会社を作って不動産を持たせると、子に渡すものは建物や土地ではなく、その会社の株になります。株は株数で分けられ、渡す時期も自分で選べます。
ここが、不動産をそのまま持ち続ける場合との一番の違いです。株価が決まる仕組み、下げてから渡すまでの順番、最後に会社をどうするかを順に説明します。
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1. 不動産ではなく、会社の株を渡す
個人で持つ

相続財産は土地と建物で、切って分けられません
問題1棟のアパートは、子2人で簡単には分けられません。共有にすれば、売るときも建て替えるときも2人の合意が要ります(「不動産は切って分けられない。分け方は4つある」)。
会社で持つ

相続財産は会社の株で、株数で分けられ、生前に少しずつ渡せます
やり方100株を50株ずつに分けます。評価は、会社の資産と負債から株価を計算します。
注意株にすれば必ず安くなる、ということではありません。中身が不動産なら、不動産の評価がそのまま株価に反映されます。物件を買う資金をオーナーが会社に貸していれば、その貸付金は個人の財産として額面のまま残ります。
2. 株価は、会社の規模と中身で決まる
会社の規模で、方法が変わる

大会社は同業種の株価と比べ、小会社は純資産で計算します
やり方総資産、従業員数、取引金額で大・中・小に区分します(財産評価基本通達178・179)。大会社は類似業種比準方式で、配当・利益・純資産の3つで比べます。小会社は純資産価額方式です。中会社は両方を組み合わせます。
理由利益や純資産が減れば株価は下がります。決算の数字がそのまま株価に反映されます。
純資産方式は、含み益から38%を引く

会社という器を通す分だけ、評価は下がる方向に働きます
やり方相続税評価額と帳簿価額の差(含み益)からは、その38%が法人税額等相当額として差し引かれます(財産評価基本通達186-2)。
注意この割合は税率の改正に合わせて何度も見直されてきました。実行する年の割合を確かめます。株価は決算書と物件ごとの評価を積み上げて計算するので、金額は税理士に出してもらいます。
3. 最初の3年は下がらない。順番は、下げてから渡す
株価が高いまま贈与すると、贈与税も高くなります。ただし、最初の3年は下げようとしても下がらない仕組みが2つあります。
買ったばかりの土地と建物

3年以内なら、通常の取引価額で評価されます
注意会社が3年以内に取得または新築した土地や建物は、路線価や固定資産税評価額ではなく、通常の取引価額で評価します(財産評価基本通達185)。会社で建てて純資産を圧縮する話は、効果が3年を過ぎてから出ます。
作ったばかりの会社

開業後3年未満は、規模にかかわらず純資産で評価されます
注意総資産に占める土地の割合が高い会社(土地保有特定会社)も同じです(財産評価基本通達189)。資産管理会社は、この2つに当たりやすい形をしています。建物だけを会社に移して土地を個人に残す形が多いのには、会社の中の土地の割合を上げすぎないという面もあります。
株価を下げてから、渡すまで
先に開業から3年、物件を取得してから3年を過ぎるまで待ちます
役員退職金も利益と純資産を減らす手です。ただし、不相当に高額な部分は経費になりません(法人税法34条2項)。
4. 相続時精算課税で、低い評価のまま固定する
値上がりする前に渡す

贈与した年の低い価額で、相続税の計算に取り込まれます
やり方相続時精算課税では、年110万円の基礎控除のほかに特別控除2,500万円があり、超えた部分は一律20%です。相続のときは、贈与した時点の価額で計算に取り込みます(相続税法21条の9〜21条の16)。その後に株価が上がっても、上がった分は乗りません。
注意渡したあとに株価が下がっても、贈与時の高い価額で計算されます。一度選ぶと、その贈与者からの贈与は暦年課税に戻せません。空室が増えて業績が落ちる可能性まで含めて、時期を決めます(「相続時精算課税を選ぶ前に」)。
土地は贈与しない

