相続対策は「親が亡くなってから」では手遅れです。以下の順序で動いてください。
- 親・家族との対話: 財産の内容と、親の希望(家を残したいか、売っていいか)を聞く。
- 固定資産税の通知書を集める: 全ての不動産を把握する第一歩です。
- 税理士へ相談・試算: 「今のままだと相続税がいくらか」を概算する。
- 対策実行: 遺言書作成、測量、特例適用のための要件整備など。
これらの準備があるだけで、残された家族の負担、そして手元に残るお金は大きく変わります。まずは「固定資産税の通知書」を探すところから始めてみてください。