相続時精算課税で贈与した宅地には、小規模宅地等の特例が使えません
注意土地を個人に残して、貸付事業用の宅地として200㎡まで5割減を使う設計なら、その土地は贈与しません。賃貸だけを行う資産管理会社に貸している土地は、8割減の対象にはなりません。
5. 会社をどうするかは3つある。子へ渡す、株ごと売る、清算する
子へ渡す

株の名義が変わります。会社に課税は起きません
やり方受け取る子に贈与税か相続税がかかります。継ぐ意思のある子がいることが前提です。
例子が複数なら、物件ごとに会社を分けて1人1社にする道もあります。ただし均等割も申告も会社の数だけ増えます。
株ごと売る

個人の譲渡益に20.315%がかかります。所得の大きさで変わりません
理由不動産は会社に残ったまま、持ち主だけが変わります(租税特別措置法37条の10)。
注意買い手は会社の借入、過去の申告、入居者との契約をまとめて引き受けます。相手が見つかるとは限りません。
清算する

課税が2段階になります
注意まず会社が不動産を売った利益に法人税がかかります。次に、残った財産を株主に分けるとき、資本金等を超える部分は配当とみなされ、総合課税で最大55%です(所得税法25条)。
理由作るときより畳むときのほうが手数がかかります。法人化を考える段階で、会社をどう終えるかまで一度見ておきます。
非上場株式の贈与税・相続税を猶予する事業承継税制は、資産の保有や運用が中心の会社が使えるかどうかが、資産と収入の中身で変わります。特例措置は令和9年12月31日まで、特例承継計画の提出は令和9年9月30日までです。早めに税理士へ確かめます。
まとめ
- 法人化すると、渡すものは不動産ではなく会社の株になり、株数で分けられ、時期も選べる
- 株価は会社の規模と中身で決まる。純資産方式では含み益から38%を引く
- 3年の縛りが2つある。3年以内に買った土地建物は時価で、開業後3年未満の会社は純資産方式で評価される
- 順番は、待つ、決算を確かめる、株価を出す、下がった年に渡す。相続時精算課税で固定できる
- 会社をどうするかは、子へ渡す、株ごと売る、清算する。株ごと売れば20.315%だが、買い手が要る
まず、今日できること
- 会社の設立日と、物件を会社が取得した日から、3年後の日付を書く
- 直近の決算書で、利益と純資産がどう動いているかを見る
- 継ぐ子が何人いるか、継ぐ意思があるかを書き出す。いなければ、株ごと売るか清算かを考え始める
出典
- 相続税法21条の9〜21条の16(相続時精算課税)、22条(評価の原則)
- 所得税法25条(配当等とみなす金額)、法人税法34条2項(不相当に高額な役員給与)
- 租税特別措置法37条の10(一般株式等の譲渡所得等)、69条の4(小規模宅地等の特例)、70条の7の6〜70条の7の8(非上場株式等の納税猶予の特例)
- 財産評価基本通達178・179(取引相場のない株式の評価)、185(純資産価額。3年以内取得の土地建物)、186-2(法人税額等相当額38%)、189・189-4(特定の評価会社)
- 最高裁判所第三小法廷 令和4年4月19日判決(令和2(行ヒ)283)
- 国税庁タックスアンサー No.4103(相続時精算課税)、No.4124(小規模宅地等の特例)、No.4148(非上場株式等の納税猶予)、No.4638(取引相場のない株式の評価)
※確認日:2026年9月3日。株式の評価額は決算の数字と物件ごとの評価で決まり、毎期動きます。本記事は仕組みの方向を示すもので、金額の計算は含みません。差し引く割合や事業承継税制の要件・期限は改正で変わります。渡す時期、会社の数、会社をどう終えるかは、財産の中身と家族構成で分かれます。実行の前に税理士にご確認ください。
「不動産法人化」の入口は2つあります
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